〜叶笑side〜
まさか陽斗から謝られるとは思ってなかったから驚いた。私の完全なる不注意のせいなのに。
でも、交換日記ができるようになったことは素直に嬉しかった。
私は窓から見える空が綺麗だったとか、お見舞いに来てくれた近所のおばあちゃんの話が長かったとか、
看護師さんが医師の愚痴を話してて面白かったとか、面白くない話ばかりを書いてしまっている。
当の陽斗は部活が厳しくなってきたとか、先生が久しぶりに体調不良で学校を休んだとか、
先生は私の分の係をくじ引きで決めさせているけど毎回彼はやることになっているとか、新鮮な内容を書いてくれている。
あーあ、逆にこのままの日々が続いてくれないかなぁ。今でも十分に幸せだ。
まぁ、家族はめんどくさかったな……ほぼ毎日お見舞いに来てくれるのは嬉しいけど、過保護が過ぎる。
あれは要るか、何が欲しいか、体は痛くないか、退屈ではないか、何かして欲しいことがあるか毎回聞いてくる。
気持ちはありがたいけど心配してくれるだけで十分です、なんて素直に言えないからそっけなくはいはい、と相槌を打っている。
もうそろそろ陽斗がお見舞いに来てくれる時間だ。ノートをすぐに渡せるように準備をしておく。
それから五分ほど経った頃、病室の扉が開いた。顔を見るだけで心が安心するのはもう、ある意味病気だと思う。
「よっ、今日も元気?俺は部活でクタクタだよ」
「私は元気だよ。部活お疲れ様!」
「そういや、もうすぐで叶笑が入院してから二週間になるな。リハビリも明日から始まるんでしょ?」
もうそんなに経つんだ。意外と時間って早く過ぎるものだ。だからこそ、余計、今の時間を大切にしなければと思う。
リハビリの話も昨日くらいに医師から聞いた。親にはもう言ったし、陽斗にも昨日報告済みだ。
「明日はちょうど土曜日だし、俺もこの土日は部活がないからリハビリに付き添うよ。あ、嫌じゃなければね?」
「逆に、リハビリに付き添ってもらってもいいの?迷惑しかかけないと思うよ?」
「迷惑なんて思わないよ。だって、叶笑がいつまで経っても学校に来れない方がよっぽど迷惑だから」
「あ、そうか。私の分の係の代わりをしないといけないもんね。いつもありがとう」
ん、と彼は返事をした。彼は感謝を言われるのは案外慣れていないのだ。
それから雑談を挟みながら交換日記を交換し合う。読むのが待ちきれず、ついノートを開いてしまう。
「あ、まだ早いって!今はまだ読んじゃダメだから。楽しみは俺がこの部屋を出てからにとっておこうよ」
思わず頬が緩んでしまう。だって、彼は少し照れ屋さんで、自分に関することになると目の前で何かされるのが苦手なのだ。
そんなところも、私にだけ打ち明けてくれた。__私は一番重要な秘密をまだ隠しているというのに。
ごめん、まだ言えない。言ってもこれに関しては信じてもらえない。きっともう、同じようには接してもらえない。
「……」
あ、時間が来てしまったみたい。今日はもうお終い。やっぱり寂しさは残ってしまうけれどしょうがない。
私はそばに置いてあるメモとペンをとり、聞こえなくなったと書き込む。それを観た彼は指で丸を作った。
これは分かった、という合図だ。そして手を振ってこの部屋を去っていった。
__早く明日になってくれないかな。