里親が決まったと言ってから3日が経った。

そしてついに、お別れの日──。


部下が運転する車の後ろに、桃子が持っている全ての荷物を入れる。


誕生日にみんなからもらったもの。

一緒に選んで買ってもらった服。

夢の国で買ってもらったキャラクターの被り物。


出会ったのがあの場所なだけあって、桃子は最初、何も持っていなかった。

それをみんなが一から揃えてくれた。

桃子が持っていく荷物には、一つ一つ、全てに思い出が詰まっている。

 
全ての荷物が入れ終わり、桃子は車に乗るために足を少し上げた。
が·····足をとめ、再度地面に足を戻す。

そして後ろにいたみんなの方を振り向く。


「·····」


しかし桃子はそのまま黙ってしまった。


「ん?どうした?」


黒神は桃子にしか見せない優しい顔をして桃子に声をかける。

そこでようやく桃子は口を開く。



「私は·····いつ死んでもいいと思ってた。こんな場所で生きてても、死んで消えても同じだと思ってた。」

「もも·····」

「でも·····本当は死にたくなかった。
誰かに助けて欲しかった。
助けてって、私も他の子達みたいに泣きたかった。叫びたかった。

えみちゃんに握られてた時だって、すごく怖かった。震えが止まらなかった。

みんながいたから私は今こうして生きてる。
 
“みんなは一人の人生を救った”。

生きる意味を教えてくれた。
生きる楽しさを教えてくれた。

見つけてくれたのがみんなでよかった。
ここにきて後悔なんてない。

みんなの選択は間違ってない。
みんなの選択は正しかったよ!」


「「もも(ちゃん)·····」」


「やっぱりももには敵わねーな」


黒神は呟くようにそういった。


それは、その言葉は、メンバーたちの心を救った。

この選択は間違いなんじゃないかと何度も思った。
極道に関わると碌な目に合わないから。

危険なこともいっぱいあった。

でも今、やって良かったと思う。桃子の言葉で。


メンバーたちもまた、桃子に救われた。


桃子はやっぱり、人の心を読むのが得意なようだ。

 
「みんな!今までありがとう!」



「お世話をしてくれて、私に勉強を教えてくれて、泣き方を教えてくれて、笑い方を教えてくれて、声の出し方を教えてくれて·····かんじょうを教えてくれてぇ·····たすけの·····ぅっ·····もとめかたをぉしぇてくれてぇっ·····ズンっ·····いっぱぃ·····いーーっぱいいろんなことを教えてくれてえぇ·····スンっ·····この2ヶ月間·····短くて、でもとっても長くて、すごく·····ズンっ·····すごく楽しかったっ!!

もっとみんなと·····ぅっ、いたかったぁ·····ズンっ、ぁ、ズンっ、ずっといたかった、ぁ·····。
ありがぁ·····ぅっ·····ズンっ、ありが、とぅ·····」
 
「「グズッッ(鼻を啜る音)」」
 

「·····ぅ·····でも·····やっぱり·····ぃきたくない·····スンッ、みんなと·····これからもいっしょに·····ぃたぃ·····」
 
「「もも(ちゃん)っ·····」」
 

「いや·····ここにいる!ここで·····ずっとみんなとくらしたい!」

「「グズッッ(鼻を啜る音)」」
 

みんな泣いているのを必死に隠そうとしているが·····もうバレバレだ。
 

白洲は手で顔を覆って、顔が見えないようにしているが、鼻を啜る音を立てている。

赤宮は耐えきれず横を向いて、もうガッツリ泣いてしまっている。桃子の名前を呟きながら。

青葉も耐えきれず泣いてしまっている。涙が抑えれず上をむいて必死に止めようとしている。目を真っ赤にして。

黒神は泣いてはいないものの、桃子を見ないように横を向いたり後ろを向いたりして落ち着きがなかった。

だが、桃子が泣き出して、耐えきれなかったよう。

自分でも気づかないうちに、反射的に桃子の方へ走り寄っていた。
 

「っ·····泣くなッ!」


黒神は桃子を強く抱きしめた。


「もう、涙を拭いてやれない」

「いやだぁ·····っ、」

「·····初めて、わがまま言ってくれたな」

「ぅっ·····ぅっ·····」

「もっと早く言えよ」


切ない顔をしている。


「やだぁ!いきたくない·····ずっとっ·····グズっ、ずっとここにい゛た゛い゛っ!!」


桃子の目から次々涙が溢れ出る。
 

「心配するな、一生のお別れじゃねぇ、またどこかで会える。」

「やだ·····もっとみんなと·····いたい·····っ、」

「そうだな·····。俺も、もっと、ももと一緒にいたいよ。」


どんどん溢れ出す桃子の涙を拭きながら頭を撫でる。


「でも大丈夫だ!これから楽しいことがいっぱい待ってる。
学校にも行ける。新しい家族もいる。友達もできる。だから·····そんな悲しそうな顔しなくても大丈夫だ。な?」

「でも·····しらない人ばっかりで·····どうしたらいいか·····ぅっ·····分からない·····」
 
「その不安は最初だけだ。それに俺達はもものことをいっぱい知ってる。カメラが好きで·····」


すると黒神の後ろから


白洲『猫のキャラクターが好きで·····』
赤宮『甘いものが好きで·····』
青葉『ハンバーグが好きで·····』

みんな桃子の好きなものを呟くように言った。
 

「だるまさんが転んだも好きだな。
後は、箸の持ち方がちょっと変なとこ。
子供のくせにちょっと大人びてるとこ。」


「·····かと思ったら、寝ることが好きで、寝起きは寝ぼけてめっちゃ甘えてくるし、熱が出た時もめっちゃ甘えてくるし、普段は全然甘えねぇくせに、そういう時だけ子供っぽく甘えてくるのもほんとめっちゃ可愛い。

そうゆうとこを見せればいい。強いとこも、弱いとこも、全部!!

そしたらすぐに仲良くなれる。
·····でも、最後のはあんま見せるなよ。特に男には!」
 
「·····フフ、ぅん·····。スンッ、これ、貸してあげる。今まで撮ったやつ」


そう言って渡してきたのは黒神があげてからずっと、桃子がいつも持っていたカメラだった。


「いいのか?」

「うん、貸すだけ。また会った時に返して?」

「分かった。」


黒神は桃子からカメラを受け取る。


「ごめんね、わがまま言って·····ズンっ、れんくん、あの人から守ってくれてありがとう。手を繋いでくれてありがとう。れんくんに頭撫でられるの大好き!」

「うん、知ってる」


黒神からみんなに目線を変える。


「しーちゃん、勉強を教えてくれてありがとう。優しくしてくれてありがとう。しーちゃんに髪やってもらうの大好き!」

「うん·····」

「みーや、いつも空気を変えてくれてありがとう。楽しい空気にしてくれてありがとう。いつも気にかけてくれるみーやが大好き!」

「うんッ」

「あおちゃん、おいしいご飯を作ってくれてありがとう。ハンバーグをいっぱい作ってくれてありがとう。あおちゃんのハンバーグ大好き!」

「そんなのまたいつでもッ」


「ぅん·····。

みんな·····本当に·····今までありがとう!
今までっ·····スンっ、おせわになりましたあッ!!」


みんなにありがとうをいっぱい伝えて、頭を下げた。

そして頭を下げたまま呟くように、


「私を見つけてくれてありがとう。あの時、私の手を取ってくれてありがとう」


頭を上げ、最後に、みんなに笑顔を見せた。

メンバーはまた、桃子の新しい顔を見た。


泣いていて、寂しそうで、悲しそうで、でも·····笑顔で·····。

それは無理やり笑顔にしている顔じゃなくて、自然と出ている笑顔。

眉毛を少し寄せて、目からは涙の粒が流れていて、子供っぽい、幼いかわいい無邪気な笑顔。


桃子はこんなにも感情を出すようになった。
ここに来た頃とは大違い。

子供は成長するのが早いというが、本当にその通りだ。
桃子はものすごく成長した。


そのままみんなから車に目線を移して、車に乗り込んだ。


運転手する部下が窓を開けてくれた。
そこにメンバーたちは近づく。
 


「ももはもう十分苦しんだ。だからこれからは楽しく生きていんだからな」

「うん」

「しゃべっていいし、笑っていいし、泣いていい、怒ってもいい」

「うん·····」


「·····て·····ほしぃ」

「ん?」
 
「·····私は·····みんなが生きている世界のことはなにもわからない。
これからなにが起きるのかも私にはわからない。」


「·····簡単なことじゃないのはよくわかってる。
でも、それでも、お願い·····。」

「?」

「絶対に·····“死なないでください”。」
 
「っ!·····」




「これは、私からの最後のお願い!
どうか、生きててください。」

「もも、おまえっ」
 
 
そしてゆっくりと車が走り出した。


そして桃子はその窓から少し顔を出して遠くなっていくみんなの方を向く。

最後の、本の数秒でも、みんなの顔を見ていたかったから。


みんなも車に乗っている桃子を見つめる。
そして叫んだ。


黒神「我慢ばっかり覚えなくていい!だからこれからは!もっとわがまま言えよ!」

白洲「みんなに無理して優しくしなくていんだからね!嫌いなものは嫌い、好きなものは好きって!ちゃんと言うんだよ!」

赤宮「困ったときは、一人で抱え込まず、ちゃんと助けてって!言うんだぞ!」

青葉「甘えたい時は甘えていい!我慢して強がらなくていい!誰かに頼れっ!」

みんな「「元気でなァーーッッ!!」」


みんなは離れていく桃子に手を振る。

みんなの言葉が、桃子にちゃんと聞こえたかはわからない。

しかし思いは伝わっただろう。

運転手も泣いてしまっている。

幹部たちの後ろでずっと声を出さないように必死に我慢していた桃子を護衛していた汐田、佐藤、その他桃子をずっと見守ってきた部下達まで、みんなボロボロ泣いている。


みんなが見えなくなってからも、桃子は窓の外をずっと見ていた。


 ・

 ・

 
──私はあの日ヒーローと出会った。



赤色、青色、白色、黒色のかっこいいヒーロー。

私を見つけてくれた。

手を差し伸べて、私の手を取ってくれた。


でも、私は人との接し方がよく分からなくて、どう接していいのか戸惑っていた。

そんな私を知ってか知らずか、私が慣れるまで待ってくれた。

たまに強引になることもあったけど、あれがなかったら、もっと慣れるのが遅かったかもしれない。


もっと甘えたかったなぁ。

次会った時はもっと甘えたいなぁ。


次あったら、友達ができたこと、家族と仲良くやっていること、ちゃんと勉強をしていると言いたい。

だから、そのためにこれから頑張る。


「みんなに見つけてもらえて、本当に良かった。私のヒーロー達」