教室のドアを開ける、と同時にざっと三十人ほどのクラスメイトが私を見た。
それはそうだよね……だって事故に遭った可哀想な人だと思っているだろうし、難聴なんて会話すらもめんどくさいよね。
大丈夫、分かるよ。私だって、私みたいな人が久しぶりに学校に来ていたら対応しずらいもん。
大丈夫、大丈夫。私はいたって元気なんだから。
「っ叶笑!!!退院おめでとう!っ叶笑の、バカっ!」
うわっ、と思わず声が出る。美月に抱きしめられたから、懐かしい温もりが蘇る。
私の腕の中で美月はわんわんと泣いている。心配かけてごめん、と私が謝れば悪いのは叶笑じゃないってまた泣いて。
ちらっとクラスを見渡してみれば、女子の半分は泣いていたし残りの半分はじっと私たちの様子を見ていた。
男子はと言うと、雑談しているわけではなかったけど誰も私たちのことは心底どうでもよさそうな表情をしていた。
それよりも、陽斗と何やら真剣な顔つきで話していた。何を話していたのか気になったけど今は聞けない。
「美月、私のために泣いてくれてありがとう。ごめん。もう泣かないでよ。笑ってる顔の方が絶対に可愛いよ?」
「っそんなのどうでもいいんだよバカ……って、この声も聞こえないかー」
そう言って彼女はメモ帳をカバンから取り出して、そこにある文字を綴った。
【何かあったら私を頼ってね!もう、叶笑を危険な目には遭わせないから】
私も自分のメモ帳に言葉を並べる。
【美月は私の彼氏か!でも、心強いよ。ありがとう】
私の言葉を見た彼女はまた泣きそうになっていたので、私は泣き虫、とからかってやった。
それから朝の会で私の復帰歓迎会が行われた。と言っても、五分ほどで終わったけど。
でも、少なくとも私のクラスメイトは時々だけど私に声をかけてくれた。
【みんな優しいね。私のためにわざわざ声をかけてくれるなんて。しかも、あんまり話したことのない人からも】
【そりゃそうでしょ。叶笑は自分が思っている以上にみんなに愛されてるの!】
【いや、愛されてることはないと思う。あ、そういえば何人かの男子にも話しかけられたよ?まぁ、陽斗とはどうだって話がほとんどだったんだけどね】
そう、なんなら女子にも結構聞かれた。
陽斗とはうまくいっているのか、付き合っているのか、陽斗はお見舞いに行けていたのかとかなんとか。
私はその都度、別に友達として接しているだけだよ、お見舞いには来てくれたよ、と返事を返した。
ただ、効果はなかったと思う。ぶっちゃけ、聞きに来る前よりも顔をニヤつかさせて私の元から去る人の方が多かった。
【叶笑、ここだけの話なんだけどさ、陽斗さんだけがお見舞いを許可されていたんだって】
……え?
あーでも確かに、お見舞いに来てくれた生徒は陽斗だけだった気がする。
あ、でも、一番最初だけは岩下さんも来てくれてたっけ?もう忘れた。