「か、叶笑と岩下?なんで、ここにいるの?」

「叶笑さんは俺が呼んできた。お前よりは元気そうだったからな」

「私、陽斗が救急車で運ばれてきたって知った時、すごく心配だった。その時、岩下さんがきてくれて、この病室を教えてもらった」

……二人とも、なんでそんなに泣きそうな顔をしているんだよ、とは聞けなかった。

そんな中、ドアがノックされた。返事をすると、そこに現れたのは医師だった。

結構お年寄りに近い年齢の方に見える。そして、その手には何かしらの資料か何かがあった。



 医師は俺のそばまでやってきて、叶笑と岩下の顔をチラッとみてから、ある言葉を発した。

「あなたの診断結果、脳腫瘍だと判明しました。脳腫瘍の中でも、がんだと思われます」

…やっぱりな、とは思った。何かしらの病気だとは思ってたし、それで叶笑の代わりになれるのなら別にいいと思ってた。

だから、別に悲しいとも思わなかった。逆に清々しかった。

「……我々も不思議なのですが、今回みたいに運ばれてくるまでの間に、強いめまいや頭痛などの症状が出ていたはずなんですが…」

「あ、はい。目眩や頭痛なんてしょっちゅうありました。でも、部活の疲れかなって思って…病院には行きませんでした」

これは少し嘘だ。早い段階で病院に行ってしまったら、もしかしたら治療して治ってしまう病気かもしれないと思った。

代わりになるには、できるだけ遅いほうがいいだろうと思って、病院には行かないかった。

それに、高い治療費を払い続けられるほどのお金の余裕があるかも心配だった。

医師と俺の話を呆然と聞いていた二人は、やっとで言葉を発した。

「う、嘘でしょ……そんなに辛かったのに、私のお見舞いになんか毎日来てくれてたの?」

「辛くなんてなかったよ。叶笑と会うたびに、俺は元気をもらってた」

今にも泣きそうな彼女の手を、俺は握った。できるだけ力を込めて、俺は大丈夫だと伝わるように。

「…俺、全然親友なんかじゃないじゃん…親友の異変に気づけないなんて、友達ですら、ないじゃん……」

…岩下は、自分の手を強く握りしめていた。少し震えている。今の岩下は、自分自身に怒っているのだろう。