会議室にて·····

「どうする?」
「そりゃあやるっすよ!」
「やりましょう!」

幹部達は桃子の誕生日祝いのことに関して話をしていた。

あの書類に書いてあった桃子の誕生日まであと一週間。
 
しかし桃子は最近、何かに怯えている様子だった。

ここに来たときも、最初に会ったあの檻の中にいたときも、怯えた様子は一切見せなかった桃子。

それなのに最近様子が明らかにおかしい。

「ももちゃん!もうすぐ誕生日だよね?何か欲しいものある?なんでもいいよ。欲しいもの、行きたい場所、食べたい物、何かある?」

そう赤宮が、お昼ご飯の炒飯を食べている桃子に聞くと、桃子の手がガタガタと震え出し、持っていたスプーンを地面に落とした。

(ガチャンっ)

その様子に赤宮は目を見開いて驚き「ももちゃん!?大丈夫?」と声をかける。

しかし桃子は首を横に振りなんでもないと、その後席をたってしまった。

なんでもないわけがない。
明らかにおかしい。

だってあんなに震えて、怯えている。

あんな姿は初めて見た。

出されたご飯はお腹がいっぱいでも無理して食べるくらいなのに、今日は全然食べていない。

一体、桃子に何が·····


そのことを黒神達にも話していた。

そこでメンバー達はそれが誕生日と何かしら関係しているのではと考えていた。

でも、お祝いはしたいとみんなが思っていた。

嫌な思い出があるなら尚更。

桃子が生まれてきてくれた大事な日だから。
桃子にも好きになってもらいたい。

「だからと言って、ももが嫌なら無理はさせたくねぇ」

黒神は桃子の思いが1番だからと言って無理に話を聞くことも、無理に祝うこともないと。

徐々にわかってくれればいいとそう考えていた。

しかし1番桃子に近い存在、そして今、桃子が1番懐いているであろう赤宮はそうは思いつつも大切な日だから祝いたいし、何があったのか知りたい。

病院で医者の言葉を唯一、生で聞いた赤宮にとってはやっぱり居ても立っても居られない。

もちろん病院でのことは黒神たちにも報告はしていた。

でも人伝いに聞くのと、現場で生の声を聞くのとでは重みが違う。

それに、まだ報告しきれていないこともある·····。

 
『───·····虐待されていたとしても、どんなに酷いことをされていたとしても、親は親です。

その親御さんと引き離すということが、どれだけ子供にとって残酷なことか、ストレスか、そのことをちゃんと理解した上で、親の元に返すのか、あなた方が引き取るのか、誰か他の親戚が引き取るのか、児童養護施設に預けるのか、よく考えてくださいね。

これは彼女にとって、桃子さんにとって、大きく人生を変えることです。

ものすごく大事なことです。
生半可な気持ちで決めてはいけません。

責任持って、面倒を見てあげてください。

ただ、医師としての経験上、親御さんが変わらなければ、今のまま親御さんの元に帰しては危険でしょう。

今返してしまうともっと酷い目に遭うことになるかもしれません。

今まで何人か、虐待されている子供たちを見てきましたが、その中でも桃子さんはかなり酷い状態です。

だからと言って、引き離すかどうか、今後、親がいないことで苦労することがあるということ、親がいないというだけで偏見を持つ人たちもいるということ。

周りの家族を見て、羨ましいと思う気持ちもあると思います。

他にも、金銭面、進学、引取先の家族状況、その他諸々考えることはいっぱいあります。

くどいようですが、そのことをしっかし考えてくださいね。

しっかり、桃子さんとコミュニケーションをとっていってくださいね。』

「·····」
 
赤宮はなにも言葉が出てこなかった。
全くもってその通りだと思った。

今の自分に何かできることはあるのだろうか·····。

克服させてあげたい。
笑ってほしい。
楽しんでほしい。

ただただそう思っていた。