───ドアの前でずっと下を向いていた桃子は黒神のその言葉を聞いて顔を上げた。

ずっと言って欲しかった言葉。

ずっと·····親に、誰かに言われたかった言葉。

それを言ってくれたのは、お母さんでも、お父さんでも、おばあちゃんでもおじいちゃんでもない。

血のつながらない赤の他人の出会ってから数週間しか一緒にいない人が、9年間、桃子がずっとずっと求めて、言って欲しかった言葉を言ってくれた。


「“愛しているッ!”」


桃子が出てきてくれて、桃子が自分の思いを自分の言葉で話してくれて、感情を出して泣いているのをみて、みんな安心してホッとしていた。

青葉はその様子を見て、ティッシュの箱を黒神に渡す。

黒神は数枚とって

「もも、鼻チンしろ」

と言って桃子の鼻に当てて鼻水をとってあげる。

まるで親が子供にするように。
桃子はこういうのも初めてだろう。

やっと子供っぽいところを見れた気がする。

黒神、白洲、赤宮、青葉、4人は桃子をもう二度とこんな目に合わせないと心に誓う。

桃子は初めていっぱい喋って、泣いて、疲れたのだろう。黒神の腕の中でぐっすり眠ってしまった。

初めて感じる人の体温が心地よかったのだろう。

そして4人は話し合った。

「ももが言っていたあの話はどういう意味でしょう·····」

青葉は顎に手を当てて考えながらいう。

「調べてみる?」そう白洲が言うと「あぁ、任せた」と黒神は返事をする。
 
あの話とは桃子が言っていた親に言われていたという

『あんた“が”死ねばよかったのに』という言葉。

これはどう言うことだろう。

あんたが、と言うことは他に誰か別の人間が死んだのか。
その死と桃子はどう言う関係があるのか。

みんなはあんな状況の中でもその言葉を、桃子の一言一言を聞き逃さなかった。

そこから桃子についてもっと詳しく調べることにした。