〜陽斗side〜
「俺たちさ、もうすぐにまた大会があるんだ。岩下は今度こそ参加できそう」
「へぇ、そうなんだ。てか、岩下さんって美月と付き合っていたんだよね?」
「あぁ、そうらしいな。でも別れたんだったっけ?」
「あ、うん。だけど、二人ともそんなこと気にしてない感じがする。本当に謎なんだよね」
「まぁ、どうやって別れたのかまでは知らないけどさ、スッキリ別れることができたんじゃない?」
「そういうこと?なるほどなるほど」
みたいな感じで会話をしながら叶笑の家まで足を進めていた。
正直大会の話から恋愛になったことには戸惑いはしたけど、彼女は美月さんのことを大事に思っているんだろうなとは思った。
ぶっちゃけ、今がチャンスかも?なんて思ったりもした。でも、ここで関係がギクシャクするのも嫌だからやめとくことにした。
言い訳に過ぎないんだけど、それでもこの時間を大切にしたい。
叶笑には、俺の大切な時間を奪わせたくない的なことを言われたけど、そのときには返せなかったけど、一番俺が大切にしている時間は
叶笑との時間なんだ。
部活の大会も親のことも、叶笑との時間には及ばない。優先するべきは叶笑だ。
こんなことを思っている俺は気持ち悪いのかもしれないけど、本当のことだからしょうがない。
「そういえば叶笑、久しぶりにお互いの秘密の打ち明け大会をしよ?」
「打ち明け大会?」
「俺たちが会話するようになったとき、秘密を打ち解けあっただろ?それの続きのこと」
「……」
「ほら、俺は家族の事があって優等生ぶってたって秘密を言ったやつだよ」
忘れたのだろうか?少し不安になる。
「なんとなく覚えてるけど、私はなんの秘密を言ったんだっけ?」
「反論できない自分が悔しいって感じの秘密だったよ。思い出せた?」
「ぼんやりとは……ごめん。私、最低だよね」
まさか覚えていなかったなんて思ってなかった。あんなに毎日が輝くものとは思ってなかった。
それは彼女がいたからだ。
「大丈夫、人っていつかは必ず忘れる生き物だから」
「じゃあ、私は新しい秘密を話しますね」
敬語に戻ってる、なんていう前に、彼女の言葉が俺の口を塞いだ。
「私はもうすぐ死ぬんです」
「…え?」
いや、これは聞き間違いだ。彼女は今日も元気そうにしているし、死んでしまうなんて考えられない。
そんな要素は一つもない。少しイラついてしまった。
「…死ぬなんて冗談はよくないよ。怒るよ?」
「冗談じゃない。本当に私はもうすぐに死ぬの。この怪我が原因ではないとは思うけど」
彼女の顔はいたって真剣で、余計俺を戸惑わせる。
叶笑の詳しく話を聞いていると、どうやら神様に約束したらしい。
叶笑の家族などの大切な人の命を守るために、少しでも長く生きていられるように、自分の命を引き換えにしたんだとか。
「遺書を書き終わるまでは家族や私自身の命を守ってもらっていて、最近、その遺書を書き終えたんだ。だから、私はいつ死んでもおかしくない」
「……」
「私は死んだらね、神様のところで働くつもりなんだ。あ、でも働くっていうよりは力を尽くして何かをする感じなんだ」
「それが、叶笑の二つ目の秘密?」
「うん。信じなくてもいいけど本当のことなんだ。だからさ、今帰っている時にでも事故に遭って死んじゃったりするかもしれないの」
「それは、俺が守る。絶対に、叶笑を危ない目には合わせないからっ」