少し不安だったから喜んでもらえて安心した。

「この猫、さりげないね。指輪みたいなリングが二つあって、その間に猫がいるの、結構好きかも」

「このリングもさ、実は内側に、ある文字が刻まれているんだよ?」

俺がそう言うと、「え、どれどれ」と叶笑はリングを覗き込む。見つけたのか、「あ!」と、彼女は声を上げた。

「これだよね、絶対!わぁ、なんか嬉しいな。これが決め手になったんでしょ?」

そうだ。俺の最終的決め手は、この文字にある。片方に「K」ともう片方に「H」の頭文字が刻まれている。

気になって定員さんに聞いてみると、このネックレスを作った会社が二つあったらしい。

その二つの会社の名前の頭の文字をこっそり、リングに刻んだんだとか。

でも、俺は叶笑の「K」と陽斗(自分)の「H」な気がして、ついつい買ってしまった。

「この猫もさ、よくよくみると、ただのシルバーじゃないんだよね。所々に色々な色が使われてる。目立たない程度だけど、シルバーじゃない所は光が透けてる。綺麗だなぁ」

「気に入ってくれた?」

「もちろん!良かった……これが、もし他の誰かに渡ってたら、私はこんなに綺麗なもの、もらえなかったんだよね」

きっとこれも、神様がタイミングを見つけてくれたんだろう。

……これで、もう、俺に心残りはない。いつでも、準備はできてるよ。



「あのさ、実は、私も今のうちに陽斗に渡したいものがあって…」

そういって彼女が取り出したのは、なんとなんと、イヤリングだった。

…ピアスならまだしも、イヤリングって、男には抵抗が……

「これ、絶対に陽斗に似合うと思ったんだ。前、私が少しだけ退院できた時に買ったんだ」

俺のも、指輪のようなリングの形をしていた。色は金色で、光をよく反射していて眩しい。

「黒とか、シルバーとかもあったんだけど、やっぱ金色かなって!陽斗は雰囲気がもう大人っぽいから、ゴールドで少しチャラッと」

「…大体男がするのってピアスだろ?なんで俺の場合イヤリングを選んだんだ?」

「あぁ、それは、ピアスだと耳に穴が開くでしょ?もしもさ、私が死んじゃった後にピアスをもうつけたくないって思ったらさ、穴が開いてるの気になるかなって。それに、そのイヤリングも、耳につけてみればピアスに見えるんだよ」

そういった叶笑は「ほら、つけてみて」と、俺にイヤリングを渡した。

鏡を貸してもらって、慣れない手つきでイヤリングを耳につける。

「どう?」

「うん!めちゃくちゃ似合ってる!やっぱ、陽斗は元がすでにいいからなぁ」

はぁ……叶笑って、本当に天然なのか?さては狙ってる?もう、我慢するのに必死だ。

そんな俺は、彼女がまだネックレスをつけていないことに気がついた。そこで、俺はある名案を閃いた。

「叶笑、別に変なことはしないからさ、俺がいいよって言うまで、目を閉じててくれる?」

最初は俺のこと、少し不思議がっていたけど、言われるままに目を閉じてくれた。

俺がプレゼントしたネックレスを、俺の手で彼女の首にかける。今までで一番、彼女との距離が近かったと思う。