〜陽斗side〜



 この窓から見る景色もすっかり見飽きた頃、徐々に世界は白色に染められていった。

謎の白い空間で出会った叶笑の亡霊さんとはあれから会っていない。

「いつまで俺は生きていられるんだろう」

今は俺以外に誰もいないこの部屋に、独り言がポツポツと落ちていく。

「叶笑、俺との記憶どれくらい忘れた?さすがにまだ全部は忘れたわけではないよね?」

「叶笑と全然会えてないなぁ。そりゃあ無理もないけどさ、同じ病院にいるんだからもう少し会ってもいいのにね?看護師さんたちって厳しいね」

「…叶笑、会いたい……」

ベッドの上で膝を丸め、ボソボソつぶやく俺の声は、もはや道路を走る車の音にかき消されてしまうほど。

特に大きな治療という治療をしないでいる俺は、今は主に痛み止めくらいで日々の生活を送っている。

それでも痛みに耐えきれなくなる時はあるけれど、あと少しだと思えば全然耐えられる。

それに、愛する叶笑のためなのだから、これは本望だ。

うとうとし始めた俺に、久しぶりにあの亡霊さんが現れるのだった。



 どこか懐かしいこの白い空間と湖。

そして、今目の前に現れたのが叶笑の亡霊さんだ。

「お久しぶりですね。体調はどうですか?」

「良くは無いと思うけど、こんくらいヘーキ」

本当に心配されているのかは分からない質問をされた。

ずっと真顔なのも少し怖くなる。

「そうですか。…叶笑様があなたのことをずっと気にかけているみたいです」

「そうなんだ。病室には来ていないけど、彼女の体調はどう?」

「元気そうですけれど、あなたのことが頭から離れていませんね。今もソワソワして落ち着きがないです」

今も、って亡霊さんはいつでも全部お見通しなんだなぁ。

……叶笑も、俺のことをまだ忘れているわけではないようで良かった。

本当は、一番、忘れられてしまうのが怖い。

存在自体を無かったことにされてしまうのが、死ぬことよりも怖い。

「ねぇ、どうしたら良い?死ぬことは全然良いんだけどさ…もしも、叶笑に忘れられてしまったらどうしよう?」

怖い。君のためを思って死ぬ俺のことを無かったことにされてしまったら、俺はもう二度と君とは会えない気がする。

こんなに好きだったのに、好きだから、正直、君とのお別れは辛いよ。

君と肩を寄せ合って、最期の時まで笑い合って死にたかったよ。