「うーん、俺からしてみればいつもニコニコしている叶笑さんはそれだけで眩しいんだけどな」

「それは、嬉しいですけど、親にも友達にも、先生にもクラスメイトにも反論できない。自分の意見を口に出せない。それって、自分、じゃないんだと思わないんですか?」


 少しキツイ口調になってしまった。たとえ猫を被っても優等生な事実がある限り、陽斗さんは私の気持ちを全て理解すること

なんて出来ない。……とか、そう思ってしまう自分も嫌い。醜いこんな私なんて、世界には必要とされていない。


「反論するのが全て、ではないでしょう?だって、叶笑さんが笑っている姿がみんなには眩しすぎるくらいで、君が笑うたびにみんなも笑顔になる。もうそれで、十分太陽なんだ。反論するのも、もちろん大事かもしれないけど、俺は少しずつ身につけられると思うよ、叶笑さんなら」


 先生に何か言われて言い返す生徒。自分の夢に向かって自分の気持ちを持って進んでいく生徒。親と喧嘩したとか言っている生徒。

友達と喧嘩したとか言っている生徒。どれもこれも、私にはない力だ。そんなみんなが眩しくて、羨ましくて。

私なんか頼まれたら絶対に断れないし、友達にも親にも自分の気持ちを伝えることが出来ない。

昔の友達にも叶笑ちゃんってなんかつまんない、と言われたこともある。それ以降、その友達とは何も話すことができてすらいない。

私だって、こんな自分を変えたいと思ってる。でも、慣れた体は言うことを聞かない。ずっと変えられないまま今に至る。


「俺は、叶笑さんが俺自身の秘密を笑うことなく聞いてくれたことが嬉しかった。ま、まだ殻を破ることはできてなんだけどね。それでも、心が軽くなったんだ」

「……」

「だから、そんなことを言わないでよ。俺の父は、母が亡くなってから俺を一人で育てないといけなくなった。大変な思いは父だけにさせる訳にはいかない。俺は、きっと、一番甘えた方がいい父に、一番甘えられていない」

「……」

「でも、大変ななか、俺に部活をさせてくれた。もちろん、俺自身の気持ちも伝えたよ?部活はやりたいけど父に迷惑を掛けたくもないって。ちょっと勇気を出しただけでも、きっと未来は明るくなる」


 陽斗さんは思った以上に優等生、だった。勿論、猫被りとかそんなの関係なくて、弱いところもなんとかしようとちゃんと

努力をしている。それだけで十分な優等生。彼は、昼間はみんなを照らす太陽であり、夜にはみんなを導く一番星なんだ。

根っからの良い人。そんな彼に一番重要な秘密を隠しているのが、今は私を苦しめる原因となった。早く話さないと。


「陽斗さんは、やっぱり太陽ですね」

「?何言ってるの。叶笑さんこそ、太陽そのものだよ。てかさ、そろそろ敬語やめない?話しにくいんだよね」

「は、はぁ……陽斗さんがそれを望むなら別にいいですけど」

本当によくわからない人だ。春の嵐みたい。でも、その嵐さえ幸せに変える。きっと、前世は神様だったり?って言うのは冗談。

そんな訳はないけど、でも、こんなに素敵な人に出逢えて良かった、と心の底から神様に感謝をした。


「ねぇ、敬語無しって言ったでしょ?さん付けがまだ残ってるし、ですとかも残ってるよ?叶笑」

「なっ、」

不意打ちに名前を、しかもさん付け無しで呼ばれるのって、こんなにくすぐったいことなんだ。

今まで友達にも呼び捨てで呼ばれた事がなかった。少し、嬉しかった。

「ねぇ、叶笑。呼んでくれないの?約束を話した仲なのに?」

そう、ニヤニヤしながら話しかけてくる彼にうんざりしたから、ぶっきらぼうだったけど、さっさと望むままにしてあげた。

「うるさい。約束を話す事はそっちが決めたことじゃん。陽斗」

話し終わると満足そうに彼が合格、と言ってにっこりと笑った。