〜陽斗side〜
彼女の秘密は切なかった。きっと、あの小説も彼女の秘密が切なくさせていたのだろう。特に優しさの場面になると切ない。
ま、これは俺だけが知っている、感じていることなのかもしれないけど。
月曜日の朝、登校してきた彼女に挨拶をした。それは勿論、呼び捨てで。それに少しのおまじないも込めて。
「叶笑、おはよう。ちゃんと起きれた?」
案の定、彼女は周りをキョロキョロみながら恥ずかしそうにしていた。俺に対しても小声だった。
「おはよう。でも、あんま話しかけないでよ。みんなに勘違いされちゃう」
「あぁ、ごめん。今日からも反論できるように、俺は応援してるから」
そう言うと、彼女はあっそ、と呟いて席についた。
「おいおいおい、陽斗。なんなんだよ今の!何があったんだ?」
俺はあっという間に岩下を含めた男子軍団に囲まれた。彼女は彼女で数人の女子に囲まれている様子だ。そう、今がチャンス。
「おーい、陽斗聞いてる?今まであんまり絡んでなかった叶笑さんとなんで話してんの?しかも呼び捨て!どう言うことか説明してもらおうか」
「岩下静かにしてよ。何、叶笑と仲良くなったらだめ?そんなこと、誰にも決められないことでしょ?」
「まぁ、それはそうだけどさ。どうしても気になっちゃうんだよ。どういう馴れ初め?」
呆れるなぁ、全くこいつは。しつこい。普段どうりならいいけど、こう言うことには興味が人一倍でもあるんだろう。
でも、これもチャンス。より大きな声で反論、する。
「別に、岩下とか他のみんなだって気づいたら女子と仲良くなってたりしてるよ?付き合ったりしている人もいるみたいだし?それに、
自分がそう言う風に言われたら少しは嫌でしょ?人に嫌な事はしない。それは小学生でも習っている事だよ。俺だけじゃない、叶笑だってそれで嫌な思いをする。だからこの話ももうお終いね。わかった?」
言い終えると渋々と言う感じで分かったよ、と言ってこの話をやめてくれた。これで彼女に伝わったのだろうか。
反論しても別にいいんだと言うことが。それに、もしそれで離れるような人がいたらその人は友達でもなんでもない。
傷付くことなんてない。
彼女をみてみれば何か話している。きっと反論できたのだろう。誰も嫌な顔をせず、楽しい話でもしているのか笑っている。
このままこれからを過ごせていけるといいな。
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くっそ、今は無性に部活の時間が憎たらしい。せっかく彼女と二人きりで話ができる日だというのに、最悪だ。
流れるように長い部活の時間を過ごして、終わった直後に俺は教室に駆け込んだ。
教室のドアを開ける。そこにはまだ誰もいなかった。彼女が先に来ていることの方が多かったので少しびっくりした。
暇で、何分か窓から見える景色をぼんやりと眺めていたらドアが開いた。
「ごめん、遅くなった」
はぁはぁ言いながら彼女が教室に入ってきた。急いで来てくれたのが伝わって少し嬉しくなる。
でも、それを悟られないように誤魔化した。
「本当だよ、遅かったね。まぁ、でも?3分で来てくれたからいいとする。珍しいけど、なんかあった?」
「今日はタイピングの検定とプログラミングの検定が被っちゃって、練習を先にしてから検定を受けたから遅くなった。ごめん」
情報部も意外と大変そうだ。彼女もここ一ヶ月くらい、記録が伸びていないそうだ。いわゆる、スランプ。