☆本日の作業用BGMは、『ワールドオーダー』(ワールドオーダー)でした。
 デビュー曲だそうです。好きです。
 彼らの曲は映像でこそ、なのは当然そうなんですが、ノリがイイのでBGMとしても重宝してます。
 MVは街中のロケが多く、周囲のリアクションが面白いです。気が付くと一時間とか平気で見入ってしまいます。
 とにかく楽しくて仕方ないのです。……私だけ?

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 空は雲一つない快晴——というほどでもなく、雲は一つ二つしょんぼり漂っております。
 別に完璧な快晴でなくていいですよ。一点の曇りがあるくらいで丁度良いでしょう、何事も。

 土曜の稽古後、ふと「そうだ、柴又行こう」と思い立ちました。出不精の私が。

 昨日、やんす(仮)の話(※最初の来店時)を聞いていて、なんとなく「記念館」に興味が湧いたと申しますか。

 爽太くんと――綾女にも声を掛けてみました。特に二人きりのデートを想像したわけでもないので。


 三人表でもにょもにょしていると、タオルを首に巻いた兄様が通り掛かりました。

「あれ? どうした三人揃って。おえかき?」
「『お出掛け』でしょう? 『お』しか合ってない」
「『お』と『か』は合っとるだろ。どこ行くんだ」

 ざっくり説明すると、兄様は懐から一万円札を二枚抜き取り、私の頬をさわっと撫でました。

「なにをするハゲっ」
「折角だから、草だんごを買って来てほしいのである」
「……ああ、高○屋ですか、と○やですか? 皆に振る舞うのですね」
「なにをいう~早○優! 俺が一人で食べるに決まっとる。今日の夕餉(ゆうげ)は決まりだ!」

「高○屋老舗」は、映画「男はつ○いよ」で寅○んの実家としてロケ地となったお店だそうです。


「どうせなら亀○本舗で頼む、2……いや3ケースな。残った金で昼餉(ひるげ)でも食むがいい!」
「マジか兄貴?! 太っ腹!」
「先生ありがとう!」
「領収書忘れずになッ!」

 二人満面の笑みでハゲを持ち上げました。当のドヤ顔がウザいです。……なんの経費か。


☆☆☆


 浅草で乗り入れの京成線に乗り込み、柴又まで揺られて行きます。
 車内は混み合っているわけではありませんが、なんとなく三人固まって立っております。
 時折、車窓に流れる住宅街にぼんやり目を向け、人の営みに思いを馳せたり……。
 あまり電車に乗ることもありませんが、速度は殊更緩く感じられます。

 惰性でダベっていると、ガタンと大きく揺れました。
 向かいに立つ爽太くんの片足が、私の股の間に深~くカット・インします。

「あ♥」
「ご、ごめんなさい神幸さん」
「い、いえ……」

 私のデリケートな部分が新鮮(?)なダメージを……。

「どうした神幸ちゃん。爽太に『STO』でも掛けられたか?!」※1
「いえ、どちらかというと『内股』かも……」
「内股? 『俺ごと刈れ』じゃなくて?」※2

 心配そうに見上げる爽太くんの顔を見れたものではありません。
 ……綾女を道連れにしてよかったです。


☆☆☆


 柴又へ到着いたしました。意外とあっという間だったような。
 車内での遣り取りが存外愉しかったやもしれません。
 ふと――爽太くんと夫婦になった暁には、こんな事も日常風景になるのだろうか……。
 悪くないと思ってしまいました。本当にそうなればどんなに楽しいでしょう――。


 駅前に、確かにありました。銅像が。
 早速綾女の先導で、各種組み合わせの自撮り写真を撮りまくります。
 
 なんですかね、特に渥美さんのファンでもないのですが。皆嬉々として写真に納まるのが不思議な心持ちです。
 当然ながら銅像は無言ですが、心なし嬉しそうにも見えるのでございます。


 陽光もそこそこで少しだけ暖かいご陽気。
 湯島天神でのデート時とほぼ同様の装いですが、ベレー帽だけ今回はグレーです。
 あの時ほどお股がスースーすることもありません。ほどよく快適でございます。
 

 参道商店街へ入ってすぐ、綾女がとある店に立ち寄り、「寅焼き(※どら焼き)」なるものを買い求めました。

「焼きたてですよぉ~」

 お店の女の子が緩い声で煽っています。
 渡された「寅焼き」を手にした綾女は、支払いもそこそこに(かぶ)りつきます。

(つめ)てっ?! あれ? 中アイスじゃんか!」
「冷たい方がいいんですぅ~」
「オブチさんかよ! 冷めた○○なんて頼んでないゾ?!」
「今イチオシなんですよぉ~」
「イチオシはいいから頼んだヤツをくれい!」

 結局両方食べ切ったのでした。


 さほど長くはない参道の突き当りに、かの柴又帝釈天(経栄山(きょうえいざん) 題経寺(だいきょうじ))の二天門が見えます。
「帝釈天」とは、「梵天(ぼんてん)」と並んで仏教の二大護法善神だそうで(※ウィキより)。
 要は、なんのこっちゃか良く分かりません。
 寅さんが産湯を――くらいしか知らんのですよ、お母さま。
 あ、寛永六年(1629年)開創の日蓮宗の寺院だそうです。


 二天門を潜り抜け、帝釈堂へ。
 松でしょうか、濃緑なイケメン(※木です)がそこかしこに集っていらっしゃいます。
 爽太くんには敵いませんけどね(?)。

「ここは、彫刻ギャラリーが有名だそうですね」

 爽太くんが眼鏡の鏡面を光らせて呟きます。
 公式HPによれば――。
 帝釈堂の外壁に沿って、十枚の銅羽目彫刻が張り巡らされているそうで。
 一方で、欅材の木彫は「近世法華経美術の頂点」と言われているとも。
 大正11年に、加藤寅之助という方が最初の一枚を彫り上げ、翌年の震災をものともせず、名人たちの精進により昭和9年に完成したそうです。
「不屈の信仰と芸術の結晶」――HPでは熱く語られております。

「なるほど。それはそれは……へー」
「ギャラリーの受け付けしとこうか?」

 綾女が殊勝なことを申しますが、

「いえ。有料なのでやめておきます」

 ……爽太くん無言。

「あの……浮いたお金で、う、鰻を! 食べたいなあと……」
「うなぎですか、いいですね!」

 ああよかった。機嫌を損ねないで。

「じゃあ、とっとと鰻食おうぜぃ! 腹ペコだよお」

 寅焼きを二個腹に収めたハズの綾女が、不思議なことをのたまいました。


 再び二天門を潜り抜ける際、爽太くんが眼鏡を外し、シャツの裾でキュキュッと始めました。

「爽太くん、歩きながらは危ない――」

 言い差した途端よろめく爽太くん。
 咄嗟に両手を広げた私の胸元へ、彼の頭がズッポシ――。
 胸の谷間(たにあい)で熱い息遣いが数秒繰り返され。

 ――ん? あれ?

 ゆっくり離れた爽太くんの顔がほんのり赤いです。うんうん。そうそう(?)。

「ごめんなさい神幸さん。今日はあやまってばかりで……ちょっと、ト、トイレに行ってまいります!」

 トイレ……用足しですよね。当たり前。
 リニアモーターカーのような滑らかな加速で(見た事ないケド)、少年が一直線に何処(いずこ)かへと走り去ります。


 後ろ姿をぼうっと見送る私に、隣に立つ綾女が、

「――神幸ちゃん」
「なんでしょう」
「さっき、爽太に抱きつかれて面白い顔してたけど」

 ほう、と溜息を吐いた私は、

「えーと……び○ちくおっ立ちまして。くりびつ」
「は?」
「なんだか胸の辺りがモヤモヤと……」
「………………溜まってんじゃね?」

 綾女が冷めた目線を寄越します。

「綾女ちゃん。しれっと仰いますが、貴女も処女ンでしょ?」
「…………」
「………………溜まってんじゃね?」

 綾女は何も言わず、ガックリと頭を垂れたのでございます。

 ……仕様がありません。こう見えて乙女な姉妹ですから。許してください。


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★※1 「STO(スペース・トルネード・オガワ)」。小川○也のプロレス技。柔道の大外刈りがベース。DAI語ではありません
 ※2 「俺ごと刈れ」――タッグ戦における、小川と故・橋本の合体技。味方の橋本ごと小川がSTOで刈るという……相手にも橋本にもダメージがデカイ。