家の鍵が開く音がした。ということは、父さんが帰ってきたのだ。

慌ててリビングのソファに身を隠す。電気は少し前に消しておいたから安心だ。

目の前のドアが開いたと思った瞬間に、俺は紐を引っ張った。

「父さん、誕生日おめでとう!」

「あぁ、陽斗か。今年もありがとな。こんなに凝らなくてもいいのに」

「いいよ。俺がやりたくてやってるだけだから。それより、早く着替えてご飯食べよ?」

今年も父さんの笑顔を見ることができた。そのことに酷く安心する。

もしかしたら、笑顔が絶えてしまうかもしれない。この恐怖はいつだって俺に襲いかかるのだ。



「「いただきます」」

今日はいつもよりも豪華なメニューにした。かといって量が多すぎてもケーキが食べられないので、量には気をつけた。

「本当に美味しいな、陽斗が作ってくれるご飯は。幸せだなぁ」

「まだまだだよ。俺は父さんが作ってくれたご飯の方が好きだよ」

「そうか。ありがとう」

そう言って、父さんはテレビをつけた。たまたま速報で通り魔が何とかって言っていた。

ご飯中にそんなくらい話題は誰だって嫌だろう。すぐに父はチャンネルを変えた。

そこには最近売れ始めている芸人が写っていた。


 二人ともご飯を食べ終えると、俺は冷蔵庫から少し小さめのケーキを取り出した。

女子の定員さんが丁寧に運んでくれたものだ。父が好きなチョコ味のケーキを、俺の方が小さくなるように切る。

「はい、今年もチョコケーキ。いつもありがとう」

俺はその言葉と一緒に、近くにあらかじめに忍ばせておいたプレゼントも一緒に渡す。

「毎年宝物が増えるばかりだな。俺こそ、いつも家事とか手伝ってくれてありがとな」

父は人が良すぎるんだ。だからたまに心配になる。そんなんじゃ、いつまで経っても燃えきらないのではないのだろうか。


 ケーキも食べ終える頃には、俺はすっかり疲れ果てていた。無理もないな。部活もあったし、今日はハードな一日だった。

俺からベットでぐっすりと眠った。夢すら見ることもなく、ただただ、静かに眠っていた。