1週間後───
母親だけ休みで、父親は休日出勤だった日。
母親に「洗濯」とだけ言われ、女の子はリビングから出て、玄関がある方と逆の左側に進みお風呂場にいく。
そして、脱衣所で服を脱ぎ、そのまま脱いだ服を持ってお風呂場に入り体を洗い始めた。
女の子の髪は鎖骨よりも少し長いくらいで、前髪は目よりも下まである。
あんな両親なので、もちろん美容院にも行かせてくれない。
むしろ美容院という存在すら知らないだろう。
そのため、親がいない隙を見て女の子が自分で自分の髪を切っていた。
なので髪の毛先は揃っておらず、ガタガタ。
長いと、髪を引っ張られた時、より痛い。
だから隙を見ては自分できるようにしていた。
それに洗うのも乾かすのも楽だし、いつ洗えるかわからないから長いままにはしていなかった。
体と頭を洗った後は、水の入った桶に先ほど脱いだ自分の服を入れて、手洗いでゴシゴシと洗い始めた。
思春期の女の子が父親に対して一緒に洗濯しないでというのと同じような感覚で、母親は自分たちの物と一緒に洗いたくないと言って女の子には手洗いで洗うように言っていた。
洗濯して干すのも、乾いた物を取り込んで綺麗に畳むのも、それを定位置に戻すのも全て女の子がやっているというのに。
それでも女の子は文句の一つ言わず、言われた通りに淡々とこなす。
ただ女の子が洗えるのは月に数回、外に出る時だけだった。
近所の人たちに怪しまれないようにするために月に数回、外に出ている。
綺麗にしてから。
近所の人たちは学校に行ってないのも知っている。
しかし母親は、「体が弱いから家で安静にしているの」と嘘をついて近所の人たちを上手いこと騙していた。
本当に近所の人たちはこの状況に気づいていないのかは、分からないが·····。
いや、気づいている人もいるだろう。
その女の子に可哀想な、哀れな目を向ける人もいるから。
病気持ちだと思っているからかもしれないが、それとは少し違う気がする。
人は目でコミュニケーションをとるとも言う。
女の子は特にその人の目に敏感だった。
『私にはどうすることも出来ないから私に助けを求めないでね。』
『私も自分のことでいっぱいいっぱいなの。だから他の子のことまで考えれない。』
そう、目が言っている。
みな、面倒なことに巻き込まれたくないのだろう。
見て見ぬフリをする。
今日もまた外に出るのだと思い、女の子は急いでお風呂から出た瞬間、玄関の鍵が開く音が聞こえた。
(ガチャっ)
そして知らない、全身黒ずくめの人達がドカドカと玄関から入ってきた。
どう見ても怪しい黒ずくめのサングラスをしたガタイのいい男の人の後ろに、傷だらけの父親がいた。
「そ、そいつだ·····」
父親は両腕を前に拘束されていて、そのまま肩まで両腕をあげて女の子、自分の娘を指差した。
「これで許してくれっ!本当に金はないんだ!命だけはっ!」
父親は泣きながらそう叫ぶ。
どうやら黒ずくめの男たちは借金取りかなにかのよう。
「こいっ!」
女の子はその黒ずくめの人達に腕を引っ張られ、どこかに連れていかれようとしている。
しかし女の子は抵抗することはせず、そのまま連れて行かれようとしていた。
そして母親がいるリビングの前を通った時、母親と目があった。
その時母親は、連れて行かないでと黒ずくめの人たちから女の子を助けようとするのか·····
·····いや、そんなはずはなかった。
それで許して貰えたことに母親はホッとしていた。
仮にも実の親なのに、女の子は見捨てられたのだ。