ここに来て何日たったか分からないある日、見張りの男の人たちの話し声が聞こえた。
子供たちの泣く声やうめき声でよく聞こえなかったが「·····この子供たちは·····で売るのか?」と話していた。
「まあ··········だからな、あーでも113番は年齢的にどうだろうな」
113番それは女の子につけられた名前だ。
売られるのかと、自分のことなのに全く興味が無い様子だった。
もういつ死んでも、どうなってもいいとさえ思っているので興味がないのだろう。
そしてその後すぐに、先ほど喋っていた男達によって檻の鍵が開けられた。
「入れ」
「ほらお仲間だ」
と言って女の子よりもずっと幼い5歳くらいの女の子が泣いて『嫌だ、入りたくない』と抵抗していた。
「いやだぁ、ぅっ……ママのところに、ぅっ……」
「さっさと入れっ!」
無理やり押し入れられて、5歳の女の子は檻の中で手をついて転けてしまった。
「チッ、手間かけさせんな」そう言って男は帰って行った。
「ぅっ、うっ……」
5歳の女の子はそれからも泣き止まず、ずっと泣いていた。
何時間も。
「……」
やっと泣き止んだと思ったら、「……おねえちゃんのお名前は?」女の子の方を向いて尋ねていた。
それに女の子は少し黙った後、指で「(1、1、3)」と現した。
「イチ、イチ、サン?」
首を傾げながらそれが名前なの?と不思議そうに、目を見開いて驚いたようにきく。
涙が一瞬にして止まった。
5歳の女の子は今度は自分の名前を名乗る。
「そうなんだ、私はえみ。栗原えみ(くりはら えみ)」
5歳の女の子、栗原えみちゃんが名乗っても女の子は特に何も返さない。
「おねえちゃんは怖くないの?」
女の子は頷く。
「おねえちゃんは喋れないの?」
女の子は首を振る。
「おねえちゃんは寂しくないの?」
女の子は頷く。
「おねえちゃんは、ママとパパに会いたくないの?」
·····女の子は何も答えなかった。
質問攻めは他にも続いた。
「会いたい人はいないの?」
「助けてくれる人はいないの?」
「おうちで待ってる人はいないの?」
「兄弟は?」
などと。
そして今日も一日に一度のパンが配られた。
えみちゃんは何も気にせず一気に食べてしまった。
そのせいで、時間が経ってお腹が空いたとえみちゃんは泣き出してしまった。
「おなか、すいたあ、ぅっ……」
「ぅっ……おねえちゃんは、ぅっ……おなかすか……ないの?」
女の子はいざという時のために取っておいた自分のパンをえみちゃんに差し出した。
「いいの?」
女の子は頷く。
「おねえちゃんありがとう!!」
その夜。
突然えみちゃんは自分の話をしはじめた。
「えみね、パパと血が繋がってないんだって。でも生まれたばかりの、まだ赤ちゃんの妹はパパともママとも血が繋がってるんだって。それがえみにはまだ何が違うのかよくわからないの。」
「……」
「でもね、パパはいつもえみを見てくれないんだ。妹のことばっかり。妹のことは可愛いって大事だっていつも見てるのに。それで、言っちゃあいけないこと言っちゃったの。」
「……」
「妹なんかいらないって、いなくなればいいって。パパなんか……嫌いだって。家を飛び出しちゃったの。でもちゃんと考えたら、えみはお姉ちゃんだから妹を守らないといけないって。それなのに怖い人たちにこんなところに連れてこられて……。」
「……」
「あんなこと言ったからバチが当たったんだよね。だから早く帰って謝らないといけないの。それでパパに、血が繋がってても、血が繋がってなくても、パパはパパだよっていいたいの。」
「……」
えみちゃんは目にためた涙を乱暴に手で拭いた。
今度は泣かずに、泣きたいのをグッと我慢している様子だった。
女の子は·····何も答えなかった。
答えられなかった。
その話を聞いた次の日のことだった。
「───っ──!!!?」
突然ものすごい音がした。
何かが爆発したみたいな音。
地面が少し揺れた。
それくらいの衝撃があった。
子供たちは怖がって、泣いたり、叫んだりしていた。
えみちゃんも「ぅっ、こわいよ……おねえちゃん……」と女の子の腕に小さい手で強く握って引っ付いていた。
そんな中でも、女の子は至って冷静だった。
いや、冷静でいないといけないと思ったのだ。
すると黒ずくめの男の人が檻がならんである、この部屋に入ってきた。
「クソ!!なんで···ろ···みが」
遠くてよく聞こえなかったが、なにかただ事では無い様子だった。
そして男は檻の中にいた子供たちを·····一人一人·····銃で──していった。
だんだん泣いている子供の数が減っていく。
破裂音、発砲音そして鳴き声が近くなって来て、静かになった。
えみちゃんは怖くてうまく声も出せていなかった。
「·····はっ·····はっ·····や、」
そして突然、女の子の腕を握っていた小さな手が外れた。
えみちゃんは女の子の横でバタンっと、倒れた。
あー自分の番がきたのだと女の子は思った。
「お前で最後ッ」
女の子は目を閉じて、その時が来るのを待った。
安全装置が外される音が聞こえた。
これでやっと·····
と女の子が思った瞬間───·····
遠くから銃声
それと同時に何かが、誰かが倒れる音がした。
自分には何の衝撃もなく、痛みもない。
女の子は瞑っていた目をゆっくりと開けると、銃を向けていた黒ずくめの男が倒れていた。
では、先ほどの発砲音は───
「チッ、ひでぇなぁ」