晴天の土曜日。デート当日である。昨日は興奮して寝つけなかったため、ちょっとまだ眠い。だがそれは三大欲求が気にならないくらいに、ハルトくんの存在が、私の中で大きいものになっているということだろう。そんなメンヘラ気質なことを思いながら私は、駅へと脚を進めた。少し足取りは重たかった。緊張と、希琴の件のせいだろう。
駅のホームについて、予定よりも三十分も前についていたことが発覚した。小学生でも十分前行動なのに、あまりにも早く来すぎていた。どんだけ楽しみにしてたんだよと、自分に苦笑していたが、駅のホームに見慣れた人影が見えた。そう、ハルトくんである。あちらもこちらに気づいたのか、手を振っている。私も手を振り返し、ハルトくんのもとへ駆け寄った。
「早いね、唯愛ちゃん。まだ三十分前だよ。」
「ハルトくんこそ、何時に来たの?私よりも早いっぽいんだけど?」
皮肉混じりの私の質問にハルトくんは、指を四本立てた。
「四十分前?やっぱり私より早かったんだ。」
「四時間前。」
「早すぎじゃない!?駅員さんいたの?」
まさかの桁違いに驚きを隠せなかったけど、ハルトくんならやりかねない気もした。
「でも、そんなに早く来てもヒマでしょ?なにしてたの?」
「うーん、、、場所取り?」
「お花見と勘違いしてない!?」
駅で場所とったって意味なくないだろうか。別に混雑するほど都会なわけでもないし。相変わらずの謎行動であった。
「どうする?1本早いのあるけど、乗る?」
「でもお店開くの十時だから、まだ二時間あるけど、」
「ま、早く着く分にはいいじゃん。下調べってことで。」
「お店入れないんだってば、、、」
「?」
話を理解できてないハルトくんと一緒に私は1本早い電車に乗った。休日で田舎なのもあってか、あまり人がおらず席に座ることができたため、眠気が襲ってきて寝てしまった。因みにこの間、ハルト君の肩を借りていたような気がしたが、気のせいだろう。……気のせいだよね?車掌さんのアナウンスで起こされた私は、ハルトくんと一緒にその駅で降りた。そとは朝と昼前の中間のような、人々が目覚める時間帯で、少し清々しさのある時間帯でもあった。
「都会の朝って感じする!」
と、私がその空気に当てられて騒いでいると、
「東京都内とか行くともっとすごいぞ。朝と夜の区別があんましないぐらいだからな。」
「そんなに!?ってか、ハルトくん行ったことあるの?」
「昔、ね。」
私の質問に対して、少し儚そうな顔をしてハルトくんは答えた。私もそれ以上は深掘りせずにその話題を終えた。それから、一時間三十分ほどほんとにヒマして待った。というか、集合時間を早くしすぎだったきがする。もう一時間は遅くてよかったと思う。いや、少しでも多くハルトくんと一緒にいれたのだからこれでよかったのかもしれない。
そんなことを考えていると、
「そろそろ入ってみよっか?」
ハルトくんが私に呼び掛けた。時計に目をやると九時三十分だった。まだ三十分は時間がある。
「もう?まだ三十分あるけど、」
「大丈夫、大丈夫。ちょっと早く開くもんでしょ?」
ハルトくんに言われるがままに、ショッピングモールの中に私たちは入っていった。
それから、私とハルトくんは買い物から、買い物まで楽しんだ。買い物ばっかりだなぁと思った。もちろん、謝罪デートなので、お金は自分出だすのだけれど。そして、昼前になったときのことだった。
「お腹空いたくない?ね、そろそろご飯にしよっか。」
私はハルトくんに問いかけたが、反応がない。ハルトくんはどこかを見つめていた。
「ハルトくん?おーい、ハルトくん?どしたの?」
「え?あ、ああ。ゴメン。ちょっとあっちに行こう。」
「え?」
私の話を無視してどこかへ行こうとするハルトくん。困惑しながらも、私はハルトくんについていった。
「ねぇ、ちょっとどこ行くの?」
「ゴメン。でもついてきて。」
ハルトくんは一心不乱に突き進んでいく。その先に何があるのか私には分からなかった。だんだんと速くなる足どりに追い付けなくなっていって、そして、
「ちょっと、まっ、」
人混みに巻き込まれ私はハルトくんを見失った。辺りを見回してもその姿は見つからず、何で急にどこかへ行きだしたのか、何で私を置いていったのか、なにも分からず頭が真っ白になって、そして、
「ゆいなちゃん、何でこんなとこに、」
誰かに声をかけられた。私は、ゆっくりと振り向いて、
「叔父さん!?」
私はその時、運命とはなにかを分からされることになった。
「そっちこそ何でこんなとこに、」
「僕は買い物で来てたんだけど、ゆいなちゃんは?」
「わ、私は友達と来てて、」
「友達は?」
「今ははぐれてて、あっ!」
私が目線の先にハルトくんの姿を見つけて、駆け出した。
「ハルトくん!どこ行ってたの!?」
「唯愛ちゃん!ごめん。ちょっと知り合いを見かけて、」
「ゆいなちゃん、ちょっと待ってくれよ。」
「あ、叔父さんのこと忘れてた。これじゃハルトくんと同じだね。叔父さーん。こっちこっち。この人が友達のハルトくん。」
「え?」
叔父さんは、ハルトくんの方を見て驚いたような表情を見せた。それは、もう、見てはいけない物を見てしまったかのように。
「あ、ああ。君がハルトくんって言うのか。よろしくね。」
「あ、はい。よろしくお願いします。」
ハルトくんも、また、気まずそうな表情を見せ、なにも知らない私にも、二人の間になにかがあったことが分かった。同時に、それが触れてはいけないことだと言うことも。
「そ、それじゃ、また今度。」
そういって、叔父さんはすごい速さで去っていった。
「ハルトくん。叔父さんのこと知ってるの?」
「いや、今日初めてあったよ。それがどうかした?」
「ううん。何でもない。」
やっぱり教えてくれない。でも、この前みたいに問い詰めてもダメだ。そんな葛藤の中、デートは続いた。
服屋では、
「ね、見てみてこの服。可愛くない!?」
「めっちゃ似合ってるよ!買っちゃえば?」
帽子屋では、
「これとかさっき買った服と合いそうじゃない?」
「確かに。」
ゲーセンでも、
「あのレースゲームやらない?」
「いいんじゃない?」
ずっと、ずーっと、
「YESばっかりじゃん!さっきから心ここにあらずだしさ!」
突然大声をだした私にハルトくんは驚いた顔をした。
「ご、ゴメン。」
「ごめんじゃなくって、ハルトくんは何がしたいの!?私の買い物に付き合うために来たんじゃなくて、仲直りのために来たんでしょ!」
「……わかった。じゃあ、あれしにいこうよ、あの、」
ハルトくんが指差した先には、
「え?あれって、」
長い髪を束ね一つにまとめて、いつもの制服姿とは違い、可愛らしい私服を見にまとった、そう、学校では一番関わりがあると行っていい、神 唯愛の介護役。
「き、希琴!?」
「え?」
もちろんハルトくんは希琴の存在を知らないので私の言葉の今が分からず困惑する。しかし、問題はそこではなかった。確かに今日デートに誘ったら、とは言ったものの、まさか本当に来ていたとは。そして何より、希琴は、「一人」だった。つまりデート相手は来ていないのだ。しかし、ハルトくんが反応を示さないのを見るに、ハル何ちゃら君とは関係無いようだ。その事実に私はほっと胸を撫で下ろした。私はハルトくんが指差したものには目もくれず、希琴のもとに駆け寄った。
「希琴!」
私の声に気づいて希琴もこちらを振り向いた。
「唯愛!?何でここに、」
「え、えーっと、ちょっと一人で買い物しにきてて。」
ハルトくんの事が知られると面倒なことになりそうだったので、私はここに来た理由を言わず、後ろに向かって、手を動かし、こっちに来るなの合図をした。幸いそれをハルトくんも察したのか、隠れてこちらの様子を伺っている。
「?どうかした?」
「い、いや。何でもないよ。」
私は必死にごまかしてから、コホンと、一つ咳払いをしてそれから口を開いた。
「そ、それより彼氏さんは?トイレでも行ったの?」
すると希琴は、あからさまにいやそうな顔をしてから言った。
「それがね、昨日唯愛に言われた通り、デートに誘おうと思って、メールで久々に出掛けよって言ったら、そのときはOKって言ってたのよ?なのに、なのによ?いくら待っても全然こないし、メールは既読にすらならない。もうやっぱり別れるべきかな。あんな奴。」
「そ、それは、」
あまりにもひどい。彼氏さん冷たいとか言うレベルじゃないよ、凍っちゃってるよ。氷河期レベルだよ。
希琴の彼氏さんのあまりの塩対応に開いた口が塞がらなかった。
「もう決めた。別れてやる!あんな奴さっさと捨てて、新しい恋を見つけてやる!」
「焦っちゃダメだよ!まだ分かんないじゃん?風で寝込んだとかかもしれな、」
「バカは風邪引かないわよ!」
バカってはっきり言った、、、確かにバカとしか思えないけど。でも、こんなに冷静さを失った状態で下す判断が、私にはよいものとは思えない。
「と、とりあえず電話してみたら?」
「さっきから散々した!!そんで全部出なかったの!なに、唯愛はあのバカの肩持つの!?」
「そ、そういう訳じゃないけど、」
「じゃあ何でよ!余計な心配しないで!』
ヒートアップしていく希琴に、段々と手がつけられなくなっていく。私も何で止めようとしているのか、自分でも分からない。でも、ダメなんだと思う。好きじゃなくなっちゃうのは。
「聞いて希琴。私、好きな人が出来たの。」
「は?何で急に、」
私の唐突の告白に、希琴は困惑する。私自信も、これから何を言おうとしているのか分からなかった。
「私もね、その人に腹が立って、嫌いになりそうになること良くあるの。でもね、それ以上にね、嫌いになりたくないって思うんだ。」
「私はっ、唯愛と違って何回も、何回も何回も裏切られてきたの!嫌いになりたくないだなんて思えない!」
「違うよ。違うんだ。多分、私は好きでいれなくなる事が嫌なんだ。だってそうでしょ?昨日まで好きだったのに、一昨日まで、先週まで、去年まで、ずっと、ずーっと好きだったのに、今日の私の思いだけでキライになるなんて、なんだか勿体ない気がしない?身勝手かもしれないけど、私は、彼を好きでいるために彼を愛してるの。ね、希琴は?」
希琴の顔には涙の後があった。きっと、これまでもこんな風に泣いて、悲しんできたんだと思う。でも、それよりも、もっとたくさんの笑顔をもらってきたはず。私もハルトくんのことを考えると、笑顔と同時にお父さんのことを思い出してしまう。恋は、甘いだけじゃないなんて言うけど、その通りだと思う。甘いのだけは、どっちかが無理してるただの片想いだ。
「私はっ、私だってっ、好きだからっ、好きだから付き合ってんのよ!アイツの事が好きだから別れたくないの!でも、寂しいって思いたくないの!アイツから告ってきたから、私はアイツなしでも大丈夫だって思いたいの!だから、だから!
この気持ちは、「嫌い」だって思いたかったの!」
それは、希琴の、対等でいたいというプライドと脱ぐえきれない寂しさが入り交じったゆえの、心模様だった。喘ぐ希琴を連れて、私は一度外の、駐車場に連れ出した。
「ね、一度電話してみない?出なくてもいいからさ。」
外にでた私は、真っ先に希琴に電話をかけてみようと提案した。すると希琴は、コクりと頷いてから、電話をかけ始めた。結果は、
「『応答がありませんでした』」
無情にも、応答無し、だったのだが。それから、何度も何度も一心不乱に、希琴は電話をかけたが、帰ってくる声は機械音ばかり。そして、何十回目か分からないコール中に、私に一つアイディアが浮かんだ。
「ね、希琴。私からかけてみようか?電番教えて。」
そうして、希琴が教えてくれた電番にかけると、
「もしもし。どちら様ですか?」
繋がった。私は声を出さないように希琴にスマホを渡した。
「もしもし、春樹?」
「っ!希琴、」
「電話切ったら別れる。」
「ちょ、ちょっと待て、切らない。切らないから落ち着け。」
「来て。」
「え?」
「三十分以内!こなかったら別れる!」
「ちょっ、お前今ど、」
ツーツーツー。
希琴は、言うだけいって電話を切った。ついでに言うと頭の線が何本か切れてると思う。
「ちょっ、大丈夫なの?場所教えてなかったけど。それに三十分以内って、」
「いいの。大丈夫じゃないけど大丈夫じゃないくらいがいいのよ。来なかったら一発殴ってやんないとね。」
そういって微笑む希琴は、吹っ切れているようで私的にも嬉しかった。そして、待つこと三十分。
「そろそろ、三十分立つけど、流石にやっぱ無理なんじゃ、」
「いいのいいの。私も来れると思ってないから。」
それから、さらに十分が経過する。
「そろそろ、帰ろっか。」
希琴が諦めモードに入ったその瞬間、一台のバイクが駐車場に入ってきた。バイクの運転手は急いだ様子でバイクを止めて、こちらに駆け寄ってくる。
「希琴!」
「十分遅刻!最後に言い残すことは?」
ここまで来て、私はやっとバイクの運転手が希琴の彼氏さんだということに気づいた。
「ゴメン!俺が悪かった。だから、」
「ゴメン?その一言で、今まで全然構ってくれなかった分も、今日に至っては約束破る上に連絡無視した分まで許されると思ってんじゃないでしょうね!」
「ッ!わ、悪かった。」
「謝るだけじゃなくって、言い訳の一つでもしてみなさいよ!」
この状態から見るに、別に彼氏さんが冷たい人というわけではなさそうだった。他で遊んでいるわけでもなさそうだし、浮気なんてもっての他のように感じた。
「ほら、とりあえず今日来なかった理由、言ってみなさいよ。それとも彼女に言えない理由があるの?」
希琴に追い詰められ、罰の悪そうな表徐で春樹くんは口を開いた。
「……ったんだよ。」
しかし、自信がないのか恥ずかしいのか、囁くような声だったため、誰の耳にも届かない。
「なに?もっと大きな声でいって!」
もちろん、当然のように希琴から強い口調で、もう一度、の指示を受け、
「怖かったんだよ!」
そう、大きな声で叫んだ。しかし、何を言っているのか分からず、困惑する私と希琴と、それと、遠くから見ているハルトくん。
「は?なにいってんの?」
「だ、だって俺、全然お前のこと誘ってねえし、なんかしたわけでもねえから、冷められて別れ話かなって、」
「ちょ、ちょっとまって!?春樹が誘えばよかった話じゃない!?」
「いや、だって、その、」
そこで春樹くんは言葉を濁してから、
「何していいか分かんないし!ほら、いきなり家に呼ぶのもあれだし、デートどこ行けばいいか分かんないし、下手に誘って嫌がられたりしても不味いだろ!?」
「そ、そこまで保守て、」
「分かってるよ!保守的だって言いたいんだろ!?オヤジにも言われたよ!少しは勇気を出せって!でも無理なんだよ!俺には、現状維持が精一杯なんだよ!」
「なにいってんの!?春樹もっとぐいぐいくるなにも考えてない奴だったじゃん!?」
「彼女だぞ!?おんなじ対応できねえよ!」
「一緒に帰るとき手も繋いでくれないのは!?」
「下心あるかと思われるだろうが!」
「思春期か!?彼女だぞ私!」
「彼女だからって、俺のこと好きかどうかなんてわかんねえだろ!友達に言われてノリで付き合ってるとかかもしんねえだろ!っていうか昔実際あったわ!」
「好きだわ!言わせんな私に!そうじゃないとOKしないし!春樹こそ友達に言われてって、聞いたんですけど!?」
「ッ!んな分けねえだろ!?好きだわ!恥ずかしいこと言いやがって!」
あのー、帰っていいかな。見てる方が恥ずかしくなる痴話喧嘩始まったんだが。ってか、後半ベタ褒め合いなんだけど。私、ここにいる意味あるかな。もっとどろどろしたものだと思ってた。
私が何とも言えない虚しさを抱いている間も、二人は言い合い?を続けていた。
「場所なんてどこでもいいのよ!どこに行くかより、誰と行くかでしょ!」
「分かってるよそんなの!でも場所も大事だろ!俺がリードしないと。って思うと、どこ行きゃいいのか分かんないんだよ!」
「だからどこでもいいって言ってるじゃん!」
「例えば!?」
「、、、あ、あんたの家、とか。」
「ッ!べ、別にいいけど、、、」
頬を赤く染め、いいムードになる二人。そして、帰りたい気持ちがますます増した私。
「い、いつ空いてんのよ!?」
「いつでも空けれるわい!」
「あっそ!じゃあ来週の土曜日!寝間着持ってけばいい!?」
「ね、寝間着!?お、お前泊まるきか!?」
「何か問題あんの!?何時でも空いてるって言ってたでしょ!?」
「いつでもの文字違ぇんだよ!まあ、い、いいけど、、、」
なんかお泊まりの約束までこじつけてる…。希琴メラメラモード入ってんだけど…。唐突に縮む二人の仲を見ながら、私はやっぱり帰りたいと思った。
「今日は帰るぞ。話してても埒が明かねぇ。」
そういって、春樹くんは希琴の腕をつかんで、バイクまで引っ張っていった。
「え、ちょっ、ゴメン唯愛!私先帰る!」
「あ、うん。お、お幸せに、、、」
希琴と春樹くんはバイクにまたがり、颯爽と去っていった。この十分間で何が起こったのか、私に理解する時間も与えないまま。いや、理解はできた。二人とも馬鹿みたいにかわいくて、馬鹿みたいにお似合いなのだ。ほんのちょっと、正直になれなかっただけで。こうして、私たちの仲直りデートだったはずの、希琴たちのイチャラブは幕を閉じたのだった。因みに、あれから帰って二人とも喉が枯れたらしい。
駅のホームについて、予定よりも三十分も前についていたことが発覚した。小学生でも十分前行動なのに、あまりにも早く来すぎていた。どんだけ楽しみにしてたんだよと、自分に苦笑していたが、駅のホームに見慣れた人影が見えた。そう、ハルトくんである。あちらもこちらに気づいたのか、手を振っている。私も手を振り返し、ハルトくんのもとへ駆け寄った。
「早いね、唯愛ちゃん。まだ三十分前だよ。」
「ハルトくんこそ、何時に来たの?私よりも早いっぽいんだけど?」
皮肉混じりの私の質問にハルトくんは、指を四本立てた。
「四十分前?やっぱり私より早かったんだ。」
「四時間前。」
「早すぎじゃない!?駅員さんいたの?」
まさかの桁違いに驚きを隠せなかったけど、ハルトくんならやりかねない気もした。
「でも、そんなに早く来てもヒマでしょ?なにしてたの?」
「うーん、、、場所取り?」
「お花見と勘違いしてない!?」
駅で場所とったって意味なくないだろうか。別に混雑するほど都会なわけでもないし。相変わらずの謎行動であった。
「どうする?1本早いのあるけど、乗る?」
「でもお店開くの十時だから、まだ二時間あるけど、」
「ま、早く着く分にはいいじゃん。下調べってことで。」
「お店入れないんだってば、、、」
「?」
話を理解できてないハルトくんと一緒に私は1本早い電車に乗った。休日で田舎なのもあってか、あまり人がおらず席に座ることができたため、眠気が襲ってきて寝てしまった。因みにこの間、ハルト君の肩を借りていたような気がしたが、気のせいだろう。……気のせいだよね?車掌さんのアナウンスで起こされた私は、ハルトくんと一緒にその駅で降りた。そとは朝と昼前の中間のような、人々が目覚める時間帯で、少し清々しさのある時間帯でもあった。
「都会の朝って感じする!」
と、私がその空気に当てられて騒いでいると、
「東京都内とか行くともっとすごいぞ。朝と夜の区別があんましないぐらいだからな。」
「そんなに!?ってか、ハルトくん行ったことあるの?」
「昔、ね。」
私の質問に対して、少し儚そうな顔をしてハルトくんは答えた。私もそれ以上は深掘りせずにその話題を終えた。それから、一時間三十分ほどほんとにヒマして待った。というか、集合時間を早くしすぎだったきがする。もう一時間は遅くてよかったと思う。いや、少しでも多くハルトくんと一緒にいれたのだからこれでよかったのかもしれない。
そんなことを考えていると、
「そろそろ入ってみよっか?」
ハルトくんが私に呼び掛けた。時計に目をやると九時三十分だった。まだ三十分は時間がある。
「もう?まだ三十分あるけど、」
「大丈夫、大丈夫。ちょっと早く開くもんでしょ?」
ハルトくんに言われるがままに、ショッピングモールの中に私たちは入っていった。
それから、私とハルトくんは買い物から、買い物まで楽しんだ。買い物ばっかりだなぁと思った。もちろん、謝罪デートなので、お金は自分出だすのだけれど。そして、昼前になったときのことだった。
「お腹空いたくない?ね、そろそろご飯にしよっか。」
私はハルトくんに問いかけたが、反応がない。ハルトくんはどこかを見つめていた。
「ハルトくん?おーい、ハルトくん?どしたの?」
「え?あ、ああ。ゴメン。ちょっとあっちに行こう。」
「え?」
私の話を無視してどこかへ行こうとするハルトくん。困惑しながらも、私はハルトくんについていった。
「ねぇ、ちょっとどこ行くの?」
「ゴメン。でもついてきて。」
ハルトくんは一心不乱に突き進んでいく。その先に何があるのか私には分からなかった。だんだんと速くなる足どりに追い付けなくなっていって、そして、
「ちょっと、まっ、」
人混みに巻き込まれ私はハルトくんを見失った。辺りを見回してもその姿は見つからず、何で急にどこかへ行きだしたのか、何で私を置いていったのか、なにも分からず頭が真っ白になって、そして、
「ゆいなちゃん、何でこんなとこに、」
誰かに声をかけられた。私は、ゆっくりと振り向いて、
「叔父さん!?」
私はその時、運命とはなにかを分からされることになった。
「そっちこそ何でこんなとこに、」
「僕は買い物で来てたんだけど、ゆいなちゃんは?」
「わ、私は友達と来てて、」
「友達は?」
「今ははぐれてて、あっ!」
私が目線の先にハルトくんの姿を見つけて、駆け出した。
「ハルトくん!どこ行ってたの!?」
「唯愛ちゃん!ごめん。ちょっと知り合いを見かけて、」
「ゆいなちゃん、ちょっと待ってくれよ。」
「あ、叔父さんのこと忘れてた。これじゃハルトくんと同じだね。叔父さーん。こっちこっち。この人が友達のハルトくん。」
「え?」
叔父さんは、ハルトくんの方を見て驚いたような表情を見せた。それは、もう、見てはいけない物を見てしまったかのように。
「あ、ああ。君がハルトくんって言うのか。よろしくね。」
「あ、はい。よろしくお願いします。」
ハルトくんも、また、気まずそうな表情を見せ、なにも知らない私にも、二人の間になにかがあったことが分かった。同時に、それが触れてはいけないことだと言うことも。
「そ、それじゃ、また今度。」
そういって、叔父さんはすごい速さで去っていった。
「ハルトくん。叔父さんのこと知ってるの?」
「いや、今日初めてあったよ。それがどうかした?」
「ううん。何でもない。」
やっぱり教えてくれない。でも、この前みたいに問い詰めてもダメだ。そんな葛藤の中、デートは続いた。
服屋では、
「ね、見てみてこの服。可愛くない!?」
「めっちゃ似合ってるよ!買っちゃえば?」
帽子屋では、
「これとかさっき買った服と合いそうじゃない?」
「確かに。」
ゲーセンでも、
「あのレースゲームやらない?」
「いいんじゃない?」
ずっと、ずーっと、
「YESばっかりじゃん!さっきから心ここにあらずだしさ!」
突然大声をだした私にハルトくんは驚いた顔をした。
「ご、ゴメン。」
「ごめんじゃなくって、ハルトくんは何がしたいの!?私の買い物に付き合うために来たんじゃなくて、仲直りのために来たんでしょ!」
「……わかった。じゃあ、あれしにいこうよ、あの、」
ハルトくんが指差した先には、
「え?あれって、」
長い髪を束ね一つにまとめて、いつもの制服姿とは違い、可愛らしい私服を見にまとった、そう、学校では一番関わりがあると行っていい、神 唯愛の介護役。
「き、希琴!?」
「え?」
もちろんハルトくんは希琴の存在を知らないので私の言葉の今が分からず困惑する。しかし、問題はそこではなかった。確かに今日デートに誘ったら、とは言ったものの、まさか本当に来ていたとは。そして何より、希琴は、「一人」だった。つまりデート相手は来ていないのだ。しかし、ハルトくんが反応を示さないのを見るに、ハル何ちゃら君とは関係無いようだ。その事実に私はほっと胸を撫で下ろした。私はハルトくんが指差したものには目もくれず、希琴のもとに駆け寄った。
「希琴!」
私の声に気づいて希琴もこちらを振り向いた。
「唯愛!?何でここに、」
「え、えーっと、ちょっと一人で買い物しにきてて。」
ハルトくんの事が知られると面倒なことになりそうだったので、私はここに来た理由を言わず、後ろに向かって、手を動かし、こっちに来るなの合図をした。幸いそれをハルトくんも察したのか、隠れてこちらの様子を伺っている。
「?どうかした?」
「い、いや。何でもないよ。」
私は必死にごまかしてから、コホンと、一つ咳払いをしてそれから口を開いた。
「そ、それより彼氏さんは?トイレでも行ったの?」
すると希琴は、あからさまにいやそうな顔をしてから言った。
「それがね、昨日唯愛に言われた通り、デートに誘おうと思って、メールで久々に出掛けよって言ったら、そのときはOKって言ってたのよ?なのに、なのによ?いくら待っても全然こないし、メールは既読にすらならない。もうやっぱり別れるべきかな。あんな奴。」
「そ、それは、」
あまりにもひどい。彼氏さん冷たいとか言うレベルじゃないよ、凍っちゃってるよ。氷河期レベルだよ。
希琴の彼氏さんのあまりの塩対応に開いた口が塞がらなかった。
「もう決めた。別れてやる!あんな奴さっさと捨てて、新しい恋を見つけてやる!」
「焦っちゃダメだよ!まだ分かんないじゃん?風で寝込んだとかかもしれな、」
「バカは風邪引かないわよ!」
バカってはっきり言った、、、確かにバカとしか思えないけど。でも、こんなに冷静さを失った状態で下す判断が、私にはよいものとは思えない。
「と、とりあえず電話してみたら?」
「さっきから散々した!!そんで全部出なかったの!なに、唯愛はあのバカの肩持つの!?」
「そ、そういう訳じゃないけど、」
「じゃあ何でよ!余計な心配しないで!』
ヒートアップしていく希琴に、段々と手がつけられなくなっていく。私も何で止めようとしているのか、自分でも分からない。でも、ダメなんだと思う。好きじゃなくなっちゃうのは。
「聞いて希琴。私、好きな人が出来たの。」
「は?何で急に、」
私の唐突の告白に、希琴は困惑する。私自信も、これから何を言おうとしているのか分からなかった。
「私もね、その人に腹が立って、嫌いになりそうになること良くあるの。でもね、それ以上にね、嫌いになりたくないって思うんだ。」
「私はっ、唯愛と違って何回も、何回も何回も裏切られてきたの!嫌いになりたくないだなんて思えない!」
「違うよ。違うんだ。多分、私は好きでいれなくなる事が嫌なんだ。だってそうでしょ?昨日まで好きだったのに、一昨日まで、先週まで、去年まで、ずっと、ずーっと好きだったのに、今日の私の思いだけでキライになるなんて、なんだか勿体ない気がしない?身勝手かもしれないけど、私は、彼を好きでいるために彼を愛してるの。ね、希琴は?」
希琴の顔には涙の後があった。きっと、これまでもこんな風に泣いて、悲しんできたんだと思う。でも、それよりも、もっとたくさんの笑顔をもらってきたはず。私もハルトくんのことを考えると、笑顔と同時にお父さんのことを思い出してしまう。恋は、甘いだけじゃないなんて言うけど、その通りだと思う。甘いのだけは、どっちかが無理してるただの片想いだ。
「私はっ、私だってっ、好きだからっ、好きだから付き合ってんのよ!アイツの事が好きだから別れたくないの!でも、寂しいって思いたくないの!アイツから告ってきたから、私はアイツなしでも大丈夫だって思いたいの!だから、だから!
この気持ちは、「嫌い」だって思いたかったの!」
それは、希琴の、対等でいたいというプライドと脱ぐえきれない寂しさが入り交じったゆえの、心模様だった。喘ぐ希琴を連れて、私は一度外の、駐車場に連れ出した。
「ね、一度電話してみない?出なくてもいいからさ。」
外にでた私は、真っ先に希琴に電話をかけてみようと提案した。すると希琴は、コクりと頷いてから、電話をかけ始めた。結果は、
「『応答がありませんでした』」
無情にも、応答無し、だったのだが。それから、何度も何度も一心不乱に、希琴は電話をかけたが、帰ってくる声は機械音ばかり。そして、何十回目か分からないコール中に、私に一つアイディアが浮かんだ。
「ね、希琴。私からかけてみようか?電番教えて。」
そうして、希琴が教えてくれた電番にかけると、
「もしもし。どちら様ですか?」
繋がった。私は声を出さないように希琴にスマホを渡した。
「もしもし、春樹?」
「っ!希琴、」
「電話切ったら別れる。」
「ちょ、ちょっと待て、切らない。切らないから落ち着け。」
「来て。」
「え?」
「三十分以内!こなかったら別れる!」
「ちょっ、お前今ど、」
ツーツーツー。
希琴は、言うだけいって電話を切った。ついでに言うと頭の線が何本か切れてると思う。
「ちょっ、大丈夫なの?場所教えてなかったけど。それに三十分以内って、」
「いいの。大丈夫じゃないけど大丈夫じゃないくらいがいいのよ。来なかったら一発殴ってやんないとね。」
そういって微笑む希琴は、吹っ切れているようで私的にも嬉しかった。そして、待つこと三十分。
「そろそろ、三十分立つけど、流石にやっぱ無理なんじゃ、」
「いいのいいの。私も来れると思ってないから。」
それから、さらに十分が経過する。
「そろそろ、帰ろっか。」
希琴が諦めモードに入ったその瞬間、一台のバイクが駐車場に入ってきた。バイクの運転手は急いだ様子でバイクを止めて、こちらに駆け寄ってくる。
「希琴!」
「十分遅刻!最後に言い残すことは?」
ここまで来て、私はやっとバイクの運転手が希琴の彼氏さんだということに気づいた。
「ゴメン!俺が悪かった。だから、」
「ゴメン?その一言で、今まで全然構ってくれなかった分も、今日に至っては約束破る上に連絡無視した分まで許されると思ってんじゃないでしょうね!」
「ッ!わ、悪かった。」
「謝るだけじゃなくって、言い訳の一つでもしてみなさいよ!」
この状態から見るに、別に彼氏さんが冷たい人というわけではなさそうだった。他で遊んでいるわけでもなさそうだし、浮気なんてもっての他のように感じた。
「ほら、とりあえず今日来なかった理由、言ってみなさいよ。それとも彼女に言えない理由があるの?」
希琴に追い詰められ、罰の悪そうな表徐で春樹くんは口を開いた。
「……ったんだよ。」
しかし、自信がないのか恥ずかしいのか、囁くような声だったため、誰の耳にも届かない。
「なに?もっと大きな声でいって!」
もちろん、当然のように希琴から強い口調で、もう一度、の指示を受け、
「怖かったんだよ!」
そう、大きな声で叫んだ。しかし、何を言っているのか分からず、困惑する私と希琴と、それと、遠くから見ているハルトくん。
「は?なにいってんの?」
「だ、だって俺、全然お前のこと誘ってねえし、なんかしたわけでもねえから、冷められて別れ話かなって、」
「ちょ、ちょっとまって!?春樹が誘えばよかった話じゃない!?」
「いや、だって、その、」
そこで春樹くんは言葉を濁してから、
「何していいか分かんないし!ほら、いきなり家に呼ぶのもあれだし、デートどこ行けばいいか分かんないし、下手に誘って嫌がられたりしても不味いだろ!?」
「そ、そこまで保守て、」
「分かってるよ!保守的だって言いたいんだろ!?オヤジにも言われたよ!少しは勇気を出せって!でも無理なんだよ!俺には、現状維持が精一杯なんだよ!」
「なにいってんの!?春樹もっとぐいぐいくるなにも考えてない奴だったじゃん!?」
「彼女だぞ!?おんなじ対応できねえよ!」
「一緒に帰るとき手も繋いでくれないのは!?」
「下心あるかと思われるだろうが!」
「思春期か!?彼女だぞ私!」
「彼女だからって、俺のこと好きかどうかなんてわかんねえだろ!友達に言われてノリで付き合ってるとかかもしんねえだろ!っていうか昔実際あったわ!」
「好きだわ!言わせんな私に!そうじゃないとOKしないし!春樹こそ友達に言われてって、聞いたんですけど!?」
「ッ!んな分けねえだろ!?好きだわ!恥ずかしいこと言いやがって!」
あのー、帰っていいかな。見てる方が恥ずかしくなる痴話喧嘩始まったんだが。ってか、後半ベタ褒め合いなんだけど。私、ここにいる意味あるかな。もっとどろどろしたものだと思ってた。
私が何とも言えない虚しさを抱いている間も、二人は言い合い?を続けていた。
「場所なんてどこでもいいのよ!どこに行くかより、誰と行くかでしょ!」
「分かってるよそんなの!でも場所も大事だろ!俺がリードしないと。って思うと、どこ行きゃいいのか分かんないんだよ!」
「だからどこでもいいって言ってるじゃん!」
「例えば!?」
「、、、あ、あんたの家、とか。」
「ッ!べ、別にいいけど、、、」
頬を赤く染め、いいムードになる二人。そして、帰りたい気持ちがますます増した私。
「い、いつ空いてんのよ!?」
「いつでも空けれるわい!」
「あっそ!じゃあ来週の土曜日!寝間着持ってけばいい!?」
「ね、寝間着!?お、お前泊まるきか!?」
「何か問題あんの!?何時でも空いてるって言ってたでしょ!?」
「いつでもの文字違ぇんだよ!まあ、い、いいけど、、、」
なんかお泊まりの約束までこじつけてる…。希琴メラメラモード入ってんだけど…。唐突に縮む二人の仲を見ながら、私はやっぱり帰りたいと思った。
「今日は帰るぞ。話してても埒が明かねぇ。」
そういって、春樹くんは希琴の腕をつかんで、バイクまで引っ張っていった。
「え、ちょっ、ゴメン唯愛!私先帰る!」
「あ、うん。お、お幸せに、、、」
希琴と春樹くんはバイクにまたがり、颯爽と去っていった。この十分間で何が起こったのか、私に理解する時間も与えないまま。いや、理解はできた。二人とも馬鹿みたいにかわいくて、馬鹿みたいにお似合いなのだ。ほんのちょっと、正直になれなかっただけで。こうして、私たちの仲直りデートだったはずの、希琴たちのイチャラブは幕を閉じたのだった。因みに、あれから帰って二人とも喉が枯れたらしい。