俺はまた病院通いの日々を送っていた。もちろん、叶笑のお見舞いのためだ。
日を跨ぐにつれて、彼女の記憶は徐々に減っていってしまっていた。
しかも、俺と関わりのある記憶だけが。悲しくないわけではない。でも、彼女が生きているのなら、俺は何だって耐えられる。
最近、またあの夢を多く見るようになった。
そして、一つ気づいたことがある。夢に出てくる女の子は、間違いなく叶笑だった。
夢を見る回数が増えていけばいくほど、全てが鮮明に輝き出す。
俺は、今、とても幸せだ。父の会社も好調らしいし、叶笑も笑顔は絶えていない。
きっと、神様に願いが届いたのだ。
そんな俺は、最近、少しだけだけど体調が悪くなってきている気がする。
でも、眠気が増したりたまに眩暈がするだけだからきっと問題はないだろう。部活の疲れとかそんなもんだろう。
「叶笑、今日も来た。部活帰りだったから少し遅くなった。ごめん」
「あ、陽斗?いつも来なくてもいいんだよ?でも、ありがとう」
「例の、頼まれてたものを持ってきたよ。まさか、これにするとは思ってなかったなぁ」
俺が叶笑に頼まれていたもの、それはスノードームのキットだった。
まとめて売ってあるんじゃなくて、パーツごとにそれぞれが売ってあった。
俺は、彼女の欲しいパーツがどれかは分からなかったから一通り買ってきた。
「こんなに袋がパンパンになるまで買ってきてくれたんだ。申し訳ないな…」
「大丈夫、要らなかったやつは取っておいて、いざの時にって感じだよ」
「ははは、いざの時って、私がいなくなってからは使う要素ないでしょ」
それはそう、ってお互いに笑い合う。……いつまでこの幸せが続くのだろう?
「待って叶笑、ここでスノードーム作るの?」
「え、それしかなくない?あ、万が一部屋が汚れたら一緒に綺麗にしてくれる?」
全く、抜けてる時があるんだから……そんなんじゃ、俺にどうされても知らないよ?ってのは、嘘。
流石に俺は、そんなデリカシーのない奴ではない。それで好きな人を傷つけたら、それこそ男失格だ。
俺は袋から叶笑に言われた材料を手渡していく。どんどん袋の中身が減っていく。
まるで、幸せがなくなっていくようで、少し悲しくなる。
そんな不吉なことは考えなければいいのだけれど、どうしても、俺は考えてしまう。
万が一に備えることも必要だ。俺も、そのための準備は進めている。