「いやぁ、しっかし似てるな!お前ら二人!後ろ姿そっくりだぞ!」
僕はこの空間を取り持とうと大きな声で叫んだ。
あれから、取り敢えずあの場から離れたファミレスに来た。真と真妹が昼ご飯がまだだったというのと、迷惑かけたし、誠意というか、なんと言うか、まあ、ぶっちゃけ口止め料というわけだ。特に、真妹に激似な奴の。え?どっちが本意かって?そりゃあお前、後者にきまってんだろ。あらぬ噂振り撒かれたら社会的に消されるじゃねぇか!
一応あれから説明はしたのだが、元々事情を飲み込んでいた真妹激似の奴は口止め料で許してくれたのだが、問題が真妹で、
「似てるからといって、襲う理由にはならないですよ。というか、お兄ちゃん達はわたしを襲おうとしてたんですか?」
さっきからこれである。ずっとふて腐れた顔でこちらを睨んでいるのだ。
「いや、だからさっきも説明したろ?僕らは君を追ってただけなんだって。」
因みに僕もずっと同じ説明をしており、同じ話を延々と延々と繰り返す状況だった。
「追っていた、といいますが何故ですか?」
「何故ってそりゃあ、君がなんかヤバいことに巻き込まれそうになってたからだろ?」
「はい?わたしはただ出掛けていただけですが、、、」
と、怪訝そうな顔をする真妹を見て僕も困惑した。なにか、前提から違う気がしたからだ。
「いや、だから君が、なにかヤバいことに、、、って、そういやヤバいって何の事だったんだ真?」
二人から質問され、真は気まずそうな顔をして、
「、、、、、だったから、」
と、呟いた。隣にいた僕ですら聞こえないぐらいの声で。
「え?何だよ。ハッキリいえよ。」
「お兄ちゃん、もっとハッキリいって!」
これまた僕らから問い詰められて真は、
「、、、、だったんや。し、心配だったんや!初めて一人で出掛けたから!」
そう、叫んだ。全員の頭に?がよぎるなか、アイだけはほらね、といわんばかりの表情だった。え?今なんて言った?心配だっただけって、嘘だろ。どうやら、友達の事を一番わかってないのは僕だったらしい。
何がいつものシスコンじゃない、だ。何が妹さんがヤバイ目に遭ってる、だ。いつものシスコンじゃねぇか!それよりもその心配性にビックリである。まさにお兄ちゃんは心配性。どっかの佐々木さんもビックリである。
「オイオイ、中学生なら心配しなくていいだろ?」
「お兄ちゃんまだ心配してたの!?大丈夫だっていってるじゃん!」
それにしたって、と、真妹が話を続けた。
「それにしたって、公衆の前で女の子を捕まえようとするのはどうかと思いますけど。お兄ちゃんのお友だちさんも気を付けて下さい!こんな風にさも当然のようにファミレスに連れてって、、、まったく。私は口止めできませんからね!あ、ウェイターさん、パフェ追加で。」
「言ってることとやってることが真逆じゃねえか!言っとくけど一番頼んでるのお前だからな!?」
「ふぁんのふぉふぉでふは?(何の事ですか?)」
「女子が口に物いれたまんましゃべるんじゃねえよ!」
そんな中、ちゃっかり色々頼んでる奴がもう一人。
「お前もだからな?」
「ん~、これと、これと、これ。追加でお願いします~。」
「聞いてねえ!ってか、お前は高いもんしか頼んでねえじゃねえか!」
「私はお高い女なんですよ~。」
「あ、これカロリーも結構あるぞ。」
「寧音ちゃ~ん。これ食べますか~。」
「何も知らない奴に押し付けてんじゃねえよ!?」
「ありがとうございます!いただきますね!」
そしてホントに何にも知らずに食べ尽くしてる寧音。やっぱり名前は寧音だったようだ。貰ったもの片っ端からパクパク食べる姿を見て、僕の中で寧音のあだ名が、ハムスターにきまった。しかしさっきから真があまりしゃべらないな。何かあったのか、はたまた唯疲れてるだけなのか。気にかけた僕は、食事中の女子メンツを放置して真に話しかけた。
「何かあったか?さっきから話してないけど、」
「い、いや、何もないで。それより、そろそろ会計した方が良さげやな。陽音くんお金大丈夫か?」
たしかにその通りだったため、僕らは店をでることにした。会計の値段にゾッとしながら支払い、
薄くなった財布を嘆きながら店を後にした。
「あ、お兄ちゃん。そういえば塾行ってないんでしょ?帰るよ。」
「え?あ、ああ。そうやな。」
「それじゃ皆さん。お兄ちゃんがすいませんでした。」
そう言って僕らが口を開く前に、帰ってしまった。店をでてすぐの事である。
「それじゃ僕らも解散ってことで。」
口止めはしたし、何よりアイを振り回していたので、僕らも解散にしようと思ったのだが、
「ちょっと待ってくださいよ~。まさか、まさかまさか、あれで口止めだなんて思ってないですよね~。」
「え?いや、さんざん食ったしもういいだろ?」
まさか引き留められるとは思っても見なかったので困惑した僕だった。
「それを決めるのは君じゃなくって、私の方ですよ~。」
「いや、でも、アイもいるし、」
「誰の事ですか?」
僕の言った人物がまるでいないかのような言葉を言う彼女。僕が何を言ってるんだと、うしろを振り向くと、
「いない!?」
すでに僕の背後にも、周りにもアイの姿はなく、つまり、
「帰っちまったのか?マズイぞ。怒らせたのか?いや、そりゃそうだよな。怒るに決まってる。」ぶつぶつと呟く僕をみて、目の前の彼女は困惑しているようだが、それどころではない。デート中にあそこまでほっといたら、そりゃあ怒るはずだ。僕はバカなのか?謝罪の連絡しようにも、そういやアイのメールアドレスすら知らない。いや、それだけじゃない。僕は、アイの何も知らない。好きな食べ物も、趣味も、好きな人も。アイに自分から名前聞きに行って、自分からデートの話し持ちかけた。それなのにリードのひとつもしやしない。僕はシャイなんかでも、臆病なんかでもない。できるってだけで達成した気になって、他のものに興味が移って、そうやってできることはやろうとしない。できないことをできる状況にしたらほっぽりだす。それを、恋愛にまで持ち込む大バカ野郎だ。ゴミで、クズで、どうしようもない、最低辺の、
「お~い。聞いてますか~?」
「え?あ、ああ。何だっけ。」
突然、いや、ずっと話しかけてはいたのだろう。ただ、僕に反応できるだけの、余裕がなかっただけで。
「帰ったんですか~?そのアイって子。」
「多分な。みなかったか?」
「見なかったか?そういわれましても、どんな子かも分からないので~。」
「ほら、一緒にファミレスにいたろ?あいつは何も頼んでないけど、僕のとなりに座ってた奴だよ。」
「そんな人、いや、なるほど。あの子ですね~。確かに一緒にでてきたはずなんですけどね~。でも、大丈夫ですよ~。帰ったのだとしても、多分寂かったからですよ~。」
そんなことが分かるのかと思ったが、女子にしか分からないこともあるのだろう。それに何故か納得できた。故に僕はその言葉を信用し、なにより、名前も知らない彼女の何かに引かれてすこしの間時間を共にすることにしたのだった。
「それでは、すこしお付き合いしてくださいね~。」


アイは、焦っていた。あの人はマズイ。あの人は、あの目は、知っている目だ。分かっている目だ。たどり着く目だ。バレてはならない。知られてはならない。まだ、今は、この状態では。まだ、まだ、まだまだまだまだまだまだまだ。
「だめだよ。陽音くん。」


そんなアイの状態を知るよしもない僕は、名無しの彼女に、言われて秋葉の町を歩き回っていた。
「え~っと、次はここと、ここと、ここですね~。」
いや、訂正しよう。走り回らされていた。
「まだあんのかよ?」
息を切らしながら、僕は携帯を耳にあてた。何故僕が今、走り回らされているかと言うと、時は三時間前に遡る。

「付き合うって言ったって、僕はもう金無いからな。」
「分かってますよ~。アイちゃんとデート中だったのでしょう?」
「っ!いや、そういうわけでは、」
「図星ですね~。分かりやすくて助かります~。そんな分かりやすい君に、お使いを頼みたいのですが、よろしいですね~。」
「お使い?荷物もちとかじゃないのか?」
買い物に付き合わされるパターンだとは予想していたが、まさかお使いだったとは。
「はい~。お使いです~。お金はこちらでだしますので~。」
「あんまし多かったら覚えられないぞ?」
「分かってますよ~。なので、ちょっと拝借しますね~。」
ではでは~、といって、彼女は僕の携帯を抜き取り、連絡先を交換した。
「はい。これで大丈夫ですよ~。いま、位置情報を送信しました~。お願いしますね~。」
こうして、僕の口止め料代わりのお使いが始まったのだった。
しかし、
「どこだ!?ここ!?」
示された地図にあるのは、携帯で調べてもでてこないような店だった。位置情報を頼りに、何とか進むことができたが、着いてみるとそこは、
「ボロッボロだな。やってるのか?ここ。」
中に入ってみると、成る程どうやら老舗店と呼ばれるもののようで、機械の部品らしきものが大量に置かれていた。一見雑に見える配置だが、分かる人には分かるのか、お客さん達は真剣な顔で皆、部品を見つめていた。その真剣さ故に、よそ者が入ってくることが気に入らないのか、僕を見る目は厳しく、部品より下に見られている気がした。そんな視線に気づいたのか、奥から店の主人らしき人がでてきた。大柄で、とても堅気の人間には見えなさそうな、こわもての男の方だった。
「何か、お探しかい?坊っちゃん。興味本位で入ったのなら、止めとくんだな。」
脅しに近い言葉を言われ、少々足がすくんだが、メッセージに書いてあった言葉を思いだし、僕は口を開いた。
「えっと、キュ、キューブ。」
瞬間、店にいる全ての人の目が、僕に釘付けになった。しかし、店の主人らしき人だけは動じなかった。
あれ?いや、落ち着け。確かこれで反応がなかったら、え~っと、これ、言うのか?恥ずかしいなぁ。
そう思いながらも、僕は再び口を開いた。
「『そんなだから客入りが少ないんだよ~。スプレッサー君。』とのことです。」
周りの客が、困惑するなか、強面の目瀬の主人はやはり沈黙。気まずくなった僕は早々に逃げだす選択をした。
「えっと、あの~、僕言えって言われただけなので、そ、それじゃ、」
しかし、
「アーハッハッハッハッハ!アリア!お客さんだぞ!」
帰ろうとする僕を前に、男は豪快に笑い、誰かの名前を読んだ。
「はいよー!どこのどなたかナットネ。」
店の奥から現れたのは下着しか着てない背の高い女性だった。そう、下着しか着ていない、のだ。
「えっ!ちょっ!」
驚いた僕はすぐさま回れ右をした。周りの客の視線はすでにアリアさんに移っていたが、それは彼女の格好についてではなく、彼女がでてきたことに驚いての反応のようだった。
「フムフム、キミ、どっから来たの!?見ない顔だからお使いかな!?ねえねえ、誰の!?皆友達いるようには見えないんだよねー!」
「オイ、アリア。お客さん困ってるじゃねえか。とりあえず奥にお通ししろ。そのお客さん、あの魔術師からのお使いだぜ。」
「もしかしてやっちゃん!?あの子友達いたんだ!?そっか、そっか!じゃあキミも変人さんだね!?っと、そっだった。アタシすぐ興奮しちゃうからさ!一名様お座敷へごあんな~い!」
そうして、めっちゃテンション高いアリアさんに連れられて、僕は店の奥に通されることになった。そうして、店の奥に行くと、そこはさっきのスペースよりも、圧倒的に物が多く、そして圧倒的に雑に置かれた場所だった。
「はい!ここ座って座って!で、なにようですかな!?」
「あの、えっと、」
「どしたのさ!うつむいちゃって!?あ!もしかしてパッくんになんかされたの!?あ!パッくんって言うのはあの店の前にいた強面の人ね!ホントウはパンクって言うんだけど、めんどくさいじゃん!?それとね!それと、後は何かあったかな!?忘れちゃった!お茶飲む!?」
アリアさんはうつむいてる僕を覗き込みながらまくし立てる。流石に耐えきれなくなった僕は、
「ふ、服着てください!」
と、叫んだ。本人は気にしてないようだが思春期の僕の心臓には悪い。さっきからバクバクいっている。
「あ!ごめんね!?気にした!?ほら、機械って危ない事する時以外は身軽な方がいいからさ!正直全裸がいいんだけど、流石にパッくんに止められてね!でも、下着でも気にする人いるかぁ!アタシ女っ気ないしさ!ダイジョブかと思ったけど、キミはいいこだね!それで何のようだっけ!?」
服を着ながらもまくし立てるアリアさんに僕は頼まれたものを伝えた。
「また面白そうなもの作ろうとしてるね!アタシ『えーあい』には詳しくないんだけど!えっと、ナットと、ボルトと、あれ?あとなんだっけ!?」
「スリーブと、スペーサー、シャフト、ワッシャー。全部適当にくれだそうです!」
「オッケー!スペーサー、スペーサー、あった!
シャフトでしょ、あと何!?」
「スリーブと、ワッシャーです!」
「ウ~ン。適当でいっか!これとこれと、コレ!
あと、これもいれちゃえ!」
「い、いいんですか!?そんなに適当にいれて、」
「いーのいーの!アタシの店だし!あ、でもパッくんに怒られるかも、、、ま!いっか!」
そうして、途中から伝言ゲームを諦め、アリアさんは適当に籠に物を突っ込みだした。それはもう、すごいスピードで。活発という言葉は、この人のためにあるだと僕は思った。籠に詰められたネジや、部品の山々と貰ったお金を交換して、それから、休んでいってよ!と、言われたので少し休憩していくことにした。時刻は2時を回っていた。
「アリアさんは、あの人と面識があるんですよね。」
僕はアリアさんが言う「やっちゃん」について聞くとアリアさんは笑みを浮かべて答えた。
「やっちゃんのこと!?知ってるよ!アタシだけじゃなくって、ここら辺の人は皆知ってるよ!何せ魔術師だもん!」
「さっきも聞いてて気になったんですけど、魔術師ってなんですか?」
「魔術師だよ!確かね、うちの店にやっちゃんが初めて来たとき、新人イビリみたいなのを受けたんだ!今日のキミみたいに!それで、絶対無理なパーツで、絶対無理な物を作ってこさせたらしいんだけど、これができちゃったんだよ!そのパーツでその物を作るのって、無理ではないけどめっちゃ難しくて、えっと、アタシでもできないくらい?で、そんなものを作っちゃったから魔術師って呼ばれてるんだ!」
直訳すると、無理難題を押し付けられたが、それを難なくクリアしたって訳か。しかし出来ないことではなく、難しいことをやらせるってとこを見ると、誇りみたいなのがあるのかなと、僕は思った。しかし、僕の中で一番気になってるのはその事ではない。
「やっちゃんって言ってますけど、本名は何なんですか?」
「やっちゃんの本名?えーとね、何だっけ?忘れた!でも、『や』が頭文字なはずだよ!」
「名前忘れたんですか!?そういや、アリアって言うのも偽名ですよね?本名は?」
「忘れた!」
「パンクさんのほんみょ、」
「忘れた!」
「逆になに覚えてるんですか!?」
まさかの全忘れ。自分の名前くらいは覚えといて欲しいものだと思ったが、エンジニアって、こういう人しかいないのだろうか。いや、こういう人しかなれないのだろうか。呆れる僕を見て、アリアさんは弁解してきた。
「ちょっと待って!別にアタシの物忘れがひどい訳じゃないの!アタシとパッくんはね、親がいないんだ。捨てられた訳じゃないよ!?東日本大震災ってあったでしょ、あれで亡くなっちやって、そん時にね、パッくんが二人で頑張ろうって、再スタートしようって言ってくれて、二人だけの秘密の名前にしたんだ。ま、今じゃこっちが本名になってるけど!でも、アタシはアリアで幸せなんだ。」
とても、言い話を聞かされた気がする。だが、
「それと、やっちゃんの名前を忘れるのはどう関係があるんですか?」
「う、鋭いね。まぁ、いいじゃないか!ほら、次の店、あるんでしょ?頑張って!」
半ば無理やり追い出された気もするが、僕はアリアさんの店を後にした。それから、また様々な店を巡って、今に至るのである。