俺達はまともに会話が出来ないぐらいの歓声と、賑わいに囲まれていた。
いい加減にして欲しい。
でも一向に歓声は鳴りやむ雰囲気が無い。
どうしたらいいんだろうか?
これほどの規模感となると正直怖い。
ここまでの観衆に取り囲まれるのは忌避感すら感じる。
頼りのカインさんも興奮状態から、まったく持って冷める感じがしない。
もしかしたらこの人が一番興奮しているのかもしれない。
訳の分からない言葉をずっと叫んでいる。
これは・・・俺達はサウナ島に帰れるのか?
疑わしいが、俺としてはさっさと帰りたい。
俺は押し寄せる観衆を押し返して。
未だ興奮しているカインさんを、何とか捕まえてきた。
「カインさん!帰ってもいいですか?!」
大声を出さないと聞こえないだろう。それなりに大きな声で話し掛けた。
なんたって周りの歓声が凄い。
「何だって?」
どうやらこれでも聞こえない様だ。
身体を寄せてもう一度大声を出す。
「帰ってもいいですか?!」
お前は何てことを言うんだ、という顔をカインさんはしている。
「駄目だよ!今日は付き合って貰うよ!」
と最悪の回答が返ってきた。
でも神剣のこともあるし、はやく親父さんに会いに行きたいのだが・・・
今も刀身を剥き出しで持ってるし。
「カインさん!神剣のこともあるので、ゴンガスの親父さんの所に行きたいんですけど!」
カインさんはそうだった、と悔しそうな顔をしている。
「そうか・・・そうだよな・・・でもな・・・」
諦めきれないようだ。
こうなったら、最終手段だ。
「じゃあ、俺とギルは行きますので、他のメンバーを残していきますね!」
「・・・分かった・・・」
俺はゴンとエルに残る様に伝えて、ギルと転移することにした。
ゴンだけ少し嫌そうな顔をしていたが、エルは観衆の興奮が感染したのか、変な子モードになりそうになっていた。
現に歯茎剥き出しで笑っている。
ノンはまだ変てこダンスを踊っている。
あいつは外っておいてもいいだろう。
「ギル行くぞ!」
「分かった!」
とギルは俺と同じで、この場を離れたいようだった。
流石は俺の息子だ。
俺は直接転移でサウナ島に帰ってきた、それもゴンガスの親父さんのお店の前に。
いきなり現れた俺とギルに、数名のお客さんがびっくりしていた。
なんだかごめんなさい。
店の中に入ると、メリアンさんがいた。
「メリアンさん、親父さんは何処にいますか?」
「多分赤レンガ工房にいると思うわよ?」
よかった、あそこなら作業中でも中に入ることができる。
俺の施設だしね。
「ありがとうございます」
問答無用で、赤レンガ工房に転移する。
すると親父さんは一心不乱に鍛冶仕事を行っていた。
これは・・・待つしかなさそうだ。
適当に椅子に腰かけて、親父さんが気づくまで待つことにした。
ギルがお腹が減ったということだったので『収納』から食事を取りだして、食事を取ることにした。
今回はチャーハンだ。
ギルは十杯も食べていた。
俺は疲れていたこともあって、二杯食べてしまった。
ちょうど食べ終わったところで、親父さんがこちらにやっと気づいたようだ。
「お前さん、何をやっておる」
と手を止めて、こちらにやってきた。
俺は徐に神剣を見せた。
「おお!エクソダス!」
と親父さんは走り寄ってきた。
神剣を俺から取り上げ、大切そうに撫でている。
不意に親父さんが固まった。
「お前さん・・・踏破したのか?!」
と興奮気味に話しだした。
「そうですよ」
「そうか!やったか!」
と親父さんが興奮している。
なんでこの世界の人達は、こうもダンジョンの踏破に対して興奮するのだろうか?
「お前さんならやってくれると思っておったぞ!よかったよかった!」
よかった?何でだ?
興奮する親父さんを無視して、疑問を投げかけることにした。
「親父さん、聞きたいことだらけなんですけど?」
「おお!そりゃあそうだろう、分かっておる皆まで言うな」
察しがよくてありがたいです。
「この神剣についてじゃろ?」
「そうです」
「ちょと待っておれ」
と言うと、親父さんは神剣をブンブンと振り回した。
「エクス!おい起きろ!エクス!」
と叫び出した。
ていうか寝てんの?
「おい!エクス!いい加減起きんか!」
と更に神剣を振り回している。
すると、神剣が起きた気がした。
何故だか俺には分かった。
「ん?・・・親父!・・・なんで親父がいるんだ?」
と『念話』が聞こえて来た。
「やっと起きたか、久しいのうエクス」
と神剣を振るのを止めて、親父さんは神剣から手を離した。
すると神剣は床に落ちること無く、宙に浮いた状態でピタッと止まった。
おお!なんだこれは?
「親父!・・・ってここは何処だ?」
見えてるのか?
何とも不思議な出来事だ。
剣が宙に浮いており、喋る上に周りが見える様だ。
「ここは工房だ、島野ののな」
「島野?・・・誰?・・・」
「俺だよ、始めましてエクソダス様?さん?」
ん?どう対応したらいいんだ、神様なんだよな?
「お前さん、こやつはエクスでええぞい」
ということらしい。
「おお・・・って、何?おいらのマスター!嘘!なんてことだ!・・・親父説明してくれよ!」
と興奮しているのが手に取る様に分かる。
剣なのに・・・
「説明も何も分かっておろう、お前の装備者だ」
「・・・」
神剣は固まっているようだ。
「こやつはダンジョンの踏破者だ、やっとお前にも主人が出来たということだの」
主人?俺が?
装備者だからか?
「そうか・・・んん!・・・嘘だろ・・・あり得ない・・・何だこの人は・・・」
と神剣が驚愕している。
何が起こっているんだ?
さっぱり分からんぞ・・・
「エクス・・・分かったか、お前の主人の出鱈目さが」
「ああ・・・親父・・・こんな人間いるんだな・・・」
と神剣は半ば放心状態だ。
「あの・・・どうなってるんですか?」
と俺は親父さんに問いかける。
「お前さん、この神剣エクソダスは、装備者のステータスが分かるのだ、そしてお前さんのステータスを見て驚愕しておるのだ」
へえー、そうなんだ・・・っておい!
勝手に人のステータスを見るんじゃない!
個人情報保護法に抵触するぞ!
ってここは異世界か・・・
はぁ・・・どうしたもんかね?
「マスター!おいらはエクソダス!よろしく!」
といきなり自己紹介された。
なんだこの変わり身は。
「ああ・・・俺は島野だ・・・よろしくな・・・」
「マスター!あんた何者だ?何でこのステータスで神じゃないんだ?」
おいおい、遠慮の無い奴だな。
ていうか、一から教えてくれないとさっぱり分からん。
「ちょーっと待ってくれ!親父さん。一から説明してくれませんかね?」
とにかく状況を整理したい。
勝手に興奮されたり、ステータスを見られたりして何とも付いていけてない。
そもそもからお願いします。
そもそもから・・・
「そうじゃったな、すまんすまん、まずはこのエクスだが、儂が造った」
でしょうね。
「そしてこやつもその名の通り、神だ・・・」
マジか・・・物に神が宿るって・・・まさに八百万の神だな。
「てことは、親父さんは神を造ったということですか?」
「そうなるな、こ奴を造るのは大変だったのう、十日間飲まず食わずで、一心不乱に鍛冶に没頭しておったぞ」
十日間?
普通に凄!
よく餓死しなかったな・・・あ?神様だった・・・
死ななくて当然か。
「そして、こ奴は誕生し、儂は名前を与えた」
ふむふむ。
「名前を与えるということは、非常に大事なことだ」
はあ?・・・ネームドってこと?
よく聞くアイテムなんかに名前を与えると、強くなるみたいな?
「名前を与えるということは、それ即ち加護を与えることにもなるんでのう」
はい?名前を与えるだけで何でそんなことになるの?
強くなるとか進化するとかじゃなかったっけ・・・
「名前を与え、加護を付与することによって、より強力な存在へと成るのだ」
「はぁ・・・」
「因みに儂の加護には、武具を再生する力がある」
そうなんだ。
てことはある意味エクスは最強ってことか?
そもそもオリハルコンなんだから、削れることもないだろうしな。
そういえば、ゴン達に俺は名前を付けたけど、加護なんてつかなったな。
眷属にはなったけど。
まあ俺人間だけどね。
生き物とアイテムとは違うというところなんだろうね、きっと。
「そしてエクスだが、もともとはカインがダンジョンを踏破した時のドロップ品だったのだ」
「ん?オリハルコンのナイフじゃなかったんですか?」
たしか親父さんからそう聞いたけど。
「始めはロングソードだったんだ、それを儂の鍛冶仕事で、ナイフと剣にしたんだ」
「へえー」
「カインはダンジョンの神に成ったはいいが、踏破者に与えるドロップ品が無いと困っておっての、それで儂のところにやってきたんだ」
「なるほど」
「それで、せっかくならとエクスを造ることにしたんだ」
「そうだぜマスター、そうやっておいらは親父から生まれたんだ」
と誇らしげにしている。
顔無いけど・・・
「そして、カインにエクスを任せたということだの」
「へへ、分かったかよ?」
「それと、エクス、分かっておるな」
「何をだ?」
「お前さん、約束したよな?」
「・・・!」
「なんだ、忘れておったのか、まあよい。約束は約束だ。お前さんは島野に仕えるんだぞ。文句はあるまい?」
「ああ、マスターは人間だけど、どうやら本物みたいだしな。おいらは全然構わないぞ」
「ちょと待って、俺に仕えるってどういうこと?」
「そのままだ、エクスはお前さんに仕えるということだの」
「はあ・・・」
「雑用なり何なり、好きに命じればよかろう」
「そうですか・・・」
いきなり、神剣が部下に加わっちゃったよ。
やれやれだな。
「それとなエクス、装備者だが、ギルに変更せい」
「何でだ?」
「お前さん、能力共有でこ奴の能力を使おうと考えておるのだろ?」
「そうだぜ」
「こ奴の能力は万能だが、お前さんには使いこなすことは難しいと思う、それに神力の量から見ても直ぐにお前さん枯渇するぞ」
「そうなのか?」
「ああ、お前さんの神力は決して多くはない。こ奴の能力はこ奴だからこそ、使いこなせる代物だ、それとギルに装備者を換えればお前さんの夢が叶うぞ」
夢?
何の事だ?
「本当か?親父!」
「そうだ、ギルが装備すれば分かるが、こ奴はドラゴンだ」
「何!・・・中級神様かよ・・・格下かと思ってたぜ」
「格下ってなんだよ、そんなこと言うと装備者になってあげないぞ」
とギルは憤慨していた。
「ごめん、悪気は無かったんだ。すまない許してくれ!」
とまるで手を合わせているかの様に感じた。
「・・・どうしたものかな・・・」
ギルの気持ちは分かる。
エクスは終始舐めた態度を取っている様に感じる。
こいつはただの生粋な小僧だな。
「ギル、許してやったらどうだ?」
「流石はマスター!分かってるう」
こいつお調子者もいいところじゃないか。
「まあ、パパがそういうなら・・・で、どうしらいいの?」
「おいらの柄を持ってくれ、そうすれば変更可能だ」
「うん」
とギルはエクスを握り締めた。
するとエクスが、
「よし、変更できた。ギル、これからよろしくな」
「ああ、分かったよ」
というが、ギルは不服そうだ。
「それでエクスの夢って何ですか?」
とギルが親父さんに尋ねる。
「こ奴の夢はな、酒を飲むことだ」
なんだそれ・・・剣が酒を飲めるのか?
「ギルは人化の魔法が使えるだろ、エクスが人化すれば飲み食いが出来る様になる」
嘘でしょ?
どういう仕組み?
「なんだ、不思議か?」
「そりゃあそうでしょ、剣が人化したからといって、飲み食い出来るものなんですか?」
「お前さんには分からんかもしれんが、ギルよ、獣型の時と人化の時では味が違ったりするもんだろ?」
「そうだね、まったくの別ものだね」
「だろ?前にエリスとそんなことを話したことがあってのう。だからエクスを造った時に、その可能性を含めておいたんだ。だが儂は人化の魔法は持っておらん。そこで人化魔法を持つ者が装備者となった時に、飲食できるように仕掛けを施しておいたんだ。だがあくまで可能性だ、実際には口にしてみないと分からんがのう」
「・・・何だそれ・・・」
「ガハハハ!お前さんに呆れられたか!儂も一廉ということだな。これは面白い!ガハハハ!」
そもそも神様を生み出すことが出来るって時点で、一廉なんだけどな。
にしても、ゴンガスの親父さんはとんでもないな。
ただの酒飲みの、悪だくみ親父では無いということか。
流石は鍛冶の神様だ。
「では、さっそく」
とエクスが人化した。
おお!
茶褐色の青年だった。
心なしかギルに似ている。
というよりギルの兄弟といっても、疑う者はいないだろう。
特徴的な顔をしている。
だが、明らかに違うのは目だ、エクスの性格が影響しているのだろう、人を小馬鹿にするような含みをその視線から感じる。
「パパ、僕にそっくりじゃ・・・」
「だな・・・ギルの能力を使ってるんだから、そうなるんじゃないか?」
「だね・・・」
「どうだ?親父?成功か?」
「だと思うがのう」
ということで試してみましょうかね。
俺は『収納』からおにぎりを取り出した。
「エクス、食べてみるか?」
「いいのか?マスター?」
「試すしかないだろ?」
「そ、そうだな・・・」
エクスは恐る恐るおにぎりを手にした。
「いけ!エクス」
と親父さんが鼓舞する。
それに答えて、エクスは一気におにぎりを口にした。
「もしゃもしゃもしゃ・・・」
始めは探るような感じだったが、エクスの顔が歓喜に満ち溢れだした。
「お、お、味がする・・・これが味・・・何ていうんだ・・・おお!」
ポロポロと溢しながらも、おにぎりを頬張るエクス。
「う・・・うう・・・親父・・・マスター・・・そしてギル・・・ありがとう・・・おいら・・・おいら・・・」
とエクスは涙を流し出した。
エクスは相当嬉しいみたいだ。
でもこれで食せれたということなのか?
後でお腹痛くなるとかないのか?
その疑問を察したのか、親父さんが。
「大丈夫そうだのう、後はあまり人化を解かないことだの。この調子なら当分は剣には戻らんだろうがのう」
剣になった時にどうなるんだろうか?
俺が心配することでもないか?
自己責任ということでやっていこう。
「さて、エクスこうなるといよいよだな」
「そうだな親父・・・酒が待ってるな・・・」
「ちょっと待った!エクス、カインさんに挨拶しなくてもいいのか?」
「うう!・・・そうだった・・・カイン様には話をしないといけなかった・・・」
エクスは残念そうにしている。
「エクスや、酒は逃げてはいかん。そう肩を落とすな」
「親父・・・」
とエクスはしょんぼりしている。
「挨拶だけしてから、帰ってこい。儂は大食堂で待っておるぞ」
今のカインさんが直ぐに帰してくれるとは思えないのだがな・・・
「親父さん、エアルの街は今飛んでも無いことになってるので、早々に帰って来れるとは思えないのですが・・・」
親父さんは何?と言わんばかりの顔をしてる。
「そうだったのう。念願のダンジョン踏破だったの・・・今頃街を挙げての大宴会になっておろう」
「だったらそこで一緒に飲んだら?」
ギルからの建設的な意見だった。
「そうだな!ギル!良い事を言った。待っておれ、儂の上等の酒を準備する。お前さん!お前さんも酒と食事の準備をしろ!」
おいおい、勝手に仕切るんじゃないよ。全く!
でも俺もこのまま家に帰るとはいかないよな・・・ノン達も迎えに行かないといけないしな。
なんとかどんちゃん騒ぎが収まっていることを、祈るしかないな。
そんなに甘くは無いだろうけどね。
やれやれだ。
俺は大食堂の厨房に入ると、大歓声で迎えられた。
ここまで辿りつくまでにも、同様の待遇を受けた。
すれ違う人から
「おめでとうございます!」
「やりましたね!」
「やっぱり島野さんは規格外だ!」
等と声を掛けられた。
どうやら俺達がダンジョンを踏破したことが、早くも伝わっているらしく、興奮したエアルの住民が、いろんなところで吹聴しているみたいだ。
後から知ったんだが、俺とギルが親父さんやエクスと、話をしている隙に、カインさんが転移扉を開けて、入島受付に入ってきたらしく。
「島野一家がダンジョンを踏破したぞー!皆に伝えてくれ!」
と騒いだらしい。
一体何をやっているんだかあの人は・・・
事情をメルルに話したところ、さっそく食事の用意を開始した。
彼女も相当嬉しかったらしく。
「やってくれると思ってました!任せてください。腕に縒りをかけて準備します。さあ料理班!気合いれてけよ!」
とフンスと言わんばかりに力を籠めていた。
メルルの親方化は留まることを知らないな。
俺はその間に、お酒の準備をする。
どうしようかと考えていたが、めんどくさくなって。
ワインを樽ごと持っていくことにした。
そうこうしている間に、食事がどんどんと作られていく。
これは・・・オードブルだな。
揚げ物中心だが、パーティー使用のオードブルが作られていく。
何人分用意したらいいのだろうか?
まあ、適当でいいか。
最悪は島野一家と親父さんとカインさんと、エクスの分があればどうにかなるだろう。
酒を樽ごと大判振舞するんだからいいだろう。
文句は言わせないぞ。
ていうか俺が準備していることが、間違っていると思うのだが・・・
祝って貰う側なはず・・・
なんだかな・・・
食事の準備を終え、ギルとエアルの街に向かうことにした。
どうやら親父さんとエクスは、既に先に向かったらしい。
「パパ、エアルの街はどうなってるんだろうね?・・・」
ギルも恐る恐るといったところなんだろう、心配が顔に出ている。
「まず普通ではないだろうな」
「だよね・・・」
「まあ、付き合わん訳にもいかんだろう?」
「はあ・・・」
俺達は入島受付に辿り着いた。
案の定、興奮したランドから歓待を受けた。
「やりましたね!島野さん!」
「お、おう」
「やってくれると思ってましたよ!」
「そ、そうか・・・」
「ギル!お前凄いじゃないか!ダンジョンを踏破だぞ!」
ギルの両肩を掴んで揺すっている。
ランドの興奮は止みそうにない。
案外褒められて嬉しいのか、ギルは照れていた。
ギルは俺に付き合ってめんどくさそうにしているが、案外本心は違うのかもしれないな。
「へへ!」
と胸を張っている。
「ランド、すまんがエアルに行かないといけないんだ。悪いな」
「いえいえ!行ってくださいよ。宴会ですよね!良いなー、俺も行きたいな。てか後日サウナ島でも宴会をやりましょうよ!」
と聞きたくない台詞が耳に飛び込んできた。
俺は顔に出ていたんだろう。
「島野さん、俺達にも祝わせてくださいよ!連れないじゃないですか!」
と言われてしまった。
こう言われてしまえば、宴会を開くしかなさそうだ。
「そうか・・・分かった・・・」
「よっしゃ!ちゃんと聞きましたからね!」
言質を取られてしまったな。
やれやれだ。
「じゃあ行くからな」
「「いってらっしゃいませ!」」
とランド以外の従業員達からも大声で送り出されてしまった。
エアルの街は大騒ぎだった。
ハチの巣を突いた状態といってもいいだろう。
てんやわんやの大賑わいだった。
そこらじゅうで繰り広げられる宴会。
中には地面に直接腰かけている者達もいた。
花見かよ!
どこでどう準備されているのか、酒を片手に食事をする人達。
漏れなく大声で騒いでいる。
ひと際目立って騒いでいる集団の中心には、ノンがいた。
ノンはへらへらとしながら、酒を飲んでいた。
あら珍しい。
その脇でゴンが顔を真っ赤にしていた。
随分飲まされたご様子。
エルは歯茎むき出しで笑っていた。
こちらも相当飲まされたようだ。
ノンが俺とギルを見つけて駆け寄ってきた。
「ギルー、お前も飲めよー」
と上機嫌で絡んでいる。
ゴンとエルもこちらに来ては、
「主ー、飲まされちゃいましたー」
「そうですのー、フラフラしますのー」
と完全に出来上がっている。
「お前達、珍しく出来上がってんな。大丈夫か?」
「大丈夫だよー」
「平気ですー」
「ですのー」
と随分ご機嫌なご様子。
「カインさんの所に行くが、付いてくるか?」
「行くー」
「行きますー」
「ですのー」
ということだったので、フラフラになっている三人を連れて、カインさんを探すことになった。
道中珍しくエルがギルに甘えていた。
ノンとゴンは俺から離れようとしない。
こいつらも俺に甘えたいようだ。
二人の頭を撫でてやると、
「へへへ」
「フフ」
と喜んでいた。
道行く酔っ払いに声を掛けて、カインさんのところまで辿り着くと、親父さんとエクスも既にいた。
場所はダンジョンの入口だった。
簡単なシートが敷かれており、花見スタイルだった。
カインさんのところだけでは無く、それを取り囲むかの様に、花見スタイルで人々が酒を煽っている。
俺達は拍手で迎えられた。
「お待たせしました!」
「やっと来おったか」
「マスター、遅せえよ!」
と言われてしまったが、しょうが無い。
こちとら道行く人々に、絡まれてきたんだからね。
途中で何度声を掛けられたことやら。
「ここまで辿り着くのにどれだけ苦労したことか・・・」
「しょうがないのう、この調子だしの」
そう思うんなら、やっと来たとか言うな!
「じゃあ、まずは食事の準備からですね」
と俺は言うと『収納』からオードブルを取り出した。
それを見てカインさんが、
「待ってました!」
と大声で騒いでいる。
ほんとにこの人は・・・
「「いただきます!」」
と勝手に食事を始める各々。
すると周りの人達も気になったんだろう。
こちらに期待の籠った視線を送ってくる。
はあ・・・どれだけあるのかな・・・
足りなくなっても知らないからな。
『収納』から食事を取り出して、
「欲しい方は居ますか?」
というと、
「こっちください!」
「俺も!」
「では遠慮なく!」
と殺到したので、適当に渡していく。
「喧嘩しないで、分け合って食べてくださいね」
と声を掛けておいた。
案の定、
「これは俺のだろ!」
「あ!酷い!何で食べちゃうの!」
とやっている。
やれやれだ。
これ以上はもう知らん!
俺は『収納』からワインの樽を取り出した。
「おお!」
「樽ごと!」
「よ!太っ腹!」
と声が掛かる。
誰も奢るなんて言ってませんが・・・まあ奢るんだけど。
「皆さん適当に飲んでください。喧嘩しないでくださいよ」
と最後に注意しておく。
これまた人が殺到し、適当にやってくれと柄杓だけおいて、俺はその場を離れた。
所々で、
「ワイン旨!」
「これ美味しい!」
「最高!」
等と騒いでいる。
俺はこっそりとウコンエキスを飲み込んだ。
やれやれだな。
「さて、マスター、ギル、親父、カイン様、念願の酒、不肖神剣エクス行かせて貰います!」
とエクスがワインの入った、木製のコップを天に掲げた。
「いけ!エクス!」
「一気に飲め!」
と親父さんとカインさんが煽り出す。
グビっとワインを飲んだエクス。
すると、わなわなと体を揺すりだした。
「これが酒か・・・美味い・・・親父のいう通りだ・・・無茶苦茶上手い!」
と叫びだした。
「エクス、そうだろう、上手いだろう!ガハハハ!これが酒だ!大いに飲め!」
「エクス、人化出来て良かったな!」
とカインさんも嬉しそうにしていた。
隣では、食事をがっつくギルに膝枕されているエルがいた。
どうやら眠ってしまったらしい。
ギルも嫌な訳ではなさそうだ。
仲の良い姉弟でよかったです。
「あれ?もう一人ギルがいるよ」
とノンが出来上がっている。
「あ、ほんとだ」
とゴンも同様になっている。
それを見たギルは、今話しても埒が明かないと思ったのだろう。
やれやれといった顔をしていた。
俺にワインを飲まそうと、次々に人々が殺到した。
これは・・・社員旅行の時よりひどくないか?
救援のサインを親父さんに送ると、親父さんが割って入ってきた。
「お前さん達、儂にも飲ませろ!」
と一気に注目を浴びている。
神様からのお酌のおねだりだ、無視する訳にはいかない。
それにしても凄い人の渦だ。
人酔いしそうだ。
中には見かけたことがある者達も見かけたが、その者達は遠慮しているようで、こちらを気にかけるのだが、近寄ってこようとはしなかった。
ああ、そんな・・・助けてくれてもいいんだぞ・・・遠慮するなよな・・・
あれ?餅ハンター。
俺は餅ハンターに向かって手を振って、こいこいと手招きした。
待ってましたと頷く餅ハンター。
よし、あいつらには悪いが、ここは盾になって貰おう。
到底身体がもたんのでね。
「よう!ブルーエッグ!こっちだ!」
と周りの者達を牽制する為に、あえて声を掛けた。
ドリルが今だと、割り込んできた。
俺に声を掛けられたブルーエッグの面々への、妬みの視線が所々から放たれている。
「島野さん!おめでとうございます!」
「ああ、ありがとう」
ドリルに続いて他のメンバーも声を掛けてきた。
「島野さん、おめでとうございます!」
「島野さん、やりましたね!」
「島野一家なら踏破すると思ってました!」
と賛辞が止まない。
俺は小声でブルーエッグの面々に伝える。
「すまんが、壁になってくれ。このままじゃ身体がもたない」
「「分かりました」」
と俺の目の前に座り込む。
後ろから、
「何だよ!」
「後ろが痞えてるだろ!」
等と声が挙がるが気にしないブルーエッグの面々。
なかなか肝が据わっている。
「島野さん、それでどうでした?」
「ああ、あの後結構大変でな」
「それはどんな?」
「七階層までは話したよな」
「はい、聞いております」
とダノンが頷く。
「八階層はな、ジャングルだったんだ」
「「ジャングル!」」
意外だったようだ。
「デカい蟻やらが多くて、大変だったぞ」
これまで文句を言っていた後方の者達も、ダンジョン情報が気になったのか。
「ちょっと静かにしてくれ」
「ここまで聞こえない」
「押すなよ!」
と雰囲気が変わった。
そうかこの手があったか、しめしめだ。
「後はデカい蛾やデカいカマキリも居たな、カマキリはそれなりに素早かったし、腕の鎌がデカかったぞ」
「「おお!」」
どよめきが凄い。
「それでそれで」
と意を汲んだドリルが急かしてくる。
「まあそう急かすなよ、次階層までの道のりは大体二キロぐらいだったな。そして九階層目もジャングルだった」
「「またジャングル!」」
「そうか」
「なるほど」
と皆が皆聞き耳をたてている。
終いには知っているに決まっている、カインさんまで混じっていた。
「九階層のジャングルは八階層よりも乾いていたな。湿気をあまり感じなかった。そしてこの階層で出会った魔物は、まずはジャイアントパンサーだろ」
「ジャイアントパンサーか、各上だ」
「お前うるせえって、黙ってろ」
「おお、すまん」
等と外野が煩い。
「後はジャイアントタイガーだろ、それからジャイアントベアーだな」
「ここはもうA級でも難しかもしれませんね」
とダノンが考え込む。
「そうかもしれないな、あ!そうそう、この階層でS級のハンター達に遭遇したよ」
「なんと?」
「ほんとですか?」
ドリルまで騒いでいる。
「ああ、追い込まれてたようだから、手出しさせて貰ったよ。いくらダンジョンとは言っても流石にな」
「うおー!S級を助けた?!」
「規格外だ!」
「考えられない!」
と外野が煩い。
このままでは俺もしんどいのでギルにも話を振る。
「なあギル、そうだったよな?」
「うん、そうだったね。僕達島野一家はトリプルS級だよ!」
と何故かギルが高らかに宣言した。
「「トリプルS?!」」
「うおおおおお!」
「そりゃすげえ!」
と騒いぎ出したと思いきや、今度は
「「「トリプルS!」」」
「「「トリプルS!」」」
と大合唱が始まった。
流石のノンもここで踊ることは出来ず、酔いつぶれて寝ていた。
今回はノンの変てこダンスはお預けだ。
それにしても大合唱が止まらない。
こうするつもりではなかったのだが・・・
何故にギル君や、君はトリプルSを宣言したんだい?
しまった!そうだった、ギルには中二病的なところがあったんだった。
やれやれだ。
その後、興が乗ったギルが、身振り手振りを交えて、ダンジョンでの出来事を詳しく語りだした。
まるで英雄譚でも語るかの如く、ギルは活き活きと話していた。
後ろにまで聞こえる様にと、敢えて大きな声で話している。
ギルは喜々としてダンジョンでの出来事を話していた。
やっぱりこれは中二病だな。
中二病ここに極まれり!
いい加減にして欲しい。
でも一向に歓声は鳴りやむ雰囲気が無い。
どうしたらいいんだろうか?
これほどの規模感となると正直怖い。
ここまでの観衆に取り囲まれるのは忌避感すら感じる。
頼りのカインさんも興奮状態から、まったく持って冷める感じがしない。
もしかしたらこの人が一番興奮しているのかもしれない。
訳の分からない言葉をずっと叫んでいる。
これは・・・俺達はサウナ島に帰れるのか?
疑わしいが、俺としてはさっさと帰りたい。
俺は押し寄せる観衆を押し返して。
未だ興奮しているカインさんを、何とか捕まえてきた。
「カインさん!帰ってもいいですか?!」
大声を出さないと聞こえないだろう。それなりに大きな声で話し掛けた。
なんたって周りの歓声が凄い。
「何だって?」
どうやらこれでも聞こえない様だ。
身体を寄せてもう一度大声を出す。
「帰ってもいいですか?!」
お前は何てことを言うんだ、という顔をカインさんはしている。
「駄目だよ!今日は付き合って貰うよ!」
と最悪の回答が返ってきた。
でも神剣のこともあるし、はやく親父さんに会いに行きたいのだが・・・
今も刀身を剥き出しで持ってるし。
「カインさん!神剣のこともあるので、ゴンガスの親父さんの所に行きたいんですけど!」
カインさんはそうだった、と悔しそうな顔をしている。
「そうか・・・そうだよな・・・でもな・・・」
諦めきれないようだ。
こうなったら、最終手段だ。
「じゃあ、俺とギルは行きますので、他のメンバーを残していきますね!」
「・・・分かった・・・」
俺はゴンとエルに残る様に伝えて、ギルと転移することにした。
ゴンだけ少し嫌そうな顔をしていたが、エルは観衆の興奮が感染したのか、変な子モードになりそうになっていた。
現に歯茎剥き出しで笑っている。
ノンはまだ変てこダンスを踊っている。
あいつは外っておいてもいいだろう。
「ギル行くぞ!」
「分かった!」
とギルは俺と同じで、この場を離れたいようだった。
流石は俺の息子だ。
俺は直接転移でサウナ島に帰ってきた、それもゴンガスの親父さんのお店の前に。
いきなり現れた俺とギルに、数名のお客さんがびっくりしていた。
なんだかごめんなさい。
店の中に入ると、メリアンさんがいた。
「メリアンさん、親父さんは何処にいますか?」
「多分赤レンガ工房にいると思うわよ?」
よかった、あそこなら作業中でも中に入ることができる。
俺の施設だしね。
「ありがとうございます」
問答無用で、赤レンガ工房に転移する。
すると親父さんは一心不乱に鍛冶仕事を行っていた。
これは・・・待つしかなさそうだ。
適当に椅子に腰かけて、親父さんが気づくまで待つことにした。
ギルがお腹が減ったということだったので『収納』から食事を取りだして、食事を取ることにした。
今回はチャーハンだ。
ギルは十杯も食べていた。
俺は疲れていたこともあって、二杯食べてしまった。
ちょうど食べ終わったところで、親父さんがこちらにやっと気づいたようだ。
「お前さん、何をやっておる」
と手を止めて、こちらにやってきた。
俺は徐に神剣を見せた。
「おお!エクソダス!」
と親父さんは走り寄ってきた。
神剣を俺から取り上げ、大切そうに撫でている。
不意に親父さんが固まった。
「お前さん・・・踏破したのか?!」
と興奮気味に話しだした。
「そうですよ」
「そうか!やったか!」
と親父さんが興奮している。
なんでこの世界の人達は、こうもダンジョンの踏破に対して興奮するのだろうか?
「お前さんならやってくれると思っておったぞ!よかったよかった!」
よかった?何でだ?
興奮する親父さんを無視して、疑問を投げかけることにした。
「親父さん、聞きたいことだらけなんですけど?」
「おお!そりゃあそうだろう、分かっておる皆まで言うな」
察しがよくてありがたいです。
「この神剣についてじゃろ?」
「そうです」
「ちょと待っておれ」
と言うと、親父さんは神剣をブンブンと振り回した。
「エクス!おい起きろ!エクス!」
と叫び出した。
ていうか寝てんの?
「おい!エクス!いい加減起きんか!」
と更に神剣を振り回している。
すると、神剣が起きた気がした。
何故だか俺には分かった。
「ん?・・・親父!・・・なんで親父がいるんだ?」
と『念話』が聞こえて来た。
「やっと起きたか、久しいのうエクス」
と神剣を振るのを止めて、親父さんは神剣から手を離した。
すると神剣は床に落ちること無く、宙に浮いた状態でピタッと止まった。
おお!なんだこれは?
「親父!・・・ってここは何処だ?」
見えてるのか?
何とも不思議な出来事だ。
剣が宙に浮いており、喋る上に周りが見える様だ。
「ここは工房だ、島野ののな」
「島野?・・・誰?・・・」
「俺だよ、始めましてエクソダス様?さん?」
ん?どう対応したらいいんだ、神様なんだよな?
「お前さん、こやつはエクスでええぞい」
ということらしい。
「おお・・・って、何?おいらのマスター!嘘!なんてことだ!・・・親父説明してくれよ!」
と興奮しているのが手に取る様に分かる。
剣なのに・・・
「説明も何も分かっておろう、お前の装備者だ」
「・・・」
神剣は固まっているようだ。
「こやつはダンジョンの踏破者だ、やっとお前にも主人が出来たということだの」
主人?俺が?
装備者だからか?
「そうか・・・んん!・・・嘘だろ・・・あり得ない・・・何だこの人は・・・」
と神剣が驚愕している。
何が起こっているんだ?
さっぱり分からんぞ・・・
「エクス・・・分かったか、お前の主人の出鱈目さが」
「ああ・・・親父・・・こんな人間いるんだな・・・」
と神剣は半ば放心状態だ。
「あの・・・どうなってるんですか?」
と俺は親父さんに問いかける。
「お前さん、この神剣エクソダスは、装備者のステータスが分かるのだ、そしてお前さんのステータスを見て驚愕しておるのだ」
へえー、そうなんだ・・・っておい!
勝手に人のステータスを見るんじゃない!
個人情報保護法に抵触するぞ!
ってここは異世界か・・・
はぁ・・・どうしたもんかね?
「マスター!おいらはエクソダス!よろしく!」
といきなり自己紹介された。
なんだこの変わり身は。
「ああ・・・俺は島野だ・・・よろしくな・・・」
「マスター!あんた何者だ?何でこのステータスで神じゃないんだ?」
おいおい、遠慮の無い奴だな。
ていうか、一から教えてくれないとさっぱり分からん。
「ちょーっと待ってくれ!親父さん。一から説明してくれませんかね?」
とにかく状況を整理したい。
勝手に興奮されたり、ステータスを見られたりして何とも付いていけてない。
そもそもからお願いします。
そもそもから・・・
「そうじゃったな、すまんすまん、まずはこのエクスだが、儂が造った」
でしょうね。
「そしてこやつもその名の通り、神だ・・・」
マジか・・・物に神が宿るって・・・まさに八百万の神だな。
「てことは、親父さんは神を造ったということですか?」
「そうなるな、こ奴を造るのは大変だったのう、十日間飲まず食わずで、一心不乱に鍛冶に没頭しておったぞ」
十日間?
普通に凄!
よく餓死しなかったな・・・あ?神様だった・・・
死ななくて当然か。
「そして、こ奴は誕生し、儂は名前を与えた」
ふむふむ。
「名前を与えるということは、非常に大事なことだ」
はあ?・・・ネームドってこと?
よく聞くアイテムなんかに名前を与えると、強くなるみたいな?
「名前を与えるということは、それ即ち加護を与えることにもなるんでのう」
はい?名前を与えるだけで何でそんなことになるの?
強くなるとか進化するとかじゃなかったっけ・・・
「名前を与え、加護を付与することによって、より強力な存在へと成るのだ」
「はぁ・・・」
「因みに儂の加護には、武具を再生する力がある」
そうなんだ。
てことはある意味エクスは最強ってことか?
そもそもオリハルコンなんだから、削れることもないだろうしな。
そういえば、ゴン達に俺は名前を付けたけど、加護なんてつかなったな。
眷属にはなったけど。
まあ俺人間だけどね。
生き物とアイテムとは違うというところなんだろうね、きっと。
「そしてエクスだが、もともとはカインがダンジョンを踏破した時のドロップ品だったのだ」
「ん?オリハルコンのナイフじゃなかったんですか?」
たしか親父さんからそう聞いたけど。
「始めはロングソードだったんだ、それを儂の鍛冶仕事で、ナイフと剣にしたんだ」
「へえー」
「カインはダンジョンの神に成ったはいいが、踏破者に与えるドロップ品が無いと困っておっての、それで儂のところにやってきたんだ」
「なるほど」
「それで、せっかくならとエクスを造ることにしたんだ」
「そうだぜマスター、そうやっておいらは親父から生まれたんだ」
と誇らしげにしている。
顔無いけど・・・
「そして、カインにエクスを任せたということだの」
「へへ、分かったかよ?」
「それと、エクス、分かっておるな」
「何をだ?」
「お前さん、約束したよな?」
「・・・!」
「なんだ、忘れておったのか、まあよい。約束は約束だ。お前さんは島野に仕えるんだぞ。文句はあるまい?」
「ああ、マスターは人間だけど、どうやら本物みたいだしな。おいらは全然構わないぞ」
「ちょと待って、俺に仕えるってどういうこと?」
「そのままだ、エクスはお前さんに仕えるということだの」
「はあ・・・」
「雑用なり何なり、好きに命じればよかろう」
「そうですか・・・」
いきなり、神剣が部下に加わっちゃったよ。
やれやれだな。
「それとなエクス、装備者だが、ギルに変更せい」
「何でだ?」
「お前さん、能力共有でこ奴の能力を使おうと考えておるのだろ?」
「そうだぜ」
「こ奴の能力は万能だが、お前さんには使いこなすことは難しいと思う、それに神力の量から見ても直ぐにお前さん枯渇するぞ」
「そうなのか?」
「ああ、お前さんの神力は決して多くはない。こ奴の能力はこ奴だからこそ、使いこなせる代物だ、それとギルに装備者を換えればお前さんの夢が叶うぞ」
夢?
何の事だ?
「本当か?親父!」
「そうだ、ギルが装備すれば分かるが、こ奴はドラゴンだ」
「何!・・・中級神様かよ・・・格下かと思ってたぜ」
「格下ってなんだよ、そんなこと言うと装備者になってあげないぞ」
とギルは憤慨していた。
「ごめん、悪気は無かったんだ。すまない許してくれ!」
とまるで手を合わせているかの様に感じた。
「・・・どうしたものかな・・・」
ギルの気持ちは分かる。
エクスは終始舐めた態度を取っている様に感じる。
こいつはただの生粋な小僧だな。
「ギル、許してやったらどうだ?」
「流石はマスター!分かってるう」
こいつお調子者もいいところじゃないか。
「まあ、パパがそういうなら・・・で、どうしらいいの?」
「おいらの柄を持ってくれ、そうすれば変更可能だ」
「うん」
とギルはエクスを握り締めた。
するとエクスが、
「よし、変更できた。ギル、これからよろしくな」
「ああ、分かったよ」
というが、ギルは不服そうだ。
「それでエクスの夢って何ですか?」
とギルが親父さんに尋ねる。
「こ奴の夢はな、酒を飲むことだ」
なんだそれ・・・剣が酒を飲めるのか?
「ギルは人化の魔法が使えるだろ、エクスが人化すれば飲み食いが出来る様になる」
嘘でしょ?
どういう仕組み?
「なんだ、不思議か?」
「そりゃあそうでしょ、剣が人化したからといって、飲み食い出来るものなんですか?」
「お前さんには分からんかもしれんが、ギルよ、獣型の時と人化の時では味が違ったりするもんだろ?」
「そうだね、まったくの別ものだね」
「だろ?前にエリスとそんなことを話したことがあってのう。だからエクスを造った時に、その可能性を含めておいたんだ。だが儂は人化の魔法は持っておらん。そこで人化魔法を持つ者が装備者となった時に、飲食できるように仕掛けを施しておいたんだ。だがあくまで可能性だ、実際には口にしてみないと分からんがのう」
「・・・何だそれ・・・」
「ガハハハ!お前さんに呆れられたか!儂も一廉ということだな。これは面白い!ガハハハ!」
そもそも神様を生み出すことが出来るって時点で、一廉なんだけどな。
にしても、ゴンガスの親父さんはとんでもないな。
ただの酒飲みの、悪だくみ親父では無いということか。
流石は鍛冶の神様だ。
「では、さっそく」
とエクスが人化した。
おお!
茶褐色の青年だった。
心なしかギルに似ている。
というよりギルの兄弟といっても、疑う者はいないだろう。
特徴的な顔をしている。
だが、明らかに違うのは目だ、エクスの性格が影響しているのだろう、人を小馬鹿にするような含みをその視線から感じる。
「パパ、僕にそっくりじゃ・・・」
「だな・・・ギルの能力を使ってるんだから、そうなるんじゃないか?」
「だね・・・」
「どうだ?親父?成功か?」
「だと思うがのう」
ということで試してみましょうかね。
俺は『収納』からおにぎりを取り出した。
「エクス、食べてみるか?」
「いいのか?マスター?」
「試すしかないだろ?」
「そ、そうだな・・・」
エクスは恐る恐るおにぎりを手にした。
「いけ!エクス」
と親父さんが鼓舞する。
それに答えて、エクスは一気におにぎりを口にした。
「もしゃもしゃもしゃ・・・」
始めは探るような感じだったが、エクスの顔が歓喜に満ち溢れだした。
「お、お、味がする・・・これが味・・・何ていうんだ・・・おお!」
ポロポロと溢しながらも、おにぎりを頬張るエクス。
「う・・・うう・・・親父・・・マスター・・・そしてギル・・・ありがとう・・・おいら・・・おいら・・・」
とエクスは涙を流し出した。
エクスは相当嬉しいみたいだ。
でもこれで食せれたということなのか?
後でお腹痛くなるとかないのか?
その疑問を察したのか、親父さんが。
「大丈夫そうだのう、後はあまり人化を解かないことだの。この調子なら当分は剣には戻らんだろうがのう」
剣になった時にどうなるんだろうか?
俺が心配することでもないか?
自己責任ということでやっていこう。
「さて、エクスこうなるといよいよだな」
「そうだな親父・・・酒が待ってるな・・・」
「ちょっと待った!エクス、カインさんに挨拶しなくてもいいのか?」
「うう!・・・そうだった・・・カイン様には話をしないといけなかった・・・」
エクスは残念そうにしている。
「エクスや、酒は逃げてはいかん。そう肩を落とすな」
「親父・・・」
とエクスはしょんぼりしている。
「挨拶だけしてから、帰ってこい。儂は大食堂で待っておるぞ」
今のカインさんが直ぐに帰してくれるとは思えないのだがな・・・
「親父さん、エアルの街は今飛んでも無いことになってるので、早々に帰って来れるとは思えないのですが・・・」
親父さんは何?と言わんばかりの顔をしてる。
「そうだったのう。念願のダンジョン踏破だったの・・・今頃街を挙げての大宴会になっておろう」
「だったらそこで一緒に飲んだら?」
ギルからの建設的な意見だった。
「そうだな!ギル!良い事を言った。待っておれ、儂の上等の酒を準備する。お前さん!お前さんも酒と食事の準備をしろ!」
おいおい、勝手に仕切るんじゃないよ。全く!
でも俺もこのまま家に帰るとはいかないよな・・・ノン達も迎えに行かないといけないしな。
なんとかどんちゃん騒ぎが収まっていることを、祈るしかないな。
そんなに甘くは無いだろうけどね。
やれやれだ。
俺は大食堂の厨房に入ると、大歓声で迎えられた。
ここまで辿りつくまでにも、同様の待遇を受けた。
すれ違う人から
「おめでとうございます!」
「やりましたね!」
「やっぱり島野さんは規格外だ!」
等と声を掛けられた。
どうやら俺達がダンジョンを踏破したことが、早くも伝わっているらしく、興奮したエアルの住民が、いろんなところで吹聴しているみたいだ。
後から知ったんだが、俺とギルが親父さんやエクスと、話をしている隙に、カインさんが転移扉を開けて、入島受付に入ってきたらしく。
「島野一家がダンジョンを踏破したぞー!皆に伝えてくれ!」
と騒いだらしい。
一体何をやっているんだかあの人は・・・
事情をメルルに話したところ、さっそく食事の用意を開始した。
彼女も相当嬉しかったらしく。
「やってくれると思ってました!任せてください。腕に縒りをかけて準備します。さあ料理班!気合いれてけよ!」
とフンスと言わんばかりに力を籠めていた。
メルルの親方化は留まることを知らないな。
俺はその間に、お酒の準備をする。
どうしようかと考えていたが、めんどくさくなって。
ワインを樽ごと持っていくことにした。
そうこうしている間に、食事がどんどんと作られていく。
これは・・・オードブルだな。
揚げ物中心だが、パーティー使用のオードブルが作られていく。
何人分用意したらいいのだろうか?
まあ、適当でいいか。
最悪は島野一家と親父さんとカインさんと、エクスの分があればどうにかなるだろう。
酒を樽ごと大判振舞するんだからいいだろう。
文句は言わせないぞ。
ていうか俺が準備していることが、間違っていると思うのだが・・・
祝って貰う側なはず・・・
なんだかな・・・
食事の準備を終え、ギルとエアルの街に向かうことにした。
どうやら親父さんとエクスは、既に先に向かったらしい。
「パパ、エアルの街はどうなってるんだろうね?・・・」
ギルも恐る恐るといったところなんだろう、心配が顔に出ている。
「まず普通ではないだろうな」
「だよね・・・」
「まあ、付き合わん訳にもいかんだろう?」
「はあ・・・」
俺達は入島受付に辿り着いた。
案の定、興奮したランドから歓待を受けた。
「やりましたね!島野さん!」
「お、おう」
「やってくれると思ってましたよ!」
「そ、そうか・・・」
「ギル!お前凄いじゃないか!ダンジョンを踏破だぞ!」
ギルの両肩を掴んで揺すっている。
ランドの興奮は止みそうにない。
案外褒められて嬉しいのか、ギルは照れていた。
ギルは俺に付き合ってめんどくさそうにしているが、案外本心は違うのかもしれないな。
「へへ!」
と胸を張っている。
「ランド、すまんがエアルに行かないといけないんだ。悪いな」
「いえいえ!行ってくださいよ。宴会ですよね!良いなー、俺も行きたいな。てか後日サウナ島でも宴会をやりましょうよ!」
と聞きたくない台詞が耳に飛び込んできた。
俺は顔に出ていたんだろう。
「島野さん、俺達にも祝わせてくださいよ!連れないじゃないですか!」
と言われてしまった。
こう言われてしまえば、宴会を開くしかなさそうだ。
「そうか・・・分かった・・・」
「よっしゃ!ちゃんと聞きましたからね!」
言質を取られてしまったな。
やれやれだ。
「じゃあ行くからな」
「「いってらっしゃいませ!」」
とランド以外の従業員達からも大声で送り出されてしまった。
エアルの街は大騒ぎだった。
ハチの巣を突いた状態といってもいいだろう。
てんやわんやの大賑わいだった。
そこらじゅうで繰り広げられる宴会。
中には地面に直接腰かけている者達もいた。
花見かよ!
どこでどう準備されているのか、酒を片手に食事をする人達。
漏れなく大声で騒いでいる。
ひと際目立って騒いでいる集団の中心には、ノンがいた。
ノンはへらへらとしながら、酒を飲んでいた。
あら珍しい。
その脇でゴンが顔を真っ赤にしていた。
随分飲まされたご様子。
エルは歯茎むき出しで笑っていた。
こちらも相当飲まされたようだ。
ノンが俺とギルを見つけて駆け寄ってきた。
「ギルー、お前も飲めよー」
と上機嫌で絡んでいる。
ゴンとエルもこちらに来ては、
「主ー、飲まされちゃいましたー」
「そうですのー、フラフラしますのー」
と完全に出来上がっている。
「お前達、珍しく出来上がってんな。大丈夫か?」
「大丈夫だよー」
「平気ですー」
「ですのー」
と随分ご機嫌なご様子。
「カインさんの所に行くが、付いてくるか?」
「行くー」
「行きますー」
「ですのー」
ということだったので、フラフラになっている三人を連れて、カインさんを探すことになった。
道中珍しくエルがギルに甘えていた。
ノンとゴンは俺から離れようとしない。
こいつらも俺に甘えたいようだ。
二人の頭を撫でてやると、
「へへへ」
「フフ」
と喜んでいた。
道行く酔っ払いに声を掛けて、カインさんのところまで辿り着くと、親父さんとエクスも既にいた。
場所はダンジョンの入口だった。
簡単なシートが敷かれており、花見スタイルだった。
カインさんのところだけでは無く、それを取り囲むかの様に、花見スタイルで人々が酒を煽っている。
俺達は拍手で迎えられた。
「お待たせしました!」
「やっと来おったか」
「マスター、遅せえよ!」
と言われてしまったが、しょうが無い。
こちとら道行く人々に、絡まれてきたんだからね。
途中で何度声を掛けられたことやら。
「ここまで辿り着くのにどれだけ苦労したことか・・・」
「しょうがないのう、この調子だしの」
そう思うんなら、やっと来たとか言うな!
「じゃあ、まずは食事の準備からですね」
と俺は言うと『収納』からオードブルを取り出した。
それを見てカインさんが、
「待ってました!」
と大声で騒いでいる。
ほんとにこの人は・・・
「「いただきます!」」
と勝手に食事を始める各々。
すると周りの人達も気になったんだろう。
こちらに期待の籠った視線を送ってくる。
はあ・・・どれだけあるのかな・・・
足りなくなっても知らないからな。
『収納』から食事を取り出して、
「欲しい方は居ますか?」
というと、
「こっちください!」
「俺も!」
「では遠慮なく!」
と殺到したので、適当に渡していく。
「喧嘩しないで、分け合って食べてくださいね」
と声を掛けておいた。
案の定、
「これは俺のだろ!」
「あ!酷い!何で食べちゃうの!」
とやっている。
やれやれだ。
これ以上はもう知らん!
俺は『収納』からワインの樽を取り出した。
「おお!」
「樽ごと!」
「よ!太っ腹!」
と声が掛かる。
誰も奢るなんて言ってませんが・・・まあ奢るんだけど。
「皆さん適当に飲んでください。喧嘩しないでくださいよ」
と最後に注意しておく。
これまた人が殺到し、適当にやってくれと柄杓だけおいて、俺はその場を離れた。
所々で、
「ワイン旨!」
「これ美味しい!」
「最高!」
等と騒いでいる。
俺はこっそりとウコンエキスを飲み込んだ。
やれやれだな。
「さて、マスター、ギル、親父、カイン様、念願の酒、不肖神剣エクス行かせて貰います!」
とエクスがワインの入った、木製のコップを天に掲げた。
「いけ!エクス!」
「一気に飲め!」
と親父さんとカインさんが煽り出す。
グビっとワインを飲んだエクス。
すると、わなわなと体を揺すりだした。
「これが酒か・・・美味い・・・親父のいう通りだ・・・無茶苦茶上手い!」
と叫びだした。
「エクス、そうだろう、上手いだろう!ガハハハ!これが酒だ!大いに飲め!」
「エクス、人化出来て良かったな!」
とカインさんも嬉しそうにしていた。
隣では、食事をがっつくギルに膝枕されているエルがいた。
どうやら眠ってしまったらしい。
ギルも嫌な訳ではなさそうだ。
仲の良い姉弟でよかったです。
「あれ?もう一人ギルがいるよ」
とノンが出来上がっている。
「あ、ほんとだ」
とゴンも同様になっている。
それを見たギルは、今話しても埒が明かないと思ったのだろう。
やれやれといった顔をしていた。
俺にワインを飲まそうと、次々に人々が殺到した。
これは・・・社員旅行の時よりひどくないか?
救援のサインを親父さんに送ると、親父さんが割って入ってきた。
「お前さん達、儂にも飲ませろ!」
と一気に注目を浴びている。
神様からのお酌のおねだりだ、無視する訳にはいかない。
それにしても凄い人の渦だ。
人酔いしそうだ。
中には見かけたことがある者達も見かけたが、その者達は遠慮しているようで、こちらを気にかけるのだが、近寄ってこようとはしなかった。
ああ、そんな・・・助けてくれてもいいんだぞ・・・遠慮するなよな・・・
あれ?餅ハンター。
俺は餅ハンターに向かって手を振って、こいこいと手招きした。
待ってましたと頷く餅ハンター。
よし、あいつらには悪いが、ここは盾になって貰おう。
到底身体がもたんのでね。
「よう!ブルーエッグ!こっちだ!」
と周りの者達を牽制する為に、あえて声を掛けた。
ドリルが今だと、割り込んできた。
俺に声を掛けられたブルーエッグの面々への、妬みの視線が所々から放たれている。
「島野さん!おめでとうございます!」
「ああ、ありがとう」
ドリルに続いて他のメンバーも声を掛けてきた。
「島野さん、おめでとうございます!」
「島野さん、やりましたね!」
「島野一家なら踏破すると思ってました!」
と賛辞が止まない。
俺は小声でブルーエッグの面々に伝える。
「すまんが、壁になってくれ。このままじゃ身体がもたない」
「「分かりました」」
と俺の目の前に座り込む。
後ろから、
「何だよ!」
「後ろが痞えてるだろ!」
等と声が挙がるが気にしないブルーエッグの面々。
なかなか肝が据わっている。
「島野さん、それでどうでした?」
「ああ、あの後結構大変でな」
「それはどんな?」
「七階層までは話したよな」
「はい、聞いております」
とダノンが頷く。
「八階層はな、ジャングルだったんだ」
「「ジャングル!」」
意外だったようだ。
「デカい蟻やらが多くて、大変だったぞ」
これまで文句を言っていた後方の者達も、ダンジョン情報が気になったのか。
「ちょっと静かにしてくれ」
「ここまで聞こえない」
「押すなよ!」
と雰囲気が変わった。
そうかこの手があったか、しめしめだ。
「後はデカい蛾やデカいカマキリも居たな、カマキリはそれなりに素早かったし、腕の鎌がデカかったぞ」
「「おお!」」
どよめきが凄い。
「それでそれで」
と意を汲んだドリルが急かしてくる。
「まあそう急かすなよ、次階層までの道のりは大体二キロぐらいだったな。そして九階層目もジャングルだった」
「「またジャングル!」」
「そうか」
「なるほど」
と皆が皆聞き耳をたてている。
終いには知っているに決まっている、カインさんまで混じっていた。
「九階層のジャングルは八階層よりも乾いていたな。湿気をあまり感じなかった。そしてこの階層で出会った魔物は、まずはジャイアントパンサーだろ」
「ジャイアントパンサーか、各上だ」
「お前うるせえって、黙ってろ」
「おお、すまん」
等と外野が煩い。
「後はジャイアントタイガーだろ、それからジャイアントベアーだな」
「ここはもうA級でも難しかもしれませんね」
とダノンが考え込む。
「そうかもしれないな、あ!そうそう、この階層でS級のハンター達に遭遇したよ」
「なんと?」
「ほんとですか?」
ドリルまで騒いでいる。
「ああ、追い込まれてたようだから、手出しさせて貰ったよ。いくらダンジョンとは言っても流石にな」
「うおー!S級を助けた?!」
「規格外だ!」
「考えられない!」
と外野が煩い。
このままでは俺もしんどいのでギルにも話を振る。
「なあギル、そうだったよな?」
「うん、そうだったね。僕達島野一家はトリプルS級だよ!」
と何故かギルが高らかに宣言した。
「「トリプルS?!」」
「うおおおおお!」
「そりゃすげえ!」
と騒いぎ出したと思いきや、今度は
「「「トリプルS!」」」
「「「トリプルS!」」」
と大合唱が始まった。
流石のノンもここで踊ることは出来ず、酔いつぶれて寝ていた。
今回はノンの変てこダンスはお預けだ。
それにしても大合唱が止まらない。
こうするつもりではなかったのだが・・・
何故にギル君や、君はトリプルSを宣言したんだい?
しまった!そうだった、ギルには中二病的なところがあったんだった。
やれやれだ。
その後、興が乗ったギルが、身振り手振りを交えて、ダンジョンでの出来事を詳しく語りだした。
まるで英雄譚でも語るかの如く、ギルは活き活きと話していた。
後ろにまで聞こえる様にと、敢えて大きな声で話している。
ギルは喜々としてダンジョンでの出来事を話していた。
やっぱりこれは中二病だな。
中二病ここに極まれり!