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 今日はリハビリの日。でも、後悔しかない。陽斗に時間を伝えるのを忘れていた。今日は午前にリハビリをしなければいけない。

でも、彼は土日でも大体学校終わりくらいの時間に来てくれていた。夕方に来てくれても今日はリハビリはしない。

ちなみに今の時刻は午前七時四十分。リハビリは九時からの予定だからまだ時間はあるけど、早起きしているのだろうか。


 不安なまま時は午前八時三十分。一向に誰もくる気配がない。親には友達が付き添ってくれるから明日はいい、と言ってある。

だから来るとしたら医療関係者と彼だけ。

そのままさらに十分と時間が経った。もうこれは諦めるしかなさそうだ。ごめんね陽斗。


「叶笑っ!!」

ノックもせずに待ち侘びていた誰かが病室に入ってきた。少しだけ安心ゆえに涙が出そうになった。

「叶笑、まだリハビリしてない?間にあった?」

「ギリギリ間に合ったよ。時間伝え忘れてたのに来てくれてありがとう」

「あったりまえでしょ!だって叶笑のことが……」

彼はゴニョゴニョと口籠る。続きを促すとなんでもない、と返されてしまった。

「私のことが嫌いじゃなければなんでもいいよ。それより、もうそろそろ時間だから移動しなくちゃ」

そう、リハビリはここから少し離れたところにある場所でやるのだ。

その場所に移動するだけでも立派なリハビリだと思うんだけどなぁ。一時間もリハビリしないといけない。




「先に謝っておくけど、途中で声が聞こえなくなるかもしれないから」

「うん、それは全然いいよ」

「もしそうなっても、声が聞こえるようになるまで私のそばにいて欲しい。少なくとも陽斗の昼ごはんの時間まで」

「もちろん、昼ごはんなんて後回しにしちゃうよ。だって叶笑の方が優先度が高いから」

そうしてリハビリは始まった。結局ここに辿り着くまでに時間がかかってしまい、九時を少しオーバーしてしまった。

でも、看護師は怒ることはなく、なんなら若干ニヤニヤしながら私たちを見守っている。

ちょっと気持ち悪いとは思ってしまうけど、怒らなかったからまぁいいとしようかな。

「叶笑、大丈夫?でも、もうそろそろ手すりなしでも歩けそうじゃない?」

リハビリし始めて約三十分。結構慣れてきたと思う。

実は、部活は情報部だけど隙間時間に軽く走っていた。だから、体が体幹や体力は維持してくれていたのだと思う。

「じゃ、危なそうだと思ったら俺が支えになるから、手すりから離れたところで歩いてみようか」

そうやって彼は私に優しくしてくれる。リハビリの時間が早い分、彼のお昼を邪魔するということはなさそうだ。

できるだけ迷惑をかけないように慎重に、ゆっくりと足を前へ前へと動かす。

すると向かい側から子供が走ってきた。このままだとぶつかりそうなので避けてあげる。

でもうまくいかずに、子供とぶつかってしまうよりも先に私が転けそうになった。……そう、転けそうになったのだ。

ギリギリのところで陽斗が支えてくれた。それをみた子供は走っていた足を止めてゆっくりと私たちのそばを通り過ぎた。

その子の目は輝いていた。楽しいとかそんなんじゃない、別の意味のキラキラとした瞳だった。

私がコケかけたのを支えてくれた陽斗との関係を想像しているのだろう。全く、子供のほとんどが悪気がないのが問題だ。

ぶつかるかもしれないということも考えられないのか、なんて、きっと本人に言ったところでわからないんだろうけど

やっぱり少しはムカついてしまった。