〜陽斗side〜
ゼエゼエ言いながら、前に叶笑が入院していた病院に着いた。先生から何とか聞き出したのだ。
職員室に行って先生に「叶笑は何で休んでいるんですか?!俺、助けてもらったのに、彼女に何も返せてないっ」
って言ったら、なぜか安心したような顔をした先生に「君ならそう言うと思ってた」なんて言われて、
「前と同じ病院に砂畑は入院している。理由は柳瀬が直接聞いてきなさい」って背中を押してもらえたのだ。
病室も前回と同じようだった。
前みたいに、俺はノックをせずに病室へと重たい足を運ぶ。
彼女は何で入院しているのだろうか。しかもいきなり。
あの頃みたいに、彼女は窓を見つめていた視線を俺に移した。
懐かしさと同時に、とてつもない恐怖に襲われる。もし、ひどい病気だったりしたら?俺が代わりになるって言ったのに。
「ノックなしにドアが開く音がしたものだから、誰かと思ったよ。きてくれたんだね、陽斗」
あぁ、この声だ。この笑顔だ。俺が心から救われたのは、彼女の存在そのもの。
「何で、いきなり入院したんだよっ。俺、心配してどうにかなりそうだった」
「ごめん。私は今、症状が不安定でさ、あの後の定期検診で医師に生活に支障が出るって言われちゃったんだ」
「だから入院が急遽決まったのか」
「うん。今は大丈夫そうだから安心していいよ」
安堵のため息を吐いた俺は、ゆっくりと彼女のベットの近くの椅子に腰を下ろした。
彼女の綺麗な髪が、どこか前よりも伸びているような気がした。
……そして、彼女の笑みがどこかぎこちない感じがした。
まただ、また、嫌な予感がする。
こればかりは的中しないでくれ。これ以上、もう、彼女に何もしないで。俺が代わりになるって言ってんだろ!
「あのね、実は私、難聴以外に記憶障害もあるみたいなの」
……ほらな、悪い予感だけが当たっていくんだ。神様、本当にいるのかな?だって、世界がこんなにも優しくないんだ。
「今はまだそこまで記憶が失われているわけじゃないけど、陽斗と過ごしてきた思い出だけがどんどん減っていくの。だから、私たちがやり取りした交換日記を読み返していてね。それで何とか記憶を保てているの」
「あの時にすでに、秘密を打ち解けあった記憶がなかったんだろうし、病院帰りに一緒に帰った記憶がなかったんだな」
「うん。今でもよく思い出せない。それに今、陽斗が行ってくれなきゃ永遠に思い出すことすらできなかったよ。
彼女は今、どんな気持ちなんだろう。俺って、本当に恵まれている方なんだな。病気になったことなんて、片手で数える程度だ。
……そんな俺も、ようやく願いが叶った。俺は、このために生まれてきたんだと心から実感した。
神様、ありがとうございます。俺は、もう、思い残すことなんてないです。
だから、どうか俺の大切な人たちだけは、幸せにしてください!