「え、何。お前って本当にバカか。ハハっ、笑えてくる。…自惚れんな!」
彼の言葉にクラスメイト中が肩を震わせた後、こっちを振り向く。
…岩下もこんなに大声が出せたんだ、なんて場違いなことを思ってしまった。
部活でも、こんなに大きな声を出していなかったはず。こんな時ばっか、大声出すなんてもったいない。
「優等生ぶってるだけで、何にも気付いてないんじゃん!ここずっと前から、お前、元気がなかったんだよ」
「…え?別に元気はあったと思うけど」
「親友様を舐めんな。カラ元気だったってことにはとっくに気づいたわボケ」
……やっぱ良い奴だな。岩下は、俺なんかとは違う。沢山の人のことを考えることができて、勇気づけることもできるんだ。
こう言う奴が、世界には必要で、みんなに好かれるんだろうな。
「お前の元気がなくて、みんなが元気づけようとしてたの気づかなかったんだな。くだらないことでも何でも、陽斗に話しかけてさ、少しでも元気になって元に戻ってくれたらなって、必死だったのに」
次々と岩下から降りかかってくる言葉に、俺は何も言えなかった。そんな時、
「あ、あのっ!いつも陽斗さんは太陽みたいに輝いていて、私たちにとって憧れの存在なんです!」
「私たちは、陽斗さんが叶笑のことが好きだって知った日、応援すると決めた。だから、少しでも元気を取り戻して欲しかった」
なんて言葉が聞こえてきた。続けて
「俺も、叶笑さんの事好きではあったけどさ、陽斗の事を応援する。彼女のこと、幸せにしてくれよ?」
って、言葉が聞こえてきた。
…なんか、申し訳なくなってきた。今までの俺は、一体、何をしてたんだ。あの約束は、何のためにっ!
「陽斗は元がいい奴なんだからさ、もったいないよ。だからさ、もっと前向きに考えて行動しようよ」
そう言う岩下は、今までにないくらいの穏やかな笑みを浮かべ、そして、微かに涙を浮かべていた。
……俺は、元々はとても暗い子供だった。……母が死んでしまってからは。
なかなか約束すら思い出せず、そして何より、母の笑顔しか思い出せなかった。
悲しい時ばかり浮かんでくる大切なひとの笑顔。助けられる時もあるし、逆に、谷の底へ落ちてしまうこともある。
でも、今は、その笑顔に支えられている。人って都合が良いから、いつだって、自分の思い通りに物事を捉えてしまう。
俺は、それでいいと思う。少なくとも、叶笑との問題は。ずっと踏みとどまっているわけにはいかないのだ。
「みんな、本当にごめん。そしてありがとう!もう俺はさっきまでの俺じゃない。頑張るから!」
そうして、クラスメイトの温かな視線から一気に離れて、目的を果たすべく職員室へと足を進めた。