「久しぶりだね。元気にしてた?」
「うん。相変わらず心の空白感は消えてないけど、それなりに上手くやってるよ」
「そっか。うまくやれているのならまだ良かったよ」
目の前にいるのは大学三年生になった岩下さん。
あれから時は流れ、いつの間にか陽斗の命日もあっという間に何回も過ぎていった。
私はというと、何か記憶が少し欠けた感じはするけれど、まだ陽斗全部を忘れたわけではない。
そのことに、いつも私はホッとする。
陽斗がいなくなってからも、私は今までと同じように生活をした。
病院も今では定期検診程度で、すっかり退院して元気になっている。
記憶を忘れる頻度も少なくなっていたのが良かった。
「今もあの連中は叶笑さんのこと、よく思ってないはずだから気をつけてね」
「ありがとう。でも、きっと大丈夫だよ」
陽斗がいなくなってからも、私は笑顔を絶やさなかった。
それで一部の人には「人間じゃない」「柳瀬さんが可哀想」だとか言われていた。
だけど、それがなんだ。
彼に頼まれたのだから仕方のないことでしょう?
笑っててって、大好きな人に頼まれたら誰も断れないでしょう?
私の人生は、私自身が決める。
心の中でまだ灯っている、陽斗という名の光と共に、まだまだ生きていくって決めた。
「強くなったね。叶笑さんは。それに、ますます綺麗になっていってるよ」
「冗談はダメだよ。私なんかよりも、岩下さんの方が強くなったよ。かっこよくなったよ」
「あれー?それだと陽斗がどう思うのかな?嫉妬しちゃうよ?」
私は嘘をつたわけではない。
本当に、彼は強くなったしかっこよくもなった。
そりゃあ、陽斗よりは全然だけどね!
お互いに過去のことを思い出にして、今を生きることができている。
「相変わらず、岩下さんって結構チャラいままだよねー。陽斗は真面目に生きろって言ってたんでしょ?あーあ、親友が悲しむなー」
「いやいや、これが俺の個性だから!それに、陽斗にも、個性を大事にしてって言われたもん」
陽斗がいなくなった後、病室の棚から発見された二通の手紙。
それは岩下さんと私向けのものだった。
とても丁寧な字で書かれたそれに、私はまた泣いてしまったんだ。