そう、なんにも出来ていない。

料理だって、小さい頃は忙しいはずなのに全部父がやってくれてたし、今でも、俺の方が帰りが遅かったら作ってくれる。

そんなんじゃダメなのに。ゆっくり休んでよかったのに。それなのに……

「父さんは、本当にバカだよっ!俺の気持ちも、考えてよ…死なないでよっ…」

ひどいなぁ。俺って、本当に情けない奴だ。でも、もしも俺が先に死んでしまったら、それこそ父は壊れてしまったのだろうか。

もしもそうだったら、俺は少なくとも父よりは長く生きなければいけない。

でもそれは、父の寿命がそこまで長くはないことになってしまう。人生とは、得られるものと得られないものは一対一なのだ。

「生きることは、もう、難しいけどな……お前の心の中では、俺は長生きするよ…母さんと一緒に、空からお前を見守るよ」

そんなんじゃ意味ない。ちゃんとここで生きて、俺を見守って欲しかった。これが、俺の最後の甘え…

そんな俺の願いか叶わなかった。少し話をした後、ゆっくりと、いつもみたいにただ眠るかのように、父は帰らぬ人となってしまった。



 お通夜や葬式も済んで、俺は学校に通うことになった。生活費は、父が貯金で貯めてくれていたものをしばらくは使わせてもらう。

俺の父が死んでしまった後、俺の心は思った以上にボロボロになっていた。大きな穴が空いたようで、風が吹くたびに痛くなる。

クラスメイトも心配はしてくれていたみたいだけど、俺はそれに対応できるほどの優等生ではなかった。

そんな気力すら、なかった。叶笑とも最近会えていない。

そんな中、今日の朝のニュースで、例の通り魔が捕まったとの報道があった。

…正直どうでもよかった。父が助かれば、それでよかった。でも、もうすぎてしまったことは変えられない。

これから父のような被害に遭う人が減ったと思うと、父の死は意味はあったのかもしれない。

でも、人の死に意味なんて、最初から無いのだ。意味なんて、人間が考えた作り物だ。

「陽斗……まだしばらく学校は休んだらどうだ?…学校に来るのも嫌だろ」

「いや、大丈夫。俺はまだ大丈夫。どうせ人はいつか死ぬんだから、そう思えば、そんなに悲しくはない…」

岩下に呆れられたような、どこか心配をしているような眼を向けられた。そこに移る俺は、まるで幽霊のようだった。