〜岩下side〜


 本当にバカだな、俺の親友って。ちゃんとしているようで全然ダメだ。

人間、完璧な奴なんてどこにもいない。誰だって、どこかが優れていてもどこかが欠けている。

それは、決して才能面だけじゃない。心の内側だってそうだ。

運動ができて、勉強もできて、誰にだって優しくできる。

そんな人も、自分に落ちこぼれて、心の中で誰かのことを悪く言ってる時だってある。

全てが完璧に物事が進むような世界は、どこにだってない。

俺は、何かに対して期待なんてしない。裏切られた時、期待の大きさが大きいほど心を抉られる。

そんなの、耐えられない。


 誰にも言っていなかったけど、俺の両親は離婚している。でも、ちゃんとお母さんとお義父さんがいる。

陽斗にとっては、俺は恵まれている方。でも、俺が物心つき始めた頃に突然お父さんがいなくなった。

お母さんは仕事をしなければいけなくて、俺はずっと、家で一人だった。

たまに、おばあちゃんが顔を覗かせてくれたり、近所の子供が遊びに来てくれたりもした。

でも、その人たちには「可哀想な子供」としか思われていなかった。

最初は、きっと関わるうちに「僕」という存在として見てくれると思ってた。だけど、それが叶うことはなかった。

……気持ち悪かった。全く楽しめなかった。

期待しては裏切られる。だったら、一人でいた方がマシだ。

そう自分に言い聞かせて、もう、その人たちとは関わることをやめた。


 それからしばらくして、お母さんは事故で奥さんを亡くしたお義父さんと結婚した。

まだ、少しお義父さんとはぎこちない時もあるけど、俺によくしてもらっている。

俺も、特に面倒をかけることはしていないと思う。


 学校の人にも、俺の両親が昔に離婚して、今は血のつながっていないお義父さんと暮らしているってことは言わないようにした。

そのおかげか、友達もできたし、大切な親友ができた。

何かを天秤にかけなければいけないときは来るだろう。

俺は実は、叶笑さんが学校を休んでいる理由を知っている。でも、陽斗自身の手で知って欲しかった。

だから、みんなにお願いして協力してもらった。

陽斗の、親友の側で、隠し事をするのは少し心が痛んだ。一向に元気にならない彼にムカついた時もあった。

この判断が正しいのかすら分からなくなった。


 でも、俺は親友を信じてみて良かった。いつかに彼が秘密を打ち明けてくれたときはすごく嬉しかった。

それから、心のどこかで、陽斗なら大丈夫だってずっと信じてた。

そんな彼は、ちゃんと事実に向き合おうとしている。

俺の、人生の中で一番の自慢は


                  「陽斗、お前だけだよ」