誕生日前日、どうにかして祝いたいと思い、赤宮は動く。
「ももちゃん!今日どっか出かける?明日のたんっ·····」
「っ·····」
赤宮の仕事部屋に遊びに来ていた桃子に明日の誕生日の話をしようとした瞬間、何かを察した桃子は、前回と同じようにガタガタッ震え出した。
「·····ぃや、」
「ももちゃん?」
「いやッ」
桃子が声を出した。
そして桃子は赤宮の部屋を飛び出して出ていってしまった。
「っ!」
そのあとを赤宮は慌てて追う。
「ももちゃんっ!待ってっ!!」
その声を聞いて何事かとみんなも部屋からでてきた。
「なに?なにごと?」
「どうした?」
赤宮が桃子を追う姿が見えたのでみんなも二人の後を追う。
桃子はトイレに行き、鍵を閉めて閉じこもってしまった。
「はぁ、はぁ、」
赤宮はトイレのドアの前に立って、中にいる桃子に声をかける
「っももちゃん!ごめん、嫌な思いさせて、出てきてくれない?」
返事はなし。
「おい、何があった」
そう言って駆けつけた3人は何があったのかを赤宮に聞く。
赤宮はこれまでの経緯を全て正直に話す。
「無理に話聞くことねーし、無理に祝うこともねーって言っただろ」
「そうなんすっけど·····どうしても·····すいません」
ドアの前に俯く赤宮を黒神が手でどかし黒神がドアの前に立つ。
「もも?聞こえるか?無理に話さなくていいからな。」
ドアの向こう側にいる桃子に話しかける。
「嫌なんだよな。辛いんだよな。苦しんだよな。なんもしねーから、出てこれるか?」
黒神がそう優しくドア越しに言うと、少し間を空けて、ドアの向こう側から声が聞こえてきた。
「·····たん、じょ·····うびは·····
ワタシ、に、とっての、たん、じょうびは、ジゴク·····みたいなものなの。」
桃子が喋り出した。
もうずいぶん話していなかったのか、いや、人前で喋るのは初めてだろう。
少し不安定な喋り方でこれまでされてきた事、その思いを初めて言葉にする。
「まいとしまいとし、たんじょうびが来るたびにいつもイジョウに·····暴言を吐かれる。
アンタなんか·····生まれて、こなけければよかった·····アンタなんか·····産むんじゃなかった·····って。
水の溜まったオフロに、頭をおさえられて、·····息ができなくて、苦しくて、溺れ·····かける。
それがトシの数だけ続く。
まいとし毎年、·····お前のせいだ、あんた“が”死ねばよかったのに、お前のせいだって·····
ナンドモ、何度も·····誕生日なんか大嫌いッ!!」
震える声で、桃子は初めて自分の思いを声に出した。
それを聞いたメンバーたちは怒りを拳に握りしめてどうにか怒りを抑えながら桃子の話を聞いていた。
みんな何となくは想像していた。
でも改めて、桃子の口から実際親にされてきたことを聞くと怒りが抑えられない。
「ッッ!」
みんなは何とか怒りを抑えることで精一杯だった。
そんな中、黒神はみんなが言いたいことを代弁してくれた。
「もも·····今はそれでもいい。そう思っててもいい。
でも、俺は·····
少なくともここにいる連中は、そんなこと一切思ってないからな。
俺達みんな、ももが生まれてきてくれてよかったって思ってる。」
それにみんなは頷く。
しかしドアの向こうから返ってきたのは
「そんなの嘘」
すかさず
「嘘じゃない」
「だって·····お母さんも、お父さんも、おばあちゃんも、おじいちゃんも、みんな、なんであんたが生まれたのって·····言ってた」
「そんなくそな親達の言うことを信じなくていい!
忘れろとは言わねぇ、でも、これだけは覚えていて欲しい。
俺達はお前が!
ももが!
大好きだッ!!───·····」
「っ·····」
その一言を聞いて、桃子は涙が溢れて止まらなかった。
(ガチャッ)
トレイの鍵があき、ドアがゆっくりと開き、桃子が出てくる。
桃子は涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃだった。
そんなことお構いなしに黒神は桃子を思いっきり、でも苦しく無いよう優しく、抱きしめた。
人の温もりを感じて人の匂いを感じて桃子はさらに涙が溢れる。
「ありが·····とう·····ぅっ·····」
「うん、いっぱい喋れてえらいな。」
黒神はそう言いながら桃子の顔を自分の服で拭いてあげる。