太陽になりたかった



「あーあ、結局俺は、何にもできなかったなぁ」

「陽斗はできてることしかないよ。バカなことだけど、私のために色々してくれたじゃん」

「それでも、まだ足りないよ…あーあ、もっと、叶笑と…キスしてれば…よかった」

こんな時に冗談はやめてほしい。

今はふざけるような場面ではないのだ。決して。

「ねぇ、俺の…最期のお願い、聞いてくれない?」

「…何?」

「ちょっとこっちに来て」

言われるがままに近づいたのがいけなかった。

ーちゅ

こんなに弱々しいリップ音なんか聞いたことがないくらいの弱々しい音が部屋に響いた。

軽く口付けされた私の唇がかすかに痺れて、頭が少しボーとする。

自分が死ぬかもしれない時に、死なないと願うけれど、そんな時に普通、キスなんてする?

「バカ…本当にバカだよ」

「うん。自覚してるよ」

そう言って切なそうに伏せる陽斗の顔を、私は見逃さなかった。

ーちゅっ

彼が私にしたものよりは明るいリップ音が、今度は部屋の中に響く。

彼の反応は顔を赤らめて、だけど嬉しそうに笑っていた。

憎めないんだよなぁ。こう言うところ。

「バカで、どうしようもない陽斗だけど、私は大好き」

「うん。俺も、叶笑のこと、ずっと……ずっと……」

ゆっくりと閉ざされた陽斗の瞼が開くことはもう二度となかった。

彼が息をしなくなって一分後ほどに岩下さんが息を切らして病室に来たけれど、もう、完全に手遅れだった。

私が事実を伝えれば、岩下さんは崩れ落ち、陽斗に覆い被さって、声をあげて泣いた。

私だけが場違いのような気がして、少しだけ胸がちくりと痛む。

こんな痛みなんかよりも、陽斗が感じていた痛みの方が何百倍も痛かったはず。

それを思うと、私まで泣けてきた。

だけど、約束したんだ。笑顔でいるって、約束した。

気づけば外にはシンシンと雪が降っていて、陽も沈みかけている。

まるで、誰かの命の灯火が消えるように、ゆっくりと太陽は沈んでいった。