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「七瀬桃子、9歳……」
黒神は桃子の書類を読んでいた。
「9歳!?」
「あぁ·····」
桃子はあまりご飯を食べさせてもらっていなかったからか、他の同年代の子達と比べたら身長も体重も、低いし軽い。
とても9歳には見えなかった。
「·····もうすぐか」
(コンコンっ)
ノック音が聞こえ、黒神の合図で部下が部屋の中に入ってくる。
「怪我の手当は完了しました」
「わかった。さがっていいぞ」
頭を下げた部下は、話の邪魔をしないように素早く部屋から出る。
「家族のもとに返す?」
「いや、あの状態とこの資料を見る限り、かなり酷い虐待を受けてたんだろ」
「じゃあ、新しい家族見つける?」
白洲が黒神に聞く。
「·····ああ、でもまだ色々片付けることがある·····。だからしばらくうちで面倒みる。」
「白洲と赤宮であいつに勉強を教えてやれ。学校にも行っていなかったんだ勉強くらい出来とかねぇと」
「りょーかい(ここまでするなんてめずらし)」
「了解っす」
「青葉はマナーとかを教えてやれ。あの様子だと色々心配だしな」
「了解です」
「あと、俺たちが極道ってのはバレないようにしろよ。怖がるだろうし。まあ、もうバレてるだろうが、一応な」
「そうだね」
「了解っす」
「わかりました!」
そう、黒神達はその筋の人間なら誰もが知っている極道·····
【“黒神組”】
その組織をまとめているNo.1が黒神蓮。
若いにも関わらず、その道のものならば誰もが知る名前。
鼻筋が通った、端正な顔立ちをしていて、尚且つその瞳だ。
目線だけで人が殺せそうな、鋭い目。
それに黒神がまとうオーラはとてつもない。
圧倒的強者。
何事にもあまり関心を持とうとしない。
そして、No.2の白洲零。
この組の幹部はみんな若い。
20代と言うこともあり敵は多いのだが、その強さは計り知れない。
同じ組の下っぱ達はみんな黒神を怖がって出来ることなら近づきたくないとさえ思っている。
たまにはむかってくる奴もいるがその時は·····
敢えて言わないでおこう。
しかし下っぱを含め、幹部の人間はみんなそんな黒神をとても尊敬している。
黒神達はこれから桃子が一人でも生きていけるように、外に出しても大丈夫なように、と、色々教えてくれるようになった。
どうしてそこまでするのか。
それは·····。
黒神達との話し合いが終わってから赤髪の赤宮が部屋の案内とその説明をしてくれた。
「ここがキッチンとリビングね。と言ってもほとんど使ってないけど···」
と言いつつも青髪の青葉が何やら料理の準備をし始めていた。
「ここは会議するところ。週に一度集まりがあって、ここで話し合いをしてる。」
そこはとても広くて、真ん中に長方形の長い机が置いてあり、その周りにはものすごく座り心地の良さそうな、肘置きもあるオフィスチェアーがズラッと何脚も置いてあった。
そして上座には、見るからに一番高級そうなオフィスチェアーが一つだけ置いてあった。
ボス席とでも言うのだろうか、ボス専用なのだろう。
絵や壺、置物なども全て手袋なしではとてもさわれない、高価そうなものばかり飾ってあった。
「この部屋は青葉の部屋」
続いての部屋は先ほど広い部屋を見たせいかそんなに広くは感じなかった。
それでも全然広いのだが。
デスクと、先ほど見たのよりも小さい普通の二人用のソファーとテーブル。
そして書類がいっぱい入っている棚が置いてあった。
「次は、俺の部屋」
先ほどとほとんど同じようなものが置いてあった。
しかし先ほどの部屋よりも少し散らかっている。
「で、次は白洲さんの部屋」
先ほどの二人の部屋よりも少し広かったが、置いているものなどはほとんど同じ。
ただ棚の数が2人の部屋よりも圧倒的に多い。
「最後黒神さんの部屋」
ここは勝手に入ったらダメだよと言って、見せてもくれなかった。
それと実際に住んでいる所はまた違う場所にあると。
ここは仕事用らしい。定期的に場所を変えていると。
そして最初に紹介されたリビングに戻ってきたら、青葉がなにやらご飯を作っていた。
2人が戻って来たのに気づき、
「ハンバーグだ。もう少しで出来る」と手際よく料理をする。
「おっ!子供はやっぱりハンバーグだよな!」
ハンバーグのいい匂いがする。
少しして、
「よし、できたぞ」と桃子の前にハンバーグが乗っているお皿と、お米を盛ったお茶と箸を置いてくれた。
しかし桃子は今まで、箸やスプーン、フォークなどを使ってご飯を食べたことがなかったのだ。
今までは手で掴んで食べれるパンなどしか食べさせてくれなかった。
そのため手でお米をつかもうとする。
「っえ···」
その行動にびっくりした青葉はそれを止めさせた。
「ちょっ!ちゃんと箸を使え」
と言われたので箸をもってみるが、変な持ち方をしていて全然掴めていない。
「……」
それを見て仕方なしに青葉が食べさせてあげることに。
「今日だけだからな。明日からはちゃんと持ち方覚えるんだぞ」
と言いながら、桃子のペースに合わせて食べさせてあげていた。
桃子はこんな美味しいものを食べた事がなく、少し、ほんの少し目を見開いた。
「……」
黙って、黙々と、食べることだけに全集中して、青葉が口に運んでくれるハンバーグを食べていた。
笑顔とまで言わないが、ほんの少し口角を上げている。
ほんの少しだけど初めて表情を変えた瞬間だった。
そんな様子を見て今まで何を食べてきたんだと2人は心配する。
少し転んだだけで折れてしまうんじゃないかというくらい細い腕。
歩けていることが不思議なくらい細い足。
その細い手足には親から付けられたであろう傷や跡でいっぱいだった。
2人はこれからも美味しいものをいっぱい食べさせてあげたいとそうおもった。