「岩下は、俺にとって、他の誰でもない岩下であって、大切な親友だよ。気づけなかったことに悔やまなくてもいい。俺が隠してただけだからさ」
「なんでそんなに、落ち込んでないんだよ。普通、ガンだって言われたら、悲しくて悔しくて、落ち込むはずなのに…」
それは、叶笑のためになら死んでもいいって思ってたからだ。もちろん、こんなこと言ったら叶笑に怒られるから言わないけど。
俺は、自分自身に下された病気に納得している。受け止められている。
別に叶笑だけじゃない。岩下も幸せになれるなら、尚更死ねる。自己犠牲、にいいふうに捉える人なんて滅多にいないだろう。
でも、俺は自己犠牲って言葉が好きだ。少しみにくいけど、みにくいなりにかっこいいじゃん?
自分が死んで誰かが助かるなら、それがいい。
ゴホン、と咳払い一つした医師に、二人は何か言いかけていた言葉を飲み込んだ。
「治療法がないか、我々は考えました」
その言葉に、俺も含めた三人は、目を見開く。真剣に話を聞く。
でも、次に降ってきた言葉に、俺だけは心の底から安堵した。
「…しかし、場所や主要の大きさからして、治療は難しそうです」
「ちょ、ちょっと待ってください!なんで、なんで治療できないんですか!」
叶笑が医師に向かって泣きさけぶ。…いいんだよ、これで。俺の人生、楽しませてくれたのは叶笑がいてくれたから。
岩下も何か言いたげな表情をしている。
「落ち着いて?医師の話、しっかり聞こう?」
俺の言葉に、叶笑も落ち着きを取り戻した。
「柳瀬様の場合、腫瘍の位置が神経がたくさん集まっている場所にあります。神経を傷つけないためにも、手術はできません。また、薬を使った治療法もありますが、これは副作用がやや強いのでお勧めはできません」
「そうですか……」
明らかにしょんぼりしている岩下は、まるで子犬のようだった。
叶笑は静かに涙を流している。
「陽斗、もう、死んじゃうの?いやだよ…なんで、なんで陽斗が…?」
「お前、もっと早くに病院に行けよっ。そうすれば、まだ、助かったかもしれないのに」
答えられない問いかけに、俺は曖昧な笑顔を返す。