ドアを開けると暖かな光に包まれた。部屋のカーテンが全開になっていて、そこから太陽の陽が降り注いでいたのだ。
そして窓を眺めている人物がいた。もちろん、彼女しかいない。
「お邪魔します」
そう言って部屋に踏み込むと、彼女はびっくりした様子でこちらを振り返った。
「あ、もしかして、お見舞いに来てくれたの?」
叶笑は驚いた顔をしていたがどこか嬉しそうに、悲しそうに言葉を放った。
「俺もお邪魔してます。知ってると思うけど、陽斗の親友?の岩下です。陽斗がお世話になってます」
「あ、こちらこそ、陽斗がいつもお世話になってます。親友でいてくれてありがとうございます。これからも、どうかよろしくお願いします」
「ちょっと、二人とも俺の母親じゃないんだからさ」
俺がツッコミを入れると二人は確かに、とかいいながら笑った。俺もつられて笑ってしまう。
今はこんな話をしている場合ではないのだ。俺は叶笑に謝らなくちゃいけない。
「叶笑、俺のせいでごめんね。俺が誘わなかったら、せめてスマホをあげていれば、俺が迎えに行っていれば、叶笑は事故に遭わずに済
んだかもしれない。辛い思いをしなくてもいいかもしれなかったのに、本当にごめん」
「いや、陽斗のせいじゃない。歩行者信号が点滅していたのに慌てて横断歩道を渡った私が悪いの。私自身の行動のせいだから自業自得なんだよ?だから、陽斗は悪くない。陽斗のせいじゃない」
いつだって優しい彼女は誰のことも責めたりしない。自分で抱え込んでしまうんだ。その優しさがチクチクと、俺の心を痛めていた。
本当は、原因を作ったのは俺だ。だから俺を罵っても良かったのに。
「私ね、家を出る前に親に友達の試合の応援に行きたいって言ったの。案の定、初めは試合なんて別の機会でもいけるでしょう?今はやめておきなさいって言われたよ?でも、どうしても行きたかった。だからね、反論したんだ。できたんだ。大切な人の試合にいっちゃダメなことはないでしょ。人はいつ死ぬのかなんて誰にもわからないから今、を大切にしたいんだよって」
「叶笑……」
「だから、事故に遭っちゃったけど反論することができた土曜日は私にとって宝物だよ。まぁ、陽斗との約束は守れなかったけど」
彼女は成長してるんだ。人はなかなか変われないって言うけれど、それでも俺たちは必死になって足掻いている。
たとえ少しずつでも、塵も積もれば山となるだ。何度立ち止まったって諦めることはない。進んできた道を戻ることはない。
「あ、そう言えばさ、土曜日の試合、勝ったよ!叶笑がいないのは寂しかったけど」
知らないところで来てくれているのではないかと言う少しの希望がこの結果に導いてくれた。
でも、もしも次こそ本当に観に来てくれるのなら、今回よりももっと点数の差をつけて勝てると思う。
どんな困難があろうとも、俺たちは声を掛け合って、励まし合って生きていくんだ。……ん?
「……あ!!」
「「っびっくりした」」
「あ、ごめん」
思わず叫んでしまった。二人が驚くのも無理はない。俺は何かがおかしいと思っていた。ずっと、何かが引っかかっていた。
なんだか、俺は今、名探偵が謎を解き明かす時のような気持ちになっている。
「そう言えば、叶笑、耳聞こえるの?もう大丈夫なの?」
「あ、確かに。先生が脳の神経が傷つけられて難聴になってしまったって言ってた」
「……あぁ、それね、嘘をついたんだ。ついてもらった」
「「え?」」
今度は俺たちがハモる番だった。