病院へ行った帰りに、桃子と赤宮が一緒にパフェを食べに行った時·····


「あれ本当に黒神組の幹部ですか?」

「そのはず、だが·····いや、確かにあの赤髪は黒神組幹部、赤宮幸助で間違いない!」


その男達は少し離れた席から、赤宮と桃子を見ていた。


外にはスーツを着たガタイのいい男、病院でも桃子の護衛として一緒にいた赤宮の部下も立っている。


「遠慮せず、好きなの選んでね」


赤宮はメニュー表を桃子に渡す。


悩んだ末、桃子が選んだのはイチゴパフェ、赤宮はチョコパフェを注文した。


そしてパフェが2人の元へ届いき、早速食べ始める。
 

「ももちゃん、アーン」


赤宮はスプーンに一口サイズのチョコパフェを乗せて桃子の口元に持っていく。

最初の頃は食べさせてもらっていたので何の迷いも恥もなくそれに応える。


赤宮はニコニコして桃子を見る。


「うまい?」


桃子は頷く。

この時はまだ喋ってくれていなかったので、そこまで顔にも出してくれない。


「俺にも一口ちょーだい」


先程赤宮がしていたようにイチゴパフェをスプーンに乗せて赤宮の口元に持っていく。


「ん、うまい!」


赤宮は笑顔で返す。


そんな赤宮だからこそ今日の病院の付き添いにも任されたのだろう。


今の所、桃子は赤宮に比較的1番懐いている様子だった。

赤宮は感情が顔に出やすいので、安心できるのだろう。


「今ならいけるんじゃないですか?」

「うん、だな!」


桃子と赤宮を見ていた男達は席を立とうと腰を少し浮かせた。

しかしその瞬間、ものすごい視線が·····


男達はその視線の先を見ると、赤宮がこちらをギロっと見ていた。


先ほど桃子に見せていた顔とは全く違う恐ろしい顔をしていた。


男達はすぐさまその場に座った。


「((ダメだ。今はだめだ。))」


赤宮は最初からこちらを見ている人物に気がついていた。

ここは女性客が多い。

男性もちらほらいるがみんな女性と一緒に来ている。
その中に男性2人は異様でしかない。


しかし今は桃子と一緒。

それにせっかくの桃子ともっと仲良くなれるチャンスなのに、邪魔されたくない。


桃子にバレないように今手を出すなオーラを出す。


男2人は大人しく、パンケーキを注文した。


また別の日·····


「今日は白洲零と一緒か」

「今日も無理そうですね」

「いや、まだチャンスがあるかもしれん、ついて行くぞ!」


男達はまたも懲りずに桃子と白洲の跡をつける。


「ももちゃんはどういうのが好き?好きなキャラとかある?」


今日はどうやら桃子の文房具を買いに来ているようだ。


白洲は筆箱がいっぱい並んだ棚を見ていた。

桃子は逸れないように白洲の服を少し握って白洲の後ろをついてお店の中を見て回っていた。


最初白洲は手を出したのだが、まだそれは抵抗があるのか、手を取ってくれなかったので、今の形に。


それでも信頼はしているのか、絶対に逸れないようにギュとしている。

 
桃子はあるものを見つけ足を止める。

それはピンクのリボンで前を結んでいる白い猫のキャラクターだった。


「これ欲しいの?」


白洲は足を止めた桃子に気付き、桃子の視線の先にあるものを手にとる。

桃子は遠慮がちに頷く。


「ん、ちゃんと言えて偉いね」


そう言って桃子の頭を優しく撫でてカゴの中に桃子が選んだ筆箱を入れる。


「後は、鉛筆とかも買おうね」


えんぴつや、消しゴム、その他の筆記用具がない訳ではないのだが、全部シンプルなものばかりで、可愛いものは一つもない。


なので、桃子のために可愛いものを一式揃えようと買い物に来ていた。

そのほうが勉強も捗るのではと考えてのこと。


「前会った時と雰囲気がまるで違う·····」

「今ならいけますかね?」

「いや、まだ様子を見よう」



「これで揃ったかな」

お会計を終わらせ、今度は手を取ってくれた桃子と手を繋いでお店を出る。


「ももちゃん、アイスでも食べて帰らない?」


頷く桃子。


「じゃあ、僕のおすすめのところに行こうか」


そう言って2人は車に乗り込む。

男達も車でその後を追う。


数分車を走らせコインパーキングに車を止め、桃子と白洲は歩いてお店へ向かう。


そのお店はテイクアウト専門店なので買って車で食べることに。


「ももちゃん、ミント味大丈夫?」


何かわからない様子で首を傾げる。


「じゃあ、ちょっと食べてみる?」


頷く。


「アーン」

白洲もいつもしているのか、慣れた手つきで、桃子に食べさす。


「どお?大丈夫そ?」


初めて食べる、なんとなくクセのあるその味に驚きながらも、爽やかで甘く、チョコチップがいいアクセントになっていて美味しいと感じ頷く。


「よかった〜」

 
勿論桃子も同じように白洲に自分の分のアイスを分けてあげる。

その様子を少し離れたところから見ている男達。

 
「みんな113番にデレデレだな」

「そうっすね、あの黒神組の幹部がみんな揃って」

「やっぱり逃すには惜しい」


113番·····それは桃子が黒神達と出会ったあの牢屋に入れられていた時に呼ばれていた番号。


そう、この男達はあの牢屋にいた黒ずくめの男達の仲間だった。

                   
「ももちゃん、ちょっとだけ待っててね。“ゴミ”捨ててくるから」


桃子の食べ終わったカップとスプーンを受け取って車の外へ出ていく。



「あの、こっちに来てないですか?」

「·····ッ!」


(ドンッ!)

 
((ビクッ!))


白洲は男達の乗っている車の窓に拳をついた。


「開けてくれるかなあ?」


ニコニコしているが先ほどとは全然違う、全く笑ってない笑みを浮かべて男達に窓を開けるようにいう。


男達は開けても、開けなくてもどっちにしても殺されると思った。


どうしていいか分からず沈黙が続く。


「開けろって言ってんの。わかるかな?」


先ほどよりもさらに笑みを浮かべる白洲。


男達は冷や汗がダラダラと止まらない。

ドアを開けたら終わりだと思い、せめてもの抵抗で恐る恐る窓を開ける。


「君達だよね、最近つけてきてるの」

「す、すみません!」

「阿翠組は解散したでしょ?今更何のよう?」

「っ·····えー、えーっと·····」


男達は阿翠(あすい)組の下っ端だった。


阿翠組は訳ありの、親が警察などに届けを出さない子供達を狙って売買する裏会社。


規模はどんどん大きくなっていっていた阿翠組を黒神は見過ごすわけなく、今のうちに片付けとかないと後がめんどくさいと、あの日乗り込んだのだ。
 

容姿が良ければいいほど高く売れる。

その中でもボロボロではあったが桃子はかなり容姿がよかった。

なので、牢屋を見守っていた男達の間では桃子は年齢が少し上でも高く売れると言われていた。


それを聞いていた2人の男達は桃子を見つけだし、売ってお金にしてやろうと考えていた。


組が無くなり途方にくれていた2人にはそれしか望みがなかった。

桃子が黒神組に連れて行かれたのはすぐにわかったので、どうにかして連れ去ろうとしていた。



「しょ、正直に言いますと、ひゃくじゅぅ·····あっ、いえ·····えっと桃子さん?を誘拐して売ってお金にしようと考えてたんですが、黒神組のみなさんがそれはそれは大切そうにされていて、嬉しそうにしている桃子さんを、皆さんから奪うのはなんだか申し訳ないなぁと思い、諦めようとしていたところです。はい·····」


ものすごい早口でそういう。


しかしそれは半分本当で半分嘘。

咄嗟に出た言葉。

誘拐しようとしたのは本当で、諦めようとしていたのは嘘。


なのだが·····


「そう·····そこ動かないでね」


そう言って白洲は電話をかけ始めた。

発信音がなり相手が出る


「やっぱり阿翠組の残党だったよ」


電話の向こうからは微かに
「わかった。連れて帰れ」
と聞こえた。


「「えっ·····」」思わず声が漏れる。


「了解」


すぐに電話を切り、護衛としてついてきていた部下を呼んでこの2人をアジトに連れて帰るように命じる。

そしてすぐ桃子のいる車に乗り込む。


「ごめんね。遅くなった」

「じゃっ、帰ろうか」


アジトについた2人。

桃子は青葉に任せ、白洲は部下に連れてくるように言った二人組の男を部屋へ連れて行く。


そこに黒神も部屋に入ってくる。


「ももは大丈夫か?」


部屋に入ってくるなり桃子の心配。

相当可愛がっている様子。


「大丈夫だよ。青葉に任せた」

「そうか」


白洲から二人組の男へ視線を変える。

男達はビクッと肩を震わした。


「で、お前らだけか?残ってんのは」

「·····は、はい」


急に言われて、一瞬なんのことかわからなかったが頭をフル回転させ阿翠組のことを言っているのだと思いすぐ答える。


「そうか、お前らうちにくるか?」

「·····えっ、?」


男たち2人はフリーズしてしまう。


「この何日間見てきたなら俺たちがどんだけ可愛がってるかわかっただろ?なら、もう手出せないよな?」

「それはもう!はい!十分に」


2人は黒神組の一員となった。

そしてなんと2人は白洲の部下なり桃子を護衛する係になった。


2人の名前こそが、汐田(シオタ)と佐藤(サトウ)。


まさか黒神組の一員になれると思っていなかった2人。


潰れてしまった阿翠組より黒神組の方が規模は大きい。

それに殺されずに済んだ。

ここで働いたらお金ももらえる。


裏の世界で働いていた者が、いきなり表の世界で働くのは並大抵のことじゃない。

それなりの努力と覚悟がいる。


それに汐田も、佐藤も別に阿翠組にこだわっているわけじゃないので喜んで黒神組に入る事にした。


入らなかったらどうなってしまうか·····
考えたくもない。


拾ってもらえて大感謝!!


そんなことを考えていた汐田と佐藤。
これから桃子を守っていく大事な一員となったのだ──。