「ハァー、雑魚すぎだろ」


気絶して倒れている柏木達を見ていった。


すると、(ガチャっ)奥の方の部屋からゆっくりと人が出てきた。


その人物に桃子は震え出した。


「話と違うじゃない·····」


そう言って出てきたのは桃子の母親。


柏木の言っていた依頼主とは桃子の母親だった。


そして先ほど変装して、黒神達から離れるように言ったのも母親だった。カツラも取って今は変装を解いていた。


どうしてそこまでするのか·····。

 
その様子を見て黒神が桃子に近づき


「大丈夫だ」


と言って桃子の前に立ち桃子から母親が見えないようにした。


「二度と近づくなって忠告したはずだが?」


黒神の言葉を無視して、黒神の後ろに隠れている桃子に近づきながら

 
「今までごめんなさい、あなたが悪い人に捕まったから、この人たちに頼んで助けようとしたの。」


倒れている柏木を見て「絶対勝てるって言ったのに、使えない」そうぼそっと呟き、また桃子の方を向いて

「ネ?私のところに帰っておいで?」という。

 
「……」


桃子は黙って母親を見つめる。

白洲達も桃子にこれ以上近づかせないようにガードする。


「もうあんなことしないからこっちにおいで?ね?ネェ?」


「行くわけねーだろ」

「なんですって?」

「そー言ってまたやんだろ?」


そう言った黒神に向かって


「もうしないわよ!」


また桃子に目線を戻し


「あなたがいなくなって気づいたの、あなたがいないとイライラして落ち着かないのよ!それに旦那とは別れたわ、だからもう大丈夫よ!怖いものは何もないわ!だから·····ねっ?早くこっちに·····」


母親は桃子に手を差し伸べようと腕を上げた。

しかし桃子は、ビクッと肩を上下させ、前に立っている黒神の後ろで身を縮こませた。


それを見た母親を少しびっくりして、眉間にシワをよせ、その行き場をなくした腕をゆっくりと下げた。

「もも、ちょっと耳塞いでろ。今から俺はお前のかーちゃんに酷いこと言う」

「大丈夫!聞いてる!」

「·····わかった。(スゥー)」


そう言って黒神は息を吸い始めた。

吸った息を全部吐くように、思いっきり


「バッッカじゃねーの!!イライラして落ち着かない?それで?あんたはももがいてストレスがなくなるのか?殴って解消するか?蹴って解消するか?罵声浴びせて湯船で溺れさせるか?」

「っそんなことしない!!」

「今まであんたはそーしてきたんだろ?」

 
「知ってるか?ももが好きな遊び。

ももは、だるまさんが転んだが好きなんだってよ。
なんでかわかるか?見て欲しいからだよ。

鬼ごっこは鬼から、人から掴まらないように逃げなきゃいけねぇ、かくれんぼは見つけられないように隠れなきゃいけない·····

「何を当たり前なっ!」

でも!だるまさんが転んだは、動いてないかその人ジッと見る。

捕まっても手を繋げる。

ももは暖かい温もりが欲しかった。
見てて欲しかったんだよ、あんたらに。ゲームでも、なんでもいいから。

ただあんたらに·····ずっと見てて欲しかったんだよ·····」

 
「そ、そんなの言ってくれればいつでもするわよ」


「ももはずっとあんたに伝えてたと思うぞ。ももは欲しいものとかあるとジッとそれを見る癖があるんだ。言えばいいのに黙ってジッと見つめてる。」


 ・

 ・
 
──桃子が5歳の時·····

 
月に数回の外出で、公園の前を通った。その時公園で子供達が遊んでいた。

桃子と同じくらいの歳の子が。
 

木の前に立ってみんなに背を向けている女の子


『ダールーマーさーんーがーこーろんだ!』


いい終わりと同時に後ろを振り向く。
そしてみんなを見て動いている人がいないか見る。


『あ、ゆいちゃん動いたー!』

『ハハ、動いちゃったぁ』


動いてしまった女の子が、木の前に立っている女の子のところへ行き、手を繋ぐ。

そして楽しそうに笑い合っている。

 
『もう一回だるまさんが転んだやろう!』

『うん!』

『いいよ!』

『楽しいね!』

『ねっ!』


桃子は、楽しそうに遊ぶ女の子達をじっと見ていた。


「何してるの、はやく歩いて」


母親は一瞬公園の方をみるがすぐ目線を逸らす。

桃子は公園で遊んでいるのを見つけては、ジッとその様子を見ていた。


 ・

 
「っそんなの言葉にしないとわからないわよ!」

「言わせねーようにしたのは、あんただろ!あんたももに喋らねーように言ってただろ?」

「っ·····」

「あんたそれでも親かよ」

「·····っこれからはちゃんと見るわ!」


「これから?これからがあると思ってんのか?

あんた一度でも、ももの名前呼んだことあるのか?

さっきからずっと名前を口にしないあんたに、見てわかんのか?ももが苦しい時、辛い時、泣きたい時、お前はももの、ちょっとした変化に気づいてやれるのか?」


「·····ッ」


静まり返る。

そんな中、ずっと黙って効いていた桃子が喋り出す。


「毎日地獄みたいだった·····。」


その声にみんなは桃子を見る。

 
「それでも私はお母さんも、お父さんも好き“だった”。だって家族だもんっ!

でも、もう·····

お父さんと別れたから帰っておいでって·····お父さんは私を守ろうとしてた!

それをお母さんが壊したんでしょ!お父さんはまだ!·····許せる。

でもお母さんは·····あなたは許せない!!

それに私が帰る場所はもうあなたのところじゃない。」

「な、何言ってるのよ」

 
「私の誕生日覚えてる?」

「·····も、もちろんよ」

「そうだよね、覚えてるよね。忘れたくても忘れられないよね。大事な跡取り息子が亡くなった最悪な日だもんね」

「……」

 
「誕生日が大嫌いだった。誕生日にはプレゼントがもらえるんだって。ケーキを食べるんだって。

私知らなかった。

でも、みんなが誕生日は楽しいものだって教えてくれた。

生まれてきてくれてありがとうって初めて言われた。

あなたといたらずっと知らずに生きていくとこだった。人生損するところだった!」


「な·····何よッ!あんたせいでしょ·····何もかも!あんたがいなかったらあの子は助かってた!!そうよ·····あんたさえいなければ、あんたさえっ·····」


「私だって!なんで私が生きてるんだって、ずっと苦しかったぁ·····。

変われるなら変わってあげたかった!私がいなければ、私が男だったらって·····

そんなに後次が大事なの?
今いる自分の子よりも大事だった?
お金が大事?

そりゃあ大事だよね。でも·····それでも·····

一度でいいから私を見て欲しかった!

一度でいいから私の名前を呼んで欲しかった!

一度でいいから優しく·····触れて欲しかったぁっ·····。

私はもう、あなたのところには帰らない。
もうあなたをお母さんとも呼ばない。

でも、最後に一つだけ。




“お母さん、私を産んでくれて、ありがとう”。


私は生まれてくるはずだった子の分まで生きる。
(お兄ちゃんか弟だっだかもわからないその子の分まで)」


そう言って桃子はビルから出た。


桃子はお兄ちゃんだったのか、弟だったのかすら知らなかった。

両親は詳しいことまで桃子に話さなかった。
それといつ亡くなったのかも。

なので桃子はお腹の中でなくなったと思っている。
 

「何よ·····何よ·····なんなのよッ」


「ももの状況、居場所を二度も調べたってことは少なからずもものこと気にしてたんじゃねぇーの?」

「……」

「ももの兄弟が亡くなったのはもものせいじゃないだろ?あんたのせいでもねぇ、誰のせいでもねぇーんだよ。

辛かったんだよな。悲しかったんだよな。

でもそれはあんただけじゃねぇ。

ももだって·····父親だって、そうだったはずだ。
他にもやりようがあっただろ?

それなのにずっと·····」
 

「·····ショッピングセンターであの子を見つけた時、あの子は私に見せたことがない顔をしてた。
あんな表情初めて見たわ。

今までどんなことをしても、抵抗も、反抗もしなかった子が、私にイヤだと言った。
それにさっきも。なにあれ?今まで私たちに怖がる素振りも見せなかったって言うのに、私に、実の母親に、どうしてあんなに怖がるの?

あなたたちとちょっと一緒に居ただけで、あの子は変わってしまった·····。

あんな表情もできたのね·····。」


「一度は見逃してやったのにな」


(パッーーーーーンッ!!)

 
大きい音がした


「──·····。」
 

その後母親がどうなったのか桃子は知らない。


その後4人もビルから出た。


「「もも(ちゃん)、帰ろうか!」」


ずっと言いたかったことを言えてスッキリした様子の桃子。


「うん!!」