私がいくら泣いたって彼を困らせるだけなのに、気持ちの制御が効かない。
困らせたくてここに来たわけじゃないのに、体が言うことを聞けない。
「自分の体だからわかる。それに、俺、痩せてるでしょ?もう食欲だってなくなってきてる」
「ごめんっ、私のせいで、私なんかが陽斗と関わってしまったからっ」
「違うよ。違う。俺は叶笑と会えてよかった。君のそばに居れて幸せだったよ」
嘘、だ。嘘だ。私はずっと彼に迷惑をかけっぱなしだった。
だから、私なんかと一緒にいて幸せだったなんてことはないはず。
少し力のない声だったけれど、でも確かに確信を持ったその声に、私は何も言い返せなかった。
「岩下から聞いたけど、叶笑も不思議な夢…を見てるんだよね?」
「そうだけど…」
「俺も見てたんだ。その不思議な夢を。それでさ、俺、叶笑を助けることを選んだ」
「知ってる。私、陽斗の亡霊さんにその時の陽斗を見させてもらったから」
私がそういうと、また目をまんまるにして彼は驚いていた。
「おかしいよその選択。私の気持ちを知りもしないで、勝手に私を救うって決めてさ、それってただの自己満じゃん」
ついついキツイ口調になってしまう。
私は陽斗に死んでほしくなかった。私なんかのために命をかけないでほしかった。
私が死ぬだけで平和な日々が来るはずだったのに、それがあっけなく覆された。
本当に、意味わからないよ。
「それでも、俺は君に生きて欲しかったんだ。俺は、もう、一人なんだ。だったらまだ周りに人が多い叶笑に、代わりに生きてもらおうと思った」
代わりに、だなんて言わないでよ。
「それにさ、俺、叶笑の笑った顔が一番好きなんだ。だから、俺が死んでも出来るだけ笑っていてほしい」
無理だよ。あなたが死んでしまったら、私は絶対に笑えなくなる。
悲しみと絶望に打ちひしがれて、そのまま結局は早死するんだ。
「約束してほしい。俺が死んでも、笑って生きて?俺のことを忘れてしまっても、俺と見つけた感情だけでも忘れないで?」
俺のことを忘れてもいいって、なんでそんなことが言えるの?
普通、忘れたら最低な人間なんだよ?それでも許すって言うの?
感情なんかいくらでもこの先に変わっていくかもしれないのに、あなたと見つけたこの感情のまま保つなんて難しいよ。
本人がいなければ、この感情も消え去ってしまうよ。