あれから五年の歳月が経っていた。
実に月日は早いものである。
今では北半球は平和を享受していた。
北半球同盟、その名も『マモール』は北半球で絶大の支持を受けていた。
この『マモール』を知らない者は一人もいなかった。
そしてそれは守の存在を更に知らしめることになっていた。
でも当人はそれを屁とも感じてはいなかった。
だから何だと、あまり興味を示してはいなかった。
其れよりも俺の邪魔をするなよと、出来るだけ陰に徹しようとしていたのだ。
だがもうそんな事を言っていられる状況には無かった。
守は北半球を統一した神として崇め奉られていたのである。
本人の意思とは関係なく。
その現実に守は日々身悶えしていたのである。
俺の事は外っといてくれよと。
外っといて貰える訳が無い。
余りに認識が甘い守であった。

この同盟によって、様々な恩恵を参加国は受けていた。
これまでいがみ合ってきたことは何だったのかと感じている国民が大半だった。
どうしてもっと早く手を取り合わなかったのだとの声も多数挙がっていた。
同盟国の全てが独自の発展を得て、互いに支え合っていた。
北半球は大きく舵を切り出していたのである。
そこには平和な時間が訪れていた。
それを国民達は神の御業だと受け止めていた。
残念ながら崇拝から逃れられない守であった。
当の本人は背筋が凍る想いであったのだが、国民達にとっては知らない事である。
流石の守もどうする事も出来なかった。
何処に行っても拝まれる始末となっていた。



そして守の宣言通り、様々な娯楽が北半球に広められていた。
最初に『ルイベント』にはエアーズロックに負けない程のフードパークが出来上がっていた。
それはあり得ない程の賑わいを見せていたのだった。
そのラインナップは南半球を超えるかもしれない。
和洋中の全てだけでは無く、守の知る全ての飲食に関する施設が出来上がっていたのである。
それを嬉しそうにスターシップとダイコクは眺めていた。
『ルイベント』はそのネットワークを最大限生かして、手に入らない食材は無いと言える程になっていた。
正に胃袋を掴んだ国となっていた。
ここに来れば最高の食事を提供されるのだと。

そしてその食の研究は余念なく行われていた。
北半球の料理人、パティシエは当たり前の様にこの国に集まってきていた。
今では料理学校も出来あがっていたぐらいだ。
『ルイベント』は食の宝庫となっていたのだ。

その料理学校の学長はオクタである。
今ではオクタは北半球一の料理人の地位を得ていた。
実はオクタにとってはそんな事はどうでもよかった。
オクタは単に守と料理を作ったり、料理の研究をするのが大好きなのだった。
オクタは大の守信者である。
一見オクタは武骨な職人肌の料理人である。
でもその本質は只の守の事を大好きなオークなのである。
オクタの最大の喜びは、プルゴブやソバル、メタンの守を賛辞する話を肴に、ひっそりと酒を飲むことが最高の娯楽となっていたのである。
この事を知る者は一人もいない。
オクタにとっては料理を極めるイコール、守に褒められる。
これが全てであったのである。
ここはオクタを責めてはいけない。
実にこういう思考の魔物達が実は大半なのである。
それを知らない守は適当に好き放題にしていたのだけなのだから。
何とも世知辛い話である。



スターシップはかなりの食通だった。
彼は食に対してあり得ないぐらい執着していたのだった。
先の同盟国会議でもその片鱗は現れていた。
それを守は見逃してはいなかったのである。
この国は食に拘るべきだろうと。

圧巻だったのは回転寿司屋であった。
レーンに風魔法を付与した魔石を埋め込み、寿司がレーンを周っていた。
これを北半球の住民達は面白おかしく受け止めていた。
寿司が勝手に周っていると嬉しそうに笑っていたのである。
他にも自分達で作るたこ焼き屋や、鉄板焼きのお店は遊び心が刺激すると選ばれる傾向にあった。
中には蕎麦打ち道場等もあり、フードフェスも盛んに開催されていた。
バーベキュー場等もそこら中にあり、大変賑わっていた。
極め付きはフレンチレストランであった。
至極のコース教理がリーズナブルに味わうことが出来ていた。
でもここは守の影響で礼儀や作法などは皆無だった。
普通に箸で食べる者が多数いた。

『ルイベント』ではレストランが所狭しと並んでいる。
そしてスターシップの肝入りのお店が出来上がっていた。
それは鰻屋である。
守とオクタで開発したあの同盟国会議で提供された、鰻のタレが分け与えられ、継ぎ足しを重ねられていたのだ。
スターシップに言わせると、
「これは国宝のタレです!」
食通の彼が愛して止まないお店となっていたのである。
予約は半年待ちという絶大な支持を受けるお店になっていた。
そしてスターシップは三日に一度はこのお店に訪れていた。
それも警護の者を振り切って。
このお店に来ればスターシップに会えると、国民達も知らない者はいない事になっていた。
英雄も極上の鰻のタレには骨抜きにされていたのである。
それを冷ややかな目で守は見ていた。
勝手にしろと言いたげである。

勿論食材の提供元の大半は『シマーノ』である。
野菜の提供は当たり前の様に行われ、肉も森でたくさん狩りが行われていた。
そして海産物はコルボス率いる漁師軍団の出番であった。
今ではコルボスは北半球における海の覇者となっていた。
守から提供されたクルーザーはゴブスケの手に寄って四艘もある。
更にゴンズから教え込まれた漁の技術に寄って、連日当たり前の様に大漁を繰り返していたのだ。

それだけでは無い。
守達から享受された海苔の加工や、海藻の手入れ方法等。
実に様々な海産業が充実していたのである。
それは海だけに留まらない。
川の漁もお手の物になっていた。
その為、鰻の仕入れはコルボスに寄ってなされていた。
スターシップはそれを知った後、コルボスに勲章を与えると騒いでいたらしい。

そしてコルボスの快進撃は止まらない。
レケから教わり、養殖も成功させていたのだ。
当たり前の様にマグロの刺身が食卓に並び、ツナが国民食となっていたのである。
更には鰻の養殖までもだ。
コルボスは正に北半球における漁の覇者となっていたのだった。

加えてに守の入れ知恵でコルボスは干物にも手を出した。
これが凄い事になっていた。
これまで魚介類の干物の技術は無かった。
あったのは肉の干物の加工だけである。
魚も干物に出来るのだと、その技術は北半球を席巻した。
肉だけでは無く、魚も保存食になるのだと北半球は沸いた。
これに寄って、北半球は空前絶後の海産物ブームが訪れていた。
そして『シマーノ』の魔物達はその技術を惜しげも無く同盟国に伝えていった。
それは干物の技術だけでは無い。
操船の技術やクルーザーの製造方法や漁の技術に至るまで。
今では海に面する国には当たり前の様にクルーザーが海を走っていた。
北半球は海産業の宝庫となっていたのである。
当たり前の様に食卓では海産物が提供される状態になっていたのである。



次に『ドミニオン』にはスポーツ施設が沢山造られていた。
陸上競技場から始まり、野球場、テニスコートにサッカー場、そしてゴルフ場、体育館は五箇所も建設されていた。
圧巻だったのは野球場である。
なんとドーム球場まであり、雨でも野球が出来ると北半球の住民からは喜ばれていた。
実にたくさんのスポーツイベントが行われおり、今後はプロスポーツ選手が生れそうになっていた。
特に野球の人気は凄まじく、球団の数も多かった。
今では南半球との交流が望まれている段階となっていた。
マークが喜びそうな話である。

それだけでは無い、ドーム施設に眼を付けたオリビアファンクラブは、なんとオリビアのコンサートを敢行したのである。
実はオリビアファンクラブは北半球では確固たる地位を築いていた。
そしてオリビアは北半球では完全にアイドル扱いされていたのである。
これをゴブオクンが果たしたのは奇跡かもしれない。
まさかこいつにこんな才能が眠っていたとは誰も知る由もなかった。
今ではオリビアファンクラブの会長という立場だけに留まらず、オリビアのタレント事務所を設立し、アイドル活動を支援していた。
それだけに留まらず、新たなアイドルの発掘を行うイベントまで企画していた。
時代が生んだ天才とゴブオクンは持て囃されていた。
そして調子に乗ったゴブオクンはあり得ないぐらい態度がデカくなっていた。
そんな調子に乗ったゴブオクンは踏んではならない尾を踏んでしまう事になる。
なんと守にいつになったらオリビアと結婚するのかと詰め寄ったのである。
余りに調子に乗ったその態度と、その無遠慮な発言に守はブチ切れた。
守は激怒していたのである。
ゴブオクンはエアーズロックから放り投げられていた。
守は死なない程度に『念動』で支えていたのだが、骨の数本は折れていたみたいだ。
ごめんだべー、と謝っていた様だが、ゴブオクンが本当に反省したのかは定かではない。
また調子に乗るのは目に見え居ているのだが・・・
彼が本気で反省することは無いだろう・・・残念ながら。
彼は根っからのお調子者である。
守は物足りないと、再度エアーズロックから投げようとしたのだが、流石に不味いとマーク達に止められていた。

そんなゴブオクンの事はいいとして『ドミニオン』は『メッサーラ』に続くスポーツ大国になっていた。
ベルメルトも積極的にスポーツイベントに参加していた。
特にベルメルトは野球にド嵌りし、連日野球を楽しんでいた。
公務を放り出して・・・
こいつも守に叱られそうである。
ベルメルトは野球好きが高じたのか、サウナ島に来るとマークとしょっちゅう野球談議を楽しんでいた。
今では交流戦が望まれている。
ベルメルトはドカベンが愛読書であると守に語っていた。
それを守はぬるい眼つきで聞いていた。
あっそう、と言いた気である。
言わないだけ大人だとここは褒めておこう。

『ドミニオン』の貴族間ではスポーツは貴族の嗜みと受け入れられていた。
特に貴族の間ではゴルフが流行っていた。
今では国民の大半が何かしらのスポーツを楽しんでいる。
スポーツは心を健全にすると受け入れられていたのだ。
とても健康的な国であると言える。



『エスペランザ』にはアミューズメントパークと、たくさんの公園が建設された。
アミューズメントパークとは要は遊園地である。
魔石を有効に使って様々な遊具等が建設されていた。
特に人気となったのはジェットコースターであった。
風魔法を付与した魔石を使ったジェットコースターは男女年齢問わず人気を博していた。
それ以外にも、ゴーカートや観覧車、バイキング等は王道の遊具となっていた。
ティーカップは家族連れには絶大な人気を得ていた。
そして何故だか人気が無かったのはお化け屋敷であった。
余りに子供じみていると不評であった。
守はどうしてなんだと頭を抱えていた。
ものの一ヶ月で閉館となっていた。
実に残念である。

更に射的や金魚すくい、輪投げ等、古典的な日本の屋台も受け入れられていた。
休日の『エスペランザ』は渋滞が起きる程賑わっていた。
そしてそれだけに留まらず、宿泊施設や露天屋台等も充実しており、遊びの楽園となっていたのだ。

公園は家族連れにとても喜ばれていた。
休日には小さな子供を連れた家族が多数訪れていた。
ピクニックが国民の休日のルーティーンとなっている。
公園では笑い声が溢れていた。
家族連れは公園を大いに楽しんでいた。
自転車の街道も造られ、自転車は国民の移動手段として受け入れられていた。

そして『エスペランザ』にはハイキングを楽しむ山等もあった。
それに合わせて自然に溢れた様々な施設が建設された。
山小屋や休憩所等、山を愛する者達は『エスペランザ』に集まっていた。
更に流行ったのはクライミングだった。
実にガチ勢が多い。
急勾配の山を踏破しようと、本気のクライミングが行われていた。
でもそこには安全を期して、浮遊の魔石を必ず携行する様にとルールは徹底されていた。
加えてボルダリング施設がいくつも建設された。
守が魔物達に作らせたボルダリングシューズは売り切れが続出する事態になっていた。
人気は留まることを知らず、上級クライマーはスター扱いされていた。

それだけには留まらない。
実は『エスペランザ』にはカジノが建設されていたのである。
これの糸を引いたのは言わずもがなのダイコクである。
ダイコクはここぞとばかりに商売の神の本領を発揮していた。
守や五郎から得た賭博やトランプ、ルーレットの知識を有効活用し、カジノを運営していたのだった。
それは会員制の一部の者に限られた施設であり、高収入の者達を限定にしたものであった。
要は会員制のクラブである。
ある意味作為的とも取れるのだが、ギャンブルの極意を分かっているダイコクらしく実に上手く運営はなされていた。
守はため息と共にそれを見守っていた。
咎めることは出来るのだが、どうしたものかと見守る事にした様だった。
金持ち相手ならまあいいかと考えているのだろう。
だがギャンブル依存症の者が現れたら守は黙ってはいないだろう。
ヒプノセラピストである守がそれを見逃す筈はない。
今はお遊びだと思っているだけに過ぎないのだ。
いい加減どこかでダイコクは守に締められそうであった。
でもそうとは気づかないダイコクである。
守ではないがやれやれであった。

そしてこれは余談になるのだが、ルミルの兄はその芸術力が認められ、マリアの弟子になっていた。
彼はマリアから芸術とゲイ術を学んでいた。

そして名前を自ら改名し、
「私はエリーよ!」
と叫んでいた。

その様にルミルは膝から崩れ落ちていた。
でもエリーはそもそも心の中ではそっち系であり、これまで公言してこなかっただけに過ぎない。
まさかのカミングアウトに『エスペランザ』の国民は恐れ慄いていた。
だがそこでまさかの事態が起こるのであった。
魔水晶で守が多様性を説いたのである。
決してエリーの為に守が行った訳ではない。

たまたまゼノンがテレビ番組用にドキュメンタリーを撮り出しており。
『これからの北半球』というセンセーショナルな議題のテレビ番組を作製していた。

その中のインタビューで守が変わりゆく北半球の現状を話し、
「これからは多様性の時代になる、性別や年齢、人種の壁なんて取っ払え!差別なんて認めない!他者を認め受け止めることから進化は始まるのだ!時代は次に移っている!」
と偉そうに宣っただけである。

此処には裏の演技指導が有ったのは間違いない。
それがたまたま嵌っただけである。
実に北半球の者達は真面目である。
いや、ここは守への信仰心が厚いと言っておこう。
こうしてエリーのカミングアウトは受け入れられていたのだった。
なんの事やらである。



『サファリス』には自然を用いたレジャーが好評を博していた。
というのも『サファリス』は年の半分近くが雪で覆う雪国なのであった。
スキー場が何件も建設され、夏場はキャンプ場で賑わっていた。
自然をメインにした施設が沢山造られていた。
そして守は桜の木と銀杏の木をふんだんに街道筋に植える様に指示した。
花見の季節と紅葉の季節には観光客が後を絶たなかった。
そしてその噂を聞きつけたのか、仕掛けの神エルメスが『サファリス』に訪れ、腰を据える事になったのである。

このエルメスだが、守とは直ぐに打ち解けていた。
いや、その様はまるで十年来の親友であった。
エルメスはその名の通り、仕掛けを得意とする神であった。
であるのならば『エスペランザ』の様に遊園地などの仕掛けを重要とする国に腰を据えるベきなのだが、自然を愛する彼は『サファリス』に滞在することを選択したみたいだ。

実にエルメスの造る時計や眼鏡や仕掛け細工は飛ぶ様に売れていた。
『サファリス』の新たな収入源となっていたのである。
他にもバネ等を中心とした仕掛けの作品が多く、中にはこれはピタゴラスイッチだろうという発明品まであった。
エルメスの発明品はどれも独特で、中には自転車に似た乗り物も造られていた。
バネを上手く使い、上下に力を加えることで前に進むという構造の物であった。

守は何故か鳩時計の作製を依頼し、家に飾り喜んでいた。
何か感じいるものがあったみたいだ。
守も仕掛けや仕組みが大好きである、仲良くならない訳が無い。
エルメスは時折赤レンガ工房にも顔を出し、ゴンガスとも親しくしていた。
でもとにかく自然を愛するエスメルは『サファリス』で過ごすことが多かった。
彼はよく守とキャンプを楽しみ、川岸に特設のサウナを建設し、実に有意義に過ごしていた。

少し詳細を話すと、守とエルメスは、レインにこっそりと川岸にある土地を融通する様に手配させた。
そこに二人はコテージを建設したのである。
そのコテージにはプライベートサウナがあり、水風呂は川に入るという自然の中のサウナであった。
ここの利用は守とエルメス、そしてそれを知るレインのみであった。
守は無遠慮な神様ズには知られまいと、この事を誰にも話さなかった。
三人はよく週末になると集まり、コテージで過ごしてキャンプや自然のサウナを楽しんでいた。
今ではレインは守とエスメスのパシリとなっていた。
でも本人がそれを喜んで受け入れていたのだからいい事だろう。
エスメスは自然を愛し、自然に生きるそんな神であった。

でも彼は神としての仕事も精力的に行っていた。
弟子も何人も受け入れている。
今では『サファリス』の一柱となっていたのである。



『オーフェルン』には温泉が湧いていた。
温泉を中心とした娯楽施設が出来上がっていたのである。
ここには守から要請を受けた五郎の出番であった。
五郎は袖を捲ると、
「やってやらぁよ!」
と血気盛んに温泉街建設に力を貸していた。

だが『オーフェルン』の発展は温泉街だけでは無かった。
守は様々な学校を建設する様に指示を出していたのである。
学校とは言っても何も勉学を学ぶだけの学校では無かった。
魔法研究を対象にした学校や、料理学校。
服飾を学ぶ学校、農業学校。
そして鍛冶を学ぶ学校等、それは多岐に渡った。
『オーフェルン』は他国からは『学校都市』と呼ばれていた。
そしてそこには留学制度もあり、多種多様な人種に溢れていた。
交流は盛んとなり、新たな技術も生みだされていた。
学びを得るには『オーフェルン』と言われていたのである。

この様にして北半球は発展していたのである。
守は知恵と知識を提供しただけに過ぎない。
南半球の時とは違い、直接手を出すことは一度も無かった。
人と人を繋ぎ、物の使い方や加工技術等を教えただけであった。
北半球の文明化はまだまだ始まったばかりである。