絶妙なタイミングで守が話し出す。
「よお、お前ら、楽しそうだな」
不意に守から声が掛けられる。
楽しい訳が無い。
だが真逆の事を言われて全員がキョトンとしていた。
そして当の守は実際に楽しそうに笑顔だったのである。
意味が分からなく、全員が固まっていた。
「こうやって話し合うことに意味があるってな」
守は笑顔を崩さない。
「島野様」
「我が神よ、ご教授下さい」
ソバルとプルゴブが頭を下げる。
不意に守は表情を正し、レインを見つめた。
その眼差しは優しい慈愛に満ちていた。
「なあレイン、誰かに戦争の責任を取らせたいのか?本当にそう想うのか?」
「それは・・・」
レインは困った表情をしていた。
「レインよ、けじめだの責任だのと言うが、本当にそれが必要だってんなら、前向きなけじめや責任を取ろうじゃないか」
レインは眉を潜めた。
「前向きとは?・・・」
レインには守の意図が理解出来ないみたいだ。
「簡単な話だ、『イヤーズ』にはインフラを整備する技術がある、それを広めればいい、それに他にもラファエルが開発した魔道具の作製の技術であったり、馬車の定期便のノウハウを『サファリス』と『オーフェルン』に提供するってものいいな。どうだ?レイン、誰かが不利益を被る必要なんてないだろう、違うか?こういう責任の取り方も有るんじゃないか?」
この発言に賛同者が相次いだ。
「確かに!」
「それは名案じゃな、流石は島野様!」
「素晴らしい!」
「前向き最高!」
こうなると話の矛先が変わってきていた。
守の思惑通りである。
話の筋道が見えたのかレインも笑顔になってきていた。
これまで黙って見守っていたダイコクとポタリーも呟いてしまっていた。
「島野はん・・・敵わんで・・・」
「旦那・・・あんたって人は・・・よくもまあどうしてそんな事を思いつくんだい?」
スターシップが割り込んできた。
「こうなると決まりですね」
にやけ顔で守はスターシップを見つめていた。
「せっかくだからもう少しいいか?スターシップ」
「どうぞお構いなく、もう先は見えてますから。好きにやって下さい」
スターシップはやれやれと首を振っていた。
これは一本取られたと言いたげだ。
本来であればここで採決を取らなければならない。
もうそんな必要は無いと場の空気が認めてしまった事を、スターシップは理解したのである。
「なあ、ラズベルト『イヤーズ』の復興だが俺が知恵を貸そう」
「本当で御座いますか!」
ラズベルトはガバっと立ち上がっていた。
相当興奮しているのだろう。
目が血走っている。
「ああ、本当だ。ラファエルの尻拭いを俺がしてやるよ」
「ありがとう御座います!」
ラズベルトは頭を打ち付けるかという程に頭を下げていた。
頭を挙げると万遍の笑顔で泣いていた。
それを参加者達は驚きと笑顔で受け入れていた。
「しかし、どうして島野様はそこまでなさるのですか?ラファエルは大罪人で御座いますよ」
レインの純粋な疑問だ。
「それはな、ラファエルは俺と同じ異世界からの転移者なんだ、あいつは大馬鹿者だよ。それに困った奴でな、やりたい放題やった挙句、俺に尻拭いをしてくれときたもんだ、面倒臭い事この上ないよな」
守は笑顔で答えていた。
「いまいちよく分かりませんが・・・」
「だろうな、別に同意なんて求めてないよ。まあ俺はお人好しなんでね」
「はあ・・・」
「まあ良いじゃないか、何も悪い事しようってんじゃないんだからさ」
「ですが・・・」
これに魔物達が呟く、
「レイン殿は分かってはおらんな」
「島野様は慈悲深いのじゃ」
「兄弟の言う通りだな」
「我等の神は最高神だ、理由なんて要らないのだよ」
守信者の魔物達は当然の事と受け止めているみたいだ。
ベルメルトも続く、
「ラズベルト殿も島野様に救われるのですね」
こいつがこれを言うと重みがある。
実際ラズベルトはルミルに羨ましがられていたぐらいだ。
場は完全に守のペースになっていた。
こうなると守劇場の始まりである。
我物顔で守が勝手に仕切り出していた。
「お前達!質問だ!『イヤーズ』を復興させる上で一番重要な事は何だと思う?分かる奴はいるか?」
全員が一様にして考え込む。
ソバルが我先にと手を挙げる。
自信に満ちた表情を浮かべていた。
守が顎で発言を許す。
「島野様、それは資源ではないでしょうか?」
一度守は頷く、
「資源も重要な要素だが違うな」
続いてプルゴブが手を挙げる。
「資金力で御座いましょうかな?」
「資金力は確かに要る、資金が無いと何も造れないからな。でもそこじゃあないんだよな」
ルミルが手を挙げる。
ルミルは積極的な性格みたいだ。
それに何とかして守に気にいられようと必死だ。
「技術力でしょうか?」
「ルミル、それは何に関する技術力だ?」
「それは・・・建築であったり、国造りであったり、はたまた調理であったりとか?」
「ルミル・・・質問を質問で返すんじゃないよ、全く」
「すいません・・・」
ルミルは頭を掻いていた。
「技術力に関しては『イヤーズ』はそれなりに有している。そこでは無いぞルミル」
ルミルは名前を呼ばれて嬉しい様だ。
万遍の笑顔をしている。
「他にはいないか?」
全員が辺りを見回している。
そしてベルメルトが手を挙げる。
「島野様、宜しいでしょうか?」
「良いぞベルメルト、もし当たったら今度エアーズロックで寿司を奢ってやる」
この発言に全員が色めき立った。
「本当ですか?良し!絶対当てるぞ!」
「ちょっと待って下さい!私にも答えさせて下さい」
「狡いですぞベルメルト殿」
「もう少しお時間を頂戴頂けませんか!」
「アハハハ!お前達そんなに奢って欲しいのか?分からなくは無いけどな。五郎さんの所の大将の握る寿司は別格だからな!」
守は実に楽しんでいた。
守劇場ここに極まれりである。
「ベルメルト、良いから答えろ!」
「はっ!では早速・・・思いますに、娯楽ではないでしょうか?如何でしょうか?」
守がにやける。
「ベルメルト・・・正解だ!」
「よっしゃー!」
ベルメルトはガッツポーズを決めていた。
「そうだったのかー」
「ベルメルト殿が羨ましい!」
「娯楽でしたか、納得です」
「当てられてしまったか・・・」
ルミルが睨みつけるかの如く鬼の形相でベルメルトを睨んでいた。
相当羨ましいらしい。
それを見て守がやれやれと首を振る。
「ルミル・・・お前そんなに羨ましいのか?」
「そりゃあそうですよ!羨ましいに決まってますよ!」
「そうか、しょうがないなあ、お前も連れてってやるよ」
「やったー!夢が叶ったぞ!」
ルミルがガッツポーズを決める。
それを外の参加者達が黙っていない。
スターシップまで身を乗り出していた。
「島野様!二人だけ狡いですよ!」
「そうで御座います、是非ご相伴に預からせて下さい!」
「大将の寿司!食べたいです!」
次々と騒ぎだしてしまった。
これは収集が付きそうもない。
守もしまったなと苦い顔をしていた。
分かったと守が手を挙げていた。
「分かったから騒ぐな!全員奢ってやる!」
「やったー!」
「よっしゃー!」
「一度行きたかったんです!」
「これは一大事だ!」
守は首を振りながら通信用の神具を取り出した。
繋げる先は五郎だ。
「おう島野、どしたってえんだい?」
「五郎さん、お疲様です」
「おうよ」
「五郎さん、エアーズロックの寿司屋なんですが、近々貸し切りに出来ませんか?」
「貸し切りか?お前え相変わらず景気がいいじゃねえか、ええっ!」
「いやー、めでたい事がありまして、どうにもまた奢らないといけなくなりましてね。特上寿司を四十名程お願いしたいんですけどどうでしょうか?」
「かあー!お前えはいちいちやる事が大胆じゃねえか、よっしゃ待ってろ、確認してから折り返すからな。ちと待ってな!」
そう言うや否な通信が一方的に切れてしまった。
期待の眼差しで守を見守る参加者達。
守はいつのも様に飄々としている。
誰かが唾を飲み込む音がした。
ものの数分で五郎からの返信があった。
「島野!明後日はどうでえ?夜でいいんだよな?」
「はい、そうです。後、日本酒もたくさん用意して貰えると助かります」
「そうか、特級品を準備しとくとするか!ええっ!」
「よろしくお願いします」
「おうよ、じゃあな!」
「では」
このやり取りを聞いていた参加者はまた騒ぎ出した。
「早く明後日が来てくれ!」
「明日から俺は食事を抜くぞ!」
「特級品の日本酒とは?」
「特上寿司!万歳!」
どうやら騒ぎは収まる事は無さそうだ。
騒ぎを納める為に俺は一度手を叩いた。
「いいかお前達、話を戻すぞ!いい加減切り替えろ!」
俺の一喝に全員が顔色を変えた。
やれば出来るじゃないか。
場を荒らしたのは俺か?
まあいいや。
「良く聴けよ『イヤーズ』は長年ラファエルに支配されてきた。娯楽を求める暇が有ったら祈りを捧げろと強要されてきたんだ」
ラズベルトが返事をした。
「その通りで御座います」
「だよな、でもな俺はこう思うんだ、娯楽は人生を豊かにする。娯楽は人生を幸せにする。息抜きはとても重要で、これが無い人生なんてつまらないだろうってな」
「そうですぞラズベルト殿、娯楽を我等は島野様から教わり人生が明るくなりましたからな」
プルゴブは誇らし気だ。
ソバルも続く、
「そうじゃな、娯楽は最高じゃよ」
魔物達が好き放題言い出した。
「そうだぞ、サウナは最高だし、温泉も良い。漫画も面白いからな」
「俺はスキーが好きだな」
「私はビリヤード!」
「俺はキャンプだな」
「やっぱりボードゲームだな」
徐にスターシップが手を挙げた。
「島野様、因みにどんな娯楽を広めるおつもりでしょうか?少々気になりますが・・・」
「スターシップ、聞きたいか?」
ここは焦らしてみようかな?
「当たり前ですよ、教えて貰えないんですか?」
「どうしたもんかな?・・・」
「ここに来てそれは無いでしょう?焦らさないで下さいよ・・・」
スターシップも随分と砕けたものだな。
「しょうがないな・・・教えてやるか、ラズベルト、ラファエルの神殿は今はどうなっている?」
「はっ!今は崩壊したままで御座います」
本当はそんなことは知ってるけどね。
「じゃあそこだな」
「と言いますと?」
「『イヤーズ』にとっては象徴となる建物だった神殿の跡地に、とある施設を建設するんだ」
「それは?・・・」
「その施設は『イヤーズ』の新たな象徴、否、北半球の象徴となるんだ、これを機に『イヤーズ』はこれまでと違う娯楽と魅惑に溢れる国に変わるんだ」
「おお!・・・」
「それは一体・・・」
「新たな象徴とは?」
全員がこちらに意識を向けていた。
「とある施設とは、この北半球において初めての施設となる」
スターシップが痺れを切らした。
「いい加減教えて下さいって!」
俺は思わず笑いそうになってしまった。
にやけ顔で俺は話した。
「スーパー銭湯を建設するぞ!」
場に静寂が訪れていた。
まるで時が止まったかの様に静まり返っていた。
だがそれは一瞬の出来事であった。
「遂に北半球にスーパー銭湯が!」
「宜しいので!」
「いよいよか!」
「あの魅惑のサウナ島のスーパー銭湯がこの北半球で!」
実は前に『シマーノ』でスーパー銭湯建設に関しての話が持ち上がった事があったのだ。
その際には魔物達からは、
「サウナ島に我々は行けますので充分です」
「魅力的な話ですが、我々は島野様のスーパー銭湯に行きたいのです」
「そんな滅相も御座いません!」
「嬉しくはありますが恐れ多いです!」
「我々には温泉とお風呂がありますので大丈夫です」
『シマーノ』の魔物達にとっては、サウナ島に行けるから充分で、自分達でスーパー銭湯を建てるなど恐れ多いと恐縮されてしまったのだった。
魔物達は俺がスーパー銭湯とサウナを愛して止まないことを知っている。
こいつらにとってはスーパー銭湯は特別な施設であるみたいだ。
それが遂に北半球に建設されることになったのだ。
それも北半球の新たな平和の象徴として。
そしてスーパー銭湯の事もどうやら噂になっていたみたいだ。
初参加の者達も目を輝かせていた。
ラズベルトに至っては、笑顔で泣いていた。
ルミルに関しては興奮していた。
他の者達も似た様なものである。
俺は更に捲し立てる。
「いいかお前達、スーパー銭湯は皮きりに過ぎない。他にも俺は沢山の娯楽を持ち込むぞ、それも『イヤーズ』だけじゃない、同盟の参加国全てにだ!」
一瞬の間の後に歓声が挙がった。
「うおおおお!」
「きたー!」
「幸せがやってきた!」
「もう泣きそうです!」
「幸せしかない!」
興奮は冷めやらなかった。
「南半球にも負けない娯楽施設を沢山造る。渡航者が絶えない施設を造るんだ、どうだお前達!」
俺は散々煽ってやった。
もうこうなってくると会議は破綻していた。
俺の好きにコントロールされている。
でもこれは俺が悪いのではない。
会議の中心に俺を座らせたこいつらが悪い。
まあこうなることは想定内なんだけどね。
ある意味こうなることを望んで、こいつらが俺を座らせたことも分かっている。
まあ良いじゃないか。
実際楽しいんだからさ。
この後も俺はいろいろぶち上げた。
当たり前の様に『イヤーズ』は同盟の仲間入りを果たしていた。
雪崩式になった事は否めない。
でもそれで良いじゃないか。
大事な事は其処ではないのだから。
北半球に平和がやってきた。
これが一番大事な事なんだから。
そして皆で先に進むんだ。
栄光はもう見えているのだから。
そして約束の宴会が催された。
参加者の全員が美味しそうに寿司を味わっていた。
日本酒に舌鼓を打ち、最高の一時を満喫していた。
俺は案の定お酌合戦に付き合わされそうになり、クモマルを壁に宴会を楽しんでいた。
こいつは本当に頼りになる。
俺の肝臓はクモマルに守られている。
クモマルを乗り越えて来ない限り、俺には辿り着くことは出来ない。
しめしめである。
クモマルに勝てそうなのは・・・ゴンガスの親父さんぐらいかな?
一度競わせてみようかな?
止めとこう、絶対に可笑しなことになるのは目に見えている。
それにしてもルミルは浮かれていたな。
何をそんなに嬉しいのか。
でもこれってよく考えてみると、初めての同盟の宴会なんだよな。
俺が幹事って・・・どうなの?
そう言えば・・・
「なあ、お前達。同盟の名前をどうするつもりなんだ?」
この発言に固まってしまう一同。
「えっ!」
「それは・・・」
「考えて無かった」
「しまった!」
これが要らない一言だと俺は後で後悔してしまう事になるのだが、この時の俺は知る由も無かった。
安易に言葉を発してしまった俺が悪い。
全員が本気で考え込んでいた。
唸っている者が何人か居た。
そんなに考え込む必要があるのか?
いまいちよく分からん。
ここは安易に北半球同盟とかでいいんじゃないか?俺はそう想うよ。
不意にプルゴブが万遍の笑みで言い出した。
何か思いついたみたいだ。
「ここは『マモール』なんてどうだろうか?島野様の名を冠しておるし、意味も良い。北半球の平和を守るという事になるのではなかろうか?」
これに賛同の意見が列挙した。
「良いぞ兄弟!最高じゃ!」
「それしかないぞ!」
「よく言った!」
「素晴らしい!」
「最高じゃないか!」
「プルゴブ殿天晴だ!」
「北半球同盟、その名も『マモール』!」
しまった・・・やっちまったな・・・
言うんじゃなかった。
俺は間違いなく顔が引き攣っているな。
やれやれだ。
ハハハ・・・もう好きにしてくれ!
皆さん、これを自業自得と言う。
ちょっと違うか?
やれやれである。
あれから五年の歳月が経っていた。
実に月日は早いものである。
今では北半球は平和を享受していた。
北半球同盟、その名も『マモール』は北半球で絶大の支持を受けていた。
この『マモール』を知らない者は一人もいなかった。
そしてそれは守の存在を更に知らしめることになっていた。
でも当人はそれを屁とも感じてはいなかった。
だから何だと、あまり興味を示してはいなかった。
其れよりも俺の邪魔をするなよと、出来るだけ陰に徹しようとしていたのだ。
だがもうそんな事を言っていられる状況には無かった。
守は北半球を統一した神として崇め奉られていたのである。
本人の意思とは関係なく。
その現実に守は日々身悶えしていたのである。
俺の事は外っといてくれよと。
外っといて貰える訳が無い。
余りに認識が甘い守であった。
この同盟によって、様々な恩恵を参加国は受けていた。
これまでいがみ合ってきたことは何だったのかと感じている国民が大半だった。
どうしてもっと早く手を取り合わなかったのだとの声も多数挙がっていた。
同盟国の全てが独自の発展を得て、互いに支え合っていた。
北半球は大きく舵を切り出していたのである。
そこには平和な時間が訪れていた。
それを国民達は神の御業だと受け止めていた。
残念ながら崇拝から逃れられない守であった。
当の本人は背筋が凍る想いであったのだが、国民達にとっては知らない事である。
流石の守もどうする事も出来なかった。
何処に行っても拝まれる始末となっていた。
そして守の宣言通り、様々な娯楽が北半球に広められていた。
最初に『ルイベント』にはエアーズロックに負けない程のフードパークが出来上がっていた。
それはあり得ない程の賑わいを見せていたのだった。
そのラインナップは南半球を超えるかもしれない。
和洋中の全てだけでは無く、守の知る全ての飲食に関する施設が出来上がっていたのである。
それを嬉しそうにスターシップとダイコクは眺めていた。
『ルイベント』はそのネットワークを最大限生かして、手に入らない食材は無いと言える程になっていた。
正に胃袋を掴んだ国となっていた。
ここに来れば最高の食事を提供されるのだと。
そしてその食の研究は余念なく行われていた。
北半球の料理人、パティシエは当たり前の様にこの国に集まってきていた。
今では料理学校も出来あがっていたぐらいだ。
『ルイベント』は食の宝庫となっていたのだ。
その料理学校の学長はオクタである。
今ではオクタは北半球一の料理人の地位を得ていた。
実はオクタにとってはそんな事はどうでもよかった。
オクタは単に守と料理を作ったり、料理の研究をするのが大好きなのだった。
オクタは大の守信者である。
一見オクタは武骨な職人肌の料理人である。
でもその本質は只の守の事を大好きなオークなのである。
オクタの最大の喜びは、プルゴブやソバル、メタンの守を賛辞する話を肴に、ひっそりと酒を飲むことが最高の娯楽となっていたのである。
この事を知る者は一人もいない。
オクタにとっては料理を極めるイコール、守に褒められる。
これが全てであったのである。
ここはオクタを責めてはいけない。
実にこういう思考の魔物達が実は大半なのである。
それを知らない守は適当に好き放題にしていたのだけなのだから。
何とも世知辛い話である。
スターシップはかなりの食通だった。
彼は食に対してあり得ないぐらい執着していたのだった。
先の同盟国会議でもその片鱗は現れていた。
それを守は見逃してはいなかったのである。
この国は食に拘るべきだろうと。
圧巻だったのは回転寿司屋であった。
レーンに風魔法を付与した魔石を埋め込み、寿司がレーンを周っていた。
これを北半球の住民達は面白おかしく受け止めていた。
寿司が勝手に周っていると嬉しそうに笑っていたのである。
他にも自分達で作るたこ焼き屋や、鉄板焼きのお店は遊び心が刺激すると選ばれる傾向にあった。
中には蕎麦打ち道場等もあり、フードフェスも盛んに開催されていた。
バーベキュー場等もそこら中にあり、大変賑わっていた。
極め付きはフレンチレストランであった。
至極のコース教理がリーズナブルに味わうことが出来ていた。
でもここは守の影響で礼儀や作法などは皆無だった。
普通に箸で食べる者が多数いた。
『ルイベント』ではレストランが所狭しと並んでいる。
そしてスターシップの肝入りのお店が出来上がっていた。
それは鰻屋である。
守とオクタで開発したあの同盟国会議で提供された、鰻のタレが分け与えられ、継ぎ足しを重ねられていたのだ。
スターシップに言わせると、
「これは国宝のタレです!」
食通の彼が愛して止まないお店となっていたのである。
予約は半年待ちという絶大な支持を受けるお店になっていた。
そしてスターシップは三日に一度はこのお店に訪れていた。
それも警護の者を振り切って。
このお店に来ればスターシップに会えると、国民達も知らない者はいない事になっていた。
英雄も極上の鰻のタレには骨抜きにされていたのである。
それを冷ややかな目で守は見ていた。
勝手にしろと言いたげである。
勿論食材の提供元の大半は『シマーノ』である。
野菜の提供は当たり前の様に行われ、肉も森でたくさん狩りが行われていた。
そして海産物はコルボス率いる漁師軍団の出番であった。
今ではコルボスは北半球における海の覇者となっていた。
守から提供されたクルーザーはゴブスケの手に寄って四艘もある。
更にゴンズから教え込まれた漁の技術に寄って、連日当たり前の様に大漁を繰り返していたのだ。
それだけでは無い。
守達から享受された海苔の加工や、海藻の手入れ方法等。
実に様々な海産業が充実していたのである。
それは海だけに留まらない。
川の漁もお手の物になっていた。
その為、鰻の仕入れはコルボスに寄ってなされていた。
スターシップはそれを知った後、コルボスに勲章を与えると騒いでいたらしい。
そしてコルボスの快進撃は止まらない。
レケから教わり、養殖も成功させていたのだ。
当たり前の様にマグロの刺身が食卓に並び、ツナが国民食となっていたのである。
更には鰻の養殖までもだ。
コルボスは正に北半球における漁の覇者となっていたのだった。
加えてに守の入れ知恵でコルボスは干物にも手を出した。
これが凄い事になっていた。
これまで魚介類の干物の技術は無かった。
あったのは肉の干物の加工だけである。
魚も干物に出来るのだと、その技術は北半球を席巻した。
肉だけでは無く、魚も保存食になるのだと北半球は沸いた。
これに寄って、北半球は空前絶後の海産物ブームが訪れていた。
そして『シマーノ』の魔物達はその技術を惜しげも無く同盟国に伝えていった。
それは干物の技術だけでは無い。
操船の技術やクルーザーの製造方法や漁の技術に至るまで。
今では海に面する国には当たり前の様にクルーザーが海を走っていた。
北半球は海産業の宝庫となっていたのである。
当たり前の様に食卓では海産物が提供される状態になっていたのである。
次に『ドミニオン』にはスポーツ施設が沢山造られていた。
陸上競技場から始まり、野球場、テニスコートにサッカー場、そしてゴルフ場、体育館は五箇所も建設されていた。
圧巻だったのは野球場である。
なんとドーム球場まであり、雨でも野球が出来ると北半球の住民からは喜ばれていた。
実にたくさんのスポーツイベントが行われおり、今後はプロスポーツ選手が生れそうになっていた。
特に野球の人気は凄まじく、球団の数も多かった。
今では南半球との交流が望まれている段階となっていた。
マークが喜びそうな話である。
それだけでは無い、ドーム施設に眼を付けたオリビアファンクラブは、なんとオリビアのコンサートを敢行したのである。
実はオリビアファンクラブは北半球では確固たる地位を築いていた。
そしてオリビアは北半球では完全にアイドル扱いされていたのである。
これをゴブオクンが果たしたのは奇跡かもしれない。
まさかこいつにこんな才能が眠っていたとは誰も知る由もなかった。
今ではオリビアファンクラブの会長という立場だけに留まらず、オリビアのタレント事務所を設立し、アイドル活動を支援していた。
それだけに留まらず、新たなアイドルの発掘を行うイベントまで企画していた。
時代が生んだ天才とゴブオクンは持て囃されていた。
そして調子に乗ったゴブオクンはあり得ないぐらい態度がデカくなっていた。
そんな調子に乗ったゴブオクンは踏んではならない尾を踏んでしまう事になる。
なんと守にいつになったらオリビアと結婚するのかと詰め寄ったのである。
余りに調子に乗ったその態度と、その無遠慮な発言に守はブチ切れた。
守は激怒していたのである。
ゴブオクンはエアーズロックから放り投げられていた。
守は死なない程度に『念動』で支えていたのだが、骨の数本は折れていたみたいだ。
ごめんだべー、と謝っていた様だが、ゴブオクンが本当に反省したのかは定かではない。
また調子に乗るのは目に見え居ているのだが・・・
彼が本気で反省することは無いだろう・・・残念ながら。
彼は根っからのお調子者である。
守は物足りないと、再度エアーズロックから投げようとしたのだが、流石に不味いとマーク達に止められていた。
そんなゴブオクンの事はいいとして『ドミニオン』は『メッサーラ』に続くスポーツ大国になっていた。
ベルメルトも積極的にスポーツイベントに参加していた。
特にベルメルトは野球にド嵌りし、連日野球を楽しんでいた。
公務を放り出して・・・
こいつも守に叱られそうである。
ベルメルトは野球好きが高じたのか、サウナ島に来るとマークとしょっちゅう野球談議を楽しんでいた。
今では交流戦が望まれている。
ベルメルトはドカベンが愛読書であると守に語っていた。
それを守はぬるい眼つきで聞いていた。
あっそう、と言いた気である。
言わないだけ大人だとここは褒めておこう。
『ドミニオン』の貴族間ではスポーツは貴族の嗜みと受け入れられていた。
特に貴族の間ではゴルフが流行っていた。
今では国民の大半が何かしらのスポーツを楽しんでいる。
スポーツは心を健全にすると受け入れられていたのだ。
とても健康的な国であると言える。
『エスペランザ』にはアミューズメントパークと、たくさんの公園が建設された。
アミューズメントパークとは要は遊園地である。
魔石を有効に使って様々な遊具等が建設されていた。
特に人気となったのはジェットコースターであった。
風魔法を付与した魔石を使ったジェットコースターは男女年齢問わず人気を博していた。
それ以外にも、ゴーカートや観覧車、バイキング等は王道の遊具となっていた。
ティーカップは家族連れには絶大な人気を得ていた。
そして何故だか人気が無かったのはお化け屋敷であった。
余りに子供じみていると不評であった。
守はどうしてなんだと頭を抱えていた。
ものの一ヶ月で閉館となっていた。
実に残念である。
更に射的や金魚すくい、輪投げ等、古典的な日本の屋台も受け入れられていた。
休日の『エスペランザ』は渋滞が起きる程賑わっていた。
そしてそれだけに留まらず、宿泊施設や露天屋台等も充実しており、遊びの楽園となっていたのだ。
公園は家族連れにとても喜ばれていた。
休日には小さな子供を連れた家族が多数訪れていた。
ピクニックが国民の休日のルーティーンとなっている。
公園では笑い声が溢れていた。
家族連れは公園を大いに楽しんでいた。
自転車の街道も造られ、自転車は国民の移動手段として受け入れられていた。
そして『エスペランザ』にはハイキングを楽しむ山等もあった。
それに合わせて自然に溢れた様々な施設が建設された。
山小屋や休憩所等、山を愛する者達は『エスペランザ』に集まっていた。
更に流行ったのはクライミングだった。
実にガチ勢が多い。
急勾配の山を踏破しようと、本気のクライミングが行われていた。
でもそこには安全を期して、浮遊の魔石を必ず携行する様にとルールは徹底されていた。
加えてボルダリング施設がいくつも建設された。
守が魔物達に作らせたボルダリングシューズは売り切れが続出する事態になっていた。
人気は留まることを知らず、上級クライマーはスター扱いされていた。
それだけには留まらない。
実は『エスペランザ』にはカジノが建設されていたのである。
これの糸を引いたのは言わずもがなのダイコクである。
ダイコクはここぞとばかりに商売の神の本領を発揮していた。
守や五郎から得た賭博やトランプ、ルーレットの知識を有効活用し、カジノを運営していたのだった。
それは会員制の一部の者に限られた施設であり、高収入の者達を限定にしたものであった。
要は会員制のクラブである。
ある意味作為的とも取れるのだが、ギャンブルの極意を分かっているダイコクらしく実に上手く運営はなされていた。
守はため息と共にそれを見守っていた。
咎めることは出来るのだが、どうしたものかと見守る事にした様だった。
金持ち相手ならまあいいかと考えているのだろう。
だがギャンブル依存症の者が現れたら守は黙ってはいないだろう。
ヒプノセラピストである守がそれを見逃す筈はない。
今はお遊びだと思っているだけに過ぎないのだ。
いい加減どこかでダイコクは守に締められそうであった。
でもそうとは気づかないダイコクである。
守ではないがやれやれであった。
そしてこれは余談になるのだが、ルミルの兄はその芸術力が認められ、マリアの弟子になっていた。
彼はマリアから芸術とゲイ術を学んでいた。
そして名前を自ら改名し、
「私はエリーよ!」
と叫んでいた。
その様にルミルは膝から崩れ落ちていた。
でもエリーはそもそも心の中ではそっち系であり、これまで公言してこなかっただけに過ぎない。
まさかのカミングアウトに『エスペランザ』の国民は恐れ慄いていた。
だがそこでまさかの事態が起こるのであった。
魔水晶で守が多様性を説いたのである。
決してエリーの為に守が行った訳ではない。
たまたまゼノンがテレビ番組用にドキュメンタリーを撮り出しており。
『これからの北半球』というセンセーショナルな議題のテレビ番組を作製していた。
その中のインタビューで守が変わりゆく北半球の現状を話し、
「これからは多様性の時代になる、性別や年齢、人種の壁なんて取っ払え!差別なんて認めない!他者を認め受け止めることから進化は始まるのだ!時代は次に移っている!」
と偉そうに宣っただけである。
此処には裏の演技指導が有ったのは間違いない。
それがたまたま嵌っただけである。
実に北半球の者達は真面目である。
いや、ここは守への信仰心が厚いと言っておこう。
こうしてエリーのカミングアウトは受け入れられていたのだった。
なんの事やらである。
『サファリス』には自然を用いたレジャーが好評を博していた。
というのも『サファリス』は年の半分近くが雪で覆う雪国なのであった。
スキー場が何件も建設され、夏場はキャンプ場で賑わっていた。
自然をメインにした施設が沢山造られていた。
そして守は桜の木と銀杏の木をふんだんに街道筋に植える様に指示した。
花見の季節と紅葉の季節には観光客が後を絶たなかった。
そしてその噂を聞きつけたのか、仕掛けの神エルメスが『サファリス』に訪れ、腰を据える事になったのである。
このエルメスだが、守とは直ぐに打ち解けていた。
いや、その様はまるで十年来の親友であった。
エルメスはその名の通り、仕掛けを得意とする神であった。
であるのならば『エスペランザ』の様に遊園地などの仕掛けを重要とする国に腰を据えるベきなのだが、自然を愛する彼は『サファリス』に滞在することを選択したみたいだ。
実にエルメスの造る時計や眼鏡や仕掛け細工は飛ぶ様に売れていた。
『サファリス』の新たな収入源となっていたのである。
他にもバネ等を中心とした仕掛けの作品が多く、中にはこれはピタゴラスイッチだろうという発明品まであった。
エルメスの発明品はどれも独特で、中には自転車に似た乗り物も造られていた。
バネを上手く使い、上下に力を加えることで前に進むという構造の物であった。
守は何故か鳩時計の作製を依頼し、家に飾り喜んでいた。
何か感じいるものがあったみたいだ。
守も仕掛けや仕組みが大好きである、仲良くならない訳が無い。
エルメスは時折赤レンガ工房にも顔を出し、ゴンガスとも親しくしていた。
でもとにかく自然を愛するエスメルは『サファリス』で過ごすことが多かった。
彼はよく守とキャンプを楽しみ、川岸に特設のサウナを建設し、実に有意義に過ごしていた。
少し詳細を話すと、守とエルメスは、レインにこっそりと川岸にある土地を融通する様に手配させた。
そこに二人はコテージを建設したのである。
そのコテージにはプライベートサウナがあり、水風呂は川に入るという自然の中のサウナであった。
ここの利用は守とエルメス、そしてそれを知るレインのみであった。
守は無遠慮な神様ズには知られまいと、この事を誰にも話さなかった。
三人はよく週末になると集まり、コテージで過ごしてキャンプや自然のサウナを楽しんでいた。
今ではレインは守とエスメスのパシリとなっていた。
でも本人がそれを喜んで受け入れていたのだからいい事だろう。
エスメスは自然を愛し、自然に生きるそんな神であった。
でも彼は神としての仕事も精力的に行っていた。
弟子も何人も受け入れている。
今では『サファリス』の一柱となっていたのである。
『オーフェルン』には温泉が湧いていた。
温泉を中心とした娯楽施設が出来上がっていたのである。
ここには守から要請を受けた五郎の出番であった。
五郎は袖を捲ると、
「やってやらぁよ!」
と血気盛んに温泉街建設に力を貸していた。
だが『オーフェルン』の発展は温泉街だけでは無かった。
守は様々な学校を建設する様に指示を出していたのである。
学校とは言っても何も勉学を学ぶだけの学校では無かった。
魔法研究を対象にした学校や、料理学校。
服飾を学ぶ学校、農業学校。
そして鍛冶を学ぶ学校等、それは多岐に渡った。
『オーフェルン』は他国からは『学校都市』と呼ばれていた。
そしてそこには留学制度もあり、多種多様な人種に溢れていた。
交流は盛んとなり、新たな技術も生みだされていた。
学びを得るには『オーフェルン』と言われていたのである。
この様にして北半球は発展していたのである。
守は知恵と知識を提供しただけに過ぎない。
南半球の時とは違い、直接手を出すことは一度も無かった。
人と人を繋ぎ、物の使い方や加工技術等を教えただけであった。
北半球の文明化はまだまだ始まったばかりである。
同盟の会議で語られた通り『イヤーズ』にスーパー銭湯が建設された。
構想から一年、実に守の拘りの詰まったスーパー銭湯が出来上がっていた。
守はここの運営は『イヤーズ』に任せると、ノウハウだけを伝授していた。
建設も自ら行わず、知恵を貸しただけに過ぎない。
そうした事には意味があった。
それは自らの力で復興を果たしたと国民達に達成感を得させる為だった。
島野様に造って貰ったでは意味が無い。
復興とは自らの力で成し遂げる物であると守は考えていたからだった。
守は草案と必要な知識を与えただけである。
でもやはりここは口を挟まずにはいられない守であった。
ここは他の娯楽とは訳が違う、事はスーパー銭湯とサウナなのだから。
守は拘りを散々ぶちまけた。
それは『イヤーズ』の大工達を困らせる程に。
でもその想いを感じ取った大工達は自然と姿勢を改めていった。
それは守がここまで言うという事には、これまでに以上に重要な事なのだと受け止めていたからだった。
本当は違っている。
守は好きなスーパー銭湯とサウナに妥協をしたくなかっただけに過ぎない。
でも大工達はそうとは受け取っていなかった。
というのも、他の国々のアドバイスをする守の様を伝え聞いていたからだった。
その守とは余りに違う様相に期待を寄せていたのだった。
これはこれまでとは違うと、我らの神は本気なのだと胸を躍らせていたのだった。
せっかくなので守の拘りの一部紹介しておこう。
サウナの収容人数は二百名、最上段にはなんと畳が敷かれている。
その意図はサウナで寝ても良い事にある。
サウナで横になる事はご法度である。
それを解禁したということだ。
但しサウナマットはちゃんと敷かないといけない、ここは徹底されていた。
そしてこのサウナはなんちゃって水筒が持ち込み可能となっていた。
これもご法度破りである。
サウナ内に飲料を持ち込むなど厳禁である。
なんちゃって水筒には熱くて持てなくならない様に、ゴムが持ち手の部分に巻かれている。
水筒の中身はアロマ水と水、そして麦茶に限られている。
全てスーパー銭湯で無料で提供されている飲料である。
もしアルコールを持ち込んだら出禁になると声高々に宣言されていた。
流石のゴンガスもこれには従っていた。
以前に守から烈火の如く叱られたからである。
サウナ島から追い出すと、見かねた守が遂にその重たい腰を挙げたのである。
もう見逃さないと守は珍しく本気で叱っていた。
アルコール摂取後のサウナは厳禁であると。
やれやれである。
更には水風呂は最深部で三メートルの深さとなっていた。
掛け水後にはドボンと飛び込み可能である。
潜水行為もしてもいい。
これもご法度破りである。
実際に建設に力を貸したのは、オクボスとゴブロウ率いる魔物大工集団である。
こいつらにとっては念願のスーパー銭湯建設である。
これは二人にとっての夢でもあった。
それに二人はそもそも『サウナ島』のスーパー銭湯が大好きなのである。
休日には必ず訪れる程の嵌りっぷりなのだ。
更にあの伝説のスーパー銭湯の奇跡の突貫工事に二人は従事していた。
スーパー銭湯建設が嬉しくない訳が無い。
二人は前に一度守からスーパー銭湯を造ってみるかと言われていた事があった。
その当時の想いがあるのだろう、いつも以上に力が入っている様に見受けられた。
実際この二人の活躍は凄まじかった。
ランドールの元で学び、そして免許皆伝を受けてからもその技術の向上に勤めてきていたのだから。
この二人にとっては、この為に守から名を授けられたと感じていたぐらいなのだから。
二人は鼻息荒く勤しんでいた。
でも笑顔は常に絶やさなかった。
嬉しくてしょうがなかったのである。
スーパー銭湯の建設に足らない資材等は『シマーノ』から調達されていた。
実にこのスーパー銭湯には魔物達が積極的に力を貸していた。
魔物達にとってはスーパー銭湯には格別な想いがあるのだろう。
自分達が力を貸したという実績を残したいみたいだった。
誰もが積極的に力を貸していた。
唯一問題になったのは運営する上での人材の少なさであった。
まだまだ国民は『イヤーズ』に戻って来てはいなかったのである。
そこで守は『イヤーズ』に隣接するスレイブの森に棲む魔物達に加護を与えた。
スレイブの森にはゴブリンやオークが多数存在していたのだ。
それを知ったプルゴブやオクボスはとても喜んでいた。
同族と手を取り合えると意の一番に駆けつけていた。
そして守に寄って『イヤーズ』は魔物達が闊歩する国となっていた。
最初は及び腰の国民もいたが、守が良き隣人と仲良くしろよとの魔水晶のからのメッセージに寄って簡単にそれは受け入れられていた。
守が唯一手を貸したのはこれぐらいである。
後は拘りをサウナにぶつけたに過ぎない。
でも『イヤーズ』の国民にしてみたらこの見守られている事だけでも、とても心強かったのである。
あの島野様が国に訪れてくれた。
あの島野様が知恵を貸してくれた。
あの島野様が見てくれている。
『イヤーズ』では守は国を救った英雄扱いである。
誰しもが守を始め、島野一家を崇拝していた。
守は本当はそうして欲しくはなかったのだが、そうなってしまっていた。
守は『イヤーズ』の国民には、一度崇拝や宗教的な感覚からは離れて欲しいと考えていたのだが、そうは成らなかった。
本物の神を得たと国民の信仰心はとても高まっていたのだ。
ラファエルの宗教などちんけに感じる程の絶大な支持を得ていた。
そしてどこから知り得たのか、南半球に倣ってお地蔵さんが『イヤーズ』では沢山造られていた。
今では国の有りとあらゆる所でお地蔵さんを見かける。
そしてそこらじゅうで『聖者の祈り』が散見されていた。
その様を見て守も諦めるしか無かった。
中には創造神では無く、守にそっくりなお地蔵さんもあったのだが、それを嫌がる事を『イヤーズ』の国民の嬉しそうな顔を見て、守も押し黙ってしまっていた。
いい加減守も腹を括ったのかもしれない。
そうなるぐらい『イヤーズ』の国民の守に対する信仰心は絶大だった。
少し話は脱線するが、北半球の発展の最中に、オンタイムで放送出来る魔水晶の技術に寄って、画期的な開発が成されていた。
新たな娯楽と北半球ではそれは受け入れられていた。
それはまるでテレビを彷彿とさせた。
実はこれをゼノンに入れ知恵したのはノンである。
テレビ大好きなノンは、日本にはこんな物が有るとゼノンに教えていたのだった。
そのコンテンツや内容に至るまで。
それをゼノンはパクらない訳が無い。
映像大好きなゼノンなのだから。
チャンネルは一つしかないが、なんちゃってテレビが各国に五台以上提供されたのである。
各国の人々の集まる街頭に魔水晶が設置され、不定期に放送がなされていたのである。
この放送に寄ってテレビコマーシャルも放送される様になり、ある意味テレビ局と化したゼノンは大金持ちになっていた。
そしてそれを大好きな映画の製作費に回していた。
これで守は出資から手を離せると満足げにしていた。
そしてこのなんちゃってテレビは、新たな娯楽として各国で受け入れられていた。
特にたまに放映される映画には齧りつくように見る者が後を絶たなかった。
『島野一家のダンジョン冒険記』は北半球の国民では知らない者はいなかったぐらいだ。
その際には広場には屋台が集まり、お祭りと言える程の賑わいを見せていた。
実は始めにコマーシャルを作製したのは守である。
島野商事の資金でおいて『サウナ島』のスーパー銭湯を宣伝していたのである。
これに寄って『サウナ島』のスーパー銭湯は北半球で強烈な興味を得ていた。
誰もが一度は行きたいと胸を弾ましていたのである。
北半球の国民は『サウナ島』に想いを募らせるばかりであった。
それに倣ってゼノンも自らの映画を宣伝していた。
この宣伝も北半球の国民にとっては嬉しい娯楽となっていた。
そして『ドラゴム』の映画館に人は集まっていた。
それはそうであろう、そもそも国民達はコマーシャルを知らない。
その意味を知るのには数年も掛かったのである。
守の行った『サウナ島』のスーパー銭湯のコマーシャルのバックに流れている歌は、その後誰もが知らない者はいない歌となっていた。
歌を歌ったのは勿論オリビアである。
少々意外だったのは、この歌の作曲はノンが行ったものであった。
ノンはキャッチーなメロディーを造るのが実は得意だった様である。
というより日本のテレビを模倣していたに過ぎないのだが・・・
そしてこのテレビシステムをしれっとパクったのが守である。
流石に北半球での放送は南半球には届かなかった。
守は島野商事の資金を使って魔水晶を搔き集め、ゼノンに知恵を貸したのだからと、脅す様に『同調』魔法で魔水晶を繋げさせていた。
そして島野商事プレゼンツとして南半球でなんちゃってテレビを広めていた。
テレビ局の局長に就任したのは安定のエリカだった。
彼女の活躍は測り知れない。
でもよくよく考えてみれば、テレビの有用性を理解しているのはエリカ以外には居なかったのだ。
彼女の地球での知識がここでも生きていた。
実に働きづめのエリカであった。
でも嬉しそうに働くエリカには頭が下がる思いである。
話を戻すが、『イヤーズ』のスーパー銭湯は守が抱いた思いを体現していた。
北半球の平和の象徴としてその存在感を発揮していたのである。
『サウナ島』のスーパー銭湯にも劣らない、最高の娯楽施設であり、誰もが行きたがる魅惑の施設となっていた。
連日お客は後を絶えず、後に増床を繰り返す程の施設となっていた。
誰もがスーパー銭湯を楽しみ、その施設に行くことを夢に見ていた。
最高の娯楽施設が北半球に誕生したのである。
それを守は感慨深く眺めていた。
穏やかな笑顔を添えて。
そして北半球の者達は敬意を込めてこのスーパー銭湯をこう誇称した。
『神様のサウナ』
大きな感謝と最大限の愛情を込めて。
誰もがその様に話していた。
ここに誰もが愛して止まない娯楽施設が出来上がったのである。
更に『イヤーズ』はサウナ島を真似て、独自の発展を遂げていた。
国内では普通にホバーボードや、自転車を見かける。
面白い事に二人で漕ぐタイプの自転車も見かけたりする。
これは守が悪乗りしてエルメスと造った物である。
でも夫婦やカップルがデートにはこれでしょ?と何故か流行ってしまった。
作った守とエルメスも首を傾げていた。
二人はふざけて造っただけである。
宿屋やレストランは当たり前の様に建設され、極め付きはサウナビレッジを真似たサウナ施設まで出来上がっていた。
予約を取ろうものなら半年は待たなければいけない。
裏で糸を引いたのは守であるが、それを守は口外するなと箝口令を敷いていた。
国の総意としてこれを造ったことにしろと、国の上層部には徹底させていた。
その意図としては『イヤーズ』は守からサウナの免許皆伝を受けた国であると思わせる事にあったのだ。
それと知った国の上層部は守に対して更なる信仰心を高めていた。
そこまでしてくれるのかと、感謝の念が堪えなかったのだ。
これにて『イヤーズ』の復興と繁栄は約束されたのだった。
発展を遂げた北半球は次に南半球との交流を望んだ。
ここに関しては守もこれまで簡単には認めてこなかった。
極一部の認められた者達しか交流は認められてこなかったのである。
それは魔物達と神、そして国の重要人物のみである。
それは何も北半球からの渡航者だけではない、南半球からの渡航者も同一であった。
もうラファエルの影響はゼロに等しい、南半球に仇なす者はもういないだろう。
問題はそこでは無かった。
その理由はまだその段階に無いと守は考えていたからである。
より具体的に言うならば、文化のレベルにまだ差があったからだ。
此処を埋めることは簡単ではない。
守が危惧したのは文化レベルの高い者が、文化レベルの低い者を搾取する可能性があると考えたからだ。
より分かり易く言うとタイロンの商人達が、北半球で荒稼ぎするという事が有りうるからだった。
稼ぐこと自体は問題では無い。
その方法が人の道から外れた物になる可能性があると考えたのだ。
要は詐欺や騙しといった行為が人知れず横行すると思われたからだ。
その事が守には充分に想像出来ていた。
未来を予測することなど、今の守にはお手のものなのである。
そしてその危険性もそろそろ薄れてきているとも守は考えていた。
遂に交流の時期が訪れたのだと。
これまでの転移扉の運用は、神、又は神の能力を使える者に限られてきた。
転移扉はこの世界には今では無くてはならない神具となっている。
そしてそれの恩恵を受けている者が大半であった。
移動には資金が必要で、その中心にはサウナ島があった。
この転移扉を様々な者が移動手段として利用し、各々の目的に応じてその利用がされてきた。
世界を変えてしまった神具である。
その移動速度は今の日本以上のものである。
南半球の者達のほとんどがその恩恵を受けていた。
既に北半球には転移扉のネットワークが出来上がっている。
その中心には『シマーノ』があった。
サウナ島を模して、転移扉の受付所があり、そこの運営を『シマーノ』の魔物達と北半球の神達とエアーズロックの分身体が行っていた。
正直言って手は足りていなかった。
時に見かねて南半球の神達が手を貸すこともあったぐらいだ。
そこで守は信用のおける人物にのみに実験的にあることを行っていた。
それはあのラファエルが神気を溜めに溜め捲った神石を使う方法だった。
ここにあの神石が生きてきたのである。
利用方法は簡単である。
神石を転移扉のドアノブにくっ付ければ転移扉を開く事が出来る。
問題は誰が転移扉を潜る者達を選別するのかである。
守はここは慎重に事を運んだ。
そこで同盟国に守はお達しをした。
それは、
「各国内で信用に足る人物で、かつ人を見る能力に長けた者を二名選出しろ」
というものだった。
そして各国選別された者達が守の面接を受けることになっていた。
面接官が守であることに面接の参加者達は全員が委縮していた。
でもそこは選び抜かれた者達である。
全員が守のお眼鏡に叶ったのだった。
そしてその者達は前面に出て転移扉を潜っていい者を選別することを行わなかった。
その理由はその権限を知られることで、要らない賄賂や接待等を受けない為であった。
目立たずその職務を全うする様に手配はされていた。
完全シークレットは徹底されていた。
それを破った者は追放するとされていた。
仕組みは簡単である。
転移扉の利用の申請を受けた者を、先ずは書類審査を行い、そして面接を行う。
それを面接官として参加せず、別室でそれを魔水晶で見守るのだ。
ここでもゼノンの同調した魔水晶が力を発揮していた。
面が割れる訳にはいかないと、各国はここはシークレットを貫いた。
実際誰が転移扉を潜る権限を持っているのかと、国民達は捜索を始めていた。
中には懸賞金をかける貴族まで現れた。
だがそんな貴族達は数日後にはアラクネ達に連行されていた。
全員がとにかく転移扉を利用したくて溜まらなかったのだ。
その気持ちはよく分かる。
それ程までに北半球の者にとっては『サウナ島』は魅惑の楽園であったのだ。
そしてその仕組みは南半球でも運用された。
神様ズは手が離れたと喜ぶ者と、報酬が減ったという一部の者に分かれた。
ここは守は敢えて無視していた。
報酬が減ったという一部の者を呆れていただけであるのだが。
それはゴンガスのみであったことは記しておこう。
こうして実験段階を経て、遂に北半球と南半球の交流が始まったのである。
この世界は平和に満ちた世界となっていた。
世界は神気に満ち溢れ、時に世界は金色に色を染めた。
神への崇拝と、尊敬の念に世界は包まれていた。
そして人々は神に成ることを目指した。
ある者は一芸を極めようと、ある者は慈悲深くあろうと。
そしてある者は得を積もうと。
人類は神に至る道へと歩を進めたのだった。
人類は次の段階に移り始めていたのだ。
世界が変わり始めていた。
世界は大きく変貌を遂げようとしていたのである。
人類の進化はまだ始まったばかりであった。
世界に平和が訪れていた。
それを見守り、成し遂げたと感じた俺は、遂に最後の修業を行う事を決心した。
これが最後の修業となるだろう。
遂に神様修業はこれで終わりを告げる。
最後のこの世界の旅となる。
どれだけの時間が掛かるのかは分からない。
本当に成し遂げられるのかもである。
簡単にはいかない事は分かっている。
これまでの修業とは違い、大きな存在に挑まなければいけないからだ。
でもやるしかない。
俺は創造神に成ると決めたのだから。
この決意は変わらない。
もう機は熟している。
挑まない訳にいかないのだから。
それを島野一家と旧メンバー、そして神様ズに俺は告げた。
最後の旅に出ると。
どれだけの旅になるのかは分からない。
帰って来れるのかも定かではないと。
各自はそれぞれの反応を示していた。
否、好き勝手な回答をしていた。
本当にこいつらは・・・いい加減にして欲しい、やれやれである。
でもこの反応も俺には笑えてしまった。
そんな気分になってしまっていたのだ。
もしかしたら今生の別れになるかもしれないからだ。
まあそうするつもりはないけどね。
最初にドランさんは、
「ガハハハ!島野君、行ってらっしゃい!ガハハハ!」
大声で笑っていた。
大きなお腹は優雅に揺れていた。
安定の大笑いである。
あんたは最後までスタンスは変わらないね。
カールおじさん。
レイモンドさんは、
「気を付けてー、行って来てねー」
間延びしながら話していた。
マイペースは変わらないねぇ。
それでいいと思うよ。
生ビールの飲み過ぎには御注意を。
ゴンズさんは、
「そうか、達者でな!」
元気に送り出してくれるみたいだ。
この人らしくあっさりしているな。
五郎さんは、
「島野・・・絶対帰って来いよ!ええっ!分かってんだろうな!」
少し苦い顔をしていた。
ちょっとグッときてしまった。
あざっすパイセン!
恩にきます!
エンゾさんは、
「早く帰ってきてよね、今度新しいスイーツをお披露目するんだから!」
自分勝手な事を言っていた。
はいはい。
もうあなたはどうでもいいです。
スイーツ好きの上から女神め!
始めはこうじゃなかったのに・・・
ランドールさんは、
「行くんですね・・・私は島野さんの帰りを待っていますよ・・・」
珍しく少々涙ぐんでいた。
俺は嬉しく感じていた。
ありがとうランドールさん。
エロ神モードは程々にね。
オズとガードナーは、
「島野さん!うっ・・・うっ・・・」
「そうですか・・・ううっ・・」
涙を流していた。
否、号泣していた。
こつらはほんとに・・・手の掛かる奴らだ。
今生の別れにはしないからな。
またお前らのラーメンを食いにくるからな!
ゴンガスの親父さんは、
「という事は、赤レンガ工房は儂が貰っていいという事かの?」
無遠慮に宣っていた。
あんたはいい加減遠慮を学べ。
また締めるぞ!おっさん!
カインさんは、
「島野君が帰ってくる頃には新たなカレーの味を提供する事を約束するよ!」
要らない約束をしてくれた。
あんたはダンジョンの神の名を返上してくれ。
あんたはもうカレーの神だ。
そろそろ改名しろ!
マリアさんは、
「ムフ!」
最大限のムフを頂いた。
結局ムフって何?
俺には分からないのだが・・・
オリビアさんは、
「否だ!行かないで!」
無茶苦茶ごねられた。
・・・ごめんなさい。これ以外に言えることはない・・・
いろんな意味で・・・
オリビアファンクラブを解散して下さい。
ファメラは、
「そうなの、頑張ってね!」
余り関心は無いみたいだ。
ファメラは安定しているな。
子供食堂頑張れよ!
ダイコクさんは、
「ほんまかいな?何でやねん?」
関西弁全開だった。
でんがなまんがな。
ポタリーさんは、
「旦那の事だから問題ないだろうさ」
信頼をよせてくれていた。
ありがとうございます。
エスメスは、
「僕らの場所で待ってるよ」
自然な笑顔で送り出してくれていた。
川岸のサウナで再開しよう、エルメス。
我が親友よ。
エリスは、
「守さん!坊やとエアーズロックで待ってるよ!」
ギルはエリスに道連れにされそうだ。
ギルはそれでいいのだろうか?
まあいいか。
ゼノンは、
「そうか、待っておるぞ」
余裕の表情を浮かべていた。
お前はそうだろうな。
そしてアンジェリっちは、
「守っち・・・時間を貰える?」
どうやら何か話があるみたいだった。
少し意外な申し入れだった。
でも俺も彼女と二人で過ごしたかった。
実際これまでに二人で過ごしたことは一度も無い。
やっとという気持ちもある。
少々浮足立っている俺もいる。
嬉しい申し入れだった。
上級神一同は放置しておいた。
特に言わなくでもいいと思ったからだ。
旧メンバーは案の定の反応だった。
ランドは、
「そうですか・・・」
なんとも言えない歯痒い表情を浮かべていた。
マークを支えてくれよな、頼むぞ。
メルルは、
「ホノカと待ってますね」
勘違いを受けそうな発言をしていた。
ジョシュア・・・ごめんよ・・・俺は赤子たらしだからな。
ロンメルは、
「旦那・・・寂しいじゃねえかよ・・・」
柄にも無くシュンとしていた。
どうした情報屋、お前は飄々と送り出してくれると思っていたのだがな。
でもありがとうな、ムードメーカー。
メタンは、
「・・・」
無言で号泣しながら神気を濛々と発していた。
神気減少問題はお前がいれば解決出来そうだよ。
あ!もう解決してたか。
プルゴブと仲良くやってくれい!
そしてマークは、
「サウナ島は俺が守ります!心置きなく修業に励んで下さい!」
心強く送り出してくれた。
マークは頼もしくなったな『サウナ島』はお前に任せる。
どうやらマークは一皮むけたみたいである。
その隣でエリカは黙って話を聞いていた。
このサウナ島はお前達に任せた!
島野一家の反応も様々であった。
アイリスさんは、
「サウナ島の畑は任せて下さいね」
かなり前から既にお任せしていますよ。
畑の拡張は程々にして下さいね。
エアーズロックは、
「北半球の転移扉はお任せあれ!」
本当に好青年だな。
助かるよ。
クモマルは、
「我が主、邪魔せぬよう遠くから見守らせて頂きます」
どうやら俺を遠くから見守るつもりの様だ。
任せるよ、クモマル。
エクスは、
「マスター帰ってきてくれるんだよな?そうだよな?」
不安そうにしていた。
このビビり野郎が、でもお前も成長したな。
レケは、
「ボス・・・」
言葉になっていなかった。
いい加減飲み過ぎるなよ。
エルは、
「お帰りを待っていますの!」
歯茎全開で笑っていた。
変な子モードになるかと思った・・・
ゴンは、
「主・・・」
涙を必死に堪えていた。
ルイ君と幸せにな・・・これで合ってるのか?
ギルは、
「・・・パパ、待ってる・・・」
寂しそうな顔をしていた。
エリスと青春を謳歌するんだぞ。
着いてくると言い出すかと、ちょっと冷や冷やしていたが、ギルはそれを察してか、飲み込んだみたいだ。
そしてノンは、
「いいよー、僕は着いてくからねー」
勝手に着いてくると宣言していた。
そうだろうなとは思っていた。
ノンは絶対に俺に着いてくると言うと。
こいつはどこまでも俺に着いてくると分かっている。
例えそれが地獄だとしても。
マイペースに飄々と着いてくよと言うだろうなと。
流石は俺の相棒だ。
着いておいで、ノン。
一緒に行こうか!
最後の旅に!
俺はアンジェリっちの為に時間を作った。
否、俺の為でもあるのかもしれない。
場所はサウナ島にあるアンジェリっちの部屋である。
女性の部屋に入ることに少々抵抗はあったが、そんな事はいいからと誘われてしまっては断れなかった。
やっと二人の時間を過ごせるみたいだ。
少し嬉しい俺がいる。
アンジェリっちは徐に、
「ワインでいいかな?」
問いかけてきた。
「ああ、任せるよ」
俺は自然に頷いていた。
ワイングラスを重ねて、俺達は乾杯をした。
軽快なグラスの音が部屋に響き渡る。
特に何を話すことなく過ごしていた。
適当にワインを飲み、ツマミにチーズを食べていた。
俺には無言であることが全く苦にならなかった。
これが普通の出来事に感じていたからだ。
この自然体の感覚は何なのだろうと思っていた。
とても心地よく感じる。
何となくだが、夫婦とはこんなものなのかもしれないと思っていた。
すると何か決心したかの如くアンジェリっちが話し出した。
「守っち、行くんだね・・・」
彼女は視線を落としていた。
「ああ」
「長くなりそうなの?」
探る様に訪ねてきた。
「どうかな・・・」
俺にも分からないな。
「・・・ねえ?」
「なに?」
「オリビアの事はどうするつもりなの?」
真っすぐにこちらを見据えていた。
「どうするとは?」
俺は普通に問い返していた。
「分かってるんでしょ?」
「まあね・・・」
「で、どうするの?」
「どうにもしないよ・・・俺にはその気はないからさ・・・分かってるんだろ?」
「だと思った・・・」
ここでやっと視線が外れる。
「やっぱり?・・・」
「そりゃあ・・・分かるわよ・・・」
歯痒い時間を過ごしている。
でも嫌いじゃないな、こんな時間も。
「で、何か話でも?」
敢えて振ってみた。
答えは分かっている。
「まあね・・・」
「それで?・・・」
アンジェリっちが少し照れている様に、俺には見えた。
「もう少し飲もうか?」
「ああ・・・」
何とも言えない時間を過ごしていた。
でも居心地はよかった。
多分彼女もそう感じているのだろう。
時折交わす視線に微笑が含まれていた。
リラックスした時間を過ごしている。
ワインを取りがてら俺の隣に座った彼女が、不意に俺の手に彼女の手を重ねた。
とても暖かな手だった。
愛くるしい手だった。
いつまでも握っていられる、そんな気分だった。
「どうした?」
「いいから・・・」
アンジェリっちは肩を寄せてきた。
俺にしては珍しく、恥ずかしげも無く受け入れていた。
それが当たり前の様に。
そして俺はその手を握り返していた。
お互いの手がしっかりと握りしめられていた。
「・・・」
アンジェリっちが俺を見つめた。
自然に身体が動いていた。
それが当然であるかの如く。
俺達は唇を重ねていた。
まるで挨拶を交わすかの様に。
とても自然な行為だった。
これまでなんでこうして来なかったのかと思える程だった。
理由は要らない。
そして俺達は愛情に満ちた一夜を共にしたのだった。
ここに一つの愛が成就したのである。
これまでこうならなかったのが不思議な出来事であった。
余りに自然な行為であった。
俺は心の底でこう想っていた。
やっとかと・・・
最高の夜を過ごしていた。
それはとても愛情に満ちた時間だった。
俺はノンと共に旅立つ事にした、それも目立たずに。
見送られるのもどうかと想い、人知れず旅立つ事にしたのだ。
それを察してか、島野一家が俺の家のロビーに勢揃いしていた。
「主、いってらっしゃいませ!」
「お待ちしておりますわ!」
「待ってますよ!」
「パパ!絶対帰ってきてよ!ノン兄!パパを頼むよ!」
「我が主、警護はお任せください」
「ご主人様お待ちしてますの!」
「マスター、早く帰ってきてくれよ!」
「ボス!俺は寂しいよ!」
全員が送り出してくれるみたいだ。
俺は宣言した。
「お前達!俺は必ず帰ってくる!またな!」
俺は転移することにした。
一抹の寂しさを残して。
ヒュン!
俺はノンと転移した。
俺とノンはあのラファエルが埋葬されている森に転移した。
最後の修業にはここしかないと俺は想っていたからだった。
特に意味はない。
何となくここが良いと思ったのだ。
静かな森が俺達を迎え入れていた。
僅かな微風すらも吹いてはいなかった。
ノンは早速匂いを嗅いで、この地が安全であるかを確かめていた。
その尻尾が優雅に振れていた。
安全と言う事だろう。
俺は『探索』は行わなかった。
ノンに絶大な信頼をおいているからだ。
「ノン、お前はどうするつもりなんだ?」
「ん?ここで主と一緒にいるよ」
「そうか、好きにすればいいさ。どれぐらい時間が掛かるか分からないから適当に過ごしてくれよ」
「分かった」
ノンは俺の隣に控えていた。
俺の側から離れる気は無いらしい。
好きにしてくれればいい。
ノンには俺は全幅の信頼を置いている。
ノンは絶対に俺に尽くしてくれるのだと。
俺の最高の相棒だからな。
俺は適当に寛げる場所を探した。
近くに寛げそうな樹を見つけた。
樹の根元に腰かけ、足を投げ出して俺は寛いだ。
ノンも俺の脇で獣スタイルで寛いでいる。
さて、始めようか。
俺は呼吸に意識を向ける。
複式呼吸である。
鼻から息を吸い込んで、口から細く長く息を吐き出す。
慣れ親しんだ手慣れた呼吸法だ。
この呼吸法を始めるだけで俺は深い自己催眠状態へと移行する。
そしてイメージを重ねていく。
そのイメージは大地に向けられていた。
俺はこの惑星と同調を始めた。
自分の意識が深く、惑星の中心へと向かっていく。
大地の土を感じ、石を感じ、鉱石を感じ、生物を感じる。
更に無機質な物質、水分、自然その物を感じていく。
そしてラファエルの遺骨も・・・
同調を深めていくと、遂に大地の下に眠るマグマに辿り着く。
俺は意識であるから焼かれることは無い。
でも不思議なもので熱を感じる気がした。
そこから今度は全方位に向けて意識を拡げていく。
するとこれまでの同調で得られた感覚以上に、惑星との繋がりを感じた。
絶大な存在が俺を包み込んでくる。
意識はじわじわと拡がり、惑星とより繋がっていく。
ゆっくりとだが確実に、意識が惑星と同調を始めた。
自分が世界と解け合わさっていくのを感じる。
それはとても心地の良い感覚だった。
自分が自然の一部になっていく。
雄大な温かみを感じる。
絶大な信頼感すらも。
これまでも何度か大地と同調をした事はあったが、これまでには感じられなかった意識の拡がりを感じる。
惑星の壮大感に触れる様な、そんな感覚だった。
『演算』と『最適化』の能力は使わなかった。
特に急ぐ必要がなかったし、なにより自然体でいたかったからだ。
極力能力を使わずに、ただの俺としてこの惑星と向き合いたかったのだ。
自己催眠の極みを知りたかったというのもあった。
その為、今の同調の状態も能力で得た物では無く、自己催眠で得ている同調である。
そしてその同調は、同調を超えて俺は惑星と同化を始めた。
五感を超えて魂で惑星を感じ始めた。
惑星を魂で感じる。
惑星とはこんなにも優しかったのか。
惑星とはこんなにも優雅だったのか。
惑星とはこんなにも力強かったのか。
惑星とはこんなにも深かったのか。
惑星とはこんなにも拡かったのか。
惑星とはこんなにも愛情深かったのか。
惑星とはこんなにも慈悲深かったのかと。
惑星を俺は魂の中心で感じていた。
あまりに大きな存在だった。
そんな存在に抱かれている様な感覚だった。
そして俺の意識はゆっくりとだが、確実に惑星を覆いだしていた。
どれぐらいの時間が経っているかは既に見失っている。
『演算』と『最適化』の能力を使用していたらこうはならなかっただろうが、気にもならなかった。
時間は気にしない。
気にしなくていい。
否、したくも無い。
もう食べずとも、寝なくとも生きていける状態にあるのだから。
身体はもうほとんど神に成っているのだ。
まだ数分しか経っていないかもしれない。
もう一年以上が経過しているのかもしれない。
時間の喪失が起こっていた。
ここまでの時間の喪失は始めてだった。
完全に時間を見失っていた。
でもそんなことはどうだっていいことだ。
俺は更に惑星全体に意識を拡げる。
同化はより深く、より拡がりをみせていた。
そして俺は感じ出していた。
そう、この惑星の意識を。
有ることは分かっていた。
この惑星そのものに意識があるのだと。
惑星は一つの人格を持っているのだと。
アイリスさんやエアーズロックがそうであった様に、自然には意識が宿っている。
そしてそれは一つの人格であると俺は捉えていた。
実際にアイリスさんやエアーズロックは個性を持っている。
であるならば、それは人格以外の何者でもない。
そして俺はこの惑星の意識に辿り着いた。
これを俺は漫然と受け止めていた。
それがまるで当たり前の様に。
こうして惑星との対話が遂に始まろうとしていた。
不意に声が掛けられる。
「守よ・・・この時を待っておったぞ・・・」
穏やかな慈愛に満ちた声だった。
それでいて威厳を感じる。
俺は嬉しくなっていた。
きっと顔は笑顔になっているのだろう。
今は意識として存在しているので自分の肉体を感じない。
「待たせたみたいだな・・・」
「ああ・・・待っておったぞ・・・」
「何と呼べばいい?」
「・・・我に・・・名は無い・・・」
「そうか・・・」
「ここは・・・世界とでも呼んでくれ・・・」
「分かった」
「して・・・守よ・・・お主は創造神になるのか?・・・」
「ああ・・・その為に此処にやってきた」
「そうであるか・・・守よ・・・この世界が出来てから・・・幾万年か分からぬが・・・遂に真の平和が訪れたようだ・・・この世は神気と幸せの気に満ちている。これまでに歴史を辿ってもこんな時代は一度も無かった・・・」
「そうか・・・」
「これまでこの世は・・・常にどこかに争いがあった・・・始めはそうでは無かった・・・自然が出来上がり・・・そして生物が生れ・・・やがて人類が誕生し・・・文明が出来上がった・・・」
「深い歴史があるんだな」
「そうだ・・・創造神様の意思に従い・・・我はその成長を促してきた・・・」
「・・・」
「そして人類が誕生してからは・・・争いが後を絶えなかった・・・」
「そうか・・・儚いな・・・」
「人々はどうしてこうも争うのか・・・創造神様の意思を我は何度も疑った・・・どうして人類などお造りになられたのかと・・・」
「創造神様の意思とは?」
「創造神様の意思は人類を誕生させる事・・・そしてその人類を見守る事・・・我にはそれ以上は慮ることは出来ぬ・・・」
「そうなのか・・・」
「創造神様の意思はもうよいのだ・・・今では何となく分かる気がする・・・」
「そうなのか?」
「ああ・・・お主がおるからな・・・」
「?・・・」
俺は世界との会話を楽しんでいた。
世界はとつとつと話し出した。
「まあよい・・・してお主はこの世をどうするつもりなのだ?・・・」
「どうするも何も・・・俺はもう見守る事しか出来ないと思うのだか?・・・違うか?」
「そうか・・・それならば良い・・・」
「もう充分に俺は与えるだけの物は与えてきたと感じている・・・その背中は見せてきたと・・・アドバイスは与えたと・・・」
「であろうな・・・実際・・・これまでよくぞ創造神様が口を挟まなかったのかと疑う程であったからな・・・」
「そうなのか?・・・」
「守よ・・・気づいておらなんだか・・・」
「何をだ?」
「お主は例外中の例外だったのだぞ・・・」
「それは分かっている・・・」
「ならば良い・・・」
「俺はこの世の神のルールに縛られない唯一の存在だったっていうんだろ?」
「そうだ・・・でもそれだけでは無いぞ・・・」
「それは?・・・」
「お主は人の身でありながら神の能力を使えたな・・・」
「ああ・・・そうだ・・・」
「それが何を意味するのか・・・分かるか・・・・」
「・・・まさか・・・俺はこの世に来た時には既に神であったということなのか?」
「ほう・・・察しがいいようだ・・・正確には少々違う・・・」
「どう違うと?」
「それは・・・次期創造神候補であるということだ・・・厳密には神であって・・・神ではない存在・・・お主の世界の言葉で近いのは・・・そうだな・・・強いて言うならば聖霊だ・・・人類に神意の啓示を行い・・・精神活動を起こさせる存在だ・・・」
「聖霊か・・・」
「謂わば神の意志の統一を示し、許しと希望を与える者である・・・言い換えるならば、人類と神の指導者、この世の導き手ということか・・・」
「そうだったのか・・・何となくは分かっていたよ・・・」
「であったか・・・」
「ステータスは一つの指標であって、全てではないし、本当にそうだとは限らないということだな・・・」
「そこまでとは我には言えんが・・・実際そうなんだろう・・・我に創造神様の意図を理解することなど不可能だ・・・」
「でも納得がいったよ・・・」
「そうか・・・」
「詰まる所、俺は例外だということだな・・・」
「そうだ・・・」
「なあ・・・世界・・・俺は知りたい事がある・・・」
「ほう・・・何をだ?」
「この世の最終地点は何処になるんだ?」
「それは・・・我にも分からぬ・・・でもそれは・・・創造者にも無いのではなかろうか?・・・我にはそう想うのだが・・・」
「だろうな・・・これは究極の質問だからな・・・この世の完結は何処になるのか・・・恐らく無いんだろうな・・・否・・・無くていいよ・・・無い方が良い・・・俺はそう感じている」
「であるか・・・分からなくもない・・・」
「だってそうだろう・・・この世には陽があって陰がある。必ず相反する物が存在するからな。それは分かり易く言えば、善と悪だ」
「そうだな・・・」
「要はこのバランスをどうしていくのかという事が最大のミッションなんだろ?」
「であろうか・・・」
「違うか?」
「我には分からぬ・・・」
「そして今のこの世だが、完全にバランスは善に満ちている・・・ここは否定出来ない・・・多少の悪は残っているが、それはどうでもいいことだ・・・その為の精神活動を俺は行ってきた・・・その自負もある!それに人類は神に成ることに挑み始めた」
「それは分かっている・・・」
「これはこの世が、この先を見透せる段階に入っているのではと俺は考えている・・・」
「それは・・・」
「創造神の爺さんの意図は俺にも分かってはいない・・・でも感じるんだ・・・俺には・・・人類は次のステージに向かおうとしているのだと・・・欲や業に塗れた世を超えた世を、新たに造り出す段階に進みだそうとしているのではないかと・・・新たな世を造り出そうとしているのだと・・・どう思う?世界」
「であろうか・・・」
「今では人々は神に成ろうと努力を始め出した・・・そしてその洗堀者や導き手もいる・・・もし人類の全てが神に至ったら・・・どうなると思う?」
「果たしてそうなるのであろうか?・・・」
「その楔は打てていると俺は感じている・・・違うか?」
「お主の言う通りやもしれぬな・・・その先の未来は何になるのだろうか?・・・」
「それは・・・俺にも分からないな・・・俺はお前の言う通り導き手であり、指導者でしかないのだから・・」
「やもしれぬな・・・」
「さて・・・世界との会話は楽しかったよ・・・でもそろそろ結論を出そうか・・・」
「ほう・・・よいのか?」
「ああ・・・俺の心は決まっている・・・」
「そうか・・・では任せる・・・我が主よ・・・」
俺は世界に加護を与えた。
「お前の名は・・・」
ここで俺の意識は一瞬ブラックアウトした。
意識が戻ると凄まじい程の脱力感に俺は押しつぶされそうになっていた。
これまでに溜めに溜め捲った神力をごっそりと奪われていたのだった。
既に半分以上の神力が奪われているのを感じている。
不味い!
神力計測不能の俺だが、直感的に感じていた。
このペースでは俺は枯渇してしまう。
ここで其れはあり得ない。
なんとしても堪えなければ!
抗わなければ!
俺は意識を身体に戻し『収納』からラファエルの神石を大量に取り出した。
次々に神力を吸収する。
取り込んでは吸い出されている。
今も神石から神力を取り込んでは吸われている。
どこまでこれがもつのだろうか。
これを気が遠くなる程のラリーが続いた。
いったいどれだけの神石を取り出しているのだろうか。
数なんて数えていられない。
もうどれだけこのラリーが続いているのか分からなくなっていた。
もしかしたら数時間であるのかもしれない。
でも本当は数ヶ月かもしれない。
こうなってくると精神力を試されている気分になる。
まるでサウナに一時間以上入っている様な忍耐力と、立ち上がれなくなる程の徒労感を感じる。
でもここは堪え切らなくてはならない。
先は全く見えない。
その事に恐怖心も感じていた。
終わりの無いラリーに心が折れそうになる。
いつまでこれが続くのか・・・
ここまで追い込まれるとは・・・
少々舐めていたのかもしれない・・・
アイルさんの修業が陳腐に感じてしまう。
他に何が出来る?
そうだ!
俺は『黄金の整い』を始めた。
これしかない!
再度俺は自己催眠状態に入り、複式呼吸を始めた。
それと同時にラファエルの神石からの神力の補給も行う。
よし!いいぞ!
少し余裕が生まれてきた。
これなら行けるか?
甘かったみたいだ・・・
最初は此方のペースになったと感じたが、それは徐々に覆されていた。
本当はステータスを見て、数値を見て状況を知りたかった。
でもそんな余裕はない。
未だに終わりが見えない。
畜生!ここで終われる訳が無い!
こんな中途半端なんて許されない!
なんとしてもここは・・・
何度も意識が飛びそうになった。
それを気合で封じ込める。
時折後ろから頭を殴られる様な急激な神力の吸収を感じた。
完全に振り回されている。
でもコントロールなんて出来る筈が無い。
差し出せる物、全てを差し出している気分だった。
それは神力だけではない。
身体の中に眠る細胞の中にある力、爪の先まで差し出している様な、そんな感覚だった。
有りとあらゆる力を俺は差し出している。
生命力その物を奪われている。
そんな感覚だった。
でもそこまでしても堪えれそうにない。
余りに膨大な力に屈しそうになる。
でも俺は退けない。
なんとしてもここで打ち勝たなければならない。
俺は必ず創造神になると決めたのだから。
それに待っている家族や仲間達がいる。
愛しいアンジェリ。
彼女に会いたい。
そう想ってしまった。
そんな余裕は無いのに。
この想いだけが俺を支えていた。
必ず会いに行くと、やっと結ばれたのだから。
ここで屈する訳にはいかないんだと。
いつの間にか俺は走馬灯を見ていた。
生れてから今日に至るまで、ゆっくりとその行いや、その時感じた想いを回顧していた。
そうすると不思議と力が沸いて来ていた。
これまで接してきた者達の想いが神力になっていた。
幾千、幾万の者達の想いが俺を突き動かしていた。
不思議な出来事だった。
俺の身体を通じて皆の想いが、そして愛情が神力になっていた。
その神力が俺を突き動かす。
俺は感じていた。
俺は一人ではない・・・
多くの者達が俺を支えているのだと・・・
ありがとう・・・
俺はこんなにも愛されているのだと。
こんなにも幸せなんだと。
一気に背中を押されていた。
俺は反撃を開始した。
皆の想いが神力に変わり、俺を支えていた。
俺は無敵感を感じていた。
こんなに心強いのか・・・
これで負けるなんてあり得ない。
そう感じていた。
必ず勝てると・・・
その想いは余りにも無慈悲に踏みにじられていた。
だから何だと言わんかの如く、俺の身体からは神力が奪われていた。
もっと寄越せと猛烈に神力を吸われていた。
反撃をしたつもりが、真逆にこちらが追い込まれていた。
あり得ない・・・
もっと寄越せと言うのか・・・
いったいどこまで・・・
もう差し出せる物は・・・
ウオオオオオオオ!!!!
俺の中の何かが弾ける様な音がした気がした。
本当の所は分からない。
でも俺の中の何かが弾けた。
全てを剥き出しにしていた。
これ以上はもう何もないと。
俺の生命力、俺の魂すらも削る程の爆発であった。
全身全霊以上の全てを曝け出していた。
ここで俺は最後の賭けに出たのだ。
もうこれ以上は俺にはなにも無い。
儘よ!
世界よ、これが俺の全てだ!!!
結果は散々だった。
俺の全てだけではない。
俺の仲間や全ての者達の想いや愛情すらも全て吐き出したのに届かなかった。
・・・
もう何も考えられなかった。
もう何も感じられなかった。
もう意識も薄れ出していた。
既に神力はとうに尽き、全てを吐き出して、人族としても形を亡くしそうに俺はなっていた。
今は只の意識でしかない。
フワフワと空気中に浮かぶ思念でしかなかった。
俺は終わってしまったのか・・・
世界に名を授けるなど・・・
無謀な挑戦をしてしまったのだろうか・・・
そうとは思えない・・・
だが現実はどうだ・・・
こうして俺は思念でしかなくなってしまった・・・
あと少しだという気がする・・・
でももう・・・差し出せる物は・・・なにもない・・・
思念まで差し出してしまっては・・・
もう俺は俺ではなくなってしまう・・・
消えてしまうだろう・・・
ここであり得ない現象が起こっていた。
地面が突如光り出し、守を包みだしたのだった。
神力を失い、身体も全て差し出した守は思念体であったのが、肉体を得てこれまでの守に急速に戻っていたのだ。
此処に奇跡が起こっていた。
身体を取り戻した守は急激に復活した。
「ウオオオオオ!!!!」
叫んだ守は最後の反撃の狼煙を挙げた。
一気に複式呼吸を始めた守は一気に神気を吸い込み、世界に神力を吸われていた。
そして遂に世界は守から膨大な神力を吸収し終えたのだった。
ピンピロリーン!
「熟練度が一定に達しました、ステータスをご確認下さい」
世界の声が響き渡っていた。
奇跡の正体はラファエルの遺骨だった。
地中に埋まっているラファエルの遺骨から突然俺の思念に神力が移ってきたのだ。
正に奇跡の出来事だった。
思念の状態であったからそれを俺は感じ取れたのかもしれない。
それを俺は手に取る様に理解出来た。
あの野郎・・・
恩返しってか?
良いとこ持ってくんじゃねえよと、口にしたいぐらいだった。
まあいいさ・・・ありがとうな・・・ラファエル・・・我が友よ・・・
そして俺の意識は次の段階に移っていた。
これで終わらせてはくれない様だ。
もう精魂尽き掛けているのに・・・
まだ続きがあるみたいだ。
せめて一息つきたい処である。
そんな俺の気持ちは無視されていた。
俺の前にある存在が鎮座していた。
『アカシックレコード』
惑星の全てを知る存在。
この存在を俺は知っていた。
かつてヒプノセラピーを学んだ時にこの存在を、M氏から教えられていたからだ。
世界の全てを記憶する存在であると、それは惑星の歴史だけに留まらず、人類の一人一人全ての歴史や辿ってきた軌跡、そしてその想いに至るまで。
全ての世界の事象や現象の全てが詰まっている存在であると。
それは未来の出来事に至るまでもだ。
インドのある高僧はこれを一つの大樹に表現した。
幹は惑星その物であり、枝がその惑星の歴史であると。
そして葉の一枚一枚が人の歴史であり、その葉を観ればその人の歴史と未来があからさまに観えるのだと。
実に多くの高次なる次元と繋がる事が出来た者達が、アカシックレコードに関する多くの表現を残していた。
そのアカシックレコードが俺の前に存在していた。
俺にはそれは大きな光り輝く球体に見えていた。
とても大きな存在だった。
否、ここは大きさで表現することなんて間違っている様に感じる。
サイズではないのだ。
永遠と続き、そして深淵となる存在。
それは時空など超越した存在であった。
圧倒的な存在感。
これは何の為に存在し、何の為に在るのか。
おそらく創造神の爺さんが何かしらの意図でこれを創造したのだろう。
今の俺にはまだその意味を感じ取れなった。
その意味を俺は知らなければならない。
創造神に成る為の最後の壁。
圧倒的な存在感だった。
気を抜くと飲み込まれてしまう様な感覚があった。
決して気は抜けない。
俺はその球体に触れてみた。
そうすべきだと想ったからだ。
するとこの惑星の記憶が一気に俺に流れ込んできた。
俺は瞬時に『演算』と『最適化』の能力を発動した。
ここは自然体とはいかない。
能力をフル活用するしかない。
情報の波と戦わなければならない。
もう援軍は存在しないのだから。
ラファエルが起こした奇跡の様な現象はあり得ないのだ。
孤軍奮闘するしかない。
ここはアカシックレコードと俺とのタイマン勝負である。
さて、最後の勝負をしようじゃないか!
俺は不敵な笑顔を浮かべていた。
やってやろうじゃないか!
絶対に勝ってやる!
俺には情報戦の経験がある。
時間との戦いを経験しているのだ。
でも楽な戦いになるとは考えられなかった。
連戦に告ぐ連戦。
精神力を試されている。
本音を言えば精魂尽きそうであった。
でもそうはいかない。
本当の意味でこれが最後の戦いになるだろう。
俺は更に気合を入れた。
ここはなにを持ってしても勝たなければならない。
絶対に家族とアンジェリの元に帰るんだ!
アカシックレコードから惑星の歴史が俺に流れ込んできた。
俺はこの歴史を知る必要がある。
その理由は明らかだ。
俺は創造神になるのだから。
創造神とは言っても、俺は一から世界を造る訳ではない。
俺は後継者なのだ。
要は引継ぎが必要なのだ。
俺はこの惑星に起きた歴史を知る必要がある。
創造神の爺さんが造ったこの惑星を、俺は理解しなければならない。
正直言ってしまえば、一から造った方が簡単である。
引き継ぐ、受け継ぐといったことの方が大変である。
だってそうだろう。
一から造るとなればその工程や経緯を分かっている。
でも受け継ぐとなると、その意図や想いから知らなければならない。
それも他者の物である。
こちらの方が難しいのだ。
そして俺は本能的に感じていた。
アカシックレコードには意識はないと。
あって欲しかったのが本音だった。
だって意識があったのならば教えて貰えるからだ。
でもそれは出来ない。
自ら学ぶしかないからだ。
アカシックレコードはあくまで記憶媒体でしかない。
もっというならば、そこに未来を見透す機能が付いている触媒でしかないのだから。
情報戦は此方が優位だった。
それはその筈である。
先ほどのレベルアップで俺はある能力を獲得していたからだ。
『同化』である。
『同調』上位能力である。
それにこのアカシックレコードの存在を俺が知っていた事が優位に働いていたのだろう。
要は心構えが出来ていたということだ。
ある程度の予測が出来ていたのだ。
それに先程の戦いで俺は戦いの本質を見抜いていた。
戦いの本質とは相手に勝つ事ではないということだ。
事は自らの限界に挑むことなのだと。
決して自分と戦う事ではない。
ここは間違っては欲しくない。
あくまで自らの限界に挑むことであるのだ。
俺は『同化』の能力を発動させた。
俺はアカシックレコードと同化していく。
それは例えるならば、風に乗って運ばれた若葉が海に辿り着き、海面に波紋を発生させる。
その波紋が収まることなく拡大していき、それはやがて波となる。
その波が海全体に行き渡っていき、津波となっていく。
そんな感覚だった。
全体を覆い尽くしていく。
ここに同化の本質が現れていた。
情報を包み込んでいったのである。
アカシックレコードの情報量は途轍もなく多い。
時間の把握の時に感じた情報量よりも圧倒的に。
しかし、時間の時に感じた様な切迫感はなかった。
始めは膨大な情報が押し寄せてくる感覚だった。
だが『同化』の能力を発動してからは大きく変わっていた。
いうならば、始めは向うから迫って来る感覚であったが、『同化』を始めてからは此方から情報を取りに行く感覚に変わっていたのだ。
この差はあまりに大きい。
攻めるられるのではなく、攻めているのだから。
余りに大きな違いだった。
そして俺はこの惑星の歴史を知った。
この地に生を成した数多くの者達の歴史や経緯、そして想い、その行いを知ったのだ。
更に今生きている者達の歴史も。
未来に関しては敢えて情報を集めなかった。
未来を知りたくは無かったからだ。
未来は切り開く物であるし、結果の分かっている人生なんて歩みたくはない。
それに本当は知りたければいくらでも知ることが出来る。
今はこれが必要とは思えなかったからだ。
そして俺は遂にアカシックレコードと完全に同化した。
アカシックレコードを完全に読み解いたのだ。
ピンピロリーン!
「熟練度が一定に達しました、ステータスをご確認下さい」
世界の声が響き渡っていた。
最後の戦いを終え、アカシックレコードに同化した俺は、やっと普段の自分に戻っていた。
遂に肩の力が抜けるみたいだ。
一気に疲労感が押し寄せてきた。
ああ・・・風呂に入りたい。
徒労感が半端ない。
俺は眼を開けた。
其処には心配そうに顔をくしゃくしゃにしたノンが俺を見下げていた。
「ウェーン!、主ー!怖かったよーー!、グスン・・・グスン・・・」
ノンが大泣きすると共に俺の身体にもたれ掛かってきた。
「怖かったよーー!、主が死んじゃうかと思ったよーーー!!、やだよーーー!グスン・・・グスン・・・」
俺はノンの頭を撫でた。
「ノン・・・心配かけたみたいだな・・・悪かったな・・・」
「ウェーーーン!、ウッ、ウッ・・・」
「ノン・・・俺がお前をおいて死ぬ訳がないだろ?」
「うん!・・・うん!・・・」
「俺達が離れるなんてあり得ないんだからさ・・・地獄にだって一緒に行くんだろ?」
「そうだよ!そうだよ!主と僕はずっと一緒なんだよ!・・・僕は主にずっと着いて行くんだからね!」
「ああ・・・分かってるよ」
俺は想わず空を眺めていた。
どうやら俺は本当に創造神になったみたいだ。
今は何も考えたくはなかった。
ただただぼんやりと空を眺めていたかった。
とても綺麗な澄んだ空だった。
世界は俺に跪いた。
(我が主・・・)
これは俺の意識の中である。
それは『念話』に近い。
声だけでは無く、その情景が浮かんでいるのである。
世界が俺に頭を垂れていた。
(よお・・・たくさん持っていってくれたな)
(はい・・・申し訳ありません・・・)
ほんとやってくれたよ、ラファエルのあれがなかったら・・・俺はここにはいなかったのかもしれないな。
(まあいいさ、それに跪かなくていい)
(何故?)
(俺はお前に加護を与えたが、それは創造神に成る為に必要な事だったからだ。それにお前はそもそも創造神の爺さんの眷属みたいなもんなんだろ?)
(否・・・それは・・・)
答えていいのか逡巡が伺える。
(いいさ、分かっている)
(そうですか・・・)
(ということだ・・・カノン)
俺は世界に『カノン』の名を授けた。
惑星『カノン』
その意味は永遠に続くという言葉の意味と、ギリシャ語で物差しの意味を持つ言葉であるのだが、それが転じて信仰の中心となる教えという意味があり、更には地球の有名楽曲のパッヘルベルのカノンは基本コードと呼ばれており、この世界には打って付けの名だと想ったからだ。
それに女性的な響きであることもいいと思えた。
母なる大地といった処だ。
いい名づけが出来たと想う。
(このカノンという名・・・気に入っております)
(そうか、まぁよろしく頼むよ)
(はい、数ヶ月後には分身体として参上致します)
(分かった、待っているぞ)
未だ俺から離れようとしないノンの頭を撫でた。
「ノン、この惑星の名前が決まったぞ」
「ん?そうなの?」
ノンは頭を挙げた。
「ああ、聞いて驚くなよ」
「なに?なに?」
「この星はな・・・この惑星の名前はな・・・『カノン』だ」
ノンが俺から飛び跳ねる様に離れた。
「嘘っそー!凄い!凄い!僕の名前とそっくりだ!」
「ハハハ!よかったな」
「うん!やったー!嬉しいなー!」
ノンはやっといつものノンに戻ったみたいだ。
調子に乗って変てこダンスを始めた。
俺は想わず笑ってしまった。
「ハハハ!良いぞノン!その調子だ!」
「イエーイ!」
ノンは絶好調だ。
俺は笑顔でノンを眺めていた。
こいつはこうでなくっちゃな。
心配かけてごめんな。
ノン!ありがとうな!
俺はステータスを見る気にもならなかった。
そんな事をしなくても得た能力は分かっている。
でもせっかくだから見て見ることにした。
其処には新たに『万物想像』の能力が加わっていた。
そして神力はラファエルのお陰で計測不能に戻っている。
俺は手の平を眺めて『万物想像』を発動した。
掌の上には俺がイメーした通り、石が出来上がっていた。
何てこと無いただの石だ。
更に今度は小鳥をイメージしてみた。
掌の上で小鳥が囀っていた。
ピーピーと鳴いている。
俺はノンに小鳥を渡した。
ノンはこの事に驚いていた。
大事そうに小鳥を抱いている。
俺はイメージしただけで何でも生み出せる様になっていた。
それは無機物だけに留まらない、有機物や生物までも。
正に創造神だ。
そしてステータスにははっきりと創造神と明記してあった。
遂に成ってしまった。
特に達成感はない。
成るべくして成ったとしか思えなかった。
そして最大のミッションはここからだった。
神と成ったからにはこれまでの様に例外とはいかない。
神のルールに縛られる可能性が大だからだ。
俺は創造神の爺さんに念話を繋げた。
さて、会話を始めようか。
(もしもし、儂じゃ)
(もしもし守です、創造神様、話があります)
(そうか、お主やってくれたのう・・・まあよい、それよりもサウナ島に直ぐに帰った方がよくないかのう?)
やってくれたとは?
まあいいか。
にしても今直ぐ帰れとは?
(・・・というと?)
(いいから早く『念話』でギルに話し掛けるがよい!)
ん?何かあったのか?
どうなっている?
(分かりました、では!)
俺は忠告に従ってギルに『念話』を繋げた。
(ギル!俺だ!)
安堵の声と共に緊迫した声が返って来る。
(ああ・・・パパ!やっと繋がった!早く帰ってきてよ!)
(何があった!)
(いいから早く!)
ギルらしくもなく切羽詰まっているみたいだ。
(分かった、直ぐに行く)
(早くね!今直ぐだよ!)
俺は『念話』を終えた。
「ノン、サウナ島に帰るぞ!何かあったみたいだ!」
「えっ!そうなの?」
小鳥を大事そうに抱えていたノンは驚いていた。
「行くぞ!」
「うん!」
俺はノンを伴ってサウナ島に転移した。
サウナ島の俺の家の前に転移すると、ギルとゴンが家から飛び出してきた。
どうにも忙しない。
「パパ!早く!」
「主!さあ早く!」
ギルとゴンが血相を変えて俺を家の中に誘導した。
いったいどうしたってんだ?
「ギル!何があったんだ?」
ギルが事も無げに答える。
「パパ!生まれるんだよ!」
「はあ?何が?」
「パパの子供だよ!」
はいー?何ですとー?
俺の子供?
何の事だ?・・・
まさか・・・
思い当たる節はある・・・
でもエルフは妊娠しずらいって言ってなかったか?・・・
そんなことはどうでもいいか・・・
突拍子もない出来事に俺も気が動転しているみたいだ。
どうでもいい事を考えている。
こんなんが創造神でいいのか?
まあいいか。
そんなことよりも。
俺とアンジェリの子供か。
最高じゃないか!
俺の寝室の扉を開けると、アンジェリが今正に出産に入ろうとしていた。
彼女は俺の顔を見るとほっとした表情を浮かべていた。
その表情を見て俺は全てを察した。
苦労を掛けてしまったなと。
申し訳ない・・・
一人で寂しいかっただろうに・・・
ここからはずっと一緒にいような。
俺はいったいどれぐらいの時間、カノンと対話していたのだろうか。
こんな事になっていようとは・・・
俺は『演算』の能力を発動して時間を意識した。
まじか・・・一年って。
余りに長い旅になっていたみたいだった。
時間の喪失は確かに強烈だったからな。
にしても・・・急展開過ぎるだろ!
いい加減にしてくれよ。
どうにも翻弄されるな。
「守よ!良いからこちらに来るのじゃ、アンジェリの手を握ってやらぬか!」
アースラさんに怒られてしまった。
俺はアンジェリの隣に瞬間移動し、彼女の手を握りしめた。
安心したのか彼女の表情は穏やかになった。
心配かけてごめんな。
心細かったよな。
そんな俺の想いを察してか彼女はこう言っていた。
「守・・・間にあってくれてありがとう・・・会いたかった・・・」
「ごめん・・・待たせたみたいだ」
「大丈夫・・・こうして来てくれたから・・・」
「そうか・・・」
俺はアンジェリを抱きしめたい想いだった。
愛しいアンジェリ・・・愛している。
時は遡る。
最後の旅に出た守を見送ったアンジェリはいつもの生活を続けていた。
止めどなく訪れるお客の髪を切り、美容の相談に乗る。
髪を染めて、パーマをかける。
今では弟子も増えて、現場に入ることは減ったが、彼女の忙しさは変わらない。
引っ切り無しに訪れるお客をアンジェリは対応していた。
時にアンジェリは相談を受けることが多い。
それは恋愛や家族の事や、仕事に至るまで。
実に様々な相談が後を絶たなかった。
彼女は優雅に髪を切りながらも、その相談事に真摯に受け答えした。
時に人を紹介したり、何かを斡旋したり、懇切丁寧に対応していた。
彼女の接客は正に神業と称されていた。
全ての接客業の基本となると崇め奉られていた。
でもそれは彼女にとっては当たり前の事に過ぎない。
彼女の慈悲深さは本物である。
実に姉御肌の彼女ではあるのだが、こういった細かい事もそつなくこなす事が出来るのが彼女の強みであった。
それはじんわりと訪れた。
守との逢瀬から実に三ヶ月が経っていた。
体調の変化に違和感を感じつつも、彼女はたまたまの事であると高を括っていたのである。
しかし余りにこれはおかしいと彼女は考えだしていた。
体調の不調を繰り返している現状に、ちゃんと向き合おうと考えたのだ。
それはそうだろう。
彼女は神なのだ、病気なんてあり得ないのだから。
こうなると思い当たる事は一つしかない。
彼女は真っ先にアースラに相談する事にした。
ディープな相談となると彼女以外にはあり得なかった。
彼女はアースラとアイリスに事の顛末を話した。
アースラの診断は明確だった。
「アンジェリや、おめでたじゃよ!」
アンジェリはこの言葉にこれまでにない最高の幸福感を得ていた。
最愛の者の子供を身籠る事が出来たのだ。
嬉しくて涙が止まらなかった。
無上の喜びを噛みしめていた。
天地が引っ繰り返る程の幸福感だった。
早くあの人に会いたいとその想いは募るばかりだった。
でも現実はそうはいかない。
最愛のあの人は今正に最後の旅に出ているのだから。
全身全霊で戦っていたのだから。
それにオリビアの事もある。
どうしようかと不安とプレッシャーに苛まれていた。
それを察したのかアースラからは気遣の一言が掛けられた。
「アンジェリや・・・ここは極秘じゃな?」
「はい・・・そうして下さい。迷惑を掛けます」
「よいのじゃよ・・・それよりも身体を大切にするのやえ」
こう答えるしかなかった。
数日後、
アンジェリは決断した。
こうなってしまったからには正直に話すしかない。
隠し通せるものでは無いからだ。
妹には辛い思いをさせるのかもしれない。
でもそれ以外には考えられなかった。
辛い時間を過ごすのかもしれない。
唇を噛みしめて彼女は腹を決めた。
オリビアに全てを話そうと。
アンジェリはいつもの様に普通にオリビアを呼び出した。
一緒に夕食を食べようと。
そこに違和感は無かった。
アンジェリは実はそれなりに料理が得意である。
彼女の料理はエルフの伝統に則った料理である。
エルフの料理の特徴はその味付けにある。
日本でいう処の生姜を使った物が多いだった。
冷えた身体を温めようと先祖代々受け継いだレシピが多い。
その中でもアンジェリが得意としたのは、大根にジャイアントピッグの肉、そこにゆで卵を加えて煮込んだ料理である。
生姜と共に煮込むことによって味に深みが増し、健康に良いとされていた。
それだけではない。
守を真似てアンジェリはいろいろな料理に手を出していた。
テーブルにはたくさんの料理が並んでいた。
実はそれなりに食べる二人には、食事はいくらあってもいいのだ。
それに今ではなんちゃって冷蔵庫等、保存方法は多岐に渡る。
守が造ったゴムの保存容器も、今では当たり前の様に各家庭で使われていた。
食材が長持ちすると各家庭では重宝されていたのである。
豪華な食事がテーブルを満たしていた。
「お姉ちゃん、今日は力入り過ぎじゃないの?」
「そんなことないじゃんね」
「そう?嬉しからいいけど」
「でしょ?」
オリビアはニコニコしていた。
いつも通りの姉妹の夕食をするつもりであったのだから。
「じゃあ食べようか?」
「だね」
「「いただきます!」」
二人は合唱した。
「ねえ、お姉ちゃん。このいただきますって、守さんが広めたんだよね・・・面白いね。今では皆な言ってるよね?」
「そうね・・・守っちは影響力が凄いじゃんね」
「だよね!流石は守さんね!」
オリビアは嬉しそうにしている。
「ねえ・・・オリビア・・・」
「何?お姉ちゃん」
「あんたは本当に守っちが好きなのね・・・」
「お姉ちゃん、今更何を言ってるの?当たり前でしょ?」
オリビアは平然としている。
不意にアンジェリの表情が曇る。
「・・・オリビア・・・ごめんね・・・」
アンジェリは箸を止めた。
「ん?何?」
何かを感じ取ったのかオリビアの表情は一変した。
「私・・・守っちと・・・結ばれたの・・・」
オリビアの眼が大きく見開かれた。
「それって・・・」
「ごめん・・・オリビアが守っちの事が大好きなのは分かってたの・・・でも私もあの人が大好きなの・・・」
オリビアは言葉を失った。
上を向いて一度肩を落としてから、ため息を付いた。
「そんなこと・・・分かってるわよ・・・」
「分かってたんだ・・・」
アンジェリは真面にオリビアを見ることが出来なかった。
彼女は下を向いている。
「当たり前でしょ?」
「そうか・・・そうね・・・」
「で?・・・」
オリビアの眼は座っていた。
ここでアンジェリはオリビアをしっかりと見据えた。
何かを決心した眼差しであった。
「私は・・・私の中には・・・あの人の・・・」
「まさか・・・」
「身籠ったのよ・・・」
オリビアは天を見上げた。
そして静かに涙を流していた。
それは美しい涙だった。
その涙の意味する処は・・・
「お姉ちゃん・・・おめでとう!」
オリビアは涙を拭う事無くアンジェリを見つめていた。
とても慈悲に満ちた目をしていた。
最大限の賛辞だった。
「・・・オリビア・・・ありがとう・・・ごめんね・・・」
アンジェリはオリビアの手を握りしめた。
申し訳無いと。
「いいのよ・・・」
「・・・」
アンジェリに罪悪感が募る。
「守さんが振り向いてくれない事は分かっていたから・・・それに守さんはお姉ちゃんの事が好きな事もね・・・」
「オリビア・・・」
聡明な妹は全てを察したいのだとアンジェリは気づいた。
「はああ・・・もうやんなっちゃうな・・・まさかこんな振られ方をするとはね・・・どうせ守さんは一夫多妻制なんて認めてくれないだろうから・・・第二夫人なんて認めてくれないだろうし・・・もう言い寄れないわね」
「だろうね・・・あれでいて守っちは案外お堅いじゃんね」
「分かってるよ・・・」
「それで、どっちなの?男の子?女の子?」
「分からないわよ」
「お姉ちゃんの直感はどっちなの?」
「どうだろう?・・・」
「こういう時は大体直感通り当たるらしいよ、そうマリアが言ってたわ」
「マリアが言ってたの?一番当てにならないじゃない!」
「アハハ!そうね!」
「もう!オリビアったら」
一頻笑った後に、急にオリビアが真顔になった。
「お姉ちゃん、守さんと幸せにね」
「オリビア・・・ありがとう・・・」
アンジェリは涙を流していた。
「こうなると・・・私はワインを飲むけどお姉ちゃんはお預けよ」
「だね・・・」
「大丈夫、お姉ちゃんの分も飲んであげるから」
「オリビアったら・・・」
「ねえお姉ちゃん、私は格好いい叔母さんになるわよ!」
「あんたならなれるわよ」
「分かってるわよ!」
二人は幸せな時間を過ごしていた。
俺の手にはアンジェリの手が握られていた。
とても暖かく優しい手だった。
そしてアンジェリは笑顔だった。
俺は彼女の心強さに打ち震えそうになった。
出産を控えたこの状況にあって、何で笑顔でいられるのだろうかと。
俺の存在がここまでの安心感を与えているとは思えなかった。
彼女の何かがそうさせたのだろう。
余りに自然な笑顔だった。
母は強いということなのだろうか?
この笑顔を見て俺は冷静に成ることが出来た。
カノンとの余りに長いラリーを終え、アカシックレコードを読み解き、創造神になったと思いきや、急に我が子の出産である。
怒涛の展開に驚きを隠せなかったのだから。
少し浮足立っていたみたいだ。
俺もまだまだだな・・・創造神なのに。
でもよかった、よかった。
そしてアースラさんから声が掛けられる。
「守や、あとは余とアイリスに任せるやえ」
「そうです、守さんは外で待っていて下さい」
この二人に任せておけば大丈夫だろう。
何かがあったとしても世界樹の葉があるだろうしね。
俺は忠告に従って部屋を後にした。
リビングでは島野一家とオリビアさんが俺を待っていた。
誰も何も言わずにいた。
俺は全員の顔を見て一度頷いた。
皆は俺を見てほっとした表情を浮かべていた。
そして俺達は待つことにした。
我が子の誕生を。
心待ちにして。
どれぐらい待っただろうか?
何度も中に入ろうかと思ったが、思い留まった。
ここはアースラさんとアイリスさんに任せたんだから、出しゃばってはいけない。
でも身体が動きそうになる。
ここは待つんだ・・・
それにしても・・・俺とアンジェリの子供か・・・
男の子なのか?女の子なのか?
どちらでもいいよな・・・
子育ては既に経験している・・・
ん?ドラゴンと人間では違うのか?
あれ?そもそも人が生れてくるのか?
・・・絶対違うよな。
まあ人であれ神であれ、我が子に変わりは無い。
慈悲深く育てよう、最大限の愛情を込めて。
でも本当は・・・まあいいか。
異世界だしな。
俺の寝室から元気な赤子の無く声がした。
「ウエーン!ウエーン!ウエーン!」
鳴き声がおかしくないか?
普通はオギャーじゃないか?
どうなってんだ?
寝室の扉が開けられる。
アイリスさんが顔を出して俺を呼び込んだ。
寝室に入るとアンジェリが赤子を抱えていた。
彼女は汗だくだが笑顔だった。
そして俺はアンジェリと唇を重ねた。
それが意外だったのか、一瞬アンジェリは驚いていた。
そして俺は生まれたばかりの赤子を眺めた。
玉の様な赤ん坊だった。
俺は一瞬にして心を奪われていた。
ああ・・・愛している・・・
愛しい我が子よ・・・始めまして・・・
俺がパパだよ!
そして驚く事が起こっていた。
赤子が俺に向かって話し掛けてきたのだった。
「パパー!」
万遍の笑みで俺に向かって赤ん坊が両手を差し出している。
嘘でしょ!なにこれ!
俺は釣られて思わず赤子を抱っこした。
「パパ!会いたかったよ!」
「・・・ああ、俺もだ」
「やっと会えたね!」
「そうだな・・・」
「テヘへ!」
アンジェリが言葉を添える。
「やっぱり守の子ね。この子は妊娠八ヶ月ぐらい経った頃には『念話』で話掛けてきたのよ」
「そうなのか・・・」
流石は異世界、何でもありだな。
でももうこんな事にも慣れてきたな。
「パパ!大好き!」
完全に振り回されていた。
カノンに挑むよりも驚愕する出来事だった。
やれやれである。
でもちょっと笑えてしまった。
「ハハハ!なんか面白いな!」
「そうね、もう何でもありじゃんね!」
アンジェリはアイリスさんに貰った世界樹の葉で急速に回復していた。
我が子の驚きの誕生に、俺達はこの先どうなる事やらである。
ええ、笑って下さいな!
我が子のハチャメチャ感に俺はてんてこ舞いだった。
余りの規格外に翻弄されている。
どうにも俺は我が子に振り回されるみたいだ。
好き放題にされている。
でもそんな様子も愛して止まない。
本音は嬉しいものである。
既に親バカだ。
これはデレデレともいう。
性別は女の子、生まれながらにして神である。
俺の予想通りだった。
所謂女神だ。
赤ん坊の女神なんて・・・聞いたことが無いな。
アンジェリ曰く、胎児の頃から『念話』で話し掛けていたらしい。
いい加減にして欲しい。
そんな赤ん坊は聞いたことが無い。
本当は俺は普通に子育てがしたかったのだが・・・こうなってしまっては受け止めざるを得ない。
本当にやれやれだ。
もはや俺には普通の人生なんてあり得ないのだ。
俺は妻のアンジェリと共に名づけについて何度も協議を重ねた。
だがアンジェリ曰く、
「守に任せるよ、だって私よりも守の方が良いに決まってるじゃんね。それに私は名づけなんてしたことないもん」
とのこと。
これの一点張りだった。
まったく協議に成らなかった。
いい加減にして欲しい。
面倒な事は俺に丸投げってか?
結局俺が考えることになってしまった。
結構名づけは大変なんだよ。
何なら体験してみるかい?
分かって貰えるかな?
俺は三日三晩寝ずに考えた。
というのも、本当に俺が名付けて良いのかと考えてしまったからだ。
その理由は余りに我が子のステータスが高かったからだ。
驚くなかれ、こんな感じである。
名前:
種族:中級神
職業:時期創造神候補?
神力:77777
体力:77
魔力:777
能力:念話魔法Lv2 念話Lv2 赤ちゃんパック
空いた口が塞がらなかった。
生まれながらに中級神である。
でも確か創造神から生まれた存在は中級神以上だと、前にドランさんが言っていたような気がする。
それにこの赤ちゃんパックだが、かなり高性能だった。
言語理解や言語発言は当たり前に備わっており、収納は勿論の事、更には演算も加わっていた。
いい加減にして欲しい。
こんな存在に名づけを行っていいのだろうか?
それに職業になんでハテナが付いているのか?
理解に苦しむ。
それに魔力も備わっている。
ある意味俺以上じゃないか・・・
俺の加護が付いたらハテナが採れるとか?
分からない・・・
もう名付ける必要なんて無いんじゃないか?
でも・・・そういう訳にもいかないよな。
それに・・・なんで神力や体力が7揃いなんだよ!
ふざけんな!
フィーバーかよ!
確変でも起こってるのか?
てかさ・・・万の位でも数値は計測出来るんだね。
俺は結局どれぐらいの神力を持っているのだろうか?
もうどうでもいいや。
考えるだけ無駄だな。
そんな感じなのである。
どうしたものか・・・
もうどうとでもなれだ。
少々投げやりになりそうだった。
結果、真剣に悩んで決めた名前は『ティナ』になった。
日本語にすると、輝名。
可愛く育ってと言う意味が有り、多言語化すると有能、陽気、フレンドリー、幸運、気分が良い、クリエイティブ、アクティブ等の多岐に渡るプラスな意味がある。
それに単純に光輝く名前と言う意味だ。
この世界にとっては名前は重要だからね。
これ以外に考えられなかった。
加えて異世界の名前には響きが良いと感じてしまったのだ。
俺はアンジェリにこれにしたいと相談すると、
「いいじゃんね!流石は守!」
と二言返事で了解を得てしまった。
てかさ、我が妻よ・・・あんた何も考えていないよね?
完全に丸投げだよね?
夫婦関係ってこれでいいのだろうか?
まあ愛しているからいいのか?
もうなんでもありだ。
俺の苦労を分かってくれているのだろうか?
甚だ疑問だ。
どうせ分かってないんだろうな。
先日アンジェリからもう一人子供が欲しいと言われてしまった。
勿論努力は始めた。
また直ぐに出来てしまう気がする・・・
俺は引きが強いからね。
一回につき一人、そんな気がする。
それにしてもティナ誕生後の騒動は凄かった。
どこからこんなにも人が集まってきたのか。
話を聞きつけた人達が大挙して俺の家の周りに集まっていた。
恐怖を感じる程の賑わいだった。
その原因となったのは、ティナの誕生に興奮した島野一家が総出で騒ぎ出したからだった。
ギルは獣スタイルで空を飛んでティナの誕生を声高に叫び。
ノンは生まれたと言いながら変てこダンスを踊りまくっていた。
エルは歯茎剥き出しで、俊足で飛び回っていた。
レケは宴会だと叫び出し。
エクスはゴンガスの親父さんに真っ先に報告しにいっていた。
クモマルまで獣スタイルで興奮して叫んでいた。
アイリスさんまで浮かれていた。
エアーズロックも興奮して叫んでいたらしい。
まったく手が付けられなかった。
新たな神の誕生を祝おうと、あり得ないぐらいの人々が集まっていた。
家の中にいても外の喧騒が凄まじい。
「島野様!おめでとうございます!」
「新たな神の誕生!素晴らしい!」
「アンジェリ様!おめでとう!」
「万歳!」
「やったぞー!」
祝宴ムードが半端ない。
でもこれは凄すぎる。
恐怖すら感じる。
現に軽く地響きが起こっている。
これはなんとかしないとな。
勘弁してくれよ。
加減てものがあるでしょうよ。
俺はサウナ島上空に転移した。
なんだこれは・・・あり得ないぞ!
街を埋め尽くす程の人の山が出来上がっていた。
これは不味い!返って危険だ!
俺は興奮して飛び回るギルを捕まえて、拡声魔法を掛けて貰った。
俺は上空から大声で群衆に話し掛けた。
「お前達!!!祝いに来てくれてありがとう!!!でもこのままでは人の波で押しつぶされる人が出てしまう!!!後日改めて報告をさせて貰うから、今日の所は帰って貰えないか?!!!すまない!!!人命第一だ!!!それに数日でいい!!!家族の時間をくれ!!!」
その声に観衆は反応した。
「分かりました!」
「絶対に祝わせて下さいよ!」
「一先ず帰って宴会だ!」
「違う街で宴会をするぞ!」
「これは返って失礼だったか?」
「申し訳ありません!興奮してしまいました!」
好きに騒いでいた。
数時間後にはいつものサウナ島が帰ってきていたが、街の至る所で宴会が催されていた。
これ以上は咎められないよな。
やれやれだ。
数日後、
俺はなんちゃってテレビで全世界に話し掛けた。
数日前には番組が放送される事は、ゼノンとエリカによって番宣が行われている。
この放映に際して、俺はギルにとある指示を与えていた。
それはティナの体力を配慮した宴会にしれくれよということだ。
はっきり言って丸投げである。
でもギルは鼻息荒くこれを受け止めていた。
何が何でもやり遂げると連日『マモール』の参加国と会議を重ね、そして実行部隊への支持が飛んでいた。
俺は高みの見物である。
そしてギルは神様ズと南半球の主だった国の上層部を集めて会議を行った。
ギルにはゼノンとエリス、そして五郎さんの手助けが成されていた。
ここは俺は自ら行う事ではないと判断した。
それに俺は祝われる側なのである。
でもそれなりの配慮は求めたい。
そうなると適任者はギル以外考えられなかった。
エリカという手もあったが、既に彼女は働き過ぎなのである。
それになんちゃってテレビの放送を取り仕切らなければならない。
これ以上は過剰労働になる。
いい加減働き過ぎて倒れないか心配になる。
ギルならば北半球でも南半球でも顔が広い。
それにそつなく熟すセンスもある。
ここはギルに任せるしかなかった。
そして全世界に対して放送が行われることになった。
魔水晶が俺に向けられている。
最近では慣れてきた所為か、俺は緊張しなくなってきていた。
「皆、待たせたな!紹介しよう。俺の妻アンジェリと我が子のティナだ!」
俺の隣にアンジェリがティナを抱えて着席する。
放送ではあるのだが、視聴者の反応が手に取る様に感じられた。
初見の我が子にこの惑星の全住民が興奮しているのが分かる。
どうやら我が子は絶大な存在みたいだ。
そしてティナが話し出した、
「世界の皆、始めまして!ティナだよ!」
赤子が話し出した事に驚く者が続出した。
中には卒倒した者もいたらしい。
でも何故だか当たり前と受け止める者もたくさんいたみたいだ。
そしてこれが世界を揺るがせた。
まあそうなるでしょうね。
ほとんどの者達がこれに興奮していた。
そこらじゅうで騒ぎが起こっているのが把握出来た。
「皆、我が子を可愛がってくれたら嬉しい」
「よろしくね」
アンジェリも言葉を添える。
「ティナは喋れるが、まだまだ生後間もない、決して無理が出来る状態ではないんだ。お披露目をギルが計画してくれてはいるが、その辺を配慮して貰えると助かる」
「ごめんね、気持ちは嬉しいのよ」
「皆!ありがとう!」
「では宴会場で会おう!」
簡単な放送ではあったが、恐ろしい視聴率だったみたいだ。
後日エリスとゼノンからそう言われてしまった。
ギルの手配は完璧だった。
宴会会場は計一四カ所。
午前一時間と午後一時間のみ、お酌は禁止。
飲み食いは好きにしてくれと。
騒いでも良いが程々にしろよと。
特設会場が設置され、そこに向かって特別な馬車に乗った俺とアンジェリとティナが手を振って向かう。
要はパレードだ。
警備は厳重になされ、安全は担保されていた。
警備の責任者は勿論ガードナーだ。
あいつは無茶苦茶気合が入っている。
不届き者は許さんと肩を回していた。
特設会場に着くと、国の重鎮達や神様が数名挨拶を行うという内容だった。
ギルは頑張ってくれたみたいだ。
ティナはまだ生後間もない為、すぐ寝てしまう。
何度かパレードの最中でもこっくりとしていた。
でもその様が可愛いと黄色い声が挙がっていた。
このパレードの様子はなんちゃってテレビで連日放送され、誰もが釘付けであったみたいだ。
都合一週間に及ぶ顔見せは後日記念日とされ、大型連休として全世界共通の祝日となった。
ティナは無茶苦茶人気者になってしまった。
赤子にして最強のアイドルである。
この人気はオリビアさんも超える。
流石のオリビアさんも負けを認めてしまっていた。
というより、ティナにデレデレのオリビアさんがそう仕向けた節もある。
連日なんちゃってテレビで、オリビアさんはティナを紹介していたのである。
ここはティナの処世術が勝っていたと記しておこう。
ティナは甘え上手である。
オリビアさんも骨抜きにされていたのである。
とにかく甘え処を分かっている。
それも作為的に・・・
どこでこれを学んだのだろう?
俺には分からない。
どこに出してもティナは人気者だった。
当然俺の影響もアンジェリの影響もある。
でもそれだけではあり得ない程の支持を受けていた。
処によっては俺よりも信仰されていた。
人気は留まることを知らない。
正に次期創造新候補であった。
そして名づけを行った結果。
やっぱりティナは進化した。
本来神は進化しない。
でも俺は創造神なのである。
創造神であれば神を進化させることは出来る。
ティナは上級神になっていた。
こうなるだろうなと思ってはいた。
赤子にして母親越えである。
でもアンジェリは悔しがる処か喜んでいた。
だろうなとは思っていたが・・・
でもアンジェリも何故か下級神から中級神に進化していた。
それも出産を機に。
美容の神から美の神になっていた。
俺にはいまいち違いが分からなかったのだが・・・
まあいいだろう。
そしてティナだが能力が・・・チートだった。
赤子にして『念動』と『浮遊』を覚えていた。
我物顔で宙に浮きまくっている。
いい加減にして欲しい。
ティナはあり得ないぐらいに賢い。
生後一週間にして読み書き計算が出来た。
『演算』があるから当たり前か?
でも少々嬉しかったのは、身体の成長は急激にとはいかなかった。
生後数日は首が座らなかった。
でも生後三ヶ月にして既にハイハイしているのだが・・・
いきなり歩かれるよりは増しである。
まあ『浮遊』で浮かんでいるのだが・・・
どう受け止めようか?
ここは異世界・・・大らかに受け止めよう。
何でもありだと・・・
そしてハテナは無くなっていた。
やっぱりか・・・
まあ我が子が次期候補であることは嬉しくはあるのだが・・・
ちょっと複雑な想いだった。
だってまだ赤子だよ?
島野一家のティナの可愛がり様は凄かった。
あのゴンまでデレデレだった。
そしてノンとギルの二人に関しては、実際に眼に入れても痛くは無いのかもしれないというぐらい可愛がっていた。
異常な程の愛情を注いでいた。
暇さえあれば島野一家はティナを見に来た。
また来たのか?と言いたくなるぐらいだった。
あのレケすらもティナに御執心だった。
クモマルは常にティナの安全を気遣っており。
エルは歯茎全開だった。
エクスは照れるばかりで、アイリスさんは異常に赤ちゃん言葉で接していた。
そしてあの好青年のエアーズロックすらも目尻が歪みまくっていた。
ある日何気なくティナに近づこうとしたゴブオクンを、ノンが回し蹴りで撃退していたこともあった。
なんのことやらである。
まあ愛されているということだろう。
そう受け止めよう。
まだまだティナフィーバーは続きそうである。
やれやれだ。
そんなティナを軽く凌駕してしまったのがカノンだった。
問題となったのはカノンの分身体だ。
カノンはひと際美人だった。
見惚れる程の透明感。
誰もが振り替えって二度見していた。
何となくアイルさんに雰囲気が似ている。
絶世の美女とは彼女の事を指すのだろう。
アンジェリが見惚れる程だった。
美の神が見惚れるとは・・・
其れぐらいの美貌だった。
余りの美しさにゴブオクンは膝から崩れ落ちていた。
こいつの事はどうでもいいか。
そんな美貌の事など実はどうでもよかった。
なんと全ての上級神がカノンの分身体に跪いたのである。
それだけでは無い。
神様ズも跪いていた。
五郎さんを除いて。
流石に俺も驚いてしまった。
その様は創造神と変わらない。
でもよく考えてみると頷ける。
カノンは惑星なのである。
大地であれ、水であれ、自然は惑星の一部なのである。
ということは、俺はどうなるのだろうか?
そんな存在に名づけを行った俺って・・・
深くは考えないことにしよう。
ここはそうしよう。
それにしても五郎さんはどこまでもマイペースだ。
とても肝が据わっている。
ある意味最強と言える。
「なんでえ、あの別嬪さんはよ!」
と煩かったぐらいである。
多分正体を知っても五郎さんは跪かないだろうな。
五郎さんには是非そうであって欲しい。
俺のパイセンはこうでなくっちゃな。
カノンの事を裏でアースラさんに無茶苦茶切れられてしまった。
なんで教えてくれなかったのかと。
あのフレイズすらも挺身低頭に接していたのだ。
それぐらい重要な事であったらしい。
アクアマリン様に言わせると、ある意味創造神の爺さんと変わらないらしい。
そんな惑星に名づけをした俺って・・・やっぱりおかしいのか?
俺は全く気にかけていなかったのだが。
ごめんなさい。
悪気はないです・・・
そしてカノンが簡単に俺に跪いた。
その後、上級神達と神様ズが俺を見る目が変わった様に感じる。
妙な距離感も感じる。
そういえば自分が創造神になった事を話して無かったな。
このまま当分の間は放置しておこう。
多分察することは出来るだろう。
でも何となく俺からは言う気にはなれなかった。
聞かれれば言うかもしれないが。
積極的に言う気にはなれなかった。
なんとなくそう想ってしまった。
うん、そうしよう。
否、絶対そうしよう。
意地悪に思えるかもしれないが、上級神と神様ズは、これまで好きにやってきたことをこれで帳消しにしてあげようと思う。
フフフ。
俺を舐めて貰っては困るよ。
俺は他人の褌で相撲が取れるんでね。
これを気にフレイズを俺の舎弟にしてやろうか?
否、要らないな。
あいつは使えない奴だからな。
どうでもいいか?
カノンは当然の如く崇拝されていた。
誰もが敬い、頭を垂れていた。
その様は創造神の様であったが、本人は少々嫌そうにしていた。
俺と同じで放っておいて欲しい質のようだ。
時折苦い顔をしていた。
カノンは温泉とサウナにドハマりしていた。
一日に二十セット近くサウナに入るらしい・・・
まあ、死なないからいいか・・・
只のサウナジャンキーだな。
ていうか・・・変態だな。
まあ好きに過ごしてくれよ。
実際カノンは好きに過ごしていた。
働かなくてもお布施を大量に貰っていたからだ。
実はこうなる様に、俺はサウナ島にある神社を管理しているメタンに話をし、その様に手配していたのだ。
メタンはこれを喜んで受け入れていた。
要はサウナ島にある神社に集まるお賽銭を、全部カノンに渡してくれとしたのだ。
そもそもこのサウナ島の神社に集まるお賽銭に関しては、その使い道に困っていたのだ。
孤児院に渡すにはその額が高すぎる、かといって島野商事の資金にするには憚られていたのだ。
所謂使途不明金になっていた。
時にそのやり場に困って、マークは俺に丸ごと渡したこともあった。
これは島野さんが使うべきだと勝手に押し付けられていた。
会長にはこれぐらい渡さないと沽券に関わると要らない理由を添えて。
まあ俺としては貰える物は貰うとしたのだが・・・
正直複雑な気持ちだった。
もう俺の貯金額は・・・
言わないでおこう・・・
というか、言っちゃ駄目だな・・・
また奢らされることになってしまうからね。
そして島野一家の聖獣達だが、全員神に成っていた。
ゴンを除いて・・・
言い伝え道りだった。
ノンは狩りの神に。
エルは俊足の神に。
ケレは日本酒造りの神に。
そしてクモマルは隠密の神に。
加えてアイリスさんは植物の神に。
エアーズロックは神には成らなかった、というよりほぼ神と変わらないのだからそれで良いと本人は言っていた。
でも新たな能力は授かったらしい。
厳密にはアイリスさんとエアーズロックは一家と言うよりは、アドバイザーなのだが、関係性を考えたら家族である。
俺もそう想っている。
そしてギルは俺との深い関係性が考慮されたのか上級神に成っていた。
それをギルは心良しとしていなかったのだが・・・
俺はギルと話しを重ねた。
最終的には、それぐらいお前は崇拝されているんだという一言が効いたみたいだ。
まだまだ中二病のギルを擽っただけだ。
パパがそう言うならばと、ギルはあっさりと受け入れていた。
一人事情が違ったゴンだが。
ゴン曰く、
「世界の声が聞こえた時に、時間を下さいと請願した処、受け入れて貰えました」
とのことだった。
そんな抜け道があるとは思わなかった。
案外良心的じゃないかと、創造神の爺さんを褒めてやりたくなったぐらいだ。
どうして時間が欲しいのかと思っていた所、数日後ゴンはルイ君を伴って俺の元に現れていた。
そういう事かと俺は納得した。
一際緊張したルイ君が俺に宣言した。
「島野さん!ゴンちゃんを僕に下さい!結婚させて下さい!」
ルイ君は深々と頭を下げていた。
「ルイ君、ゴンは俺の所有物じゃないぞ!でも俺の娘はやらん!」
俺の拒否発言に、ルイ君は口をぽかんと開けていた。
頭を振ったルイ君は再度俺に頭を下げた。
「お願いします!認めて下さい!」
横を見るとゴンが困った顔をしていた。
俺の隣に座るアンジェリは笑いを噛み殺していた。
肩が小刻みに震えている。
「そこまで言うなら付き合って貰おうか」
「えっ!それは何を・・・」
俺はルイ君とゴンとアンジェリを伴って転移した。
場所はメッサーラの武道館だった。
そして俺達の目の前には土俵があった。
俺の意を察したアンジェリが行司となり、俺とルイ君を呼び込む。
突然の出来事にルイ君は挙動不審になっていた。
察したのかゴンは笑いを堪えていた。
「ルイ君、俺を投げることが出来るかな?」
ルイ君の顔が真っ青になる。
「・・・到底、無理です、否、敵いません・・・」
「ほう、ルイ君は諦めると?」
この発言にスイッチが入ったルイ君。
複式呼吸を始めて準備運動を行っている。
やる気スイッチが入ったみたいだ。
「島野さん、勝ったらゴンちゃんとの結婚を認めてくれるのですね?」
「ああ、ルイ君が俺に勝てたらな。ルールは簡単だ。俺は能力を使わない、ルイ君も魔法は使わない。何度でも付き合ってやる!遠慮なくかかってこい!」
ルイ君は俺に一度頭を下げてから土俵に向かった。
俺は何度もルイ君をぶん投げていた。
もう何度も何度も。
もう何回投げたか分からない。
今ではゴンも真剣になってルイ君を応援している。
俺は一切手を抜かなかった。
ルイ君は既に全身土に塗れている。
でもまだ目は死んでいない。
もう百回以上は投げているだろう。
俺もいい加減へとへとだ。
でも俺は一切手を抜かない。
まだまだだ!
掛ってこいよ!
こんな事で俺の娘はやれないぞ!
そしてその時は突然訪れた。
決まり手が何だったのかは分からない。
俺は土俵に手を付いていた。
ふう・・・やっとか・・・
俺は不思議と安堵していた。
ルイ君・・・ゴンを頼んだぞ!
興奮したゴンがルイ君に抱きついていた。
ルイ君はヘトヘトで土俵に倒れ込んでいる。
アンジェリから俺に声が掛けられる。
「守、お疲れ様・・・」
「ああ・・・一度やってみたかったんだ・・・」
「だと思った」
「これを異世界では昭和の親父と言うんだ、アンジェリ」
「何それ?意味分からないじゃんね!」
「まあな」
「ハハハ!」
そこに声が掛けられる。
「島野さん・・・はあっ・・・はあっ・・・これで・・・認めて・・・貰えますよね?・・・」
「ああ・・・ゴンを頼んだぞ!ルイ君!」
「はい!」
ルイ君は天に向かって手を挙げていた。
ゴンはそんなルイ君を介抱しながら泣いていた。
「ゴン!幸せになるんだぞ!」
「はい!主!ありがとうございます!」
ゴンは泣きながら笑っていた。
その後ゴンはルイ君と結婚した後に魔法の神となり、メッサーラの一柱となっていた。
それを見届けたマリアさんは、弟子のいるエスペランザに居を構え、エスペランザを見守った。
ゴンの結婚式は盛大に行われていた。
メッサーラ国の威信を掛けて。
全ての神が集められ、各国の重鎮達も集められた。
全世界の重要人物が集まっていた。
俺はスピーチを任せられ、ゴンとルイ君との出会いから今日までの話を面白可笑しく話した。
時に笑いが起き、時に涙が流された。
とても幸せな時間を過ごしていた。
そして俺も感慨深くなっていた。
島野一家から遂に巣立つ者が現れたのだと。
ゴンは泣きじゃくっていた。
それは始めて出会った時を思い出す出来事だった。
ゴンは百年に渡って島で一人暮らしをしており、俺と出会って眷属になった時にこの様に大泣きしていたのだと。
俺の隣でオズも号泣していた。
その気持ちは痛い程分かった。
そんなゴンとルイ君を祝おうと、結婚式の参列者は万を超えた。
大行列が出来上がっていた。
皆が皆、笑顔であった。
ゴンとルイ君はとても幸せそうにしていた。
犬猿の仲のノンも盛大に祝っていた。
メッサーラには幸せの時間が流れていた。
後日語り継がれる程に。
俺が創造神になってからおよそ一年が経っていた。
そろそろ頃合いである。
俺は創造神の爺さんに『念話』を繋げた。
「もしもし、創造神様。俺です」
「守か、待っておったぞ」
「それはすまなかったですね」
「よいのじゃ、気にするでないわ」
「ありがとうございます」
「して、なんじゃ?改まって」
「そろそろお誘いしようかと」
「ほう?それはなんじゃ?」
「サウナに入りに来ませんか?」
「ホホホ!遂に誘ってくれたか!この時を待っておったぞ!」
「お待たせしたようですね、いつきますか?」
「そうじゃな、明日でどうじゃ?」
「分かりました、明日迎えに行きます」
「あい分かった。待っておるぞ」
「承知しました」
俺は『念話』を終えた。
俺はマークに事を伝えた。
明日はスーパー銭湯を貸し切りにすると。
これまでになかった出来事に、マークは戦慄を覚えていた。
その理由を聞かれて、俺は創造神の爺さんが来ると伝えた。
マークは納得したのか、
「そうすべきですね」
と頷いていた。
そして俺は創造神の爺さんを迎えに神界に転移した。
転移した先はあのエデンの園だった。
爺さんは椅子に腰かけて待っていた。
その手には島野標の入ったタオルが握りしめられている。
おお!これはやる気満々ですね。
いいじゃないですか。
俺はこういうのは好きですよ。
やっぱり相当サウナに興味があったみたいだ。
その表情も綻んでいた。
「守よ、待っておったぞ!」
「その様ですね、サウナの世界をご教授させていただきます!」
「そうか!これは愉快じゃ!」
爺さんも待ちに待った時が訪れたみたいだ。
さて、今日もサウナを満喫させていただきましょうかね!