明るい雰囲気に変えようと、まずは敬語をタメ語に直そうと思った。

たとえ俺が叶笑の意見に共感したとしても、もしかしたら彼女は嫌かもしれない。俺だって同情、されたら嫌だから。

自分がより醜くなってしまうから。

「分かった。ありがとう?」

「あ、そうだ。一応電話番号は渡しておくね。なんかあったり話したくなったりしたらここに電話して?」

「ありがとう」

そうして俺たちの時間は終わった。俺である陽斗と叶笑が会えなくなることも知らずに___。


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 あーあ、眠たい。昨日は友達とのメッセージのやり取りが長引いてしまい、寝るのが遅くなってしまった。

「なぁ、陽斗。そういえば好きな人っているの?」

「え?」

話しかけてきたのは岩下。相変わらず恋バナが好きなバカな奴。

「最近さ、なんか変わったんだよね〜。前よりも素直っていうか?別に変とかじゃなくて、ただただ嬉しいんだよ。友達……いや、親友として?」

そう言ってにっこりと微笑む彼には敵わない。もういっそのこと、叶笑を除いて彼にだけは仮面を外そうか。

「親友って、どんだけ自分に自信があるんだよ。そう言うのは自惚れてるって言うんだよ。ま、でも、事実は事実だけど?」

「ははっ、自惚れでも結構。心を開いてくれる陽斗には何を言われても我慢できるかな〜。少なくとも前よりは、ね?」
おーい、試合が始まるぞ!という顧問の掛け声で俺たちは駆け足で集合した。


 叶笑とは十時に来てもらうと言う約束しておいた。今は九時半。まだ会場には来てはいないみたいだ。

確か、十五分前には来るとか言ってたからもう少しで来るんだろう。緊張と嬉しさがごちゃごちゃに心の中で渦を巻いている。

今は準備運動をしてして、試合中の怪我をできるだけ防ぐ。


「陽斗!結局さ、誰?好きな人。気になって試合どころじゃないって。集中できない!教えて?」

甘くおねだりしてくる岩下にうんざりして思わずため息をこぼしてしまったようだ。

岩下が本心隠しきれてないよ?と笑いながら指摘して気付いた。

「教えるわけないだろ。でも、試合には集中して取り組めよ?負けらんねぇ試合になるんだ。協力してくれない?」

「え、なになに?もしかしてその、好きな人が試合を観に来るわけ?わー、見逃さないようにしないとじゃん。しょうがない、協力してやるとするか!」

冷やかすところは相変わらず嫌いだけど、協力がしてくれるらしいので良しとする。

 
 おかしい、おかしい、おかしい、おかしい!そんなはずは無いはずなんだけど?え、どう言うこと?

「陽斗、結局来たの?好きな人」

「……」

「うわぁ、マジかマジか!え、なんで?」

聞かれても困る。俺だって、てか俺の方がよく分からない。

ちゃんと約束したのになんで?彼女が約束を破る人だとは思えないし、寝坊とか日にちの勘違いもしないような人だ。

それなのに来てくれなかった。

「実は、俺の好きな人はスマホを持ってないんだ。だから直接紙に書いて渡したし、口でも伝えたんだよ……」

「え、スマホ持ってないの?その子」

え、まじでそんな人世の中にいるの?とまぁ、驚きを隠せていない様子の彼をみて俺は後悔する。

なんで勝手に彼女の事情なんて話してしまったんだよ。これだから彼女が来てくれなかったんじゃないのか?