楽しい誕生日から数日後。
今日は桃子、赤宮、青葉の3人で桃子の物、主に着る物を買うためにショッピングモールにきていた。
この辺りでは1番大きいショッピングモールなだけあって人も多い。
迷子にならないように2人と手を繋いで歩く。
男性2人に手を繋がれた女の子。
この状況は側から見たら異様な光景かもしれない。
それでも2人は手を離そうとしなかった。
「ももこれはどうだ?」
「いや、ももちゃんにはこっちのが似合うっしょ」
と3人で桃子の服を選んでいた。
『·····やっとみつけた·····フフ·····もう逃さないわよ』
陰で桃子達を見つめながらそう呟いた黒い影。
「悪いちょっとトイレ行ってくる」
青葉がトイレに行き、赤宮はお会計中。
桃子はお店の中に置いてあった、綺麗な桜の花びらがついたヘアゴムが目に入り、もう少し近くで見ようとお会計中の赤宮から少し離れた。
それが間違いだったと、後で後悔する。
『やっと1人になった』
待ってましたと言わんばかりに黒い影が桃子に近づき、桃子を覆った。
「っ!·····」
桃子は驚いて声も出せなかった。
ただただ震えることしかできないでいると、その黒い影は桃子とともに消えた。
「よし!結構買えたな」
お会計を終えた赤宮が後ろにいるはずの桃子に声をかける。
しかしそこには誰もいない。
「ももちゃん?」
「ももちゃんッッ!?」
店の中を探したがいない。
店の外を探してもいない。
そこにトイレに行っていた青葉が合流する。
「あれ、ももは?」
桃子がいないことにすぐに気がついた。
「どこにもいないっ、くそッ!」
「っとりあえず探そう!」
買い物していた店のあたりを探す。
しかし、
「いた?」
「だめだどこにもいない」
赤宮と青葉がどこを探しても桃子の姿はない。
「こんだけ探していないとなると·····」
「連れ去られた·····?」
「とりあえず黒神さんに連絡!」
すぐさま連絡して数分後、黒神と白洲、数名の部下が合流した。
「すみません!俺たちがついていながら」
赤宮、青葉は頭を下げる。
「今はそんなこと言っている場合じゃない。案内しろ」
状況は移動中に全て伝えていたので合流してすぐ指示していた通り防犯カメラを確認する。
勿論一般人には見せてくれない。
でも黒神達はこの辺を仕切っているので特別に。
そして桃子が連れ去られたであろう時間を見る。
犯人の見当は大体ついている。
他の組織の者。
もしくは·····
「ももの母親かっ」
防犯カメラには桃子の母親が写っていた。
桃子は黒神達と過ごすようになって少しずつ変わってきている。
前よりも表情を顔に出すようになった。
そのため、防犯カメラからでもわかる桃子の怯えた姿。
「早く見つけ出すぞっ!」
「逃げられると思ってるの?あんただけ幸せになんてしないから。私はこんなに·····ああ·····どうしてこうなったのよっ!·····これもこれも全部あんたのせいよ·····」
車の中に連れ込まれた桃子。
そして運転している母親が先ほどから独り言、なのか、ブツブツ何か言っている。
桃子は車の中で小さくなって俯いていた。
絶対に2人から離れたらダメって言われてたのにそれなのに。それなのに·····
と桃子は後悔していた。
どのくらい車で走っただろうか。
わからない。
桃子は怖くて何時間にも思えたから。
「降りなさい」
そう言われて、言われた通り車から出る。
車から出て初めて外の景色を見た。
そこは見覚えのあるところだった。
そう、そこは最近まで住んでいた家。
急にまた震え出した。
「入りなさい」
そう言われ手を掴まれた。
でも入りたくなかった。この家にはもう、“戻りたくない”。
前までは怖くも痛くもなかった。
でも·····今は·····
みんなに出会ってから変わっていった。
この家に戻るのが怖い。
掴まれた腕が痛い。
桃子は必死に「いやっ」と言葉にする。
桃子にはこれが精一杯の抵抗だった。
しかしその抵抗は逆効果。
知っていた。
抵抗すればするほど痛い目に遭う。
それでも嫌だ。
案の定「何反抗してんの?てか、誰が喋って良いって言った?」
先ほどよりも強い力で家の中に引きずられる。
またあの生活に戻ってしまうのか·····
「本当に生きていたのか·····」
そう言ってリビングから出てきたのは桃子の父親。
「お前が連れていかれた先で銃撃戦があったって聞いたよ。そこには子供の死体だらけだったって。
でもお前の姿だけが見つからなかったってな。
お前1人で逃げられるわけがない。誰かに拾われたんじゃないかって思っていたが·····まさか本当に生きてたとは·····お前は運がいいなぁ」
低い声で「な?」と言われ桃子はゾッとした。
その頃黒神達は防犯カメラで桃子の姿を追っていた。
「最後に映ったのは駐車場か」
車のナンバーをメモし黒神達もすぐに車に乗る。
とりあえず車が出た方向に行くことにした。
そしてその方向で思い当たる場所は1つしかない。
「桃子が住んでた場所だ。」
黒神達は桃子が住んでいたあの家へ向かう。
「でもどうして今頃、母親が連れ去るんでしょう·····」
青葉は疑問だった。
母親も父親も、残念だが桃子を可愛がっていなかった。
それなのにどうして今頃·····わざわざ誘拐してまで桃子を連れ去るのか。
「考えるのはあとだ。今はももを連れ戻す。ももはあそこにいたらだめだ。取り敢えず今はももを」
黒神は今は一刻も早く桃子を、あの場所から助け出す事が最優先だと考えていた。
しばらく車を走らせ、数台の車が桃子の家に止まる。
「車のナンバー、一緒っす!」
そう赤宮が言うと黒神はみんなに「準備はいいか?」
その声にみんなは意気込む。
「「はいっ!」」
玄関のドアを壊し静かに中に入る。
「──、───·····ッッ」
家の奥から声が聞こえる。
声が聞こえる方に静かに行くと、そこはお風呂場だった。
「あんたのせいで、あんたのせいで全部めちゃくちゃよッ」
そう言いながら湯船に冷水をため、髪の毛を引っ張り、暴言を吐き、冷水に桃子をつからせていた。
そして湯船に水が溜まってきたころ·····
桃子の頭を抑え、溺れさせようとしている母親の姿に、黒神は急いで母親の胸ぐらを掴んで風呂場の外に追い出す。
「っ!·····」
すると
「·····おいッ!何してんだよ!誰だっお前ら!」
桃子がやられている姿をずっとタバコを吸いながらボーっと見ていた父親が突然入ってきた連中に声を荒げる。
黒神が父親をようしゃなく思いっきり殴る。
父親は殴られて、その場で倒れ気絶したよう。
黒神はすぐさま桃子を湯船から出して抱える。
スーツ姿の黒神はジャケットを脱いで桃子の体に巻き付ける。
「ももっ!」
目を閉じて寒さで震えている桃子の体を擦りながら名前を呼ぶ。
「れん·····くん?」
「そうだ、もう大丈夫だから」
そう言って桃子の頭を撫でてあげる。
「誰よ、あんた達っ!その子から離れてっ!」
「あんた今何しようとした?」
「あなた達には関係ないでしょ!ここから出ていきなさいよっ!」
今度は母親が黒神達に声を荒げる。
黒神達は母親を睨みつける。
「テメェー!」
今にも殴り掛かりそうな赤宮を白洲は止める。
「っなんで止めるんすっか!!一発くらい殴らないと気が済まないっすよ!」
「ももちゃんの前だよ」
「っ·····」
「ゴホッゴホッ、っやめて·····」
黒神の腕の中にいる桃子が赤宮にそういった。
「ももちゃんッ!」
赤宮は桃子の方に近づく。
「私は大丈夫だから」
弱々しく言う桃子に赤宮は頷くしかない。
そう言って桃子は目を閉じた。
「ももちゃん!?」
赤宮は驚いたが、すぐさま黒神が
「安心しろ眠っただけだ」
「そうっすか(ホッ)·····」
安心したのか桃子は黒神の腕の中で眠ってしまった。
眠っている桃子を抱えたまま
「おい!二度とももに近づくんじゃねぇ。次近づいてみろ。今度こそ容赦しねーぞ」
そう母親にいった。
「·····っ」
母親は黒神の圧に押されたのか、顔を歪ませて特に何も答えなかった。
少しでも遅れていたらと考えるだけでも怖い。
そして黒神と白洲、桃子は部下が運転する同じ車に乗りこもうとしていた。
そこへ、赤宮と青葉は3人に頭を下げる。
「「すみません!俺たちが目を離したから·····」」
「ももちゃんも·····ごめん。怖い思いさせて」
「大丈夫だよ·····来てくれた·····から·····」
2人の声で目を覚ました桃子は謝っている2人に大丈夫だと告げる。
そして黒神に
「ふたりはわるくないの·····。私が離れちゃったから·····離れちゃいけないって言われたのに」
だから許して欲しいと弱々しく言った後、また桃子はまた眠ってしまった。
「ももがこう言ってる以上俺からは何も言わねぇ」
そう言って車に乗り込む。
「「っありがとうございます!」」
そして赤宮、青葉も違う車へ乗り込んだ。
黒神、白洲の乗っている車内では、眠っている桃子を起こさないように、あの件について話をしていた。
「あの件まだわからないのか?」
「その件ならさっき連絡があった」
あの件とは前に桃子が両親達に言われていたという
【あんた“が”死ねばよかったのに】
という言葉。
それがどういう意味なのか、ずっと調べさせていた。