ガラガラガラガラ、と勢いよく扉を開けてしまったことに少し反省しながらも、街の中で大きめの病院の待合室に飛び込んだ。
中には何やらお偉いさんと思われる人物が何人もいた。格好からして、警察の人とこの病院の人だろう。
「あなたが、先ほどの電話の柳瀬陽斗様でしょうか」
この人がさっきの男の人なんだろうか。イメージよりも十歳ほど若くてびっくりした。
でも実際の声の方がどこか冷たくて、どうでもいい、と言われているような気分になった。
……少し腹が立った。
「あなたのお父様は、警察の方が申し上げたとおり、容体が急変してしまっています。もう、残された時間は少ないかと」
「……はい。それで、父さんと会っても良いんですよね?」
「…はい。最期の瞬間を見届けてください。親子二人だけで話したいこともあるかと思われるので我々はずっとここにいます。ただ、あまり長い時間は話せないとは思います」
医師の言葉に頷いてから、父の病室へと向かう。もう、余命が僅かだからか余分な機械はなく、どこか殺風景な部屋だった。
カーテンも閉まっていて、より一層、部屋が狭く感じた。
ベットに近づくと、すっかり青白くなった父さんの顔があった。
「…父さん?」
「……あ…陽斗か……ごめんな。俺はもう、無理そうだ」
「そんな情けないこと言うなよっ。もっと生きてくれよ!うぅっ、何でこんなにも世界はっ!ひどすぎだっての…!」
父に情けないとか言っておいて、俺が一番、今は情けないのだろうな。こんなに涙に濡れた男なんて、そうそういないだろう。
あーあ、最期は笑顔でお別れしたいって思ってたのにっ。
「あ、あのな……俺は、母さんのこと、正直…悲しかったし、それ以上にむかついた」
「うん」
「でも、まだ、俺には…陽斗が居てくれた。……とても心の支えになったんだ。家の手伝いもしてくれて、本当に、助けられてばかりだったんだよ……それなのに、ごめんな…」
喋んなくても良いのに。俺の心配なんかより、自分の心配をしてくれよ…今でも、身体中痛くてたまんないだろ。
喋るたびに、内臓が痛むんだろ。なのに、苦しいって顔なんてしない父は、本当にどうかしてるよ……
「俺だって、父さんに、母さんに、もっともっと甘えたかった…!でも、それこそ、父さんがそばに居てくれた。独りぼっちじゃないって思うと、どこか心が安らいだ」
「そうだよな……甘えたかったよな…」
「そうじゃない。俺は、それよりも、俺自身が何もできないことが一番悔しかった。母さんの代わりに、少しでもなれればって、いつも思ってた…!まだ、俺は、なんにも出来てないよ…」