翌日、お昼前に目を覚ました桃子は黒神の部屋の前まで行き、ドアノブに手をかけようとして辞めた。
そして開くドアの横にちょこんと座った。
中に入りたいけど入ったらダメだと最初部屋を案内された時に赤宮が言っていたので、黒神が出てくるのを待っていた。
ノックするとかドア越しに声をかけるという行動は一切せず、ただじっとして黒神が部屋から出てくるのを待つ。
桃子がドアの前に座って5分くらい経ってから黒神の部屋のドアがゆっくりと開いた。
「···なんで入ってこないんだ?」
まるで桃子がそこに居たことを最初から知っていたかのように、座っている桃子に言う。
「はいたらダメって」
「·····そうか、入っていいぞ」
そう言って桃子の手を取って桃子を部屋の中に招き入れた。
黒神は最初から気配で誰かがドアの前にいることがわかっていた。
それが桃子だということも。
子供の歩幅と大人の歩幅は違う。
なのでその足音で桃子だと気がついていたのだ。
でも、なかなか入ってこないので少し様子を見ていた。
しかし痺れを切らして黒神からドアを開けたのだ。
ソファーに座った黒神は隣をポンポンと叩いてここに座るように合図をした。
「それでなんか用事でもあったのか?」
「用事っていうか、ね·····その·····」
モジモジし始めた桃子に黒神は優しく問う。
「なんだ?言ってみろ」
「あの·····ありがとうって言いたくて」
「……」
少し間をおいて
「ハハっ、そうか」
そう言って桃子の頭を優しく撫でてあげた。
「ももならいつでも入ってきていいからな。用がなくても入ってこい」
「いつでも入っていいの?」
「あぁ、入っていいぞ」
「ありがとう」
いつでも入ってきていいと言われて嬉しかった様子。
「ちょっとだけ待っててくれ、すぐ終わらせるから」
と言って黒神は途中だった仕事をするためにデスクへ行く。
キリのいいところまで終わらせて桃子の方を見ると、ずっとある一点を見つめていた。
その先にあったのは棚に飾ってあったカメラ。
「欲しいのか?」
と黒神が聞くと少しびっくりした様子の桃子は
「ううん、見てただけ」と答える。
思った通りの答え。
今まで一度だってあれが欲しい、これがいいなどと言わなかった子だ。
「これ使わないからどうしようかと思ってたんだ」
そう言って棚に近づき、カメラを手にとる。
そして桃子の前でしゃがむ。
「これ、貰ってくれないか?」
そう言ってカメラを桃子に差し出す。
あげると言っても遠慮してそう簡単には受け取ってくれないだろうと思って、わざと貰って欲しいと、そう言う言い方をした。
少しどうしようか迷った桃子は
「いいの?」
と黒神を見つめた。
「あぁ、もらってくれ」
そういうと桃子は嬉しそうにカメラを受け取った。
黒神が簡単な使い方を桃子に教えてあげると、桃子はすぐにやり方とコツを覚えた。
それからと言うもの、桃子はカメラを持ち歩いて、いろんな写真を撮るようになった。
みんなの何気ない日常を記録していった──。