そんな俺に気付いたのか、叶笑は笑顔を作ってこういった。

「私ね、愛ってよくわからないんだよね。って言うよりは、表現の仕方がわからない」

表現の仕方、まで俺は考えていなかった。でも、意外と簡単だったりするものなのだ。

「俺が考えるには、愛、はさ、自分が素直になればいいんだよ」

「素直、かぁ」

「素直になるのって意外と難しいけど、簡単でもあるんだよ。普段の日常で今までよりも家の手伝いをしてみるとか、何かしてもらったらこまめにありがとうって言うとか、それだけで違った世界が見えるようになると思うよ」

俺は、小学3年生くらいからこのことを意識して生活し始めた。

でも、小学生で手伝えることなんて限りがあったから、その分、いつもお父さんには感謝の言葉を言っていた。

もちろん、今でも続けている。

小学生の頃は許してもらえなかった料理も、中学生になってからは俺が当番の時はやらせてもらえている。

「そうだね、確かに。家族にはなかなか照れ臭くて、感謝の言葉が言えていなかったかも。違う世界、私には見えるかな?」

この問いにはきっと、手伝いや感謝によって見える世界と、叶笑がこれからも生き続ける世界のどちらも含まれている。

だって、彼女の表情には迷いが見えたから。

「もちろんだよ。叶笑だけの違う世界は見えるよ、きっと。俺が保証する。だから、安心して」

俺の言葉に彼女は驚いたようだった。それから叶笑は吹き出して笑いながら言った。

「保証って、ふふ、陽斗は自分自身のことを誰だと思ってるの?…でも、ありがとう?」


 風が吹いた。

彼女の髪が揺れる。

彼女のスカートが揺れる。


 これを、やはり恋だというのだろうか。

心が躍る。不規則にどくどく、と波打っている。



 雨が降り始めた。

いつの間にか太陽の光が遮られ、俺たちの影がなくなった。


「なぁ、叶笑。俺たちって、今みたいな時間が一番似合っているんじゃない?まだ雨が激しくない、太陽が遮られた時間」

「似合っている、か。確かにそうだね。私たちには太陽は眩しすぎて息がしにくい。でも、今なら心の奥まで空気が届いて澄み渡る感じがする。影もないのが、やっぱ、なんか良いよね!」

叶笑もそんなふうに思ったっていうのが驚きだった。でも、俺たちはある意味、似たもの同士だから。

少しくらい考え方が似ていたって無理もない。でも、

「ごめん、やっぱ弁解するわ。俺は違うけど、叶笑は太陽そのものだ。俺は、叶笑の影くらいがちょうどいいよ」

「何言って…逆だよ逆!私の方こそ影だよ。陽斗のようには、到底できない」

今言うべきなのだろうか。叶笑のことが好きだって、言っても良いのだろうか。

「あのさ、叶笑って恋愛したいって思う?」

「え?何?急に。…まぁ、今までは恋愛したいかって聞かれると分からないって答えてたけど?でも、したいっちゃしたいかも?でも、私は恋愛しても良いのかな?」

「別に、恋愛にして良いとか、してはダメだってことはないと思う。資格とかの問題ではないよ」