〜柳瀬陽斗(やなせ はると)side〜

 俺がよく見る夢にはある女の子が出てくる。その夢の内容を少し変えたのが、俺が書いた小説だ。

どこかで会ったことのあるかのような懐かしさに胸が押しつぶされそうになる。


 なぜだか分からないが、同じクラスの叶笑さんと雰囲気が似ていると思うのはただの気のせいだろう。

でも、彼女が書いた小説が気になったので読んでみた。

正直どこにもありそうな物語だったけど、気持ちがこもっていたのか素直に感動した。まぁ、ありきたりだけど。

それでも、どうしようもなく切なくて思わず声をかけた。

案の定、彼女はいきなり話しかけられたことに驚いていたが、こちらに振り向いてくれた。

ちゃんと顔を見たのはこれが初めてで、意外にも彼女の瞳はどこか虚ろだった。俺は、率直に感じた感想を伝えてその場を離れた。

なぜ曇ったようなような瞳だったのか、なぜ俺と同じような瞳だったのか。俺は知る由もなかった。


ーー。ーー。ーー。ーー。ーー。ーー。ーー。ーー。ーー。ーー

 
 家に帰ると、だいたい同じ男子からLINEが来る。今は、「ちょっと話したいことがあるけど今いい?」と送られてきた。

若干めんどくささを感じながら「大丈夫だよ。なんかあった?」返信を打つ。


【ちょっと相談があるんだけど、俺の彼女が急に別れようとか言って来たんだけど】

なんだよ、そんなことか。学校でも話せたのになんで今?と不満に思いながらもそうなんだと返信する。

【いきなりすぎて"嫌だ"って言ったら、"そんなの知らない"って返された】

【誰か、他に好きな人ができたとか?】

【おっ、当たり。急すぎてもう悲しくもないわ】

【まぁ、でもさ、そんなもんだったんだよ。岩下もまた新しい恋を探せばいいんだよ】

【励ましの言葉、ありがとな。じゃ、また】


 はぁ、疲れた。画面を見るのも、相手の顔が見えないまま会話をするのも。いつからだろう。

もうずっと前から楽しいと心から思えたことは無い。体育祭や文化祭の時も心から笑う事ができなかった。こんな自分が大嫌いだ。

それなのに、なぜ幸せそうな夢を見てしまうんだろう。きっとこれは夢で、現実はもっと残酷なんだ。あぁ、めんどくさい。

投げやりな気持ちでベットにダイブして浅い眠りについた。


ーー。ーー。ーー。ーー。ーー。ーー。ーー。ーー。ーー。ーー


 翌日もなかなかもやもやした感情から抜け出せず、つい、暗い顔になってしまう。

だめだ、暗いことを勘付かれては今までの努力が水の泡になってしまう。思いっきり深呼吸をして顔に笑みを浮かべた。

そういえば、ありきたりな小説を書いた彼女の名前に「笑」が入っていたっけ。

俺と比べ物にならないくらい、彼女は名前に負けていない。それどころかもう、太陽のようだ。

俺には「陽」が入っているけど、太陽になんてなれない。よくて月くらいだ。

だから俺は彼女のようになりたい、と思うようになったんだ。


ー思い出す。彼女の笑みは眩しいけど、どこか悲しげだったこと。いくら考えても答えは見つからなかった。