・
・
俺は黒神組幹部、白洲零さんの下についている汐田だ。
俺は比較的最近黒神組に入った。
黒神組はここ最近ものすごく変わったと聞く。
主に幹部の皆さんが。
それは、ある女の子、七瀬桃子さんがきてからだそう。
俺も彼女のおかげでここに入れている。
桃子さん、いや、桃子姉さんと呼ばせていただこう。
桃子姉さんがきてから黒神組の幹部たちはものすごく柔らかくなったとみんなが口を揃えて話ている。
ただそれは桃子さんがいる時だけに限る。とも。
でも確かに、以前聞いていた黒神組の話とは全く違う。
噂が一人歩きをしている。
憎んでいる人は大勢いると聞く。
若いくせに調子乗ってるだの、ちょっと顔がいいからチヤホヤされているだけだの他にも黒い噂が絶えない。
これはどちらかというと妬みに近いだろう。
職業が職業なだけあって人様に自慢できることではないが、それでも前いたところよりはよっぽどいい。
桃子姉さんに何かあったら多々では済まない。
最近、俺よりもあとに入った新入りの部下は、桃子姉さんの存在を知らなかったよう。
そのためにあんな事件が起きた。
「なんだテメェ」
と部屋をうろうろしていた桃子姉さんを睨みつけて、桃子姉さんの腕を強く掴んだ。
「誰かのガキか?ここはお前みたいなガキが来るところじゃねーんだよ」
そして外に追い出そうとした。
考えてるだけでもゾッとする。
そして俺はすぐさま助けに入ろうとしたのだが、それよりも早く助けが入った。
「その手、離しててくれる?」
そこに運悪く、いや、運良く白洲さんが登場した。
そしてその新入りの男の腕の骨を折る勢いで腕を強く握って顔をニコッと笑わせた。
でも目が笑っていない。あー恐ろしい。
「ちょっと来てくれるかな?」
「え、し、白洲さん!?な、」
「(あーこいつ終わったな)」
桃子姉さんを助けるために止めに入ろうとしていた部下たち全員がそう思った。
心の中で皆手を合わせた。
「(お前のことは忘れないよ。えっと名前なんだっけ?伊藤?山田?まーいいや、お前のことは忘れないぞ)」
「しーちゃん·····」
「大丈夫だよ。少しお話しするだけ」
「いじめちゃだめだよ?」
「うん。いじめないよ。お話しするだけだから」
そういって2人は消えていった。
そのあとあの新入りは人が変わったようにものすごい腰が低くなって戻ってきた。
こいつ終わったなとだれもが思ったが、一応命は助かったらしい。
新入りということで大目に見てもらえたのか、桃子姉さんがあーいったからか、どちらにせよ無事で済んだのは奇跡だな。
それからというものあの新入り部下は桃子姉さんを見るとものすごい怯えたように
「お、お·····オハヨウゴザイマス·····お先にドウゾ」
といった感じになってしまった。
いったい何をされたのか·····いや、考えたくもない。
そういった事件もあったため、指導マニュアルに“桃子姉さんは神様と思え”と付け足されていた。
そんな桃子姉さんが居なくなった。
居なくなったは少し語弊があるが、桃子姉さんは新しい場所、新しい家族の元へと行った。
そのため、アジト内はものすごく静かになった。
元々ここに居た人たちは元の黒神組に戻っただけだろうが、俺なんかは入った時から桃子姉さんが居て、仕事も桃子姉さんの護衛だったもんで、なかなか慣れないし落ち着かない。
黒神組幹部様たちもぽっかり穴が空いたように見える。
以前のように笑顔がなくなった。
仕事に関すること以外はほとんど喋らない。
黒神さんは特に。
常に近くで見てきた幹部様たちはそりゃあ寂しいだろうな。俺でも寂しいのだから。