こんな時にそんなふうに思う自分に嫌気がさした。

「岩下、俺のことは一旦置いといてさ、叶笑を連れてくる許可をもらってほしい。そして、できるだけ早くここに連れてきてほしい」

「でも、俺は陽斗のそばを離れたくないよ。お前の望みを叶えたい気持ちもあるけど、俺がそばにいない間にもっと具合が悪くなったら誰が陽斗を守れるんだよ…」

「良いから。俺がもし、岩下がいない間に死んでもお前は悪くない。だけど、岩下がここにいて、俺の望むことができないまま死ぬのは嫌だ」

心残りは一つだけでいい。叶笑と一緒に生きれないことが最期の心残りがいい。

叶笑に最期、伝えなければいけないことがある。

それだけは伝えてから死にたい。

「お願い…岩下、叶笑を連れてきて」

「うっ…分かった… 行くから、だから、絶対にまだ死ぬなよ!」

目元を腕でゴシゴシと擦る彼は少し子供っぽくて可愛い。

そんな彼の近くにいる時間も、もうほとんど残されていない。

「絶対に、俺は岩下を待ってる」

この言葉を聞いた彼はまた涙をこぼしたけれど、もう俺を振り返ることもなく叶笑を連れてこようと足を進めた。

その隙に、俺は少し前に準備していたあるものを棚から取り出す。

棚といってもとても小さなものだけれど、俺が入れているものはこれしかない。

俺がいつ死んでも良いように準備してきたそれ。

薄っぺらいけれど、俺の大切な人への気持ちを綴った大事なもの。

一度だけ軽く胸に当てた後、また元の場所にそっと戻した。