〜陽斗side〜
言ってしまった。こんなはずじゃなかったのに。きっと彼女はこんな話をされて困っているだろう。
悪いことをしてしまったな……てか、彼女はこの話を広めてしまわないか、噂にならないか心配だ。口止めしておけばよかったかな。
ブンブンブンと、頭を横に振って彼女を疑ってはいけないと思い直す。
ここで疑ってしまったら俺はもう、最低どころの人間じゃない。いつか約束したのだ。
だからずっと、俺は優等生でいなくてはならない。
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教室に入るのが怖い。流石にまだ数人しか登校していないとは思うけど秘密をみんなが知ってしまっているのならと考えると、教室に
なかなか入ることができなかった。でも、ここで立ち止まっていると逆に怪しまれるかもしれないと気付き、もうどうにでもなれ!
と心を奮い立たせて教室に入った。
意外と何も変わらなかった。多分、叶笑さんは言わないでおいてくれたのだろう。俺は心の中で彼女にありがとうと叫んだ。
彼女は今日も、岩下の元カノと楽しそうに会話をしていた。まぁ、内容は聞こえなかったけど。
はぁ、疲れたなぁ。今日も部活の日で、昨日と同じように部活終わりに教室に寄ってみる。勿論、彼女と話すためだ。
彼女には忘れ物をしたとかなんとか言っておけばいい。そうだ、口止めもしておこう。
なんて考えていると、五分後くらいに彼女がタブレットを戻しに教室に入ってきた。
「え、えっ、えぇ?なん、で……」
「よっ、叶笑さん。また会ったね。実は忘れ物を取りに来たんだ」
戸惑っている彼女に声をかける。すると彼女は思いがけない言葉を口にする。
「あの、秘密?のことなら誰にも話してないですし、これからも誰にも話す気はありませんよ?」
彼女からのいきなりの約束に驚きながらも、心の中で小さく喜んだ。
「本当に?」
聞き返してみると安心してください、と返ってきた。
「あ、あの……」
「ん?何?」
言いかけて口を閉ざした彼女を見て何を言いたいのか大体察した。
「……泣いてた理由気になる?」
「はい、やっぱ良いです」
どういうこと?意味がわからず首を斜めに傾けると彼女が口を開く。
「私も秘密にしていることがある以上、陽斗さんの秘密だけ知るのも良くないかと思いまして……」
「じゃあ、俺が一つ秘密を話すから叶笑さんも何か一つ秘密を話してよ」
優しくされると言いたくなる。それは人の本能なんだろうか。それとも俺の心の弱さ?
「秘密って、しょうもないことでも良いんですか?」
「勿論、あの先生が嫌いだとかでもいいよ?」
「はは、流石にそれは無いです」
今、なんの曇りもない顔で笑う彼女を見て隠し事は良くないと思った。
「俺の一つ目の秘密、それは約束なんだ」