その後、アイルさんと創造神様と話をすることになった。
反省会?みたいなものかな?

「守よ、能力は取得出来たかのう?」
笑顔で創造神様が言う。
どうせ分かってんだろ?爺さん。
いちいち聞くなよ。

「ええ、それはそれは、お釣りがくるほどですよ」

「ほう?どういうことじゃ?」
よく言うよ、分かっているくせに。

「分かってるんでしょ?」
俺は睨みつけてやった。

「まあな、じゃがお主から聞いてみたいんじゃよ。のう?アイルや?」

「そうですわね」
まあ、アイルさんがそういうのでしたら。
ふう、正直面倒臭い。
爺さんだけだったら絶対に説明しなかったけどね。
何となくムカつくからさ。

「能力は結局のところ、時間停止と時間旅行、多重存在と最適化を取得できました。更に半仙半神から半聖半神に進化しましたって、創造神様の予定通りなんでしょ?」

「ホッホッホ!まあのう」
やっぱりか、この爺い。
結局この爺さんの掌の上ってことなんだよな。
やれやれだ。

「あら?そうでしたの?」
アイルさんも多分知ってはいたんだろうが、ここは夫を立てようということなんだろう。
敢えて知らない振りをしている。
何なんだろうね?夫婦関係って。
俺には分からんな。

「そうじゃ、守は究極の人類になったんじゃよ」
究極の人類って、まだ人類に分類していいのか?
もはや人類ではないと思うのだが・・・
半聖半神ですよ?
無理がないかな?
まあいい、ところでこれだけは聞いておきたい、はぐらかされる可能性は高いが聞かずにはいられない。

「ところで創造神様。聞いておきたい事があります」
俺は襟を整えた。

「ほう?何のことじゃ?」
創造神様は上機嫌に顎髭を擦っている。

「神気減少問題ですが、最大の原因にはまだ辿り着いてはいませんが、この世界の神気の量はそれなりに回復していると思いますが、まだ世界の崩壊は近いですか?」
珍しく少し前のめりになった創造神様が答えた。
俺は構えずには居られなかった。

「ふむ、世界の崩壊は近年中にどうにかなることは無くなったのう」
ちょっと待て、この人の近年中は何年なんだよ?
俺にはこの人の尺度は分からない。
どうしたら分かるというのだろうか?

「それは何年ぐらいの話ですか?」
恐る恐る聞いてみた。

「そうじゃな、五百年は持つじゃろうな」
これは長いのか?短いのか?
全く分からん!
神の尺度で言えば短いのだろうか?
どうだろうか?さっぱりだ。

「それは今の状況に変化が無ければの話じゃがな。事実お主の活躍で盛り返しているからのう。じゃが根本的な解決に至らん限り、この世界の崩壊は免れんじゃろうて」
一先ずの延命処置にはなっているということか・・・多分。
でも正直それぐらいでしかないのだと、ちょっと項垂れそうになった。
やっぱり原因に辿り着かない限り、解決にはならないということか?
それにしても、よくここまで話してくれたものだ。
軽くあしらわれて終わると思っていたのに。
案外親切じゃないですかねえ、爺さんや!
ちょっと見直したよ、爺さん!

「ほう、お主。何でここまで話してくれたのかと思っている様じゃのう?」

「また読心術ですか?」
良い加減止めろって!
注意したよね?

「違うわい!そんなことぐらい、お主の表情をみれば一目瞭然じゃろうが!」
おお!読心術ではなかったか。
爺さんも学んでいるみたいだな。

「であればいいです」

「む!・・・」
創造神様はイラっとした表情をしている。

「娘さんに嫌われたくはないんでしょ?」
ここはさらっと釘を刺しておいた。
面白そうにアイルさんが笑っていた。
やっぱりこの爺さんに物言いできる者がいないみたいだ。
俺で良ければなんぼでも物言い付けてやりますよってね。
この爺さんに遠慮はいらないのだ。
遠慮すればするほどペースを持ってかれるだけだしね。
それにこの爺さん、俺に物言いを言われることに満更でもなさそうだからね。
まさかのMか?

「まあよい、それで今後じゃがな。これまで通りお主の好きにやってくれればよいのじゃ」
元よりそのつもりですが何か?

「ええ、そのつもりですよ」

「じゃな、まあ任せるわい」
任せるって、よく言うよな・・・
でも見守るだけの存在となってしまっては、そう言わざるを得ないのかもしれないな。
俺は今はグレーゾーンだから手は出せるしね。
好きにやらせて貰いますよ。
それも思う存分にね。

「守、無理だけはしないでくださいね」
アイルさんからのありがたいお言葉だ。
でもこの人もよく言うよ、それなりにスパルタでしたよね?
まあいいか。
ありがたく受け取っておきましょう。

「はい、ありがとうございます」
俺は一礼し、そろそろ時間だとこの場を去ることにしたのだが、創造神様から呼び止められてしまった。

「守よ・・・その・・・何だ・・・何かないか?その・・・」
何かとは?
もしかしてこの爺い、この後に及んでお土産を寄越せってことなのか?
だとしたらムカつくな・・・でもそれなりに答えてくれたし、今回の修業は実りあるものだったからな。
どうしたものか・・・うーん・・・
絶対にあげないと思っていたが・・・しょうがないよね?
やっぱり俺って優しいよね。
慈愛に満ち溢れていると思いませんか?

俺は『収納』から日本酒を樽ごと取り出し、ついでにトウモロコシ酒などの俺が飲まないアルコールを差し出した。更に野菜やら果物やら、肉やら、調味料やら、出せるだけの物を出してやった。
ついでに調理済みの料理もいくつか置いていった。
これで直ぐに食べれるでしょう。
それをニンマリと笑う爺さんだった。
少々ムカつくが、これぐらいであれば何とでもなる。
まあ在庫処分ってか?

「守よ、感謝するぞ」
フン!言ってろ!
まあいいか、神にも娯楽は必要だからね。
好きに飲んで食ってしてくれよ。
アイルさんには本当にお世話になったしね。
食い過ぎて腹を壊すなよ。
ではまた。
俺は『転移』した。



俺は『シマーノ』に帰ってきた。
さてどうしたものか?
時間旅行の能力についてどこまでオープンにするべきなんだろうか?
アイルさんの苦言通りとするならば、一切能力は明かさない方がいい。
アイルさんの忠告があったにも関わらず俺はやっちまったからね。
でも時間旅行の説明無くして、どうやって話せばいいのだろうか?
俺を信用してくれで済む事では無いよな?
はて困ったな。

一先ずソバルを呼び出すことにした。
一家は今はドラゴムに居るので『念話』でギルに連絡し『シマーノ』に一家とクモマルを連れて集合するように指示を出した。
直ぐに転移扉を使ってやってくるだろう。
到着したソバルにはアラクネ達を集めるように伝える。
首領陣達にはこの後に伝えて貰おうと思う。
場所は記念館の会議室だ。
俺は『収納』から通信の神具を取り出して、ダイコクさんに連絡を取ることにした。
神力を込めて、応答を待つ。

「はいはい、島野はん。どないしたんや?」
何時もの陽気な声が返ってきた。

「ダイコクさん、今は何処ですか?」

「わいか?今は『ルイベント』におるで」
これは話が早いな。
ならば迎えに行きましょうか。

「じゃあ迎えに行きますね、ルイベントの何処にいますか?」

「王城の一室や」

「了解です、今から向かいますね」
俺はルイベントの王城の前に転移した。

「今王城の前に居ます、来てください」

「ほんまかいな?すぐ行くわ」
通信を終了した。

少し待つと、ダイコクさんが現れた。
何故かニコニコしている。

「じゃあ、行きますよ」
俺は直ぐにでも転移しようとした。

「ちょっと待ちいな。何処に行くねん?」

「『シマーノ』ですよ」

「なんでやねん」
それを聞きたいのは分かるが、後で説明させて貰いますので今は従って下さい。

「後で説明しますよ」

「そうかいな?」
やれやれとダイコクさんは頷いていた。
ちょっと強引だったが許してくれよな。

俺はダイコクさんを連れて会議室に『転移』した。
会議室にはソバルとアラクネ達が待っていた。
プルゴブも同席している。
全員神妙な表情をしている。
それはそうだろう、こんな風にこれまでに呼び出したことは一度も無かったからだ。
しばらくして一家とクモマルも到着した。
各自椅子に腰かけ、俺の発言を待っている。
全員表情が硬い。
俺の緊急の呼び出しに、何があったのかと身構えている。
場を覆う緊張感に堪えきれず、ダイコクさんが話し出す。

「それで、島野はん。どないしたっちゅうねん。忙しないなあ」
緊張感を解放しようとダイコクさんの気遣いなのだが、功を奏してはいなかった。
まだ緊張感は続いている。
俺は徐に話し出した。

「実は・・・説明に困るのだが・・・これから一年後にダイコクさんが行方不明になる。これは可能性が高い事実だ・・・」
俺の発言に一同が凍り付いた。
ダイコクさんは眼をひん剥いていた。
俺は説明も無く、起こりうる可能性のみを伝えた。
今はこれ以上の説明が出来ない。

「ちょっと待ってパパ、何事?」
ギルは説明を求めているがどうしたものか・・・

「ギル、説明が難しいんだよ・・・」
俺は弱々しく返す事しか出来なかった。
でも家族達は反応が違った。

「良いじゃないですか、主がそう言うならそうなるってことでしょう」
ゴンは自信満々に胸を張って答えていた。
マジかこいつ。
こんなに簡単に俺を信じていいのか?

「そうだよギル、主がそう言うならそうなるんだよ」
ノンも加勢していた。
こいつらはほんとに・・・なんて可愛らしい奴等なんだ。
エルも無言で頷いていた。
どうやら俺への信頼は絶大みたいだ。
嬉しくもあるが、少々怖いとも思ってしまった。
だって俺だって間違えることはあるんだぞ。
そんな簡単に信じていいのか?

「そうか、そうだよね。パパがそう言うならそうなるか。だってこれまでパパが予想して外れたことが無いしね」
お前もかい!
ギルもそうだったと急反転していた。

「ちょっと待ちいな。わてには説明してくれんと困るで。事はわての事なんやろ?」
確かにそうなるな。
これが真っ当な反応です。
島野一家の俺への信頼が盲目過ぎるのだ。

「ダイコク様、島野様の言う事は間違いがありません。自分の事と不安でしょうが、ここは島野様の事を信じては貰えませんでしょうか?」
ソバルが勇気を振り絞って発言していた。
現に身体が震えていた。

「ソバル、自分・・・」
ダイコクさんは首を振っていた。

「ダイコク様、私も同意見です」

「儂もです」
プルゴブとクモマルも続く。
お前達もか・・・何でそんなに俺を無条件で信じるのかな?

ダイコクは押し黙った後、
「もうええわい、分かった!分かった!もうなんやねん。わてが悪人みたいになっとるやないかい!」
ダイコクさんは呆れた表情をしていた。

俺は言葉を繋ぐ、
「お前達ありがとう。それで今後について話しがしたい。まずはダイコクさん、前に陶芸の神が行方不明と言っていましたが、その後連絡はつきましたか?」

「あかん、全く駄目や」
ダイコクさんは首を振っている。
やっぱりか。

「そうですか、そこからまずは探っていこうと思います」
ここからしか手繰る糸は無いだろう。
恐らく同一の人物が未来でダイコクさんに手を掛けた、又は拉致したと考えていいだろう。
俺はそう考えている。
少々安易ではあるのだが。

「さようか、あいつは武装国家ドミニオンにおったのは間違いないんや。現に奴の工房もドミニオンにあんねん。ドミニオンに居を構えておったからな」
武装国家ドミニオン・・・

「その武装国家ドミニオンは何処かと戦争中ってことはないですよね?」

「今はないで、昔はちょっとした小競り合いが隣国の魔道国エスペランザとあったちゅう話や」
魔道国家『エスペランザ』ね、覚えておきましょう。

「まずはこの二国に絞って、アラクネ達は全力で情報を集めてくれ」

「「「「「は!」」」」」
アラクネ達が跪く。

「すまないが、クモマルも加わってくれ。旅は中断となるがいいな?」
クモマルには悪いがここは手を抜くわけにはいかない。
クモマルを欠いたアラクネには心元さがあるからね。

「は!勿論で御座います。島野様の望むが儘にお使いくださいませ!」
俺はクモマルに頷く。

「そして、ダイコクさんも暗部を出来る限り情報収集に当たらせてください」

「分かったで」
ダイコクさんも俺の指示に従ってくれるみたいだ。
その信頼感が目に宿っている。

「ソバル、腕の立つ者を何人かダイコクさんの護衛につけてくれ!人選は任せる」

「は!ありがたき!」
ソバルも跪く。
敬愛するダイコクに警護が付けれられたのが嬉しいのだろう、ソバルはありがとうと視線を向けてきた。

「プルゴブは魔物達に警告してくれ。怪しい者は徹底的にマークしろと。事は重大だ。相手は神に喧嘩を売る馬鹿者どもだ。だが証拠も無く疑うなよ。冤罪はあり得ないからな!分かるな?」

「は!お任せ下さいませ!」
プルゴブも跪く。
プルゴブに任せておけば大丈夫だろう、こいつは俺の意図をちゃんと汲み取れる存在だ。
とても心強い。
そしてこれを言わなければいけない、

「ギル、すまないな。エアーズロックはこの騒動が収まるまでは向かえない。もしどうしても行きたいならお前だけでも行っても良いがどうする?」
ギルは逡巡した。

「僕一人でエアーズロックにはいかないよ。ジイジもエリスは無事だと言っていたからね。まずはドミニオンだね」
ギルは笑顔だ。
すまないなギル、本当は今の直ぐにでもエアーズロックに行きたいだろうに。
俺も今すぐにでもエアーズロックに行きたい。
早くエリスに会いたいのだ。
俺は苦虫を噛みしめながら言うしかなかった。

「そうか分かった、島野一家はドミニオンに向かう。その後はエスペランザだ。いいなお前達?」
俺の想いを吹き飛ばすかの様に返事が返ってきた。

「当然だね」

「了解です」

「勿論ですの」
これで大方の方向性は決まった。
さて、俺も腹を決めた。
本気になろうか。

「今後は毎朝九時に連絡を取り合う様にする。念話でも通信用の魔道具でも神具でも構わない。ここにいる全員に情報は行き渡るようにするんだ。全員の意思疎通を行るな、いいな?休日返上になるかもしれないが、頑張ってくれ‼」

「「「「「は‼」」」」」

「いいよー」

「しゃあないな」

「だね」

「そうですね」
一様に了承していた。
これでどうにかなるだろう。

でももっと強力な援軍を求めようかな?
ゼノンは反則だよな。
多分ゼノンなら今回の騒動の相手も知っている筈だ。
でもゼノンも上級神だ。
教えてはくれないだろう。
なら、神界の噴水で覗いてみるか?
これも反則だろうな。
いっそのこと、時間旅行で過去に遡って探ってみるか?
それはありだが、ちょっと違う気がする。
これは最終手段だな。
出来る限り、今の俺の北半球での戦力で探るべきだろう。
魔物達は頼りになるし、何ならこいつらを更に進化させることも出来る。
そうなると北半球での勢力図が大きく変わりそうだから、あまりやりたくは無いのだが。
切れる切符は大いに越したことはない。
あまり大事にはしたくはないのだが・・・

結局のところ手はいくらでもあるという事だ。
こちらは『シマーノ』『ルイベント』『ドラゴム』がある。
戦力としては申し分ないだろう。
なんなら南半球の勢力を動員することも可能だ。
これは最終手段なのだが。

進化した魔物達は本気を出せば、人族を平気で平伏させるだけの力を持っている。
あいつらは基本的に穏やかな性格をしているから、そんな荒事には手を染めないが、本気になれば、人族を根絶やしにするだけの力がある。
それを俺は知っている。
ダイコクさんやスターシップもそうだ。
だからこそ、彼らは真っ先に魔物同盟国と同盟を結ぶという行動に出たのだ。
彼らはそれを決して口にはしないが、そうであることは紛れもない事実なのだ。
そんな魔物達が本気になることは出来れば避けたいと俺は思うのだが。
事はそうはいかなくなっている。

未来の出来事ではあるのだが、ダイコクさんに手を掛けたということに他ならないからだ。
ダイコクさんは俺にとっては、まだまだ気を置けない相手ではあるのだが、その存在は友と言っても過言では無いのだ。
それぐらい俺は彼に胸襟を開いている。
ダイコクさんは北半球で初めて出会った神であり、協力して共に『シマーノ』と『ルベント』を結び付けた仲なのだ。
苦楽を共にした間柄である。
消息不明とは、俺には拘束されているのか、弑されたのかという結論に達することになる。
それをはいそうですかと、平然と受け入れるだけの胆力は俺には無い。
全力でその相手を探し、然るだけの処置を行わなければ気が済まないのだ。
それに今なら未然に防ぐことができる。
そう、今なら可能なのだ。
そうしないことに理由はない。
今できることを全力で取り組むべきなのだ。

俺は半分神だが、それはまだ神では無いということだ。
ここのグレーゾーンを俺は有意義に利用したいと考えている。
それに創造神様は俺に言ったのだ。
好きにしろ、任せると。
この意味は大きい。
それは俺にしか出来ないことがあるから一任してくれたと、俺は勝手に考えている。
多少の荒事も見て見ぬ振りをすると、お墨付きを頂いたと俺は拡大解釈すらもしているのだ。
万が一それを認めないと言われても、だから何だと俺は胸を張って言える。
詰まる処、俺は腸が煮えたぎっているのだった。
どうしても許せない!
それぐらい今回の出来事を俺は許せないでいたのだ。
まだ起きてはいないことではあるが、そうしようと目論む者達がいるということが俺は許せなかった。

どうしてそう考えるのか全く理解ができないが、炙り出して懲らしめてやろうと思う。
いい加減、神を舐めるんじゃないよ!
何が何でも追い詰めてやる‼
俺は決意を固めたのだった。