〜岩下side〜
俺の親友は入院してからもどんどん体調が悪くなっていった。
治療法をいつくか試してみると言う案もあったけど、陽斗はそれを拒んだ。
「俺、そんなにお金ないから。残ったお金はさ、誰かのために取っておくよ」
……結局色々あったけど、本当に、陽斗は優等生だ。怖いくらい、純粋に。
ただただ優等生なだけじゃない。他の男子ほどではないけど、少し捻くれていたり、雑っぽいとこもある。
でも、心の中身が、純粋だ。彼はいい嘘しかつけない。悪い嘘なんて、優等生、の陽斗にはつけることはできない。
ひたすらに物事に向き合う、逃げることなんてしない。そんな彼は、まさしく正真正銘の優等生だ。
今日も俺は、そんな俺の親友の見舞いに来ていた。
「来たよ〜」
「あ、岩下か……毎日ありがとう。大変だろ?」
「こんなもん、部活の練習に比べたら全然余裕だよ」
「そりゃあそうか…」
ははは、と乾いた陽斗の笑い声が病室に響く。
彼は、なんの治療もしていないため、彼のベッド周りは異常にスカスカだった。
「あ、そうそう。昨日聞いたんだけど、叶笑さんは今日、退院するんだってさ」
「え、まじ?!俺の代わりに岩下がさ、叶笑に退院おめでとうって言っておいて!」
一気に顔が明るくなる彼は、やはり重症ではないのかと思う。叶笑さんほどの力は、俺にはないのだ。
でも、その叶笑さんの退院で祝えるほど、俺には余裕がなかった。それどころじゃなかった。
叶笑さんの記憶に、一つだけ問題が発生したのだ。
「陽斗、落ち着いて聞いてほしいことがあるんだ」
「……何?」
俺は深呼吸をして口を開いた。
「叶笑さんが、陽斗と一番最初に話した秘密を、忘れてしまったんだ……」
「え、…は?う、嘘だろ?」
「嘘じゃない。陽斗に聞いた秘密と、陽斗に向かって伝えた叶笑さん自身の秘密、どちらともを忘れてしまったんだ」
……俺の親友は、地獄に落ちてしまったかのように見えた。
さっきから彼は「なんで……なんで?…守ってくれるんじゃ、なかったのかよ……」とぶつぶつ呟いている。
「あのさ、今から叶笑さんを呼んでくる。それで俺はもう、帰るから。だから、あとは二人で話して?」
俺は親友の反応を待たずに、病室から立ち去った。
親友の彼女を、親友の元へ、連れて行くために……