青い空の広がるある春の日のことです。
花園に咲いた桜の木を背に、少女は甘いサイダーを口に含みました。
少女がサイダーを呑みこんでしまう前に強く吹いた暖かい風。
少女が黒い髪を靡かせながら後ろを振り返ると、風に乗った美しい桜の花びら達が一斉に散っていきます。
少女は頬を伝った一筋の涙を指で拭いながら、彼に会いたいと散りゆく桜の花びら達の全てが地面に落ちてしまう前に強く強く願いました。

夏が来れば彼は私を連れ出してくれるかしら。
そんな淡い期待を抱きながらこの花園で少女は小さく可憐に咲くのでした。
幸福を唱えながら駆け回った花園がいつしか少女にとって味気のない窮屈な牢屋となっていることに彼は気がつきません。もちろん少女が彼を想っていることも。
だから今日は昨日より少しだけ多くの愛を少女は歌声に吹きこむのでした。
愛から目を背け、この花園から抜け出せないか弱き少女は己の保身ために歌い続けます。
きっと明日もこの花園で一人、少女は彼を想いながら愛をうたうのでしょう。