翌日に叶笑の病室に行った時、俺はなぜか違和感を感じた。

いつもなら叶笑ともう一人のお年寄りだけの部屋だったのに、今日は一人増えている。

本来は四人部屋なのだから、人が増えても別に変ではないと思う。でも、俺はどこか、心に引っ掛かっているものがあった。

「叶笑、新しく人が入ってきたみたいだけど…」

「うん。テレビでもやってたけど、例の通り魔の被害者なんだってさ。まだ十六歳なのにね」

通り魔……昨日、テレビつけた時にやってたやつだろう。そんなに近い場所だったんだ。

詳しく見ていなかったから驚いた。

「えーと、確かね、名前は天乃恵実ちゃんだった気がする」

…嘘だろ?一瞬、どこかで聞いたことあるなって思ったけど、今、鮮明に思い出した。

昨日、ケーキを届けてくれた定員さんじゃないか。

俺はその定員さんのベットまで近づいた。

失礼だとは思ったけど、思い切ってカーテンを開けた。

叶笑が怒っている声が聞こえたけど、俺は無視した。

「もしかして天乃さんですか?」

そう聞くと、目をこれ以上ないくらいまで見開いた昨日の定員さんの姿があった。

「あ、え、昨日の子?」

彼女は意識はあるみたいだし、、ぱっと見は重症ってわけでもなさそうだ。

それにしても、通り魔に遭うなんてなんて不運なんだ。あの、一緒にいた男は恋人じゃないのか?

「ま、元気そうで安心。昨日一緒にいた男はもう見舞いに来たの?」

「え、うん。午前中に来てくれたよ」

「そ。じゃ、さようなら」

俺は用を終えたので、叶笑の元に戻った。

……そこには、今までで一番不機嫌そうな彼女がいた。何でそんなに不機嫌なのだろう。

「…あの人と知り合いなの?」

「あー、昨日、父さんにあげるケーキを届けてくれた店員さんだよ」

「…本当にそれだけ?」

「は?それ以外に何だっていうんだよ」

唇を尖らせて「あっそ」とそっぽをむいてしまった彼女に、俺は後ろから抱きついた。

きっと、俺の勘違いじゃなければ嫉妬してくれたのだろう。もしそうじゃなくても、何か機嫌を取らないと。

「ちょっ!ななな、何急に抱きついてきてんの!た、ただのご機嫌取りでもしてるんでしょ?」

俺が抱きついただけでほおを赤く染める叶笑に、俺は史上最高級の愛しいを抱いた。

「ごめん。でもさ、俺には叶笑しかいないから」

「なっ」

「叶笑のことが好きです。友達とかじゃなくて、一人の男として叶笑が好きです」