高級住宅街の一等地に黒神組の豪邸がある。

周りには塀と木で囲まれていて、外からは中の様子が見えないようになっている。洋風和風どちらも兼ね備えている。

本邸には黒神含め、幹部達が。
別邸には部下達が住んでいた。

幹部たちにはそれぞれに部屋がある。
部下は大きい部屋に何人かずつで住んでいる。
 
こんな豪邸なのに寝泊まりだけなんて実に勿体無い。

しかしみんな仕事で忙しいので大体はアジトにいる。

桃子もその豪邸で一緒に寝泊まりしている。桃子の部屋はもちろん本邸。

みんなの部屋から一番行きやすい場所にある。

そしてみんなが仕事でアジトに行く時は桃子も一緒について行く、と言うので一緒に行っている。

部下が護衛するより、自分たちが側で守った方が安全と考えてのことだった。
 
朝起きた桃子はいつものようにリビングに行く。

そしてドアを開くと、そこにはいつもと違う光景が·····

「「もも(ちゃん)、誕生日おめでとう!生まれてきてくれてありがとう!!」」

みんなが待っていた。

「·····」

何も言わない桃子にみんなは少し心配になり、沈黙に耐えきれなかった赤宮が喋り出す。

「あ、えっと、昨日はごめんな。余計なこと言って」

桃子は首を横に振った。
しかし言葉は発しない。

みんなはまた喋らなくなったのか?やっぱりまだ早かったのか?と思って心配する。

今度は代わりに黒神が喋り出す。

「俺たちはももに楽しんでほしんだ。ももに、生まれてきて良かったって思ってほしんだ。これは俺のエゴかもしれないが·····」

「俺たちで、もものこれまでの誕生日の記憶を塗り替えてもいいか?」
「·····」

桃子は少し黙ったあと、
 
「うんッ!!」

と答えた。

ここで初めて4人は桃子の可愛くて子供らしい無邪気な、とびっきりの笑顔を見た。

その笑顔を見て、4人は一瞬固まった。

そしてすぐに4人も、桃子同様、とびっきりのはにかむ笑顔を見せた。
 

普段みんな仕事で忙しいのに、今日は幹部4人揃ってお祝いしてくれた。

美味しいものを食べて、みんなと遊んで、今までしたことが無い事、したくても出来なかった事をみんなでやった。

普通の子供なら、普通にやってきた事。

まず最初に桃子がやりたいと言ったのは、

「だるまさんが転んだが、したい」

メンバーたちは思っても見なかったので驚いたがすぐに「やるか!」と言って、空いている大きい部屋に移動してだるまさんが転んだをする。


本当は幹部4人だけで祝うつもりだったのだが、人数いた方が桃子が喜ぶと思い部下も一緒になって遊ぶことに。

大人になってだるまさんが転んだなどをして遊ぶのは少し恥ずかしいなと思っていたのだが、それは最初だけだったよう。

「ダールーマーさーんーが、こーーろんだっ!」

鬼をやっているのはいつも桃子を護衛している汐田(しおた)。

残りのみんなは動かないようにじっと止まる。

「(ジーーー)」

汐田は誰か動いている人がいないかをみて、みんなに背を向ける。

そしてまた

「ダーールーーマーーさーんがころんだッ!」

先ほどよりも早く言い切って振り向く。

すると赤宮が前にいる青葉にちょっかいを出して青葉が少し揺れる

「おい、やめろ」
「鬼ぃ、今青葉動いたぞー」
「お前っ」
「!あお「動いてないよな??」

汐田が名前を呼ぼうとすると、圧をかけるように遮る。

「あ、鬼に圧かけるな!」
「かけてないよ。な?」
「は、はい!かけて無いです!動いて無いです!」
「ずりぃぃ」
「どっちがだよ!」

2人が騒いでいるのを桃子はクスクス笑いながら見ていた。

白洲はそんな2人をみて、
「汐田、2人とも動いてるよ」と伝える。

2人は思わず取っていたポーズを崩して言い争っていた。

「あ、青葉さん、赤宮さんアウトです」
「え、ちょっ、今のは」
「動いたでしょ」
「「くそぉ·····」」

そんなこんなで楽しくて何回か遊んだ。
 
だるまさんが転んだが終わった後は、トランプをした。

トランプの遊び方がわからない桃子にみんなで遊びかたを説明してあげた。

ババ抜き

「お前だろ!ババ持ってんの!」
「お、俺じゃねーしい」
「絶対お前じゃん」

七並べ

「パス」
「誰?ハートの10止めてる人」
「パス」
「さっきからずっとパスじゃん」
「パス」
「パスって三回までしか使えないんだよ?」
「え」

大富豪(または大貧民)

「ジョーカーはどういう役割でしたっけ?」
「お前か!ジョーカー持ってんの!よこせ!」
「ちょっ、あばれっ」

などなどわちゃわちゃと。主に赤宮、青葉によって。

オセロなどのボードゲームもした。


夜は桃子が食べたいと言ったハンバーグ。

あの日、桃子がここに来て初めて食べた青葉のハンバーグ。
 

ふっくらしていて、上には溶けたチーズがドロぉ〜っと乗っていてそれを口に入れた瞬間·····

肉汁がジュワッと口の中いっぱいに広がる。

柔らかくて甘い、初めて食べたあの味、食感が忘れられなかった。

また食べたいと、桃子の大好物になっていた。


桃子はもう自分で食べられる。

まだ若干はしの持ちかたが変だが、中々治らない。
自分で持てるようになっただけでもよしとする。

体重も増えてきて健康的な体になってきている。
好き嫌いもしない。

食べ終わってからみんなが席を立った。

桃子は頭にハテナを浮かべてみんなの様子を伺う。

そして、

「「ハッピーバースデートゥーユー ハッピーバースデイトゥユー ハッピーバースデイディア もも(ちゃん)〜 ハッピーバースデイトゥユー」」

と歌いながら持ってきたのは、ホールケーキ。

上に載っているチョコのプレートには『もも“10歳の誕生日おめでとう”』と書いてあった。

「?·····」
「俺が作ったんだよ」

自慢げに言う青葉。

今までは料理をする時間がなかっただけで、元々料理が好きだった青葉。

桃子が来てからというもの、桃子のご飯を作るため、メキメキと料理の腕を上げていった。

そして今回は桃子のためにケーキを作り上げたのだ。

青葉が作ったケーキを食べながら、みんなは誕生日プレゼントを桃子に渡す。

4人は悩みに悩んで選んだ。

10歳になる女の子は何が欲しいのか、色々調べ得た結果·····


黒神はぬいぐるみ
白洲はくし、ヘアクリップ、ヘアゴムセット
赤宮はゲーム機
青葉はお絵描きセット

を綺麗に包んだ状態で桃子に渡した。


「·····」

桃子はプレゼントを見て黙ってしまった。

そして黒神達の方を向いて首を傾げた。

「誕生日プレゼントだ」

黒神が教えてあげる

「誕生日·····プレゼント?」

桃子は誕生日に一度もプレゼントをもらったことがなかった。

そのため、誕生日にプレゼントをもらえることを知らなかった。

「そうだ。受け取ってくれるか?」
「·····うん!ありがとう!」


『“大嫌い”』な誕生日が

『“大好き”』な誕生日に変わっていく瞬間。


この日は桃子にとって、忘れられない1日となったに違いない。


桃子の誕生日以降、桃子はちゃんと喋るようになった。

喋ってくれるのが嬉しくてみんなは桃子といろんな話をするようになった。

そしてついにみんなのことをあだ名で呼ぶようになった。

白洲零のことを「しーちゃん」
赤宮幸助のことを「みーや」
青葉健人を「あおちゃん」
そして黒神蓮を「れんくん」と呼ぶ。


「何それ·····」

「めっちゃ可愛い!俺みーや?俺だけ呼び捨てか!いいな!」

と赤宮は嬉しそうに桃子の頭をワシャワシャ撫でる。

「しーちゃんか、初めて言われたな」

「あおちゃん、小さい頃のあだ名·····」

白洲も青葉も独り言のように呟いていた。
  
そして部下達は黒神のことを『れんくん』と呼ぶことに最初こそヒヤヒヤしていたが、黒神は怒ったり、治すように指摘をしなかった。

むしろ自分だけ名前で特別感があって喜んでいた。
その様子を見て部下達はホッとする。

「(あの黒神さんを“れんくん”って呼べるのは桃子さんぐらいだな)」