「……」
今まで桃子はシャンプーしか使ったことがなかった。
でも今日初めて、トリートメントや、コンディショナーを使った。
使い方は桃子が浴室に入った音を聞いて浴室に戻ってきた白洲が教えてくれた。
「まずシャンプーして、次にトリートメント、最後にコンディショナーね」
栄養不足でバサバサだった髪がみるみるツルツル、サラサラになった。
そして、自分で切っていたせいでガタガタだった髪の毛も、お風呂から上がった後に「ここに座って」と、先程持っていたハサミで白洲がキレイに毛先を揃えてくれた。
「今まで自分で切ってたの?」
桃子は頷く。
「そっかー後ろとかやりにくかったよね」
また桃子は頷くだけ。
「今度からは僕がやってあげるからね」
少し間が空いた後、桃子はまた遠慮がちに頷く。
果たして本当にまた次があるのかと。
長かった前髪も切ってくれて顔がよく見えるようになった。
パラパラ落ちる髪、それと同時に視界がどんどん明るくなるのを感じた。
前髪はあまり自分で切っていなかった。
視界が見えにくい方が、見たくないことを見なくて済むとおもっていたから。
髪を綺麗にして、前髪を切ったおかげで可愛いい顔がよく見えて、白洲は大満足そうにしていた。
「よし!完成だね」
桃子は前にある鏡をじっと見つめる。
本当に綺麗に整えてくれた。
「ちょっと片付けてからいくから、さっき居たみんなのとこに戻っておいてくれる?」
桃子は頷いて浴室から出た。
言われた通り、先ほどまでいた部屋に向かう。
動くと自分の髪から嗅いだことのない良い匂いがする。
すると向こうから黒神が歩いてくる。
黒神は手に持っている資料に集中しているのか、こちらに気付いていない様子。
桃子が黒神の横を通った時、ふと黒神の方を見上げると、黒神は眉間に皺を寄せて険しい顔をしていた。
桃子はそんな様子を見て、先ほど青葉からもらった“飴”を取り出し、後ろから黒神の服を軽く引っ張る。
「ん·····ももか、どうした?」
黒神は桃子に気付き、桃子の目線に合わせるようにしゃがんだ。
桃子は何も言わずそのまま黒神の前に手を差し出す。
「·····くれんのか?」
桃子は頷いた。
桃子は黒神の様子を見て飴を差し出したのだ。
自分がここにいるから迷惑をかけて要るんじゃないかとそう思っての行動なのか、
「気ぃ使わせて悪かったな」
そう言って黒神は桃子の頭を撫でた。
先ほど綺麗にしたばかりの髪はすごく触り心地がいい。それに良い匂いもする。
初めてされる行動に桃子は少しピクッと肩を震わす。
「それと、ごめんな·····。俺たちがもっと早く·····」
「?」
「いや、なんでもない。飴ありがとうな」
桃子は頷く。
黒神は桃子の髪を触りながら
「·····可愛くなったな。白洲にしてもらったのか?」
桃子はまた頷く。
「そうか。よかったな」
再度また頭を撫でて黒神は自分の部屋に戻ってしまった。
桃子もその後ろ姿を少し見て、自分もまた歩き出す。
部屋に戻った黒神はずっとあることを気にしていた·····。